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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ2 エピソード2 / 聖者と野獣 The Priest & The Beast


 共同部屋の一角

(ハワードが機材に囲まれて、変な音楽を作っている。そこにヴィンスがやってくる。)
ハワード:お前、一体なに着てるんだ?
ヴィンス:これぞ!ミラーボール・スーツ!
(全身スパンコールでピカピカのボディスーツを着ている。)
ハワード:あのなぁ、俺たちもう4日も音楽の方向性を探し回っているんだぞ?
     お前だってバンドの一員なのくせに、いったい何やってんだよ?
ヴィンス:コスチューム考案し、お前が音楽を作る。そういう取り決めじゃん。いいか、こいつはミシンの一大作戦だったんだ。
ハワード:俺はステージでそんなもの着ないからな。
ヴィンス:そう言うと思った。だから、ツィード・バージョンも作っておいたよ。
     「図書館スーツ」って言うんだ。ここにポケットがあるだろう?お前の図書館カード入れだ。
     こっちには袋があるだろ?小銭を入れておくんだ。延滞料金を払う為にさ。
ハワード:良い考えだな。
(スーツをどける。)
ヴィンス:だろ?それで、お前の方はどうなわけ?
ハワード:一大作戦成功だ。
ヴィンス:マジ?
ハワード:俺は常々、シとドの間にはもう一音あるって、感づいていたんだ。「ハワードの一音」と名づけよう。
ヴィンス:わぁお!
ハワード:どう使うか教えてやるよ。いいか?
(機材を指し示しながら説明)
     まず音をジグザグ音波に乗せて、こっちのパントマイム4マシーンに送る。
     それをこっちに戻して、音そのものを再生させて、こっちに転送する。それから自殺志願のカニとミックスさせる。
     それから3時間ほど煮込んで音を反響させ、この靴をとおして音を吸い上げると、
     オーク材の楽器のような豊かな音色になる。
ヴィンス:すげぇ!聞かせてよ。
ハワード:まだ試しな。出来たばっかりだから。
ヴィンス:オーケー。
(ハワードが機材とキーボードを操作して、とんでもない不協和音の電子音を奏でる。)
ハワード:どうだ?
ヴィンス:なかなか面白いじゃん!もっと続けて。
ハワード:これはどうだ?
(別の音を出す。)な?
ヴィンス:すげぇ!
(しょーもない歌を歌い出す)♪酸素の物知りさんがぁああ〜♪
(ナブーが寝室から出てくる。)
ナブー:何事?!真夜中だよ!
ハワード:新しいサウンドを見つけたんだ、ナブー。歌え、ヴィンス。
ヴィンス:♪サイボーグ・パトリック 俺にお前の夢を教えておくれ〜 
     ぜんまい仕掛けのマーガレットが俺のマウスパッドでスケートをしてる〜
     ちいさなサーキット・ブーツの中に未来の靴が♪
ハワード:♪過去からのズボン!♪どう?感想は?
ナブー:最悪。
ヴィンス:最悪って何だよ!
ハワード:ナブーの言うとおりだ。最悪。もう四日間もかかりっきりで、一体なにが良いんだか悪いんだか、分からなくなった。
ヴィンス:助けてくれよ。俺たち、新たなサウンドが欲しいんだ。
ナブー:時間が要るよ。一週間は欲しい。
ヴィンス:一週間?明日の朝9時には、パイ・フェイス・レコードのお偉いさんと会うんだぞ?
     新しいサウンドを持っていかないと、契約できない!
ハワード:期限って知ってるか、ナブー。
ナブー:期限なら知ってるよ。家賃支払い期限って聞いたことある?
ハワード:ああ。
ヴィンス:契約して、前払いしてもらえれば、絶対払えるよ。そうすりゃ、お前は金が手に入るし、俺たちゃハッピー、
     お前もハッピー、
(ナブーの背後にボロがやってくる)ボロもハッピー!
ナブー:なんでそこでボロが出てくんの。
ハワード:うまく行ったら、ボロにドラムを叩いてもらうんだ。
ナブー:ええ?
ハワード:お前、ナブーに説明したろ?ボロ。
ボロ:えっと…
ナブー:ボロはおたくらのドラマーじゃない、僕の使いの精だよ。そうはいかないよ。
    僕が大釜を使う時、ボロが居なきゃどうすんのさ。
ハワード:ボロはゴリラだぞ、こんな狭っ苦しい部屋に閉じ込めておくだなんて、まずいだろう。不自然だ。
ナブー:じゃぁ、ボロがエレクトロ・バンドのドラマーとして、ヨーロッパ・ツアーに行くのが自然なの?
ボロ:いいじゃーん…。
ナブー:うるさい。
ヴィンス:ナブー、助けてくれよ。どうしても新しいサウンドが必要なんだってば。何か凄く良い考えがあるんだろう?
ハワード:何か薬とか、ローションとかさ。
ヴィンス:なぁ、ナブー。
ナブー:わかった、なんとかしてあげるよ。おいで。
ハワード:やった!


 ナブーの寝室

(ナブー、ハワードとヴィンスに、ボンゴ・ブラザーズのLPを見せる。)
ナブー:この連中、知ってる?
ハワード:ルディとスパイダーだ。
ヴィンス:いかすよな、「ボンゴ・イン・コンゴ」。
ハワード:「スターシップ・ボンゴ」
ナブー:「ボンゴ・アホイ」
ハワード:こいつらはアイディアに事欠いた事なんて無いだろう。
ナブー:そうとは言い切れない。彼らにも不遇の時代があったんだ。
ハワード:どうして分かる?
ナブー:70年代、僕は連中の商売相手だったから。それにいい友達だし。
ハワード:本当?
ナブー:彼らがいかにして最高のアルバム、「エル・ソニード・ヌエーヴォ」を作るにいたったか、話してあげるよ。
ハワード:そのタイトル、何て意味だ?
ナブー:「新しいサウンド」


 昼間の砂漠

(灼熱の太陽に晒された砂漠地帯を、ボンゴ・ブラザーズこと、ルディとスパイダーが歩き回っている。)
スパイダー:なぁ、ルディ・ヴァン・ディサルジオ、なんだって俺たちゃこんなさびれた所を歩き回っているんだ?
ルディ:何故我々がここにきたか分かるか?スパイダー・ディジョン。
スパイダー:知らん。お前が新しいアイディアも歌も浮かばなくて、みんなに干されてるって言われるからか?
ルディ:俺は創造的な日照りととらえるな、スパイダー・ディジョン。我々の中の優れた才能にのみ起こる、試練だ。
スパイダー:ひでぇ所だ。酒場や女たちゃどこだ?
ルディ:ふん。ここはそんな気晴らしとは無縁だ。俺とファミリーだけに知らしめられた、聖なる場所なのだ。
    まさに、ミュージシャンが新しいサウンドを得るであろうと伝えられた所。
スパイダー:その「新しいサウンド」ってのは、どんな格好してんだ?
ルディ:目には見えん。音だ。
スパイダー:なぁ、俺の曲を録音しようぜ。「スパイダー・ラヴィング」をさ。♪ウォオオオオ〜♪
ルディ:それは我々が捜し求めているサウンドじゃない、相棒。そりゃボンゴ入りのポルノだ。
スパイダー:B面ならいいって、言ったろう。
ルディ:お前のソロ活動のために取っておけ。
スパイダー:ふうん。
ルディ:さぁ、心を開け。新しいサウンドを捜し求める冒険へ、旅立つのだ。

(夕焼けの荒野を、ルディとスパイダーが彷徨いながら、新しいサウンドを捜し求める。)
ルディ&スパイダー:♪俺たちは新たなサウンドを探しているんだ 
              新たなサウンドを求めて世界中をさ迷い歩く 
(我こそはワシなり…!) 
              俺たちは新たなサウンドを探しているんだ ♪


 夜の砂漠

(ルディとスパイダーが焚き火を囲んでいる。)
スパイダー:なぁ、ルディ。なかなか良かったじゃないか?あれが新しいサウンドだろう?
ルディ:いや、あれは「新しいサウンドを探す歌」だ。少し違うな。
スパイダー:ルディ、俺思ったんだがな。どうしていつものようにアレをやらないんだ?
       サンタナのアルバムを買ってきて、歌詞を拝借してちょっとばかり手を加えちまうのさ。
ルディ:その話はやめろ。我々は新たな一ページを開いたところだぞ。もう既に、俺たちは音楽学者に調べられているんだ。
スパイダー:そのお前の頭にあるドアから何が出てくるか、見てみろよ。どうせドンチャン騒ぎのたぐいだぜ。
ルディ:お前はまったく分かっていないな。
スパイダー:そうかい?何でだ。俺にはドアがないからか?
ルディ:その通り。ククンドゥのドアは、真の叡智を持つものにのみ、現れるのだ。
スパイダー:じゃあ、なんで俺にゃドアがないんだ?
ルディ:お前がまだ未熟で、野蛮だからさ。
スパイダー:不公平だ。お前はドアを自分で手に入れたんだろう。どうして俺にはそれが出来ない?
ルディ:俺は賢人なのだ。だからこそドアを与えられた。山へ行き、行者の元で勉学を積んだのだからな。
    ただバーベキューをしに行ったんじゃないんだぞ。
スパイダー:お前、自分が賢いとか言うがな。「見てくれ、おれはルディ!とっても賢く、ドアだってあるんだぞ!」
       でも、お前のしてることはどうだ?人の音楽を盗んでいるんだぞ?
ルディ:止めないか!
スパイダー:自分をサイケデリックの神様だとでも思ってんのか?でも、お前のどこが神聖だ?詐欺師のくせに。
ルディ:誰だって間違いは犯す。間違いから学ぶものだ。しかし、お前は何一つ学び取ろうとはしない。
    雄牛のように強情だからな。
スパイダー:雄牛じゃない、ライオンだ。欲しいものには、即座に飛びつくのさ。
ルディ:そうさ。どうやら、わかってきたようだな。
スパイダー:お前、何が言いたいんだ?いいたい事があるなら、普通に英語で言えよ。
       家の中で小さな車を走らせるような真似は無しだ。
ルディ:俺の別れた女房の話をしていることは、分かっているだろう。
スパイダー:どうしていつもそう来るんだよ!あれは60年代の話だぞ!自由恋愛がもてはやされ、俺たちだって若かった
       第一、お前のかみさんだって、俺とだけ浮気したわけじゃないぞ、誰とだってやってたんだから。
ルディ:女房はどの女とも同じだ、理解不能で、邪悪だ。
スパイダー:みんな彼女のせいにしようったって、そうは行かないぞ。
ルディ:何だと?
スパイダー:第一お前、どうして彼女が男を漁って血眼になってると思い込んでいるんだ?
ルディ:俺は良き夫だったからだ。
スパイダー:まずい事は隠して、適当に言うのは簡単だろうよ。でも、彼女は全部俺に喋ったぞ。お前の浮気をな!
ルディ:俺は悪い事は何もしていない。
スパイダー:彼女が仕事から帰ったとき、お前とお前のギターを見つけた時もか?
ルディ:あれは誤解だ。俺は裸だったし、暗かったし。弦を換えていたら、絡まってしまったんだ。
スパイダー:俺が信じるとでも?
ルディ:ギターを愛するのが、そんなに悪いか?
スパイダー:当たり前だ!タマを突っ込んで気持ちいいようにギターを弾いてたら悪いにきまってる!
ルディ:もうたくさんだ。俺は瞑想が必要だ。どっかに行って、俺たちの会話の内容をよく考え直せ。
    俺が正しくて、お前が間違っていた事を理解したら、戻って来い。そしたら俺がそれをタイプして、メモにしてやるから。
スパイダー:ああ、そうだろうよ、タマ使いの、ケツの穴ろくでなし!お前のノートなんざ、ケツの穴にでも突っ込んでおけ!
       夜が明けるまでくわえてろ!
ルディ:ああ、なるほど。忘れてたよ。お前は字が読めないからな、そうだろう?ははは!
スパイダー:俺の電話帳の名前なら、いくらか読めるぜ。(電話帳を取り出してみせる。)この名前は、カルロスと読める。
ルディ:カルロス・サンタナ…そう来たか。
スパイダー:俺だって言いたかないがな。俺たちゃボンゴ・ブラザーズだからこそ、お前を庇ってきたんだ。
       カルロスはもう二年も前から、俺を引き抜こうとしていたんだぞ。カルロスはまともなミュージシャンだ。
       演奏するのも、楽しむのも大好きだ。それにドレスを着て砂漠をぶらついてなんぞ、いないからな!
ルディ:これはドレスじゃない。サイケディック修行者の聖なる礼服だ。
スパイダー:何とでも言え。俺はカルロスの所に行くからな。あいつはお前なんかより、余程いいギタリストだ。
ルディ:何だと?
スパイダー:聞こえただろうが。お前なんかより、良いギタリストだってな。
ルディ:おお、そうかい。
スパイダー:ああ。
ルディ:じゃぁ、これはどうだ?
(ルディがギターを掻き鳴らすと、スパイダーが吹っ飛ぶ。)
スパイダー:ああ、すい臓がぁ…!
ルディ:我がフュージョン・フレーズを思い知れ!
スパイダー:もう二度と俺にギター攻撃すんな!ずっと一緒にやってきたが、もうたくさんだ!
       自分をよく見てみろ、自分を聖者かなんかだと思ってるんだろう。
ルディ:野獣よりは聖者の方がましさ。
スパイダー:けっ!
(スパイダー、立ち去る。ルディ、ギターを撫でる。)
ルディ:大丈夫。心配ないよ、ミランダ。もう二人っきりだ…
(ルディがギターを置いてごそごそし始めたところに、スパイダーが戻ってくる。)
スパイダー:コンガを忘れてきた。
ルディ:弦を換えていたところだ。


 砂漠の中に立つ電話ボックス

(スパイダーが公衆電話で話している。)
スパイダー:よう、カルロス!元気か?そう、そうそう、俺、スパイダー・ディジョンだ。
       お前さんの誘いのこと、良く考えたんだよ。そろそろ一丁やっても良いかって思うんだ。
(スペイン風の格好をしたおねえさんがやって来て、ボックスのドアを叩く。)
スパイダー:そうそう、ルディなんか、でかい紫色のペロペロキャンディーみたいにフラフラしてるだけだからよ。
(おねえさん、再びドアを叩く。)
スパイダー:なぁ、カルロス…ああ、ちょっと待ってくれ。変なやつがちょっかい出しやがる。
       
(ドアを開けて、おねえさんに)おい、おねえさん。大事な電話中なんだよ。邪魔しないでくれるか?
おねえさん:あらそう。じゃぁ、あたしの町に帰るけどね。男に飢えた女ばっかの町だけどさ。
スパイダー:
(電話に向かって)おい、カルロス。この話はまたな。(電話を切る)俺はスパイダーだ。
おねえさん:変な名前。
スパイダー:あだ名ってやつだよ。
おねえさん:あら。
スパイダー:おれにはアレが八つあるからな。
おねえさん:指が八本?
スパイダー:いや。
おねえさん:足の指八本?
スパイダー:いや。
おねえさん:じゃぁ、八つって…あ〜あ、なるほどね…。あんた、ここに何しに来たの?
スパイダーここだけの話だが、友達と来てるんだよ。新しいサウンドを探すとか言ってな。
おねえさん:またかい?
スパイダー:どうして?
おねえさん:みーんな、ここに新しいサウンドを探しに来るんだよ。
スパイダー:ここは限られた人にしか知られていないんだろう?
おねえさん:まさか!あれをごらんよ!レイザーライトだ。あっちには、ケヴィン・ローランド。
       あっちには、クリス・デ・バー。あの人なんて、もう10年も居るんだよ。
スパイダー:よーう、クリッシー。ははは。なぁ、お嬢さん。さっき言ってたあんたの町ってのは、ここから近いのかい?
おねえさん:すぐそこよ。
(スパイダー、おねえさんと一緒に歩き出す。)
スパイダー:あんた、ポルノは好き?
おねえさん:大好き。


 砂漠の一角

(ルディが焚き火の火をみつめながら歌っている。)
ルディ:♪俺はずっと捜し求めてきた あらゆる道を歩き あらゆる石をひっくり返して 
      しかし何も見つからず 俺は一人ぼっち しかしいつの日か新しいサウンドを見つける 
      誰も手に入れなかったサウンドを 鍵を手に入れ ドアを開け放つのだ 
      聞いたこともない音楽が きこえるだろう そして俺は永遠に解き放たれるのだ♪


 町の酒場

(スパイダーが町の女たちと盛り上がり、歌い踊っている。)
スパイダー:♪指をお前の背中に這わせ お前は叫び すすり泣く 
         俺はお前の脚をなめ 髪をしゃぶるのさ そしてお前の体にとびかかる 
         俺の蜘蛛のが糸がお前を絡め取り まるでハエのように食ってやろう 
         お前をいためつけ お前は泣き出すのさ お前が怒り出したら そんな事をする訳を教えてやる♪
コーラス:♪フッフー! あんたにスパイダーの愛をくれてやる♪

(スパイダー、女たちを侍らせて、酒を飲み始める。モンキーが一人、床掃除をしている。)
スパイダー:よう、お嬢さん。スパイダーおじさんと一緒に一杯どうだ?可愛いテキーラちゃん!
モンキー:キーッ!
(テーブルから離れる)
スパイダー:あれま。あの毛糸頭ちゃんに、何か悪い事したか?
おねえさん:ああ、あの子はモンキーよ。変わってるの。幻覚が見えて、自分のオシッコとか飲むんだわ。
       ピーナッツ臭いったらありゃしない。放っときなさいよ。
スパイダー:俺の友達のルディに会えば、一発で仲良くなるぜ。あいつは難しい女が好きだからな。
       でも俺は違うぜ、普通の女が大好きだ。
(酒場にルディが入ってくる。)
スパイダー:よう、お堅いルディ様のお出ましじゃねえか?何しに来たんだ?
ルディ:通りかかっただけだ。
(カウンターの女性に)発泡水をくれ。お前、カルロスの所に行ったんじゃないのか。
スパイダー:今週か来週中には行くさ。それがどうかしたか?
ルディ:こんな安っぽい店で時間の無駄遣いとは、いかにもお前らしいな。
スパイダー:お前こそ、なんでこんな所をうろついている?ここは女だけの町だぜ、お前だってやりたくて来てるんだろうが。
ルディ:ふん。
女性店員:
(ルディに)ステキなドレスじゃない。
ルディ:これはドレスじゃない、サイケデリック修行者の、聖なる礼服だ。
女性店員:ちょっと遊んで行かない?
(上半身をはだけて見せる)
ルディ:その焦げたビスケットをしまえ。
おねえさん:
(スパイダーに)彼、どうしちゃったの?
スパイダー:いきり立ってんのさ。どうしてか教えてやろうか?新しいサウンドを探しているからさ。はははは…
ルディ:何がそんなに可笑しい?俺は音楽的な探求をしているんだ。
スパイダー:礼服の中で欲求をどうにかすれば?ここのお嬢さんたちと楽しめば良いじゃんか。自由恋愛やり放題!
ルディ:この世間知らずめ。ミュージシャンとしての旅路を生きてきて学んだ事があるとすれば、
    それは愛など決して自由なものではないという事だ。愛は人間性の行いを嘲って、1分半もすれば喜びだす。
スパイダー:1分半?
ルディ:2分。そんなことはどうでも良い。
スパイダー:俺とお楽しみの時は、一ヶ月と30分だぞ。
女たち:きゃ〜!
ルディ:ケダモノめ!ドラマーはみんなそうだ!


 町の広場

(ルディが酒場から出てきて、水場に腰掛ける。)
ルディ:理解できない。月なら新しいサウンドの秘密を知っているかもな。


 夜空の月

ムーン:月になってみますとね。太陽だって言われることがあるんです。一度太陽に会ったことがありますよ。
     凄い勢いで通り過ぎましたけど。それが日蝕とか言うらしいんです。
     そんで、通り過ぎる時に、太陽の背中をちょっと舐めてみました。彼は舐められた事に気づきませんでね。
     黄色いスーツを着ていたから。…そんでまぁ…ぼくは月なわけです。


 町の広場

ルディ:どうも…。
(モンキーがやって来る。)
モンキー:どうしてこんな所に一人で居るの?お友達と一緒にバーで飲まないの?
ルディ:俺はありきたりの快楽などには、興味はない。ここじゃ一杯1ポンド2セントでもな。
モンキー:あなたって、他の男の人とは違うわね。
ルディ:聖職者だから。
モンキー:そうなの?
ルディ:サイケデリック修行者の中でも、高位の聖職者だ。どうやら君は、俺たちの地位に気づいたようだな。
モンキー:全然。
ルディ:あっそ。
モンキー:でも、あなたの中にある何かは知ってる。あなたの瞳に映るもの、ある人を思い出させるわ。
ルディ:誰?
モンキー:自らの信じるもののために死んだ人。
ルディ:それは誰なんだ?
モンキー:私の父。
ルディ:彼は今、どこに?
モンキー:死んだの。
ルディ:ああ、そうか。言ってたね。
モンキー:父は私がまだ小さかった時に、殺されたの。町があの悪魔のような、ならず者ベータマックスに襲われて。
ルディ:ベータマックス?
モンキー:この村の男たちはみな、恐れをなして逃げて行ったわ。私の父だけが女たちを守ろうとして、殺されてしまった。
      父の瞳にあったものこそ、今のあなたの瞳に映る物と同じなの。これが父よ。
(ロケットの写真を見せる)
ルディ:俺も…きみと同じような瞳に会ったことがある。
モンキー:そうなの。どこで?
ルディ:俺が若い頃、豚を飼っていたんだ。ごめん、気を悪くしないでくれ。その豚の事が大好きだったんだ。
モンキー:分かるわ。
ルディ:本当?
モンキー:私も豚が好きだもの。豚と結婚して、お洒落させて、町中走り回りたいぐらいだもの。
ルディ:あ、そ、その…まあ言いたい事は分かる。
モンキー:分かってくれると思ったわ。
ルディ:この町にしばらく留まろうかと思って。
モンキー:だめよ。この町から離れなきゃ。ベータマックスに殺されるわ。
ルディ:ベータマックスって何者だ?
モンキー:ヤツはすっかり忘れ去られた規格で、世の中に復讐してやろうと機会を狙っているの。
      すべての男たちを殺し、女たちを連れ去る気だわ。
ルディ:きみもかい?
モンキー:いいえ。私は自分の体にピーナッツバターを塗りつけているから。あいつはピーナッツ・アレルギーなのよ。
      あなたもアレルギーがある?
ルディ:小麦のね。
(町の時計台が12時を指し、警報が鳴り響く。)
モンキー:時間がないわ。早く行かなきゃ。
(モンキー、ルディを馬小屋の前に連れてくる。)
モンキー:この小屋に村から脱出する秘密の通路があるから。早く逃げて。
      豚かピーナッツ・サンドイッチを見た時は、私を思い出してね。
(立ち去ろうとする)
ルディ:君の名は?
モンキー:モンキー…
(立ち去る)
ルディ:おサル…?


 馬小屋の中

(ルディが馬小屋に入ると、外でスパイダーの声がする。)
スパイダー:お嬢さ〜ん!お嬢さんがた〜!
(ルディが外を覗いてみると、スパイダーが上機嫌で歩いている。)
スパイダー:お嬢さ〜ん!どこだ〜?
(ルディ、スパイダーに合図をする。スパイダー、盛大に用を足し、合図に気づく。)
スパイダー:今いくよー!
(小屋に飛び込み、ルディに襲い掛かる)
ルディ:どけ、このケダモノ!
スパイダー:ルディ、お前か!
ルディ:ああ、俺だ!
スパイダー:なんてこった、暗いし、そんなドレスだし…
ルディ:何度言ったら分かるんだ?これはドレスじゃなくて、礼服だ!
スパイダー:お前、ここで何やってんだ?誤解を招くような格好でうろつきやがって。
       ああ、なるほどな。お前、覗き見が好きだもんな。得なんだろう。成り行きを覗き見ようってんだろう。
ルディ:黙れ。お前、ここがどういう所だか、全く分かってないな。
    この町は悪魔の如き化け物、ベータ・マックスに呪われているんだ。そして奴がまさに来るところなんだぞ。
スパイダー:あれのサウンドは気に食わないな。クソの山みたいな音しかしない。よし、行こうぜ。
ルディ:いや、どこにも行かないぞ。
スパイダー:はぁ?
ルディ:ここに留まって、悪魔のベータマックスと戦うんだ。
スパイダー:おかしいんじゃねぇのか、ルディ!またウッドストックの二の舞だぞ!
       演奏したらすぐさまずらかりたいんだろが、そうは行かないじゃないか。
       俺たちゃとっ捕まって、縄で縛り上げられちまっただろう。
       お前と、俺と、カルロス・サンタナであのあと6週間も、掃除機をかけさせられたじゃないか。
ルディ:誰かがあのゴミを溜め片付けなきゃならなかったんだ。
スパイダー:ザ・フーみたいに逃げちまえば良かったんだよ。あいつら、とっとと逃げやがって。
       ロジャー・ダルトリーがフリフリのエプロンつけてるところなって、見やしなかったぞ。
ルディ:連中は身勝手なんだ。そのうち、その時が来るさ。
スパイダー:そりゃどういう意味だ?
ルディ:いつの日か、ダルトリーだって掃除機をかける日が来るだろうってことさ。
スパイダー:アホか!ロジャー・ダルトリーが掃除機なんて使うわけないだろ。自己中野郎だからな。
ルディ:そのうち分かる。
スパイダー:おい、聞けルディ。俺はただのドラマーなんだ。そうだろう?
ルディ:いや違う。それ以上のものだ。
スパイダー:お前のようにしろって言ったって、俺には無理だ。お前はいつだって俺を型にはめようとする。
       でも、そもそもそういう性じゃないんだ。俺は動物みたいなもんさ、アレの「蛇口」が八つもあるんだぞ。
       ドラムを叩くか、テーキラ飲むか、女といちゃつくかしか出来ないんだ。
       地面にぶっ倒れるまでやって、翌日はまたその繰り返しだ。
       いいか、ミルクをチーズにする事なんて出来ないんだ。
ルディ:できるぞ。
スパイダー:ん?たとえが悪かった。とにかく、俺はチャンスを見計らってカルロスの所に行くからな。
ルディ:チャンスはあるぞ。
スパイダー:なんだって?
(ルディの頭のドアが開き、手が出てきてスパイダーに紙の束を渡す。)
スパイダー:なんだ、これ?
ルディ:ブラジルへのチケットさ。それから、リオでのサンタナ・ライブのバックステージ・パスだ。
    彼のところへ行け。雇ってくれるだろう。
スパイダー:ルディ、何と言えば良いのか…
ルディ:何も言うな。早く行け。
スパイダー:じゃぁ、行くからな。
(歩き出す)
ルディ:じゃあな。
(スパイダー、足を止める。)
スパイダー:ああ、駄目だ!行けるわけがないだろう!
ルディ:どうして?
スパイダー:俺たちゃボンゴ・ブラザーズだからな。ずっと一緒にやってきたんだ。
       俺はお前みたいな聖者にはなれないが、お前と一緒に戦う事は出来るぜ。
(チケットを破り捨てる)
ルディ:テストに合格したな。
スパイダー:何のテストだ?
ルディ:バックステージ・パス・テストさ。大抵のやつはチケットを持ってサンタナに会いに行き、楽しく過ごす。
    でもお前はそれを拒否し、俺と地面にはいつくばって犬のように死ぬ事を選んだんだ。
    スパイダー・ディジョン、これこそ、人生最初の誇り高き行いだ。
(突然、スパイダーが頭痛に襲われて、苦しみ始める。)
スパイダー:ああ!一体何が起こったんだ?!頭が割れるようだ…!
(痛みが収まると、スパイダーの頭にドアが現れる。)
ルディ:とうとう、ドアを手に入れたな。
スパイダー:やったぜ、ルディ!お前と同じドアができた!見ろよ、凄いだろ!
ルディ:さぁ、奴のケツを蹴り飛ばしてやろう!


 町の広場

(スパイダーもルディと同じような服装になり、広場に飛び出す。そこには、ベータマックスが佇んでいる。)
ベータマックス:死の覚悟をしろ、豚どもめ!
ルディ:ベータマックス。
ベータマックス:何だ?
ルディ:確かにお前は使われなくなった規格だが、それは無実の人々を苦しめるような復讐の理由にはならないぞ。
ベータマックス:それが動機じゃないぞ、このユルユルねじ頭!
         俺が腹を立てているのは、何年も前に誰かが俺の女房と寝たからだ。
         その男こそ、こいつだ!
(スパイダーを指差す)思い知らせてやる!
ルディ:スパイダー。お前、誰とも寝てないよな?
スパイダー:でたらめだよ!俺、あいつの女房となんか寝てないぞ。そんなことがあったら、覚えているさ。
       
(ちょっと考えて思い出す)あ、そっか。そうだったわ。思い出したぞ。彼女、ビデオテープがアツアツでさ!
ベータマックス:黙れ!
スパイダー:60分楽しむこともあったが、3倍モードで180分なんてこともあったな。
ベータマックス:そういうことか!死ね!
ルディ:戦わねばならないようだな。我が怒りのフュージョン・パワーを受けてみよ!
(ルディ、ギターを鳴らすが、調子が外れている。)
ルディ:チューニングしてなかった。ちょっと待って。
(急いでチューニングする)よし!
(ルディが強烈なギターソロを弾き鳴らすと、ベータマックスが苦しみ始める。)
ベータマックス:うわぁああ!一体なんだ、これは!うぉおおー!クソ、やめろ!
スパイダー:いいぞ!
ベータマックス:もう沢山だ!俺のビデオテープ攻撃を受けてみよ!
(ベータマックス、両手からビデオテープを放出して、ルディを絡め取ってしまう。)
ベータマックス:どうだ、これでもう弾けないだろう!よし!
(ベータマックス、テープを回して、ルディを引きずって行く。)
ルディ:スパイダー、助けてくれー!
スパイダー:どうやって?
ルディ:ドアを使え!
スパイダー:まだ取扱説明書読んでない!
ルディ:心を開け!
ベータマックス:♪おいでおいで、おじさん こっちだよ〜♪はははは〜!♪早送り 早送り ゆっくりゆっくり〜♪
(スパイダーのドアが開き、リモコンを持った手が現れる。リモコンのボタンを押すと、ルディを引き寄せる回転が止まる。)
スパイダー:止まったぞ!ベータマックスが一時停止した!
ルディ:
(テープから脱出する)巻き戻しだ、スパイダー!
スパイダー:よし、もとのカセットに巻き戻してやる。
(リモコンがまたボタンを押すと、テープがどんどん巻き戻されていく。)
ベータマックス:うわぁ、やめろ!何てこった!お願いだ、やめてくれ!
         あ、あ、ぎゃー!少しぐらい残してくれー!うーあー!くそ!
(ベータマックス、小さなビデオカセットに収まり、地面に落ちてしまう。)
おねえさん:(酒場から外を見て)ベータマックスをやっつけてくれたよ!
(女たちの歓声が響く中、モンキーが現れてビデオカセットを取り上げる。)
ルディ:そいつをどうする気だ?
モンキー:ボロボロになるまで、重ね撮りする。


 引き続き町の広場

(ルディとスパイダーの演奏に合わせて、女たちが踊り始める。)
ルディ:♪スパイダー 俺たちは新しいサウンドをもとめて世界中をさまよってきた 
      しかし、ただ一箇所だけ 探し損ねた所がある♪
スパイダー:♪ほほう?どこだ?♪
ルディ:♪我々の精神世界だ!♪
コーラス:♪俺たちは捜し求めてきた 
(スペイン語で) 俺たちは新しいサウンドを手に入れるんだ♪


 ナブーの寝室

(朝になっている)
ナブー:はい、おしまい。
ハワード:おしまい?
ナブー:この物語の教訓。長い旅路の末にこそ、新しいサウンドを見出せるってこと。
ハワード:俺たちをどうやって助けるんだよ、バカ。もうあと10分で、レコード会社の人と会うんだぞ?
ナブー:いい指摘だね。
ヴィンス:何か良い魔法の薬かなんかくれよ、モーグリ。さもなきゃぶっとばすぞ。
ナブー:分かったよ、おちついて。
(ナブー、ハワードとヴィンスにコップに入った色つきの水を差し出す。)
ナブー:これは音楽エキス。これを飲めば、音楽の天才になれる。
ハワード:なんだ、これ?
ナブー:モーツァルトの涙。
(ハワードとヴィンス、一気に飲み干す。)
ナブー:マーク・ノップラーのオシッコ入り。
ハワード:どのくらい効くんだ?
ナブー:三時間。さあ、急いで!かつて無いほどの演奏してきてよ。
(ハワードとヴィンス、寝室から出て行く。)
ボロ:お前さんは本当に頭が良いね、ナブー。連中、魔法の薬で、レコード契約できると思うか?
ナブー:あれは嘘。ただのルコザイダ栄養ドリンクだよ。
ボロ:あれま。


 エンディング・クレジット

(ルディとスパイダーが町の広場のベンチに腰掛けて話していると、ロジャー・ダルトリーらしき男が掃除機をかけながら近づいてくる。)
ロジャー:すいません、足どけて、足どけて。どうも!
(退場)
スパイダー:
(ルディに)まさか。違うだろ。
ルディ:いや、そうだ。言ったろう?その時が来たのさ!


(終)
 
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