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インタビュー / 1999年 ヘン&チキンズ

ジュリアン&ノエル 


 ザ・マイティ・ブーシュは、これまでのいかなるショーとも違っている。状況説明は完全に無視。評論家たちの仕事も困難を極める。もしどうしても例えが必要だとするなら、ジュリアン・バラットとノエル・フィールディングのユニークなスタイルはリーヴス&モーティマーの初期が一番近いだろう。厚紙のプロペラや、棒を持った男を演じている頃に。
 しかし、リーヴス&モーティマーとは異なって、ブーシュ飼育員たちは、ハワード・ムーン(ジュリアン)とヴィンス・ノワー(ノエル)という郵便配員に変身してしまう。しかも彼らの世界観からは決して離れる事は無しにだ。ザ・マイティ・ブーシュは独自の世界観の中に展開され、週に一回、イスリントンのヘン&チキンの舞台で、彼らの世界に招待してもらう事が出来る。もしくは、四週間のエディンバラ・コメディ・フェスティバルに行けば、毎日1時間のショーが見られる。フェスティバルで見逃せないショーとなるはずだ。

 ジュリアン自身の言葉を借りれば、ブーシュは「自分で自分とヤッてるような、ギラギラ野郎」とのこと。ノエルはブーシュをこう説明する。「言葉で説明するよりも、俺たちの可笑しなアイディアを表現する良いチャンスなんだ。ある男が『ピューマを見ろ』って言うと、足首から虹が出てきたりするんだ。ヘンじゃだろ。でもショーを見ればこの10倍は可笑しいぜ。ブーシュってのは、そういうものなんだ。」

 バラットとフィールディングはもう二年余り一緒に仕事をしている。二人は、ノエルがアート・カレッジの学生の時に出会った。彼が最初は、スタンドアップをやっていたことの事だ。
 「彼(ジュリアン)のショーを見た友達がそれぞれに、俺に言うんだ。『あの兄ちゃんは見たほうが良いぜ、何せお前にそっくりだから!』あんなに異様な事をやってのけるのなんて、彼が初めてだった。バナナのことを説明するだろ、それ自体は別にヘンでもないんだけど。でも実際に声に出して喋り出すと、全然意味を成さなくなるんだ。すげぇ、って思ったよ。」
 ノエルはジュリアンの全てのライブに通いつめる事になった。
「ジュリアンは俺のことヘンな奴だと思っただろうな。だって俺が迫って来て言うんだぜ。『なぁ、あんたのことが気に入ったよ!俺もあんたと同じ事をしてんだ!コメディだよ!』って。」
 ジュリアン:「俺のほうは…『失せろってば!』…って感じだったかな。」

 ノエルは、スタンドアップに関して彼独自のアプローチをしていたと主張している。
「イエスの格好とかしてたんだ。ちょっとした事さ、イエスの格好するなんて!髪の伸ばしていたし…その頃は髭が生えなかったから、髭はペイントしてた。水彩で描いた髭だから、熱かったりすると溶けちゃうんだ。そんでもって、馬鹿でかい十字架を持って登場するや、ミック・ジャガーのモノマネなんてやってた。」

 「俺たちが一緒に仕事ができるかどうかは、分からなかった。かなりびっくりしたよ。お互いに組むのは止すだろうなと思っていたのだけど、でも心配したよりも余程うまく行ったのだから。」
 二人はそれぞれに自分のスタンドアップのやり方を持っていたし、いくらかの成果も上げていた。ジュリアンは彼の故郷、リーズからロンドンに引っ越してきた。そしてノエルもそうであったように、ジュリアンも家族には自分がコメディをやっているとは、すぐには話さなかったのだ。
 「だからさ、彼(ジュリアン)はいつも夜に家を出て行って、5時間後の真夜中に帰宅するだろう?まるで人殺しだよな。家族はジュリアンの事を連続殺人鬼なんじゃないか、って思ってたんだ!」

ジュリアン:「でも、皮肉な事に死ぬのは俺の方なんだぜ。」
ノエル:「ウー!そりゃいい!」

 二人とも、今ではデイリー・テレグラフ・オープン・ミック・アウォードの受賞者になっている。ジュリアンは1995年に、ノエルはその次の年に受賞しているのだ。二人が一緒に仕事をした最初は、1997年エディンバラでのショー「キング・ドン vs モビー・ディック」だ。ジュリアンは巨大ペニス、ノエルは人間サイズの鯨を演じたのだ(二人とも、リーとハリングを自分たちにとっては「コメディにおける叔父さん」と呼んでいる)。
 彼らはそんな経験を経て、またチャンネル4やチャンネル5のコメディ・ネットワークでの出演などで互いを観察し、とうとう一緒に新しいショーを作ろうと決心をかためた。ノエルによると、二人は最初、確信がもてなかったと言う。
「二人もイカレ過ぎてるから、ブザマな終わり方をするだろう、って思ってた。」
 ジュリアンもそれには同意する。「一緒に何が出来るかなんて見当もつかなかった。だから驚いたのさ。互いに一緒にやるのは止めると思ってさ。でも結局うまく行った。」

 パラマウントのコメディ番組のために、「アンナチュラル・アクツ」を撮影している間に、二人はリッチ・フルチャーとショーン・カレンに出会った(カレンはチャンネル5で放映するパラマウントのショー『フェスティバル・オブ・ファン』でも、二人と会っている)。
 ノエルはこう言っている。「あの二人は俺たちのアメリカ版だよ。二人は凄く違う取り合わせだけど、とてもうまく行ってる。二人してアイディアがぶっ飛んでいるんだ。」
 彼らはこんな事を話していた。「四つの異なるやり方のスケッチとか、そんなの。でも、ショーンは抜けてカナダに行っちゃったんだ。あっちで上手くやってるよ。」
 リッチは1998年エディンバラ・フェスティバルで、ジュリアンとノエルのザ・マイティ・ブーシュに参加した。そしてこの作品はペリエ賞の最優秀新人賞を受賞したのだ。
 このペリエ賞獲得で、彼らに何か変化があっただろうか?
 「もう、俺の姿を見せてやらないことにするんだ。」ノエルはこう言う。
「それからエージェントを雇うんだ。クビにしてやるためにね。」
 それにジュリアンが付け加えた。「それから、俺に触らせない。嫌なんだよね、そんな必要もないし。汚い感じがするし…意味ないじゃん。…ええと、(受賞は)たしかにその時点では凄い事だよ。賞をもらうってのは素晴らしい事さ。凄い事をやったんだ、って認識してもらうぐらいにはね。でも、結局は別にこれといって何か起こるわけじゃない。」
 更に、ノエルが続ける。「俺たちが何をやってる何者かを、あらゆる経営者とかに知らせるにはいいかもね。まぁボーナスみたいな物さ。」

 彼らは新しいエディンバラでのショー「ジ・アークティック・ブーシュ」を上演してきた。去年、イスリントンのヘン&チキンでは毎週月曜日の夜に上演されている。そして少しずつ発展させていっている。一部のファンは毎週見に来るが、大方は「たまに来るって感じ」とは、ノエルの弁。
 「俺たちがケツをまくって逃げやしないか、確認するためにね!」
 新しいショーは、テレビ業界のスチュアート・リーが監督し、今年のペリエ賞の有力候補とされている。しかし彼らは、このショーを彼ら自身の頂点とは考えていないようだ。ジュリアンは賞が目的ではないと、否定するのだ。
 「賞っていうのはなんと言うか…大事なのは、賞をとるかどうかよりも、俺とノエルが常に全力で取り組む事なんだ。それが別に特別な事ではないって風にね。ただ今の作品をちゃんとやろうと頑張っているわけだし、いま一番大事なのは、去年よりもその次の年の方がより良くなるって事なんだ。」
 ノエルは、自分たちが今やっていることが楽しいのだと断言する。
「スタンドアップってのはご存知の通りの物だろう。俺はジャズ・フュージョン・ギタリストと、動物園の飼育員が頭の中で同居してる男 ―なんてアイディアが本当に気に入ってるんだ。いけてるし、やれたら最高じゃん。他にも何人か居ればまるで、バンドみたいだ。スタンドアップより、ずっと凄い事になるぞ。」

ジュリアン:「イカしたオカマ野郎ってのもいいな。」
ノエル:「俺ってば、新世紀のディック・ヴァン・ダイクみたいじゃん!」

 二人は自分たちの世界を、より広いメディアに持ち込もうと計画している。ジュリアンは既にラジオの仕事を経験している。ティム・ホープと一緒に、彼らのユニット,ザ・ポッドとしてラジオ1のクリスマス・スペシャル番組を制作したのだ。
「そう、俺らはすぐにラジオの仕事をやるつもりなんだ。ラジオで色んなアイディアを試す。」
 ノエルが熱くなって頷いた。「ラジオ用の脚本を書くんだ。それにテレビの脚本も。それでどんどん挑戦して、発展させるぞ。」
 大いなる野望は、まるでウォルト・ディズニー作品に出てくるワルモノのようだ。
「ジュリアンなんて、ディズニーですげぇワルモノになれるぞ。そんで、俺はアホの相棒をやるんだ。きっと、すげぇぞ!」

 ジュリアン:「そうだな、時代衣装モノのドラマなんかも良いな。面白そうだろう、物凄く着飾った男が『いや、しかし、私は…ああ!』とか叫んで、ポットをひっくり返したりして…そういうの好きだな。」
 ノエル:「俺はディズニー映画が良いな。アホアホ英国人用のディズニー・マシンに乗ってさ、アニメで魚が俺と一緒に歌うんだぜ。『プカプカ、プカプカ〜♪』マジ俺、新世紀のディック・ヴァン・ダイクだぞ!」


(終)
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管理人雑感

 このインタビューは、恐らく「ヘン&チキン」の機関紙に載ったのだと思います。
 どうやら、リッチとの出会いは、「アンナチュラル・アクツ」の撮影だったようですね。このテレビ番組は、ジュリアンが脚本としてクレジットされており、音楽の製作もしています。更に注目すべきはジュリアンとノエルによる、動物園の飼育員のスケッチが登場する事。ブーシュのプロトタイプと言えるでしょう。いずれ調べてご紹介します。

 1999年のインタビューですが、既にジュリアンとノエルの関係がしっかり出ていますね。つまり、ジュリアンの事まで喋りまくるノエル。それから、学生時代は髭が生えていなかったと言うノエル。これまた驚きの話です。テレビシリーズ以降のノエルって、インタビュー中とかにもどーんどん髭が伸びてくるのが、すごーいではありませんか。特にライブの時の、楽屋ね。
 昔は飲めなかったとか、生えなかったとか、一体ジュリアンとの出会いはノエルに何をもたらしたのでありましょう…知りたくなくなってきた。

 興味深いのは、ノエルが「ジャズ・フュージョン・ギタリスト」、ジュリアンが「イカしたオカマ野郎」にそれぞれ言及している点です。互いのキャラクター造形が互いに気に入ったらしい事が伺えます。

 
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