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インタビュー / 「ザ・コメディ・レビュー」より 1996年7月 (インタビュアー:Nikki Bayley)


ジュリアン・バラット

 彼はいくらか変わった人物であり、同時にザ・ポッドのメンバーだ。多分、どちらでも構わないのだろうが、とにかくよく人を笑わせる彼について知るには、このインタビューを読むと良いだろう。

 ウムム。これはどう言えば良いのやら。「冷蔵庫攻撃!マフィン攻撃!小枝攻撃!そしてお豆攻撃だ!」…ジュリアン・バラットはまさに「支離滅裂変人帝王」と呼ぶに、もっともふさわしい男だ。しかし、その演技を説明するのは容易ではない。彼自身にも無理だ。

 彼はこう説明する。

 「特に出来の良いギャグを書いてる訳ではない。取りとめもないことを書く事の方が好きだし、ジョークの中に柔軟性を持たせたいんだ。だから演じるたびに少し違うことになる。
 何ヶ月もかけて、少しずつ変えているのだが、それは俺のジャズ精神から来ている。骨組みの中でごちゃごちゃの状態にしておける。自分でも何を喋るのか分かってない方が好きだし。つまり先の見えない『スタンド・アップ・パニック』さ。」

 
生きることが喋ることなのだから、恐らくスタンド・アップ・コメディアンが、その事にいて、恥ずかしがるのは珍しい現象だろう。しかしジュリアンは「物事を色々分析するのは好きじゃない。」とつぶやく。そう言いつつ、色々と分析しているのだ。例えて言うならば、『名声』という称号を得る体験をしているようなものだろう。

 「確かに、自分の中には一部『位置付け』というものも存在する。自己中心的な位置付けだ。ウィークデーの毎晩、名もない一般大衆の憧れ,崇拝を得たいという欲望がそれ。」
ジュリアンは物思いにふけりながら、続けた。
「でも、家に帰れば気付いてしまう。そんなのは、束の間の、決して果たされない夢なんだ、って。」

 「コメディ界に入ってみると、この世界は同心円みたいなものだと分かってくる。ギグを演ると、その『中心』に近づくのだけど、実はダンテの描く『地獄』みたいなものなんだ。そうなって初めて、自分が中心に来ている事に気付く。必然的に、部屋にたった一人で残され、『なるほど!つまり、ここまで来ちゃったんだな!』ってつぶやく事になるわけだ。だから、自分のスタンド・アップを、コメディ界に飲み込まれないような,(中心部ではない)周辺部分に位置させておきたいんだ。そんな訳で、俺はその手のガラクタ…ええと、『コミュニケーションと情報の純粋なるエクスタシー』なんてものとは、縁がない!」

 ジュリアンは目を大きく見開き、頭をビクっとさせた。何かを見咎められたみたいな仕草で、これをよくやる。

彼の膨大な言葉のごたまぜを投げかけられた観客は、どう反応するのだろうか?


 「今まで俺は、観客とはあまり話をしなかった。自分だけの不透明な小さな世界に閉じこもっているんだ。さすがに不都合な事になってしまったよ。話をきちんとまとめないものだから。行き当たりばったりで物語になっていない話を10分も続けると、観客は飽きてしまうんだ。俺自身も飽きて、まったく駄目になってしまう!」

 そこで、ジュリアンはどうするのか?

「言葉をしっかり組み立てる事にした。何か面白い言葉が突然網に掛かったように思いついてもね。本当に言葉に入れ込んでいるんだ。
 雰囲気作りは好きだ。たとえば、仲間達と一緒のときに、何をしようか提案するみたいになものさ。でも、雰囲気作りを真似しようとしても、台詞を書き起こす事は無理だ。出来うる限りのジョークを入れながら、もう一度環境作りをしなくちゃならない。だから、奇妙で、ある意味『自由な』登場人物をすぐさま作り上げるんだ。そうすると観客はこれはただのギャグの羅列じゃない、って分かってくる。俺は抽象的なユーモアを伝えようとしているんだ。」

 あなたは本当に有名になりたいと思いますか?

 「もっと気に入るようなものを作りたいし、撮影してくれる人が居ると良い。」
 
ジュリアンは辺りを見回すと、タバコをもう一本くすねた。
「もっと他の事をやってみたいんだ。スタンド・アップだけをやりつづけたら、しまいにはステージ上でおかしくなってしまうよ。そんなのは、悪魔にとり憑かれた奴だけだ。うまくいけば、神の境地に達するんだろうけど。うまくいかなきゃ最悪だ。雰囲気っていうのは、揺れ動くものだし。それも、自分の頭の中からガラクタを片付けるっていう、治療みたいな事にはなると思うけどね。」

 ジュリアンは、ザ・ポッドにも参加している。 テクノ・ダンス・トランスに対する、どえらいパロディだ。電子音楽と、まがい物のヒッピー哲学で出来た音楽は、ここ数ヶ月で(良い意味で)悪評を得るに至っている。
 
これはどこから発生したものだろうか?


 「俺とティムはギグもやっていたし、お互いのアイディアも気に入っていた。それで何かやろうって事にしたんだ。元々は、ラジオか何かでやろうとしていたんだ。脚本やら何やらさ。それから曲を書いて、ライブで演りはじめた。中々うまく行った。
 でも、あれはザ・ポッドのある一面でしかない。つまり、寄せ集めだったんだ。ザ・ポッド(The Pod)という名前には、特に意味はない。ただ、逆に読んでeをつければDope(麻薬)になるってだけさ。

 
何かメッセージを含んでいますか?ジュリアンは頭の横を軽く叩いた。可愛らしい仕草だ。

 「若さだよ。」
彼はかしこまって言った。「何かできが良くて、しかも暗い面があるとしたら、それは若さだ。」

(終)

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管理人雑感

 このインタビューが取られたのは1996年。ジュリアンは28歳で、ノエルと出会う前と思われます。ジュリアンはスタンド・アップ(お喋り中心の出し物で、漫談とも訳す)・コメディアンでした。
 話の中に出てくるザ・ポッドというのは、映像作家のティム・ホープとのユニットの事。ティム・ホープはBooshのシリーズ2に映像効果担当として参加しており、「メイキング・オブ・シリーズ2」にも出てきましたね(「ピーター・フォンダ」などとふざけた字幕をつけられていた)。そのティムとジュリアンは随分古い付き合いのようです。

 ノエルとコンビを組む前だからなのでしょうか?ジュリアンの言う事は良く分かりません(笑)。ブルーな雰囲気で取りとめもなく話しているような感じがします。「他の事がやりたい。」というコメントは、この後ノエルとBooshを作り出す事を知っている人間としては、ニヤリとさせられますね。

 最後のコメントの翻訳には困りました。Yeastyという言葉を使っています。
 If something’s good, but slightly dark, then it’s yeasty.
 私は「若さ」と訳しましたが、もっとドロっとしたような、儚くて、実態のないような、難しい表現です。



 
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