backnextlistrandomhomebacknextlistrandomhomebacknextlistrandomhome

                                                            

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

 プレミア・ギター 2008年 4月号 マイク・キャンベル

Runnin’ Down a Dream : Mike Campbell by Tom Guerra

 マイク・キャンベルは、30年以上にわたって控えめでありながら、味わい深い演奏そしてきた。そうすることが彼にとって全てであり、ほかになにか表そうともしてこなかった。ここで私たちは、マイクと共に腰を落ち着け、音楽や楽器、ロックンロールに対する姿勢を語ってもらうことにする。

 30年以上にわたって、マイク・キャンベルの味わい深いギター・プレイは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの成功を築き上げる、キーとなってきた。はじめこそ、ロックンロールの第一世代,スッコティ・ムーアや、ルーサー・パーキンスに触発されたものの、彼に最も重要な影響を与えたのは、1960年代 ― とりわけ、ジョージ・ハリスンやキース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズのようなブリティッシュ・インベイジョンのギタリストたちだった。
 マイクの真っすぐなメロディは、多くのロック・クラシックの基礎となってきた。”American girl”, “Breakdown”, “Refugee”, ”Runnin’ down a dream” などがそれであり、彼の控え目な演奏がこれらの曲をいつ聴いても新鮮にさせている。メロディをなによりも大事にして、派手さとは無縁。キャンベル最初期のハートブレイカーズとしての演奏でさえも、すでに円熟の域に達していた。

 最初から、彼はハートブレイカーズ・ナンバーのアレンジ構成に重要な役割を果たしてきた。共作者としても、マイクは幾つかのバンドの大ヒット曲に貢献もしている。ドン・ヘンリーの2曲の大ヒット ― “ The Boys of Summer “ , “Heart of the matter “ などがそれである。
 再三にわたって彼は、偉大な曲はメロディと構成、素晴しいギター・サウンドこそすべてだと証明してきた。先輩としてはジョージ・ハリスンのように、マイクはギターが何であろうと ― 12弦、スライド、アコースティック,エレクトリック ― いずれであっても、最も大事なことは歌そのものを大事にすることだと、教えてくれている。

 ザ・ハートブレイカーズの30周年を祝って、ピーター・ボグダノヴィッチの監督で、高品質のDVDボックス “Runnin’ down a dream” が発売された。これはこれまで作られたいかなるロックンロール・ドキュメンタリーの中でも最高の物とも言えるだろう。この映画の中でマイクは、私たちとのインタビューでも見られたような、私心のない、思いやりと思慮深さを発揮している。
 インタビューの後すぐ、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズはスーパー・ボウル・ハーフタイムショー・アーチストという、数少ないエリート・ミュージシャンとなった。

TG:ハイ、マイク。今日はお話する時間を下さって、ありがとうございます。まず最初に、新しいDVD “Runnin’ down a dream” についてお祝いを申し上げます。ピーター・ボグダノヴィッチが良い仕事をしていますし、古い映像の数々も素晴しかったです。30年以上のバンド活動がクローズ・アップされていましたが、私には更なる何かがあるのではないかと思うのです。みなさん、2008年にツアーを計画しているのですか?

MC:そうだよ。こんどの夏にツアーを計画している。

TG:ザ・ダーティ・ノブズというサイド・プロジェクトを新しくやっているそうですね。それについて教えていただけますか?オリジナルの曲をやっているのですか?

MC:だいたいはオリジナル。でも、ちょっと変わったカバーもやる。ビートルズの “She said, she said”とか、キンクス、チャック・ベリーとか。古い曲だね。そういうのをバンドに合うようにアレンジしている。ザ・ダーティ・ノブズは、ぼくとJason Sinayというもう一人のギタリスト、ドラムのMatt Laug、ベースのLance Mossionの四人。楽しみのためだけど、すごくスピリチュアルなバンドだ。レコード契約をしようとかは、考えていない。

TG:ザ・ダーティ・ノブズはスタジオ入りしているそうですが、だとするとすぐにでも何か出すことを期待しても良いですか?

MC:けっこう録音しているし、できも良い。ただ、今すぐ商売にするって言うのはどうかな。今やっていることで十分良いからね。力を入れ過ぎるのもどうかと思う。好きな時に気楽にプレイしたりするのが、良いんだから。

TG:どのようにして、これまで演奏を向上させてきましたか?レッスンを受けたのですか?それともレコードからの学習ですか?

MC:昔は、カセット・プレイヤーとか、そういうのは無かったんだ。でも、時々レコードの回転を遅くして聴いて、ギタリストがどう演奏をしているのかを確実に聞き取ろうとした。それから、いくつかギター本を持っていた。一冊は ― 今でも持っていれば良かったんだけど ― “How to play the guitar with Carl Wilson” (ビーチボーイズ)。彼の手の写真が載っていた。何年後かに彼に会った時、言ったよ。「ああ、あなたの本をもっていましたよ。」そうしたら彼、参っちゃって「ああ、オヤジとのあれか!」って。
 その本で、いくつかのコードの指は確かめたな。何にせよ、だいたいはレコードから耳で聞き取ったんだ。

TG:正式なレッスンは無し?

MC:ぜんぜん。ただ、すごく小さい時 ― たぶん、6年生くらいかな。両親が学校のアコーディオン教室にやったんだ。そこでちょっとした基礎理論みたいなのを習ったけど。楽譜は読めるけどひどく遅いし、使い物にはならないな。

TG:その頃はアコースティックを弾いていたのですか?

MC:母が最初にギターを買ってくれた。ハーモニーのアコースティックで、30ドル。ひどく弾きにくかった。弦の張りがものすごく強くてバカみたいに苦労した。なんとか弾こうとして指先から出血したりして。
 ある時、友達の家に行ったら、そいつはギブスンのSGを持っていた。弦の抑え易さが、信じられなかった。だから、ハーモニーのアコースティックから始めて、その後父が買ってくれたゴヤのエレクトリックを弾き始めた。あの二つ、まだ持っていれば良かったんだけど。いつの間になくしちゃったんだ。

TG:ゴヤは何につないで弾いていましたか?

MC:ぼくの最初のアンプは、レコード・プレイヤーだった。父は電気技師で、すべてが揃ったレコード・プレイヤーを持っていたんだ。それで自分のギターをつないでみた。

TG:その時、バンドに所属していましたか?

MC:ただ弾いてみようとしていただけだから。時々友達とガレージで “Louie, Louie” なんかをやったりしていたけど。カレッジに行って、トムと出会い、あいつのバンド,マッドクラッチに入るまでは、ちゃんとグループに所属したことはなかった。

TG:映画によると、マッドクラッチは1974年にフロリダから西海岸に立ち、何日かでいくつかのレコード会社のオファーを受け、最終的にはデニー・コーデルと契約しましたね。最近じゃあり得ない事ですが。

MC:そうだね。でも、あの頃はそうでもなかったんだ。レコード会社はその時何が出来たかよりも、これからの可能性を大事にしていた。特にコーデルはアーティスティックなビジョンをしっかり持っていて、映画でも触れているけど、ほんとうにぼくらを良く助けてくれた。かれは素晴しいレコードをたくさん作っていた。
 そして、トムのソングライティングに関して、才能の芽を見出した。彼はその芽をうまく育て上げ、ぼくらの出してきたものの何が良いのか、悪いのかをふるい分けてくれた。彼こそ、ぼくらの行く道を大いに助けてくれたんだ。

TG:ザ・ハートブレイカーズの最初のアルバムでは、素晴しいギターの音が聴かれますね。演奏した時の事を、覚えていますか?

MC:最初のアルバムでは、トムがだいたい弾いていたのはぼくの’64ストラトキャスターで、ぼくは’50ブロードキャスターを、シェルター・レコード・スタジオにあった、フェンダー・デラックスと(70年代の)フェンダー・スーパー・シックスにつないだ。

 このストラトキャスターは、200ドルで手に入れたものだ。お金は持っていなかったんだけど、誰かが立てかえてくれた。録音されたこのギターのサウンドが好きで、特にデラックスを通したガリガリした感じが良いね。こいつは美しいひずみが出る、ニール・ヤングみたいな感じになるんだ。

TG:一番最近おこなった、夏のツアーでは、たくさんのギターを使うのを拝見しましたが、アンプのセットアップはどうしていますか?

MC:組み合わせている。最近のツアーでは、音が馬鹿でかくて、しばらく使っていなかった(ボックス)のスーパー・ビートルズを持ってきた。音がでかいと、年を取ったぼくらが歌うにはきついんだ。そいつを戻したのは、あのサウンドが懐かしくなったから。このスーパー・ビートルズを今、ステージに置いているけど、ぼくは実際にはつないでいない。トムが幾つかの曲で使っているんだ。これの背後で、実際には組合わせを使っている。

 目下のお気に入りは、クラブでぼくの小さなバンドがプレイしたときに発見したやつ。でも、ザ・ハートブレイカーズとしてステージに上がる時は、デラックスと、ブラックフェイス・フェンダー・プリンストンを、スーパー・ビートルズの後ろにセッティングしている。それとは離して、ボックスAV30をバックステージに置いている。まん中に陣取る人であれば、毎晩その会場に合わせたセッティングもできるだろうけど、おおかたはブラックフェイス・プリンストンと、59年のデラックスを使っている。この二つは一組ですごく良いサウンドになるんだ。

TG:あなたは偉大なギター・ヒーローの時代に出てきましたが、あの頃よく聞かれて、もてはやされた、最大限に許された自己満足的なギターの活躍は避けてきていますね。私はあなたのジョージ・ハリスンやキース・リチャーズ風のプレイが、ずっと好きでした。出しゃばりなプレイに対して、常に歌と完璧に共鳴する演奏です。

MC:ぼくらがフロリダから出てきたころ、あそこにはオールマン・ブラザーズや、レイナード・スキナード系のバンドがやたら沢山あった。ああいうのも好きだったよ。ただ、それよりもビートルズやストーンズの初期とかの方が好きだったんだ。3分程度の曲に、イカしたギター・パート。長いギター・ソロなんて必要ない。そう言う方が好きだったから、他のバンドがやっていたみたいな、やりたくもないオールマン・ブラザーズ系は排除し、自分たちがやりたい事だけをやった。これがずっと、ぼくらのアプローチでありつづけているんだ!

TG:ソロ・パートに関しては、どんなアプローチをしていますか?前もって周到に準備するか、流れに乗るか、それともその両方ですか?

MC:歌が出来上がってくるだろ、大事なのはいかに歌を良くするかであって、ギター・パートじゃない。ジョージ・ハリスンやキース・リチャーズを例えに使っていたね。本当にクールなリズムパートにヴォーカルが乗り、短いギター・ソロがはいる。それは、次にヴォーカルがどう歌うかを語るものなんだ。短い時間でどれだけのことを表現できるか、とてもチャレンジングなことだよ。それでも、長々とやるよりは、こういう挑戦の方が好きなんだ。長くやることも出来るし、最近では少しやるけど、それも歌から発生するものであって、長くやること自体にはあまり興味が無い。

TG:DVDを見ていて分かったのは、ハートブレイカーズの音楽に対する敬意と、さらに互いが心からの愛情を持っているということに思えるのですが。

MC:その通りだと思う。ぼくが映画を見た時も、それが印象に残ったんだ。「なんだ、俺たちってお互いのことが大好きなんじゃん!」ってね(笑)。つまり、野郎っていうのは腰を落ち着けて「よう、愛してるぜ」なんて言わないものだろ。
 でも、映画を見た時に思ったんだ。やぁ、こいつは愛ってやつだな。ぼくらは一緒に作り上げてきた音楽への強い思いがあったからこそ、たくさんの困難を一緒にくぐり抜けてこれた。それは、ただの見せかけじゃない。本物の愛情なんだ。

TG:あなたとトムの音楽的な関係は、典型的なリズムと、リードの関係を超えていますね。どのようにして、誰がどうプレイするのか決めているのですか?

MC:典型的な所でいうと、二つのやりかたがある。トムが自分で作った曲の場合、あいつが弾いて見せて、ぼくらが聴く。そしてプレイに加わり、どういう曲にしたいのかを理解して行く。ぼくはトムの歌の補助的にリズムギターから始めるのが常だ。ソロのところにくると、だいたいはすぐにはやらない。でもそう言う、良いソロを探り当てる過程を録音するのも好きなんだ。
 いつも、最初か、その次に出てきたアイディアが一番良いものになる。レコードでちょっとした編集が加えられたものを聴いてるってことは、最初のアイディアを聴いてるってことなんだ。

 もう一つのやり方は、ぼくが曲を書いた場合。ぼくが曲をもってくると、トムが歌詞を書くことになるだろうけど、もうギター・パートは出来上がっている。それからレコード作りになり、デモをどうするのかもう一度構築し直す。ぼくらのレコードのソロはほとんど、最初の印象から来ている即興演奏だ。
 たとえば、”Breakdown”。この曲をやった当初は歌のあと6分くらいあった。その6分でいくらか違う事を試行錯誤してみて、あのメロディ・リフを ― あのスライドを掴み取ったんだ。みんな気に入ってくれたので、あのリフを最初の歌の箇所に持ってきた。これは即興でやったものを、うまく組み合わせて、上手く行った例だね。

TG:あなたはトム・ペティのビッグ・ヒット曲の幾つかを共作していますね。曲づくりにはどのようなアプローチをしていますか?リフが先に来るのですか?それとも詞ですか?

MC:そうだな、書く時はいつもギターを構えていると言うわけじゃない。いつもアイディアを掴むためのアンテナを張っているんだ。ミステリアスなことだよ。作曲は才能であり、いかに掘り当てるかにかかっている。
 場合によっては、自分自身の中から湧いてくるものではなく、どこからかやってくるものだったりするんだ。たびたび、良い雰囲気でいると良いアイディアが浮かんで来たりする。

 行き詰ってしまった時は、自分が好きな曲をプレイする。ビートルズとか、ストーンズとか。心を開き、軸になるものをしっかり落ち着けるためにね。ほかには、何遍も聞き込んでいる曲を聞き返す。ラジオを聴いて考えたりもするね。わぁ、このコード凄いとか、展開が凄いとか、腰を落ち着けて学び取る。そして、そういうのに似ているんだけど、違ったもアイディアをつかみ出すんだ。
 コードに立ち返ることもあるし、違うコードに節をつけたりもする。そうしている内に、自分自身のモノになるような曲ができてくるんだ。そういう曲は何度も聞いた曲から、インスパイアされたことになる。何かのコードを聴いて、腰を落ち着けそれを練習し、すごいコードだとか思ったりしているうちに、それをベースにして全く違う曲が書けたりする。インスパイアを得たものが魂を揺り動かし、自分自身のものを得るに至る。こういうのは本当にミステリアスなもので、説明するのは難しい。

TG:年月を経て、自分のプレイが変化したと思いますか?

MC:トムが映画の中で、ぼくと初めて会った時のことを言っていたね。「今と同じくらい上手にプレイした」、って(笑)。
 ミュージシャンが最盛期に達するというのは、面白いね。誰でも良いのだけど、音楽さえやっていれば、誰の話でも良いんだ。クラプトンとか、ジミー・ペイジか、ジョージ・ハリスンとか、才能から発していったいどこまで上手くなったんだか、分からない。それはぼくにしても同じだろう。ずっとギターを弾いて来たけど、早く弾くこととか、すごいテクニックとかには興味がない。いつも、リズムと音色、歌のセンスとかが上手く行くようにしてきたんだ。その点では、いつもより良くなるようにしようと、力をこめてきた。
 それにしても、昔よりも良くなっているかな?自分ではよく分からない。弾き方によっては、変化はないと思う。昔よりは、作曲に関してはより良い選択が出来るようになったし、上達してきたと思うよ。

TG:ハートブレイカーズとしての30年以上、リズム・セクションのメンバー変更がありましたね。90年代にバンドを抜けたスタン・リンチとくらべて、スティーヴ・フェローニはどんなプレイヤーですか?

MC:スタンとスティーヴは、全然違う。スタンはいつも、「バンドメンバーの一人」以上のプレイをしていた。スタンはバンド仲間であり、昔からの友達でもあった。そして、彼独特の絆みたいなものが会ったな。ぼくらのオリジナル・サウンドを見つけ出すのに重要な要素だったし、そのサウンドの一部だった。スタンのプレイがあってこそ完璧であって、不可欠だった。それに、素晴しいバック・コーラス・シンガーで、バンドを始めた時からずっと、重要な存在だった。
 スタンはライブでもすごかった。エネルギーとパワーと自信に満ちて、そして盛り上げ役だった。ぼくらが落ち込んだ時、スタンは盛り上げてくれた。とても強く、エモーショナルな力があって、特にライブの時にそのエネルギーが力になった。
 ぼくらがスタジオ作業で互いにいがみ合うようになると、スタンにとっては居心地のわるいことになった。彼がバンドを離れ、他のやりたいことをやる時が来たということだったんだ。

 スティーヴ・フェローニが来たわけだけど、彼はそれまで長くバンドに居たことがなかった。どちらかと言えば、セッションマンなんだ。彼のアプローチはプロフェッショナルで、正確。拍子の取り方も良い。スタジオでの仕事は凄いね。とても首尾一貫していて、感情に流されるようなところが無い。
 彼はいわゆる精神的な ”Studio cat” を持ち込んだ。自分の仕事をしっかりしてくれるから、ドラムをもっとスピードアップするとか、ダウンするとか、考える必要が無いんだ。しっかりやってくれるから、歌に集中してほかに煩わされない。
 スティーヴはすごく良いヤツで、プロ精神と正確さも、もたらしてくれた。しかもライブも凄い。でも、あの二人がどういう人間かを比較するのは難しいな。二人ともそれぞれに同じくらい素晴しい才能を持っていたし、違うやり方でも同じくらい凄いのだから。

TG:そして、ロン・ブレアがオリジナルのベーシストで、る着にハウイ・エプスタイン、そして再びロンが戻ってきましたね。

MC:ロンは結成時のメンバーで、オリジナルのグルーヴや、サウンド、ノリを見つけ出すのに、おおいに貢献してくれた。それは掛けがえのないものだった。だからロンが抜けた時は悲しかった。
 ハウイが加わったのだけど、これが凄いシンガーだった。あの歌声が、彼がバンドにもたらした最大のものだった。ハウイのベース・プレイは、あの歌声もあって、ギタリストかシンガーのようなプレイだった。ロンはグルーヴとフィーリングを持った、ベース・プレイヤーらしいタイプだった。二人とも、それぞれのやりかたで、効果的だったよ。どちらがどうと、比べることは出来ないな。同じくらいの才能の持ち主だ。
 もちろん、ハウイが亡くなってしまったことは、耐え難い悲劇だった。でも、デビュー時のソウルを持ったロンが返ってきてくれたのは、とても嬉しかった。(ハートブレイカーズを抜けた後の)ロンとぼくは、ずっと交流を持っていた。スタジオで一緒にプレイしたりして、仲が良かったんだ。ハウイの穴があいた時、「じゃぁ、誰かをオーディションしなきゃ」なんて感じになって、うまく行かなかったらバンド解散なんて事になりかねなかった。

TG:ロンはほかのバンドに居たのですか?

MC:いや、ロンが一緒にプレイしていたのは、ぼくとだけだよ。ぼくのスタジオに来ては、何曲か録ったりしていたんだ。ずっと仲良くしていたし、腕もあがっていた。だから彼にはいってもらったし、それが一番良い選択なんだと提案した。トムはロンが上手くなっていて、まだソウルを持っていたと知って、喜んでいた。それで、上手く行ったと言うわけ。

TG:最近、リック・ルービンやニール・ダイアモンドと仕事をしているそうですね。そのことに関して、何か教えていただけますか?

MC:来年には出ると思う。リックとニールが最後に作ったアルバムと同じように、すべてアコースティックなんだ。リズム・セクション抜きだから、ちょっとした挑戦だよ。メンバーは、ぼくとSmorkey Hormel, Matt Sweeney この人は凄く良いアコースティックギターを弾く。そしてベンモント(・テンチ)とニール。
 飽くまでもニールの歌であり、ニールの感覚なんだ。ニールにギターを最初から最後まで弾かせて確認しながら、ぼくらがその曲を感じ取り、プレイし始める。そうして、ニールの曲をアコースティックギターで、補って行ったんだ。とても楽しく、チャレンジングだった。
 それにリックとの仕事には、いつも触発される。リックは凄いよ。音楽を愛しているし、より良くしていく仕事も好きだ。出来の良い曲も好きだし、だからぼくはいつも彼と仕事をするのが好きなんだ。

TG:最近のプレイヤーで、聴く人はありますか?

MC:最近の人となると、ちょっと考えないと。ぼくの原点に影響をあたえた、年上のプレイヤーの方がぼくにとっては魅力的になりがちだからね。J.J.ケールは好きだな。でもけっこうキャリアがあるか。マーク・ノップラーも、J.J.と十分張り合える。
 デレク・トラックスも好きだ。彼は凄いと思うよ。ぼくがギターをはじめたころよりも、最近の新しいバンドなんかは、ずいぶん違うギターへのアプローチをしているね。ド派手なのは好みじゃないんだ。素敵なメロディの歌が好きだから。そう言う人は最近ではあまり見ないね。

TG:今日のロックンロールについて、あなたの意見は?

MC:生き生きとしていると思う。死なせる事はできないだろう。自分の小さなバンドでクラブ演奏している時、それが自分がどうして演奏を始めたのかを思い出させる瞬間だ。100人くらいの部屋でそれなりに純粋な瞬間があるんだ。歌とか、ヒットがなくても、自分のサウンドを持っている小さなバンドは小さな部屋で純粋さを保っている。それが、ぼくにとっては小さな会場で起こるんだ。そういうのが、ロックンロールはまだちゃんと生きているという事なんだと思う。
 言葉で説明するのは難しい。でも、ぼくにとっては宗教みたいなものなんだ。ただ、そこに存在し、これからも存在し続ける。ほかに同じようなものは無い。ずっと魂とって、最高の薬であり続けるんだ。

TG:数多くのプラチナ・アルバムや、グラミー賞、そして2002年のロックの殿堂入り。何が自分のキャリアの中のハイライトだと思いますか?

MC:(しばしの間)そうだな、たくさん最高潮の時があったと思う。 “Jersey Boys” という舞台を見に行ったのだけど、これはザ・フォー・シーズンズの話で、最後の方でフランキー・ヴァリを演じる俳優が、実に良いことを言ったんだ。
 「自分に取っての最高の瞬間は、街灯の下で自分たちのサウンドを見付け、これが自分たちを導くんだと分かった時だ。これから何が起こるか、確かに理解していたんだ。」
 ぼくにとっては、同じ感覚を、 “American girl” をスタジオで録音した時に味わった。ぼくらのサウンドとノリをみつけ、それをモノにしたのだから。何か特別な事を発見し、他の誰にもできない、ぼくらだけに出来る、ぼくらが何者であるのか、これからどこへ向かおうとしているのかを認識した感覚を、覚えている。感じることが出来たんだよ。
 まだ何も起こっていなかったけど、ぼくには分っていた。「俺たち、ここで何かを掴んだんだ」って。あれがたぶん、最高の瞬間だったと思う。そこからそれなりの成功となったんだ。

TG:それは控えめな表現ですね。

MC:そうかな。あの登場人物が言ったのを聴いた時、その通りだと思ったよ。 ”American girl” はすごい閃きであり、どんな曲をモノにしたのかに気付いた瞬間だったんだ!



→ インタビュー集 目次へ