相談
公正証書遺言を作るときの2人の証人は、相続財産を受ける者と、その人が連れてきた公正遺言証書を保管していた税理士なんです。
この公正証書遺言は有効なのでしょうか。署名(サイン)が自筆サインではないように思われたのですが、署名は自筆でなくとも良いのでしょうか。
身近に、弁護士がいないので困っています。回答
公正証書遺言 作成の際には、2人の証人が必要ですが、相続人あるいは受遺者は証人となれません(民法 974 条)。公証人が気が付けば、その旨注意をし、遺言書の作成を止めます。
公証人が気が付かずに誤って受遺者を証人にした場合は、その公正証書遺言は無効です。
署名の点ですが、遺言者が署名できない場合には、その旨を書いて公証人が代わりに署名します(民法969条四号)。従って、遺言者が署名していない場合もあります。しかし、遺言者が署名してあるが、それが(公証人ではない)他人の署名だと、公証役場に他人が行ったことになります。それが証明されると、遺言としては無効です。相談2
父が公正証書遺言を作成しました。遺言の内容は、全遺産を内縁の妻に与えるとなっています。
内縁の妻の知人が証人となり、内縁の妻も立ち会ったそうです。
財産を受取る人(内縁の妻)が立ち会った遺言は、無効ではありませんか。回答2
遺産を受取る人(相続人、受遺者)が証人となった公正証書遺言は、無効です。では、証人はいるが、遺産を受取る人が、事実上、立ち会った場合は、どうかについては、議論があり、判例も 別れていました。
その後、最高裁の判決があり、「公正証書遺言がされた場合において、遺言の証人となることができない者が同席していたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、遺言が無効とならない」とされました。民法
第974条 [証人・立会人の欠格事由] 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人になることができない。 一 未成年者 二 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族 二 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人 判例
- 最高裁平成13年3月27日判決(出典:判例タイムズ1058-105)
遺言公正証書の作成に当たり,民法所定の証人が立ち会っている以上,たまたま当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず,同遺言が無効となるものではないと解するのが相当である。
ところで,本件において,受遺者であるEの長女のFらが同席していたことによって,本件遺言の内容が左右されたり,Dが自己の真意に基 づき遺言をすることが妨げられたりした事情を認めることができないとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足 りる。
したがって,本件公正証書による遺言は有効であるというべきであり,これと同旨の原審の判断は正当であって,原判決に所論の違法はない。- 最高裁昭和47年5月25日判決(出典:判例時報670-39)
民法974条3号にいう「配偶者」には推定相続人の配偶者も含まれるものと解するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係によれば、本件遺言公正証書の作成に立会した2人の証人のうちの1人である訴外大西米造は、遺言者仲川安太郎の長女である訴外大西アサヘの夫であるというのであるから、右公正証書は、同条所定の証人欠格事由のある者を証人として立会させて作成されたものといわなければならない。
したがつて、右遺言公正証書は遺言としての効力を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。- 最高裁判所昭和55年12月4日判決(出典:金融法務事情952号31頁)
民法969条1号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないことを定めるが、盲人は、同法974条に掲げられている証人とし ての欠格者にはあたらない。
のみならず、盲人は、視力に障害があるとしても、通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない者であるとしなけれ ばならない根拠を見出し難いことも以下に述べるとおりであるから、公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるということもできないと解す るのが相当である。すなわち、公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして遺言者に人違いがないこと及び遺言者 が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をさせるほか、公証人が民法969条3号に掲げられている方式を履 践するため筆記した遺言者の口述を読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なことの確認をさせたうえこれを承認させることによつて遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後 日の紛争を未然に防止しようとすることにある。
ところで、一般に、視力に障害があるにすぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで 自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力まで欠いているということのできないことは明らかである。
また、公証人による筆記 の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてすれば足りるものであつて、これに加 えて更に、公証人の筆記したところを目で見て、これと前記耳で聞いたところとを対比することによつてすることは、その必要がないと解するのを相当とするから、聴力 には障害のない盲人が公証人による筆記の正確なことの承認をすることができない者にあたるとすることのできないこともまた明らかである。
なお、証人において遺言者 の口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ、公証人による筆記の正確なことを独自に承認することが不可能で あるような場合は考えられないことではないとしても、このような稀有の場合を想定して一般的に盲人を公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者 であるとする必要はなく、このような場合には、証人において視力に障害があり公証人による筆記の正確なことを現に確認してこれを承認したものではないことを理由に、 公正証書による遺言につき履践すべき方式を履践したものとすることができないとすれば足りるものである。
このように、盲人は、視力に障害があるとはいえ、公正証書 に立ち会う証人としての法律上はもとより事実上の欠格者であるということはできないのである。