商取引の事件処理(6)不動産詐欺を仮差押で阻止

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2015.5.15mf更新
弁護士河原崎弘

不動産の売却

工務店を営んでいた内山さんは、高利の金を借り、その合計が2000万円を超え、さらに、利息が増えていました。仕方なく、内山さんは自宅を売ることに決めました。
しかし、不況なので、なかなか、売れませんでした。ある日、近所の金貸の川辺が買主の吉本を連れてきました。吉本はビルを持ち、建築業を手広く営んでいるとのことでした。吉本は、「頭金2000万円支払い、残金3000万円は1ヵ月後に支払う。ただし、頭金の支払いと同時に家の所有権移転登記をすることでは、どうか」と言ってきました。内山さんは、頭金で借金を返せると考え、この話に乗りました。安易でした。 内山さんは、頭金2000万円を受取り、家の所有権を吉本の会社名義にしました。
ところが、1ヶ月経過しても、吉本は残金を払ってくれません。最近では人相の悪い連中が、「立ち退け」と言ってきます。内山さんは、おちおち、家に居られずノイローゼ気味になりました。そこで、内山さんは、警察にも行きましたが、警察は刑事事件として扱ってくれません。
最後に、内山さんは法律事務所を訪ね、弁護士に事件処理を依頼しました。

詐欺グループ

弁護士は、紹介者を通して、吉本の近所の銀行に行き、「吉本はどのような人間であるか」を尋ねてみました。銀行から、とんでもない答えが返ってきました。
「吉本はある系統の高利貸と組んで、不動産を手付金(参照:手付と履行の着手)だけで買い、自分の名義にし、転売し、残金を払わず逃げるという詐欺を重ねており、警察もマークしている詐欺グループ」との回答でした。
結局、彼らは、同じ手口で内山さんの家を転売しようとしているのです。これは詐欺です。しかし、吉本は頭金2000万円を払っていますので、警察も、刑事の詐欺事件として扱うのは難しい点があるのです。

仮差押

そこで、弁護士は、残金3000万円を請求債権として、吉本の会社名義になっている不動産(内山さんの自宅)を仮差押しました。 仮差押では、保証金として、目的不動産の1割あるいは請求債権の約2割くらいの金額を供託する必要があります。時間的には1週間程度で手続きは完了します。この場合は、不動産(土地、建物)に仮差押の登記がされます。
仮差押をすると、吉本は、家の転売ができなくなりました。吉本は弁護士に脅しをかけてきましたが、弁護士は屈しませんでした。仮差押により被害の発生は未然に防止されました。

その後

この不動産を買ったと称する人が、内山さんの弁護士のところに来ました。この人は不動産業者でした。この人は「頭金1000万円を支払ったが、残金を提供しても、吉本が不動産の名義を変えてくれない」と言うのです。
内山さんは、代金を全額受取っていないのに、騙されて、不動産の登記名義を、吉本の会社に移転した。この人は、不動産の名義の移転を受けないのに、騙されて代金の一部を支払ってしまった。両者とも被害者です。両方とも、詐欺犯が不動産取引で利用する手です。
何回かの交渉の結果、不動産業者は3000万円を内山さんに支払うことに同意し、内山さんの弁護士は、仮差押を取下げました。不動産業者は、多額の損をしました。

詐欺の証明

商取引に詐欺が入ることがよくあります。 商取引の慣行上、若干の誇張は許されますが、相手が知った場合、相手が取引しないような重要な事実につき嘘を言って取引すれば、詐欺になるのです。詐欺は故意犯ですので、故意の証明が必要です。故意は内心の意思ですから、被害者が直接証明することはできず、客観的状況(状況証拠)を証明して故意を推測するしかありません。
この例では、吉本は代金の一部の2000万円を支払っていますので、詐欺の故意、すなわち、「取引当時、残金を支払う意思がなかった」との証明が難しいわけです。相手が、「このときは金を払うつもりで取引したが、あとから払えなくなった」と言い訳をすれば、これが通ってしまうのです。その後に発生した事情のため、金を払えなくなったのは、単なる債務不履行であり、債務不履行は犯罪ではありません。
商取引で、よくみかける詐欺に、初めは20万円か50万円位の取引をして、きちんと代金を払い、その後、取引額を500万円とか1000万円に増やして、倒産したりして、残金を支払わない例です。取り込み詐欺 が典型です。このような事件は、真実は、ほとんど詐欺ですが、故意の立証が難しいです。警察もなかなか刑事事件として扱ってくれません。
もし、警察が刑事事件として扱ってくれそうであれば、被害者は、相手(加害者)に、「代金を支払え、支払わなければ、詐欺で告訴(告訴状)する」と警告できます。それでも、支払わなければ、告訴し、逮捕してもらうとよいです。相手に金があれば金を払ってくれることが多いです。警察は一般的に民事事件がからむ刑事事件を嫌う傾向にあります。しかし、警察に何回も行って、時間をかけ、事件として扱ってもらうようにすることが大切です。
刑事
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