名板貸を主張し債権回収/不動産業者の名義貸し

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2015.12.17mf更新


不動産取引の頭金
船越さんはビル清掃会社の社長をしています。もう20年間も虎ノ門の借家で会社を経営していましたが、貸主から明渡の裁判にかけられました。そこで船越さんは、弁護士に依頼し、明渡料として5500万円を手に入れることができました。 
船越さんはこのお金で一軒家を購入する気持ちでいましたが、適当な家が見つからないので、家が見つかるまで一時的に借家をし、そこを事務所とすることにしました。この借家を紹介してくれたのが、国本産業という不動産業者でした。
ここの社長(船越さんはそう信じていました)の土田は、色々な物件を紹介してくれました。土田は表面上親切を装い、建物賃貸借契約の保証人にまでなってくれました。後でよく考えてみると、土田は、船越さんが大金を持っていることを知り、これを狙っていたのです。
3ヶ月ほどたったある日、土田は船越さんに「住友の競売物件がある。坪70万円で30坪あるので2100万円だ。頭金が400万円ほど足りない。うちで買って、そのままの値段で船越さんに売る」と持ちかけてきたのです。
船越さんは弁護士から「それは危ない」と言われたのに、「いい物件」と思って土田に400万円を渡してしまったのです。土田から「1週間後に登記ができる」と言われたのですが、1週間後、土田は行方不明となっていました。船越さんは400万円をだまし取られたのです。残った従業員に尋ねると、土田は社長ではないとのことでした。
そこで船越さんは国本産業の社長に会いに行き、400万円返してくれと頼みました。社長は、「土田はうちの従業員ではないから、うちには責任はない」と言い張ったのです。しかし、その後何度か話をするうちに、社長は自分の責任を認め「国本産業は金がないから分割払いではどうか」など色々な条件を出して、引き延ばしを計りました。そして1か月も過ぎた頃「金は払えない」と言ってきました。
船越さんはやむなく弁護士に依頼しました。弁護士が都庁の住宅局で調べたところ、国本産業はその間に都庁に廃業届を出していたのです。

裁判
弁護士は国本産業を相手に訴を提起しました。裁判所で国本産業は、「土田は自分のところの従業員ではない」と主張しました。裁判の中で色々なことがわかってきました。国本産業は、土田に事務所と名義を貸していたのです。不動産は免許が必要ですので、土田は国本産業の名前を借りて不動産仲介業を営んでいたのです。そのため土田は国本産業に月々30万円を払っていました。
船越さんの弁護士は、これは「名板貸」である(商法 14 条)として名前を貸した国本不動産の責任を追及したところ、船越さん勝訴の判決がありました。
船越さんの弁護士は、国本産業が 法務局 に供託した250万円と、国本産業の預金から200万円余りを差押えしました。これで、詐欺で取られた400万円に年5分の損害金をつけて回収することができました。

名板貸
自分の名前を貸して商売させることを「名板貸」といいます。「名板貸」の場合には、名前を借りた人と取引をした相手方は、名前を貸した人を取引の相手方であるとみなして、名前を貸した人の責任を追及できるのです。
さらに、この例のように、免許のある人が、免許のない人に名前を貸すことは脱法行為の場合が多く、刑罰を科せされます。本例では国本産業は、その証拠を湮減するために、店舗の名義を変えれば、違法な「名板貸」の証拠の残らず、また産業届を出せば、都庁からの営業停止などの行政処分を受けなくてもすむと考えたのです。これは悪質な業者が行う手です。

不動産取引業
不動産取引業(宅地・建物取引業)は免許制となっていますが、ときどき悪質な業者が見受けられます。業者は開業の際、法務局へ250万円供託しています。これがお客にとって担保となるのです。いうまでもなく、この程度の金額では十分ではありません。業者は仲介の際お客さんに対して「物件説明書」を交付しなければなりませんが、物件説明書には「建物建築確認取得は不可」と書きながら、口頭では「建築確認はとれますよ」などと説明し、後で建築確認許可がとれないことが判明すると、物件説明書の記載を盾にとり、これを逃げ道に使う業者もいます。
よく言われることに業者の免許番号の前にあるかっこ内の数字が大きいほど、その業者は信用できるとの話があります。これは最初の免許のときはかっこ内は(1)となりますが、5年(平成7年4月19日公布の改正法前は3年)後更新すると(2)になり、さらに5年後更新すると(3)になるので、この数字が大きいほど営業年数が長いと言えるからです。これは一応の目安となります。
しかし、これだけでは安全ではなく、知人に尋ね、さらには都庁の住宅局で尋ねて信用ある業者を選ぶ必要があります。また、取引の際には法律などに明るい人に立ち会ってもらい、つい欲を出して冷静な判断力を失いがちになることを防止してもらうべきです。

法律
商法第14条〔自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任 〕 
自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う

虎ノ門3丁目 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03−3431−7161