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2015.5.27mf更新

子供の父親の面接交渉を拒否したら、父親は訴えを提起してきた

弁護士河原崎弘
相談
8年前に結婚しました。3年前に元夫(父親)は、女ができ、家を出ました。2年前に離婚し、子供(3歳)の親権者は私にきまりました。元夫は、子供に会わせろと電話をしてきましたが、私は、これを無視しました。昨年、前夫は、弁護士をたて、面接を求める調停を申立てました。その頃、私は、仕事をしていて、裁判所に行くことができませんでした。夫は、調停を取り下げ、300万円の慰謝料を求める訴えを提起してきました。 私は、離婚時に、金銭的には、何ももらっていません。ただ、夫が家を出るときに持っていた、預金350万円を、そのまま、持っています。
私は、養育費はいらないし、もう元夫とは縁を切りたいです。
夫は、結婚しているときは、ほとんど、子供と接していません。一度だけ、元夫が子供と会ったとき、子供は元夫に抱かれることを、とても、嫌がりました。私は、子供を元夫に会わせたくありません。
私は慰謝料を支払わねばなりませんか。
相談者は、法律事務所を訪問し、弁護士の意見を聴きました。

弁護士の回答
父親との面接交渉(面会交流)が、子供に悪い影響を与える場合は、面接交渉を拒否できます。 父親の暴力がひどい場合 など、父親が酒乱、覚醒剤などの薬物依存症の場合などは、拒否できます。それ以外の場合は、 非常に微妙な問題です。
子供が幼くて、母親と離れると情緒不安定になる場合には、面接交渉を認めない審判例もあります。 また、過去に、父親に不適切な行動があり、父母の対立が激しい場合なども面接を認めない審判例があります。
そこで、あなたの場合は、裁判では争い、裁判官を間に入れ、面接交渉が子供に悪い影響を与えるか否か、話し合うとよいでしょう。確かに、 面接交渉を拒否した場合に慰謝料を認めた判例 はあります。しかし、調停に2回、欠席したくらいで、裁判所は、簡単には、慰謝料を認めないでしょう。
本来なら、あなたから、元夫に対する、面接交渉の禁止を求める調停を家庭裁判所に申立て、そこで、話し合いをする方がよいでしょう。家庭裁判所は、面接交渉については専門的知識があります。さらに、家庭裁判所には、調査官が居て、自宅まで来て子供の様子を調査してくれます。地裁には、このようなシステムがありません。
下に面接を認めない審判例を載せておきます。

審判例
  1. 岐阜家庭裁判所大垣支部平成8年3月18日審判
    (1)家庭裁判所調査官の事件調査報告等一件記録によれば,次の事実が認められる。
    @ 申立人と相手方は,平成4年3月28日婚姻届けをした夫婦であり,両者の間には事件本人である長女由紀(平成4年10月21日生)が誕生した。
    A 申立人には,相手方と婚姻する以前から交際していた女性があったが,婚姻前,相手方が事件本人を妊娠し申立人が堕胎を求めたものの,相手方がこれに応じなかったことから,子供の誕生を楽しみにして相手 方と婚姻した。
    しかし,申立人は,婚姻後も他の女性と交際を続け,相手方に対し離婚を求め,平成6年1月には家を出てしまい,同年4月には一旦戻ったが,同年10月には再び家を出,以後別居状態となった。 そして,平成7年3月13町申立人と相手方は,事件本人の親権者を相手方として,協議離婚することになったが,その際,相手方と同居する事件本人に対し,1か月に1回,土曜日の夕方から日曜日の夕方まで は申立人が面接できることが約束された。
    B 離婚後の平成7年3月,4月には約束どおり面接交渉がなされたが,事件本人が申立人と面接して帰宅すると,事件本人がわがままになったり,泣きやすくなるという様子が見られ,また,申立人の実家に連れ ていかれたときには,直に玄関に走って「早く帰りたい。ママに電話して」と,申立人を困らせることもあった。
    このため,相手方は,このまま面接交渉を続けては事件本人に悪影響を与えることになると判断し同 年5月には面接を拒絶したところ,申立人は夜中に相手方のアパートを訪ねて来て激しく相手方を呼び,ドアを叩くなどし,その翌日には駐車場で相手方を待ち伏せ路上で相手方を大声で詰ったりした。
    C 申立人は,離婚に当たって300万円の慰謝料を払い,かつ,毎月5万円の養育費を支払っている。
    (2)子との面接交渉を認めるか否かは,そうすることが専ら子の福祉に叶うか否かによって決定されるべきものであるから,その判断に当たっては子の意思,子の生活関係に及ぼす影響,親権者の意思,親権者の 監護養育への影響等の観点から考えなければならないことである。 ところで,上記認定の事実からすると,事件本人は未だ3歳と幼年であり,これまでも母親である相手方から一時も離れることなく成育されてきたものであって,相手方の手から離れ,異なった環境の中で,申立 人と時間を過ごすということは事件本人に少なからぬ不安感を与えるものであると思える。現に,事件本人が申立人と面接した後には情緒不安定な兆候がみられることを考えると,現段階での,申立人との面接交渉 を認めることには躊躇せざるを得ない。今は,相手方がこまめに事件本人をビデオや写真に撮り,これを申立人に送付する等して,申立人に事件本人の近況を知らせる程度に留めるのが相当である。
    よって,申立人と事件本人との面接交渉を認めることは相当でないから,主文のとおり審判する。
  2. 東京家裁平成13年6月5日審判
    3 夫婦別居後の経緯について
     関係記録によれば,次のとおり認められる。
    (1)相手方(母)は,平成12年9月から各地の福祉施設(母子支援施設など)を転々としているが,未成年者らとともに,一応安定した健康な生活をしている。  申立人(父)は,遅くても平成12年12月以降において,世田谷区役所福祉課に相手方の居所を照会したり,相手方らの寄宿先の福祉施設に赴いて面会を求めたりし,さらに平成13年2月26日には,内密に長野県長野市内の福祉施設に移転していた相手方らを探し当て,長男及び長女の小学校(長野市立○○小学校)前で相手方を待ち構えていて,2男を相手方から取り上げてしまい,駆けつけた警察官に説諭されるまで2男を抱き抱えて離さなかった。また,平成13年3月9日には,再び長野県長野市内の福祉施設に赴き,離婚に応じるので離婚届を持参したなどと言って相手方との面談を求めたこともある。
    (2)東京地方裁判所は,本件当事者間の平成12年ヨ第××××号接近禁止等仮処分命令申立事件について,平成13年1月11日付け仮処分決定をもって,申立人に対し,「債務者は,債権者の勤務先や債権者及びその子らである山根浩一,山根百合香,山根健吾の居所を探知したり,立ち入ったり,その付近を徘徊したり,佇んだり,その後を追跡したり,債権者に架電したり,面会を求めたりしてはならない。」旨を命じ,この決定は,保全異議申立事件(平成13年モ第×××××号)の平成13年3月8日付け決定をもって,認可された。申立人には,この仮処分命令の主文のとおり遵守すべき法律上の義務がある。
    (3)当事者双方は,相互に他を非難するに急で融和を図る姿勢は見えない。当事者間の不和・対立は今なお厳しい状態が続いている。その背景には,過去の生活歴,それぞれの性格特徴や行動傾向などに照らし,かなり根深いものがあって,簡単には融和できない状況が続いている。
     申立人は,現状を直視して受容することができないためか,未成年者らとの面接交渉などの問題に執着し,相手方らの所在を探索したりしてきたものである。安定した就労生活をしないのも事件未解決のままでは仕事ができないためと弁解し,依然として不安定なアルバイト生活を続けている。
    4 子の福祉について
    (1)申立人は,親子間で愛情を交換したり成長を見たりするためとして,未成年者らとの面接交渉を求める。その要求のとおり面接交渉を認めるか否かは,面接交渉が未成年者らの生活関係や意思と,親権者の監護養育に及ぼす影響など,諸般の事情を総合考慮し,あくまで未成年者らの福祉に合致するか否かによって決定されるべきものである。
    (2)相手方は,平成13年3月28日,未成年子らの親権者をいずれも母である相手方と定めて,申立人と協議離婚した。親権者である相手方は,未成年者らを監護養育しながら,申立人の追跡を逃れて各地の福祉施設(母子支援施設など)を転々としており,父親である申立人との面接交渉に強く反対している。
    (3)未成年者らは,長男が満9歳,長女が満6歳,2男が満4歳で,身体・内心ともに幼い面が大きく,未成熟な成長段階にある。家庭裁判所調査官が未成年者らと面接して調査した結果によれば,未成年者らは,いずれも健康で,平穏かつ安定した生活状況下にあり,母親である相手方とは親和的である。調査官の面接に対する未成年者らの答えは,現在の生活状況に満足しているというもので,その生活の平和と安定が乱されることを畏れており,はっきりと申立人への嫌悪感情を示す者もいた。未成年者らの現在の福祉のため最も重要なことは,未成年者らの健康と,平穏かつ安定した生活状況を保つことである。
    (4)離婚前の当事者らは,未成年者の面前においても,夫婦間の不和を示しがちであった。今回の夫婦別居に直面した未成年者らは,父母の間の不和が厳しいことを感じ取っていたはずである。その上に,申立人が長野市内の小学校前において相手方や未成年者らを待ち構えており,2男を抱き抱えて父母間の争奪の対象にしてしまったという経緯も存在し,こういった父母の緊張関係は未成年者らに強いストレスを及ぼしたと窺われる。
    (5)申立人が未成年者らとの面接交渉を求める必要性は,主として申立人の内面の満足のためであるとしか言いようがない。申立人の従前の行動は賢明と言えないところがあり,親子間の愛情交換の期待とは正反対に、相手方らの反発を招く結果を招いた。現時点において,申立人との面接交渉は,未成年者らに弊害を招きかねないことで,その福祉に合致しないことである。
    第3 結論
     本件の対立顕著な状況下において,父親である申立人との面接交渉を認めることは、かえって未成年者らの福祉を害するものと言わざるを得ない。
     よって,本件申立てには理由がないから,これを棄却する。
  3. 東京高等裁判所平成19年8月22日 決定
    父(相手方)から母(抗告人)に対して,面接交渉を求めた事案の抗告審において,母には,父が未成年者らを連れ去るのではないかという強い不信感があり,面接交渉に関する行動につき信頼が回復されているとはいいがたく,未成年者らも将来はともかく,現在は,相手方との面接を希望しない意思を明確に述べているような状況においては,未成年者らと相手方との面接交渉を実施しようとするときには,未成年者らに相手方に対する不信感に伴う強いストレスを生じさせることになるばかりか,父母との間の複雑な忠誠葛藤の場面にさらすことになる結果,未成年者らの心情の安定を大きく害するなど,その福祉を害するおそれが高く,未成年者らと相手方の面接交渉を認めることは相当でないとして,面接交渉を認めた原審判を取り消し,面接交渉の申立てを却下した。       

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