土地(使用貸借)明渡裁判

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2015.6.5mf更新
弁護士河原崎弘
相談:不動産
私の郷里の鹿児島には祖父の代からの200坪ほどの土地と建物があります。父はここで育ったのですが、大学卒業後、東京の会社に勤務したため、祖父、祖母が亡くなった後は、 鹿児島に帰らず、東京に住んでいました。土地使用貸借明渡裁判の絵
昭和28年頃、この建物に父の従兄弟が住むようになりました。従兄弟は引揚者で家がなかったので、父が無料で住まわせてあげたようです。いとこは固定資産税を負担していたようです。増築もしているようです。その後いとこは死亡し、現在は、いとこの子供が家族と共に住んでいます。
父は昨年亡くなりましたが、生前この土地のことが気になっていたようで、弁護士にも相談し、土地のことについて詳細に書いたメモを残しました。私と母は鹿児島に帰る気はありません。この土地を売って金銭に変えたいと思っています。
現在の居住者に明渡を求めることができるでしょうか。人に相談すると、「居住者には居住権がある」とか、「もう、時効だ」とか、「固定資産税を負担していたから居住者には賃借権があるので明渡は難しい」と言います。
「調停の申立てをしたら良い」と言う人もいて迷ってしまいます。
相談者は、法律事務所を尋ね、弁護士に相談しました。

回答
(使用貸借)
当初、無償で家を貸したのですから、この契約は借地法(現在は、借地借家法)によって借主が強く保護される賃貸借ではなく、使用貸借です。
ところが、途中から借主は土地の固定資産税を負担しているので、契約が賃貸借契約に変化したのではとの疑問があります。賃貸借契約ですと借主は極度に保護されます。明渡は極端に難しくなります。
判例を見ますと、借主が不動産の固定資産税などを負担していた例を、 裁判所は、使用貸借であると判決 しています。従って、本件も契約が使用貸借であることを前提に考えれば良いでしょう。
使用貸借契約は、当初決められた返還時期に終了します。返還時期の取り決めがなければ契約に定めた目的に従って使用を終わった時期で契約は終了します。
どちらの約束もなければ、貸主はいつでも目的物(本件では不動産)の返還を請求できます。さらに、使用貸借契約は借主の死亡でも終了します。
本件では、家がないから住まわせてあげたとの事情ですから、返還時期の約束はなく、使用貸借契約の目的は「家が見つかるまで一時的に住まわせる」ことと考えられます。従って、契約によって決まった目的による使用は終わった、従って、貸主は不動産の返還(明渡)を請求できます。
更に、使用貸借契約は借主の死亡によっても終了しますから、従兄弟の死亡により契約は終了します。この点でも、相談者は不動産の返還を請求できます。居住権とかの問題は考える必要はありません。

(時効)
時効について説明します。時効には、消滅時効と取得時効があります。
債権等は消滅時効の制度がありますが、所有権には消滅時効の制度はありません。従って、相談者の土地、建物の所有権が時効で消滅することはありません。
取得時効の点ですが、所有権を時効取得するには、所有の意思が必要です。所有の意思の有無は占有の形態によって客観的に決められるのであって、借主には認めれません。借りている人はいくら長期間占有していても所有権を時効で取得することはありません。

(訴訟がよい)
本件は訴を提起すると良いでしょう。相手は遠い親戚ですから、調停の方がなごやかで良いと言う人がいます。それも一つの方法です。しかし、調停は強制力がないので、成立しなければ、無駄な時間を経過した後に訴を提起する結果となるのです。
訴を提起したら、負ける可能性が大であるとか、事情が良く分からず、相手が何と言うか知りたい、相手の様子を探りたいのなら、まず、調停が適しています。
相談者は裁判で勝つ可能性が大ですから、時間と手間を省くために初めから訴を提起すべきでしょう。訴訟でも裁判官を間に入れて話し合いができます。

交渉
相談者は、その後、弁護士に依頼しました。訴を提起する前に、弁護士は鹿児島まで出張し、土地建物の現状を調べ、相手に会い、相手の言い分、明渡の意思について尋ねました。任意に明渡してもらえれば、時間と手間が省けるからです。
長い間に土地は2つに分割され、1つには従兄弟が住み、1つには従兄弟から借りた第三者が住んでいました。第三者は従兄弟に地代を支払っていました。この場合は難しい問題があります。裁判所は 賃借権の時効取得 を認めていますので、第三者は賃借権を時効取得した可能性が大です。
(相談者)・・・使用貸借・・・(従兄弟)・・・賃貸借・・・(第三者)

相手2人ともに明渡の意思はありませんでした。そこで、弁護士は土地を買い取る意思はないかと尋ねましたところ、相手は買取る意思もありませんでした。ここで、相手が、「不動産を買取る」と、言えば、相談者は時価の半額ででも売ったでしょう。

裁判
弁護士は、やむなく、鹿児島地方裁判所へ訴を提起しました。弁護士は、できたら東京の裁判所に訴を提起したかったのですが、不動産の明渡訴訟の管轄は被告の住所地、あるいは、不動産の所在地を管轄する裁判所と決まっているのです。
相手方は年配の弁護士を立てました。従兄弟は建物を増築したためでしょうか、「建物は譲り受けた。所有権は自分にある」と主張しました。
しかし、登記所を調べると古い建物の登記簿謄本が見つかり、建物は相談者の父名義に登記されていました。増築によって建物の所有者が変わることはありません。従兄弟の弁護士の主張は法的にもおかしなものでした。
本人尋問の際、相手は嫌な質問(不利な質問)に対しては方言で答え、東京の弁護士を当惑させようとしました。
第三者の賃借人は和解を提案してきました。第三者の賃借人は賃借権の時効取得をまだ主張していませんでしたが、相談者の弁護士は、その主張をおそれていました。そこで、相談者の弁護士は和解に応じました。第三者の賃借人は時価の約半額で土地を買うことになり、裁判所で和解が成立しました。
従兄弟の弁護士は、裁判では、終始おかしな主張をしたため、1年ほどで簡単に相談者勝訴(明渡し)の判決がありました。難しい議論には入りませんでした。

和解
判決後、従兄弟は、福岡高等裁判所宮崎支部へ控訴しました。高等裁判所の裁判官は、今度は、強力に和解を勧めました。半年ほどで、依頼者が時価の約8割の値段で相手方に土地建物を売るとの和解が成立しました。依頼者の初期の目的は達せられました。

判例


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