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2015.6.6mf
弁護士河原崎弘
不動産を相続した場合、所有の意思があり、時効取得するか
相談:不動産
父は名古屋の家に住んでいます。その家(土地、建物)は、元々、祖父のものでした。祖父が亡くなり、その後、父が住んでいました。
祖父には子供が2人居ました(父には弟がいました)。
祖父が亡くなってから23年になります。最近、父は、東京の弁護士に依頼し、東京地方裁判所に、取得時効を理由として所有権移転登記を求める訴えを提起しました。被告の住所は、名古屋が3人、広島が2人、東京が1人でした。
第1回の弁論は決まっていたのですが、直前に取消しになり、事件は名古屋地方裁判所に移送になりました。
土地建物の時価は約1千万円です。弁護士には、着手金40万円、印紙切手代など実費約9万円を支払っています。
父は、昔、遺産分割調停の申立てをしたそうですが、弁護士には、そのことを話していなかったそうです。そのため、弁護士は、「調停の話は聞いていなかった。おりる」と言っているそうです。弁護士の説明では、「そのような場合、父には所有の意思がなく、裁判がなりたたない」そうです。
広島にいる被告の3人は、答弁書中で、「原告には所有の意思がなかった」と主張しています。
土地建物の登記名義は、祖父になっています。祖父の死後、父が固定資産税などを支払っています。
これから、どのようにしたら、よろしいですか。
解説
-
取得時効
この件は、色々な問題を含んでいます。まず、所有の意思が問題です。時効取得するには所有の意思が必要です。相続も所有の意思の発生原因です。下記最高裁の判決も認めています。これは外観上、客観的に判断します。内心に所有する意思があっても、他人の土地を借りている人には所有の意思があるとは判断されません。
20 年経過してもそうです。固定資産税を支払っても、そうです。別の言い方をすれば、本件では、父親は自分が全部を相続したとは思っていないのです。相続したのは1/2と思っているのです。
父親には、土地全部につき所有の意思はありません。その意味では、この弁護士は、初めから誤った判断をしていたのです。
しかし、父親は、不動産を占有しており、持分1/2は持っていますので、裁判所で話し合いをし、いくらか支払って残りの持分を取得すればいいのです。その意味でこの裁判に意味がないわけでもありません。
- 移送
当事者が多数いるときには、管轄が問題となります。この件では、被告の住所地である広島、名古屋、東京の裁判所が管轄を持ち、さらに、不動産所在地の名古屋の裁判所も管轄を持ちます。このような場合、当事者の申立があると、事件は、不動産所在地である名古屋の裁判所に移送されることが多いです。
移送されたことは弁護士の責任ではありませんが、弁護士としては、「移送され可能性がある」と、事前に説明しておいた方が、依頼人の信頼は得られます。
- 遠隔地の法律事務所に依頼する
遠隔地の裁判所の場合には、依頼者は、弁護士との間で、日当の取り決めをする必要があります。本件では、日当の取り決めがありませんでした。そこで、弁護士は、遠隔地へ無料で出頭するのが困難なので、「おりる」と言ったのでしょう。
現在は、法律の規定で、弁論だけは電話で済ませる方法があります(民事訴訟法170条3項)。その場合、弁護士は、証人尋問の日だけは実際に裁判所に行きます。この方法を使えば、遠隔地にある法律事務所に裁判を依頼してもそれほど費用はかかりません。
依頼人としても引き続き、同じ弁護士に依頼し、その場合は、裁判所へ行った場合の日当と交通費の取り決めをすればよいのです。
判例- 最高裁判所平成8年11月12日判決(出典:判例タイムズ1015号13頁)
これに対し、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくもの
であるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観
的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。
けだし、右の場合には、相続
人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事
実によって決することはできないからである。
2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、上告人Aは、Dの死亡後、本件土地建物について、Dが生前にCから贈与
を受け、これを上告人らが相続したものと信じて、幼児であった上告人Bを養育する傍ら、その登記済証を所持し、固定資産税を継続
して納付しつつ、管理使用を専行し、そのうち東門司の土地及び花月園の建物について、賃借人から賃料を取り立ててこれを専ら上告
人らの生活費に費消してきたものであり、加えて、本件土地建物については、従来からCの所有不動産のうち門司市に所在する一団の
ものとして占有管理されていたことに照らすと、上告人らは、Dの死亡により、本件土地建物の占有を相続により承継しただけでなく、
新たに本件土地建物全部を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものということができる。
そして、他方、上告人ら
が前記のような態様で本件土地建物の事実的支配をしていることについては、C及びその法定相続人である妻子らの認識するところで
あったところ、同人らが上告人らに対して異議を述べたことがうかがわれないばかりか、上告人Aが昭和47年に本件土地建物につき
上告人ら名義への所有権移転登記手続を求めた際に、被上告人Eはこれを承諾し、被上告人G及び被上告人Iもこれに異議を述べてい
ない、というのである。右の各事情に照らせば、上告人らの本件土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の
意思に基づくものと解するのが相当である。原判決の挙げる(1) Cの遺産についての相続税の修正申告書の記載内容について上告
人Aが格別の対応をしなかったこと、(2) 上告人らが昭和47年になって初めて本件土地建物につき自己名義への所有権移転登記
手続を求めたことは、上告人らとC及びその妻子らとの間の人的関係等からすれば所有者として異常な態度であるとはいえず、前記の
各事情が存在することに照らせば、上告人らの占有を所有の意思に基づくものと認める上で妨げとなるものとはいえない。
右のとおり、上告人らの本件土地建物の占有は所有の意思に基づくものと解するのが相当であるから、相続人である上告人らは
独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができるというべきである。
- 最高裁判所昭和46年11月30日判決(出典:判例タイムズ271号179頁)
原審の確定した事実によれば、訴外Aは、かねて兄である被上告人から、その所有の本件土地建物の管理を委託された
ため、本件建物の南半分に居住し、本件土地および本件建物の北半分の賃料を受領していたところ、同訴外人は昭和24年6月15日死亡し、上告人らが相続人となり、その後も、同訴外人の妻上告人Bにおいて本件建物の南半分に居住するとともに、本件土
地および本件建物の北半分の賃料を受領してこれを取得しており、被上告人もこの事実を了知していたというのである。しかも、
上告人Cおよび同Dが、右訴外人死亡当時それぞれ6才および4才の幼女にすぎず、上告人Bはその母であり親権者であつて、上
告人Cおよび同Dも上告人Bとともに本件建物の南半分に居住していたことは当事者間に争いがない。
以上の事実関係のもとにおいては、上告人らは、右訴外人の死亡により、本件土地建物に対する同人の占有を相続により承継し
たばかりでなく、新たに本件土地建物を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものというべく、したがつて、か
りに上告人らに所有の意思があるとみられる場合においては、上告人らは、右訴外人の死亡後民法185条にいう「新権原ニ因リ」
本件土地建物の自主占有をするに至つたものと解するのを相当とする。
登録 2008.11.1
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