建物所有権の移転と借地権(敷地権)の移転
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弁護士河原崎弘
相談
昨年、父が亡くなり、遺言書がありました。
遺言書には、次のように書かれていました。
○○番地所在の宅地○○uの借地権 は、全て、妻○○に相続させる。
その上に建つ建物(自宅)は、長男○○に相続させる。
私は、次男ですが、この場合、長男の相続する建物は、借地権のないものになるのでしょうか。
弁護士に相談すると、借地権は、建物の敷地であり、建物に附属するから、長男が借地権を相続するといいます。そうすると、母の権利はどうなるのか、弁護士の説明が理解できません。
回答
建物と敷地賃借権は、、主物、従物の関係にあります(民法87条)。
従物は、主物の処分に従うとなっています(同法87条2項)。これは、従物は、主物と運命をともにするとの意味です。ただし、当事者間に別段の意思表示があると、この限りではありません。
建物と敷地賃借権も、主物、従物(従たる権利)の関係にありますので、 建物所有権の移転(譲渡)に伴って、従たる権利である敷地権(敷地賃借権)も、移転します。ただし、従物といえども、独立した物ですから、これだけを独立して処分することも可能です。
父の遺言の解釈は、次の2つが考えられます。
1つは、敷地権(借地権)は、建物移転に伴って移転する。この考えですと、借地権は、兄が相続します。兄が建物の登記をすると、母の借地権は消滅します。
もう1つの考えは、借地権は母に移転する(民法87条2項但し書き)。兄には、建物移転に伴い、敷地利用権が移転する。この場合の敷地利用権は、転借権あるいは借地の使用貸借権です。建物には、借地権が付いていたのですから、やはり、転借権を与えると解釈するのが妥当でしょう。
母の権利と長男の権利が調和する 後者の考えを支持します。しかし、兄が建物登記するとか、兄が建物を譲渡して第三者が出現すると、対抗関係になり、建物登記のある兄あるいは兄の承継人が勝つでしょう。
判決
最高裁判所昭和53年10月26日判決(出典:金融・商事判例563号24頁)
被上告人は、本件土地及び隣地(第一審判決添付図面の実線で囲む部分中本件土地を除くその余の土地をいう。以下同じ。)の賃借権をその賃貸人である亡近藤 作平の承諾を得て取得したうえ、昭和26年ころ、隣地に分譲用の建物6戸を建築してこれを第三者に譲渡した、(2)しかし、被上告人は、亡作平及び昭和40年にこ れを相続した上告人らに対しては、右建物の譲渡後も引き続いて、本件土地と隣地を合わせた面積に相当する坪単価をもって計算された額の賃料を取立払の方法で一括し て支払い、建物譲受人らからは、被上告人が建物敷地部分の広狭その他の事情を考慮してこれらの者と各別に約定した額の賃料の支払を受けてきたが、それらの約定賃料 額の合計は、ほぼ被上告人が上告人らに支払う前記両土地分の賃料額に見合うものであった、(3)そして、このような賃料支払関係は、昭和46年ころ、上告人らが、 被上告人が隣地について建物譲受人らから支払を受ける賃料をもって上告人らに対する賃料の大部分をまかなっているのは不当であるとして、被上告人及び建物譲受人ら に対して各別に賃料の支払をするよう求めるまで、亡作平及び上告人らから何らの異議もなく、約20年の間継続してきた、というのである。
右の事実によれば、
分譲用建物の敷地である隣地については、建物の譲渡後も依然として被上告人が賃借権を有していてこれを建物譲受人らに転貸したものであって、 賃借地上の建物が譲渡されたにもかかわらず、賃借権の譲渡を伴わない特別の事情があった
ものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認す ることができる。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用 することができない。
最高裁判所昭和52年3月11日判決(出典:判例タイムズ353号125頁)
ところで、土地の賃借人が当該土地上に所有する建物に抵当権を設定したときは、原則として、右抵当権の効力が当該土地の賃借権に及び(最高裁昭和39年(オ)第 1033号同40年5月4日第三小法廷判決・民集19巻4号811頁)、右建物について抵当権設定登記が経由されると、これによつて抵当権の効力が右賃借権に及ぶ ことについても対抗力を生ずるものと解するのが相当であり(最高裁昭和43年(オ)第1250号同44年3月28日第二小法廷判決・民集23巻3号699頁参照)、 右
抵当権設定登記後の土地賃借権の譲受人は、対抗力ある抵当権の負担のついた賃借権を取得するにすぎない
のであるから、右抵当権の実行による競売の競落人に対する 関係においては、競落人が競落によつて建物の所有権とともに当該土地の賃借権を取得したときに、賃借権を喪失するに至るものというべきであり、さらに、競落人が右 競落による賃借権の取得につき賃貸人の承諾を得たときには、右譲受人は、賃貸人との関係においてもまた賃借人としての地位を失い、賃貸借関係から離脱するに至るも のと解するのが相当であつて、賃貸人と譲受人及び競落人との間に二重賃貸借の関係を生ずるものではない。
最高裁判所昭和40年5月4日判決(出典:判例タイムズ179号120頁)
土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃貸人たる土地所有者に対する 対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者との間においては、右建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、右
建物の所有に必要な敷地 の賃借権も競落人に移転する
ものと解するのが相当である(原審は、択一的に、転貸関係の発生をも推定しており、この見解は当審の執らないところであるが、この点の 帰結のいかんは、判決の結論に影響を及ぼすものではない。)。
けだし、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となつて一の 財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからで ある。したがつて、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人 に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。
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