一旦、裁判を止め、弁護士にも辞めてもらいたい
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2024.6.21mf
相談
今、とても困っている事があります。私は、現在、交通事故裁判で係争中です。私が被害者であり、原告として加害者側を訴えています。
ここにきて、弁護士さんの研究不足などが見受けられ、このままでは、先の見通しも定かではありません。そこで、いっそ、今の弁護士さんにお辞め頂いて、一旦、裁判を止め、少し休息期間を置いて、別の弁護士さんを捜して、再度、裁判を起こしたいと考えています。
- ここで問題となりますのは、現在、係争中の裁判の休止などはできないのでしょうか。
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もしできるのであれば、裁判所に提出してある書類等の返還をして欲しいと思うのですが、できないでしょうか。
- 同じ職業の先生にこんな事をお尋ねするのは、大変失礼かと存じますが、お許しください。
- それに、弁護士さんを解任するにあたり、お互いにトラブルなく済ませるには、どうにしたらよいのでしょうか。
お答え
裁判のやり直し
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原告は、いつでも、訴えの取下ができます。しかし、原則として、被告の同意が必要です(民事訴訟法 261 条)。
取下げの場合、訴えは初めからなかったことになりますから、あなたの請求権が消滅時効にかからないか、注意する必要があります。
(判決前に訴えを取下げるなら)訴えを取下げても、再度訴えることができます。しかし、弁護士を代えるために、訴えを取下げることは、得策ではありません。再度、訴える手間、時間、印紙代(訴状印紙額計算機参照)などの費用が、必要となります。そこで、訴えは取下げずに、弁護士に辞任してもらうか、弁護士を解任すれば、いいのです。
書証の返還
- 裁判所に提出した書証は、通常、写しですから、返してもらう必要はありません。原本を提出した場合は、代わりに写しを出せば、裁判所は、通常は、原本を返してくれるでしょう。
弁護士が書証の原本を持っている場合は、返還請求をして下さい。返還しない弁護士は下記判決の通り懲戒処分を受ける事由に該当します。
弁護士が記録の写しを返してくれない場合は、費用を負担して裁判所(通常、司法協会を通してコピーする)で記録の謄写もできます。
弁護士に辞めてもらう
- 依頼者と弁護士間の委任契約は、いつでも解除できます(民法 651 条 1 項)。しかし、正当な理由がないと、損害賠償の支払い義務があります。あなたが指摘する「弁護士さんの勉強不足、研究不足などが見受けられ、このままでは、先の見通しも定かではありません」では、やや、曖昧で、正当な理由かどうかわかりません。実際、弁護士に関係なく、先の見えない事件はあるからです。別の弁護士に依頼しても、同じことになる危険があります。
しかし、あなたが、真に不安を持っているなら、弁護士に率直に、誠意をもって話したらどうでしょう。
弁護士が、誠意を持った説明をしてくれなければ、辞めてもらった方がよいでしょう。
その場合、別の弁護士に依頼するため、再度、着手金の支払いが必要になるでしょう。
- 弁護士が努力して事件が解決に向かうと、成功報酬の支払を免れるために弁護士を解任する依頼者がいます(弁護士会の紹介とかで、依頼者と弁護士間に信頼感がないときに、時々、あります)。
そうしたケースでは、弁護士が、「事件が成功したと看做す」として報酬を請求することができます。通常、委任契約 にはそのような条項が入っています。
あなたの場合は、そのようなケースではないので、大丈夫です。もしそのような事態になったら(みなし成功報酬を請求されたら)、弁護士会 に対し、紛議調停 の申立をして、弁護士会で話し合いをするとよいでしょう。
- 通常、解任は弁護士にとっても不名誉ですので、弁護士から強い苦情は出ないでしょう。しかし、弁護士が事件につき活動をしていた場合は、着手金の返還には抵抗するでしょう。
そこで、別の弁護士に、さらに、着手金を支払い、事件を依頼することになります。依頼者は、着手金を2度支払う羽目になります。
結局、あなたの場合、着手金を2度払いする覚悟をすれば、よいだけでしょう。
判決
- 東京高等裁判所平成15年3月26日判決(出典:判例時報1825号58頁)
(1)原告(*弁護士)は、平成9年5月、丁原から、同人が原告に預けた資料の返還を求められ、一部を返還したものの、水波町資料及び
乙野資料は発見できなかったためこれを返還できず、その後長期間上記各資料の有無や探索の経緯などについて丁原に連絡するこ
ともなく放置したこと、丁原から平成10年12月22日及び平成11年1月25日の2回にわたり上記各資料の有無を調査して
回答して欲しい旨の内容証明郵便の送付を受けながら、これらに対する回答もせず、水波町資料については同月19日に、乙野資
料に至っては丁原から懲戒申立てを受けた後である同年12月18日に、それぞれの資料を発見したので返却する旨を電話で連絡
したことは、前記前提となる事実(3)のとおりである。
(2)以上の事実によると、水波町資料及び乙野資料を原告が返還しなかったのは、原告の過誤によってその所在が不明となっ
たためであったというべきであり、返還の請求を受けてから資料の発見や返却の連絡まで著しく長期の時間が経過していることに
かんがみると、それ自体弁護士として当事者の信頼を裏切る行為というべきである。加えて、原告が、丁原からの上記各資料の返
還請求ないし資料の有無の確認の要請があるのにこれに真しに対応せずに長期間放置したことは、弁護士倫理 に違反するものとい
わざるを得ず、処分理由(2)は、弁護士法 56条にいう「弁護士の品位を失うべき非行」に該当することは明らかである。