マンションの管理費の滞納者が多くて、管理がうまくいきません/管理費の時効は何年ですか

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Last update 2022.11.30mf
弁護士河原崎弘

相談:不動産


マンションを購入し、平成21年5月に管理組合の総会があって出席しました。平成12年に自主管理になってから、初めての総会ということで、驚きました。しかも、修繕積立金・管理費の滞納額が総額で1千万円を超えています。
長期滞納が15軒、その内、分割返済中が3件、消滅時効部分につき支払わない人が4軒、取得時の行き違いによる30万円未満の滞納が5軒、自主管理になったときのいきさつから、納得いかないので支払わないというところが1軒(5月の総会、6月の臨時総会にも不参加)。返済計画待ちが1軒、競売中で落札者が支払う予定が1軒。

私は、勤続15年の会社員で経理責任者をしてます。総会の決算報告は明細がなく、科目も会計基準を満たしていないようで、他に経理の実務経験者がいないため、私が、会計役理事を引受けました。
長期滞納者からは、「毎年の総会も開かないで、いい加減な管理をしてるから支払う気きがしない」との意見が出されました。そこで、2年分の領収書や通帳から伝票を起こして、会計基準にそった試算表および、明細票付きの決算報告書を作成し、それを滞納者・区分所有者に提示しようと考えています。自分の時間を削って責務を果たしているところです。

厄介で煩わしくて投げ出してしまいたくなります。実は築23年目で雨漏りがするので、早急に外壁の防水修繕工事をする必要があります。しかし、管理費、修繕積立金を回収してからではないと業者への支払いは難しいのです。総戸数は54軒で、うち26軒は1社(不動産賃貸業)が所有しています。そこ以外の所有者で居住者は7軒で、他は、賃貸中か自家事務所です。総会の出席者も9名で、管理組合としては最低の状態です。

滞納者には支払ってくれるようメールや電話をしていきますが、もし、催促しつづけても支払わないようなら、裁判沙汰にするよりほかに方法はないのでしょうか。
裁判を起こしたときは、総会を開かなかった前理事長の責任や他の理事の怠慢も追求されますよね。差押えや競売など強制執行で回収できても、裁判費用が嵩んでしまうというような、不毛なことになりませんか。時効も気がかりです。 管理費の消滅時効は何年ですか?
管理費滞納 対策はありますか。
相談者は、法律事務所を訪問し、弁護士の意見を聴きました。

回答

マンションを買う 際は、管理が良好かをチェックする必要があり、管理の悪いマンションは価値が下がります。
マンション管理で最大の障害は所有者のエゴです。賃借人が多く所有者が居住していないと無責任な管理になりがちです。区分所有者の中には、必ず、何人か変人もいます。役員を引き受ける人は報酬のないボランティアですから、皆で協力する必要もあります。違法行為でない限り、役員の責任追及はしない方がよいです。そうしないと、役員を引き受ける人がいなくなります。

一番大事なことは、皆(区分所有者)に、管理の重要性を理解してもらうことです。一人だけ帳簿の整理をしても、長く続きません。まず、最大の議決権を持つ不動産会社は何を考えているのか、どこに問題があるのかを調べて、小数でもグループを作り、それを増やして、同調者を多くすることが大切です。
それと同時に、管理費などの請求権を時効消滅させないためには下記方法で請求する必要があります。

なお、管理費の滞納を防止するためには、規約の中に、違約規定 を入れると良いでしょう。ただし、各区分所有者は隣人であり、仲間なのですから、過酷な請求をすべきではありません。

管理費請求権の消滅時効期間は、5年(改正前の民法169条)あるいは10年(改正前民法167条)であるか、問題がありました。下記の下級審の判決では、10年としていました。
ところが、平成16年4月23日、最高裁で、「管理費は定期給付債権(改正前民法169条)に当たり、消滅時効は5年」との判決が出ました。これで、管理費の消滅時効は5年であることが確定しました。
2020.4.1施行の民法改正により、定期給付債権を規定した改正前民法169条が削除され、管理費には、民法166条が適用されます。従って、時効は、依然として、5年です。


管理費の 請求・取立て方法には、下記のものがあります。
裁判所に対する手続きでは、管理組合が権利能力なき社団(民訴法29条、法人登記をした管理組合は法人として)として、あるいは、規約あるいは集会の決議(建物の区分所有等に関する法律26条4項、訴訟担当)で、管理者(管理組合の理事長)が当事者(原告、被告)になります。
管理費は建物の譲受人(承継人)に承継されます(8条)。そこで、判決を得て、競売申立てをし、新所有者(承継人)に、滞納管理費を請求するのです。通常、競売では、剰余を生ずる見込みがないと強制競売手続きが取り消しされます(民事執行法63条2項)。
建物の区分所有等に関する法律59条の競売請求訴訟による競売については、区分所有者の権利剥奪を目的とし、配当を予定していないので、民事執行法63条は適用されません(東京高等裁判所平成16年5月20日決定)。そこで、競売請求訴訟を使えば、無剰余取消しを回避できます。

判決

  1. 東京高等裁判所平成26年4月16日判決
    国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約(甲8)は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場 合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依 拠するものである。そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより 支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有 者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得 る。
    しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考え ると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定 めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上 記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される
  2. 東京地方裁判所平成25年10月25日判決
    そして、本件管理規約(平成24年8月26日の第7回定時総会によって改正された後のもの)36条3項は、区分所有者が原告に支払うべき管理費等を所定の支払 期日までに支払わないとき、原告は違約金として弁護士費用を請求することができると規定するものであるが(甲3、4)、同弁護士費用は確定金額ではないことから すると、実額ではなく、当該事案につき、その請求等に要する相当額ということになり、これは裁判所によって認定されるべきものとなる。しかるところ、本件訴訟で 請求されている管理費等額、被告の対応、その他本件における諸般の事情を総合考慮すると、同額は50万円とするのが相当である。
    6 以上によると、原告の請求は、@未払管理費等459万5360円、A同@に対する平成25年8月12日までの確定遅延損害金129万6899円、B同@に対 する同月13日から支払済みまで本件管理規約によって定められた年18%の割合による遅延損害金、C弁護士費用50万円、D同Cに対する訴状送達の日の翌日であ る平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があることになる。
  3. 平成16年04月23日最高裁判決(出典:判例時報1861-38)
    しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 本件の管理費等の債権は,前記のとおり,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い,総会の決議により増減することがあるとしても,そのことは,上記の結論を左右するものではない。
    そうすると,本件管理費等のうち平成4年1月分から平成7年12月分までのもの(合計104万0200円)については,消滅時効が完成していることになるから,被上告人の請求は,上記時効完成分を除いた69万9720円及びこれに対する支払督促の送達の日の翌日である平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきである。
  4. 平成13年10月31日東京高等裁判所判決(出典:判例時報1777-46)
    被控訴訴人(管理組合)が区分所有者に対して・・・管理費等の納入を求めることができる権利は、民法169条の解釈上その存在が予定される基本権たる定期金債権の性質を具備するものとは認めがたく、それゆえ本件管理費の納付(支払)を請求する債権も基本権たる定期金債権から発生する支分権の性質を具備するものとは言えない・・・管理費等に付いては、同条の適用はなく、一般の債権として10年の消滅時効にかかるものと言うべきである。
登録 July 20,1999
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