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2021.9.19mf
弁護士河原崎弘
依頼人が違法に入手した証拠を提出した弁護士の責任
質問:違法取得の証拠
私は、夫と離婚訴訟をしています。私の依頼した弁護士は、依頼人である私の質問に対する回答がいいかげんです。私の質問について、調べもせず、返答しています。質問に対して、めんどくさいといった態度がありありとしています。
同居しているときに、私は、夫の預金通帳、日記、家計簿をコピーし、さらに、夫の携帯電話のメールを写真にとって、証拠に出しています。これらは、同居したときに写したものです。
今は、別居していますが、夫のマンションの郵便受けの中にある郵便物も調査し、一部を抜き取りました。
全部、弁護士に相談し、弁護士が、「大丈夫」と言ったからです。
弁護士は、これらを証拠として裁判所に提出しました。
ところが、夫側は、私に対し、郵便物の抜き取り行為はプライバシーの侵害だとして損害賠償請求の反訴を提起してきました。
私は、弁護士が「大丈夫」と言ったので、やったのです。友人は、私はやり過ぎと言っています。私に責任がありますか。
私は、もし裁判に負けたら、弁護士を訴えるつもりです。
弁護士は、依頼人の行動を監督すべきではないですか。
あまり酷いので、私は、この弁護士を、弁護士会にも、懲戒申立をしてやろうと考えていますが、弁護士の責任を問うことができますか。
回答:弁護士の責任は重い
相手のプライバシーを侵害し、違法に証拠を取得した場合、取得者は損害賠償責任があり、刑事罰を科せられることもあります。配偶者、直系血族、同居の親族間では窃盗罪が成立しません(刑法244条1項)。家庭に法律が入らずとの思想があるのです。
従って、同居している場合、同居人の書類をコピーするなどの行為は違法性が低く、刑事罰は科せられず、民事上でも違法性は低いでしょう。
しかし、別居している場合、配偶者の郵便物をとる行為は窃盗罪に当たり、違法性も大きいです。
あなたも、夫に対し、若干(金額は小さい)の損害賠償責任があるとの判決が出る可能性はあります。
さらに、いい加減に回答した弁護士にも責任があります。
弁護士は、依頼人の言うとおりに動くのではなく、客観的な立場で、専門家として、依頼人に対し法的意見を述べる責任があるからです。プロである弁護士の責任は重いです。
下に、依頼人が
違法に取得した書面を不用意に証拠として提出した弁護士に(依頼人に対し)慰謝料150万円の責任を認めた判決を掲げます。
弁護士会でも、懲戒事由に当たる可能性はあります。
判決
- 福岡地方裁判所平成19年3月1日判決(判例タイムズ1256号132頁)
以上によれば,被告は,訴訟委任を受けた弁護士として委任者である原告に対し善管注意義務(民法644条)を負っているところ,原告が被告に届けた本件預金
取引明細書について,これが名義人の承諾を得ることなく違法に入手されたものである可能性が高く,このことが露見すれば勤務先において原告が不利益処分を受ける可
能性が高いことを容易に予見することができたにもかかわらず,これを漫然と書証として提出したものであって,弁護士としての善管注意義務に反しているというべきで
あり,これにより原告が被った損害を賠償すべき責任がある。
<<中略>>
被告が原告において違法に取得した可能性がある本件預金取引明細書を漫然と書証として提出したことは,原告の利益を守ることが要求されている弁護士の基本的な善管注意義務に違反するものであること,原告は,本件預金取引明細書を弁護士に交付したことが露見したことにより,花子の父親から原告の勤務先に対する抗議を受け,
職場でつらい立場に置かれることとなり,これを収束させるために,不本意ながら別訴離婚事件について離婚を含め和解による解決を選択せざるを得なくなったこと,勤
務先において,前回の異動(平成16年4月)からわずか6か月で長年従事していた営業部門から事務部門に異動となったこと(甲15の1,2,甲16),原告は一審
判決直後の平成15年12月2日から平成17年11月ころまで軽うつ病で通院治療を受けていたが(甲13の1ないし甲13の3の4),本件預金取引明細書の件も原
告に相当の心理的不安を生じさせたことがうかがわれること,しかしながら,他方,本件預金取引明細書を私的に利用するという違法行為を行ったのは原告自身であり,
被告の指示に基づいて行ったものではないこと,その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,原告の精神的苦痛を慰謝するためには,金150万円をもってするの
が相当である。
2010.11.20
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