報酬支払いを回避する依頼者
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2015.2.24mf
事件処理を弁護士に依頼したいが、弁護士費用を払いたくない、「安くやってほしい。できれば、無料でやってほしい」と、考えている依頼者は、多いです。ほとんど、そうでしょう。有料の弁護士が組み込まれた、国民すべてに法の支配を浸透させることは、不可能に近いです。
事件が依頼者に有利に展開し始めると、依頼人の次の関心ごとは、弁護士に支払う報酬をいかに安くするかに移るのです。依頼人は、できるだけ、弁護士を排除しようとします。自己防衛本能に優れた人なのでしょうが、このような依頼人は結構多いです。
事件が成功したら、報酬を払いたくなくなるのは人情でしょう。
以上のことを露骨に実行する依頼者もいるのです。このような依頼人とは、着手金と成功報酬との形で契約とするより、時間制にすると公平でしょう。
委任契約の段階では、弁護士費用を徹底的に値切り、その後、弁護士に多くの雑用を押し付ける依頼人もいます。
弁護士にとっても、依頼人にとっても、当初の委任契約を合理的にする必要があります。
- 「共同相続した不動産(約1億円)を売りに出しているが、私道が狭く、隣地と境界につき争いがある。問題がある土地なので、購入する人があまりない。不動産業者から買いが入ったが、なめられているので、弁護士に入ってほしい」とのケースがありました。
弁護士は、着手金もなしに、ずるずると、境界立会い、不動産業者との交渉をしてしまいました。
正常に取引できる見通しがついた段階で、依頼者は、「これで結構です。費用を清算して下さい」と言って、依頼を断ってきました。後は、自分で処理できる見通しがついたのです。
報酬契約 もしていなかったので、仕方なく、弁護士は5万円だけ請求して、終わりました。この事件では、委任の範囲も明確でなく、委任契約書も作成されていませんでした。
依頼者は、初めから、不動産業者に対して「自分には弁護士がついている」との格好をつけるだけの事件依頼だったのです。
それなら、初めに、「1回だけ、代理人として不動産業者に電話をしてください。後は自分でやります」との、依頼をすればよかったのです。これは不誠実な依頼者でした。
市役所 の法律相談から、依頼に発展した事件でした。
着手金のない事件は、常に、このような危険があります。
- 当初の離婚裁判で、夫(医師)からの離婚請求が認められず(妻勝訴)、2度目の離婚を請求されている相談者(妻、専業主婦)がいました。夫は、元看護婦と同居し、子供がいる
有責配偶者でした。
妻は、最初の裁判で依頼した弁護士に依頼せず、わざわざ、弁護士会 に来て、弁護士の紹介を頼んできました。この妻は裁判にも、弁護士の扱いも、慣れていました。
離婚裁判では、夫が妻にする財産分与が問題になっていました。妻の依頼を受けた代理人の弁護士が、裁判所において何度も交渉した結果、財産分与(自宅、約 7000 万円)が実現しそうな状況になりました。依頼者(妻)の希望が通りそうな有利な状況になったのです。
この段階で、依頼者は、奇妙な行動に出ました。弁護士に対して、苦情を述べる手紙を何度も出すようになったのです。その手紙には、「なぜ、裁判官に、あのような私に不利なことを言ったのですか」とか、「裁判官に対しては、もっと、私に有利な発言をしてください」と苦情が書いてあるのです。
弁護士は、心当たりがありませんでしたので、すぐ、「報酬支払いを回避している。手紙でその証拠を作っている」と、気づきました。
弁護士は、(事件の依頼手続きをした)弁護士会の法律相談委員会に対して、文書にて、「依頼者から、事件処理につき苦情が出ている。自分を監督するために、復代理人を1人つけてほしい。その費用は自分が負担する」と、申し入れました。
弁護士会の法律相談委員会では、これを検討し、「代理人を監督するために復代理人をつける制度はない」と、回答してきました。
困った弁護士は、以後、裁判期日の様子、依頼者の手紙などを、全て細かく、法律相談委員会に報告しました。
事件は、依頼者の希望通りの結果に終了しました。
しかし、依頼者は、報酬の支払いを渋りました。弁護士会の法律相談委員会は、依頼者から事情を聴取しました。依頼者の主張は、まともなものではありませんでした。しかし、最後に、法律相談委員会が、報酬を支払うべきとの意見書を出し、依頼者は、それに従い、弁護士費用を支払いました。
この依頼者は、最初の裁判でも、報酬につき弁護士と、もめた様子でした。そのため、2 回目の裁判ではその弁護士に依頼しなかったのです。
この人は、外見では静かです。しかし、対弁護士関係だけでなく、あらゆるところで、トラブルを起こす感じの人でした。
弁護士会の法律相談から依頼に発展した事件でした。
弁護士からみると、弁護士会の紹介など、人的つながりが薄い依頼者は、このような行動に出ることが多いです。紹介者のいない依頼を弁護士が断るのは、その辺に理由があります。結構、したたかな依頼人もいます。
事件が終わりに近づくと、依頼人は、弁護士を批判し始めます。弁護士としては、次のような対策が必要でしょう。- 依頼人を選ぶ。
- 報酬契約書は、報酬として確定した金額の記載のある(あるいは、自動的に算出できる)完全なものを作る。契約書に書いてあっても、支払いを拒否する人は多いです。
-
裁判期日ごとの記録をきちんと取っておく。
2002.12.31