ビルの賃貸人から10か月分の更新料を請求されている
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ビルの賃貸人から10か月分の更新料を請求されている
2015.12.25mf
相談:不動産
当社は、賃料月額120万円、期間5年で、事務所を借りています。来年が更新時期に当たります。実は、ビルのオーナーの代理人弁護士から、更新料として1300万円(賃料プラス管理費の10月分)を請求する通知がきました。
不動産賃貸借契約書には、「本契約期間満了のとき賃借人において更新契約を希望するときは賃料および管理費の10月分更新料を賃貸人に支払う」と書いてあります。請求は、この条項を根拠にしているようです。
弁護士に相談したところ、支払いをしないと、賃貸借契約を解除されると、言われました。
この更新料を払うべきでしょうか。また、この金額は妥当でしょうか。
回答
建物
賃貸借契約 の更新料は、賃料の一部(補充)、あるいは、賃貸人が更新に際して「異議を述べないことへの対価」と考えられています。
賃貸人が、更新料を請求できるのは、更新料の合意があり、その金額が合理的である場合です。合理的額とは、更新料が毎月支払う賃料(管理費を含めて)の1ないし2か月、最大で3か月分くらいまでです。
判例では、「更新料は賃料の12か月分」と決めた契約の効力を否定したり(東京地裁昭和56年7月22日判決)、「更新料は賃料の6.35か月分」と決めた契約条項について、そのうち3か月分のみ有効であり、残りは借家法6条(現在は、借地借家法30条)でいう「借家人に不利なものとして無効」と判断しています(東京地裁昭和61年10月15日判決)。さらに、店舗を目的とした賃貸借契約書において賃料の10か月分の更新料と定められた条項の効力を否定しています(東京地裁平成4年9月25日判決)。
本件のばあい、更新料が高額であるが、その反面、毎月の賃料が、低く決められていたと事情なら、更新料を高額にした合理的理由があります。そのような事情がない限り、「賃料および管理費の月額の10か月分を更新料とする」条項は無効と判断される可能性は相当あります。建物賃貸借契約についての後記東京地裁の判決は、なかなか、参考になります。
反面、この合意が有効なら、弁護士が言うとおり、賃貸借契約を解除される危険もあるわけです。そこで、ビルのオーナーに話し合いを申し入れ、話し合いがまとまらなければ、「更新料のうち3か月分を超える部分の支払い義務はないことの確認を求める」訴えを提起し、裁判所で話し合いをするとよいでしょう。
判決- 東京地方裁判所平成9年1月28日判決(出典:判例タイムズ942号146頁)
まず、本件約定を含む本件賃貸借の契約書17条1項は、「本契約は、賃貸人と賃借人の協議により更新することができる。更新
する場合は賃借人は、更新料として新家賃の2カ月分を賃貸人に支払うものとする。」と定めており(甲第1号証)、本件約定は、
協議による更新を受ける形でこれと同一条項に規定されているから、合意による更新の場合を念頭において定められたものという
べきであり、また、「家賃」という表現からは、更新時に賃料の増減請求が行われ、そこで新家賃が合意されて更新することが予
定されていると解するのが自然であるから、新家賃が定められることのない法定更新は、念頭に置かれていないものというべきで
ある。
(二)次に、更新料支払いの特約を締結する場合の当事者の合理的意思を推測すると、建物賃貸借の場合、合意更新がされると少
なくとも更新契約の定める期間満了時まで賃貸借契約の存続が確保されるのに対し、法定更新されると爾後期間の定めのないもの
となり、いつでも賃貸人の側から正当事由の存在を理由とした解約申入れをすることができ、そのため賃借人としては常時明渡し
をめぐる紛争状態に巻き込まれる危険にさらされることになるのであるから、この面をとらえると、更新料の支払いは、合意更新
された期間内は賃貸借契約を存続させることができるという利益の対価の趣旨を含むと解することができる。
(三)そもそも、建物賃貸借の法定更新の際に更新料の支払い義務を課する旨の特約は、借家法1条の2、2条に定める要件の認
められない限り賃貸借契約は従前と同一の条件をもって当然に継続されるべきものとし、右規定に違反する特約で賃借人に不利な
ものは無効としている(同法6条)同法の趣旨になじみにくく、このような合意が有効に成立するためには、更新料の支払いに合
理的な根拠がなければならないと解されるところ、本件において法定更新の場合にも更新料の支払義務を認めるべき特段の事情は
認められない(例えば、被控訴人が主張するような、借主において貸主の申入をことさらに無視して話合に応じないため法定更新
されるに至ったような場合は、貸主において実質上異議権を放棄したものとして、右特段の事情に当たると考える余地があるが、
本件賃貸借においては被控控訴人において契約解除を主張して明渡しの訴訟を遂行中に法定更新されたものであるから、右特段の
情があるとはいえない。)。
(四)このようにしてみると、本件賃貸借における更新料の支払いは、更新契約の締結を前提とするものと解するのが合理的であ
るから、本件約定は、合意更新の場合に限定した趣旨と認められ、法定更新された本件の場合には適用されないものというべきで
ある。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 03-3431-7161
2004.9.9