建替えが難しいマンション/既存不適格

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2012.8.24mf
相談:不動産
Aさんは、マンションを購入しました。ある日、管理組合の総会に出席し、修繕積立金が赤字になっていることを知りました。ピロティ部分の柱の補強工事をし、管理組合は、2000万円ほど管理会社から借り入れしたのです。
このマンションは昭和 43 建築で、老朽化し、時折、水漏れ事故があり、建替えも話題に上がっていました。この居住者の中に、建築会社に勤務している人がいて、敷地が広いから、「建て替えることができる」と言っていました。この居住者は、自分は建築の専門家と、称していました。マンションの敷地は約2000uあり、1階が約500uの床面積で、10階建てで、大規模なものでした。
このマンションにも管理費を滞納する人がいて、管理組合は、弁護士に、管理費の取立て訴訟を依頼しました。管理組合の理事会に弁護士が出席するため、マンションに立ち寄ったところ、。弁護士は、マンションに至る道路が狭い(幅4m)ことに気が付きました。

調査
弁護士は、管理組合の役員から、「建替えの際、何階くらいの建物が建ちますか」との質問されました。
弁護士は、「前面道路が狭いので、容積率は相当制限されますよ。現在ある建物と同じ規模の建物を建てることは難しいでしょう。正確には、建築士に計算してもらった方がよいですね」と、答えました。

専門家と称する居住者の説明と異なるので、管理組合は建築士に、調査を依頼しました。その結果、この建物は、建築した当時は建築基準法に合致していたが、その後の法律改正で、現在では、建築基準法に合致しない「既存不適格」である建物であることが判明しました。この場所は、第二種中高層住居専用地域、建蔽率60%、容積率300%、第3種高度地区、準防火地区でした(用途地区については 区役所 で教えてくれます)。
マンションのある場所の容積率は、基本的には、300%ですが、接続する道路の幅が12m未満の場合は、さらに制限を受けます。その場合、容積率は、下記の式で計算します( 建築基準法52条1項 )。

容積率 = 前面道路幅(メートル) × 4/10

昭和 52 年 11 月 1 日施行の 改正建築基準法により、従前、 6/10 であったものが、 4/10 となりました。従前、容積率は法律に適合したのに、法改正により、法律に適合しない建築物が発生したのです。

計算の結果、このマンションの前面道路が狭いため、容積率が160%なのです。
敷地面積が2000uで、容積率が160%ですから、法律が許す最大の延床面積は3200uです。現在の総床面積は5500uですので、建て替えに際し、4割以上の居住者は立ち退かなくてはならないのです。これでは、建替えは難しいでしょう。各階の床面積が500uの場合は、6階までしか建てることができません。
建物の区分所有等に関する法律62条により、区分所有者および議決権の 4/5 以上の多数で建替え決議ができます。さらに、平成14年6月19日、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」 が公布され、建替えがし易くなりました。しかし、このように、既存不適格となるマンションが多いのも現実です。 不動産の売買 契約の際、は気をつけましょう。

管理会社
このマンションの管理会社は、このマンションが既存不適格であることは知りませんでした。このマンションでは、管理について根本的に方針を変える必要がありました。限りあるお金を有効に使うようアドバイスしてくれる管理会社が必要でした。 このマンションでは、その後、管理会社を変えました。

マンションの管理について適正なアドバイスをしてくれる管理会社は少ないです。本件のマンションのように既存不適格なら、建て替えは困難ですから、できる限り、修繕をして長持ちさせる必要があります。また、耐震補強工事をしていますが、これが適正な工事か否かは、難しい問題で、有能なスタッフを抱えている管理会社でないと、その判定は難しいてしょう。耐震工事と名の付いた工事をしたが、効果はなく、無駄に金を遣ったと言えるケースがあります。
有能なスタッフを抱えている管理会社は、ほんの少数です。難しい問題を抱えた管理組合は、よい管理会社を選ばないと解決は難しいです。

建築基準法:現行
第52条 (容積率)
@ 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる数値以下であり、かつ、当該建築物の前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のもの。以下この項及び第9項ただし書において同じ。)の幅員が12 メートル未満である場合においては、当該前面道路の幅員のメートルの数値に、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、若しくは第2種中高層住居専用地域内の建築物、第1種住居地域、第2種住居地域若しくは準住居地域内の建築物(第五号に掲げる建築物を除く。)又は特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内の建築物にあつては10分の4を、その他の建築物にあつては10分の6を乗じたもの以下でなければならない。ただし、当該建築物が第五号に掲げる建築物である場合において、次項の規定により建築物の延べ面積の算定に当たりその床面積が当該建築物の延べ面積に算入されない部分を有するときは、当該部分の床面積を含む当該建築物の容積率は、当該建築物がある第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域又は準工業地域に関する都市計画において定められた第3号に掲げる数値の1.5倍以下でなければならない。
第1種低層住居専用地域又は第2種低層住居専用地域内の建築物 10分の5、10分の6、10分の8、10分の10、10分の15又は10分の20のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
第1種中高層住居専用地域又は第2種中高層住居専用地域内の建築物 10分の10、10分の15、10分の20又は10分の30のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
<・・・・以下、省略・・・・>


建築基準法:旧規定(昭和 52 年 10 月 31 日まで)
第52条 (延べ面積の敷地面積に対する割合)
@ 建築物の延べ面積(同一敷地内に2以上の建物がある場合においては、その延べ面積の合計。以下この節ににおいて同じ)の敷地面積に対する割合は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる数値以下であり、かつ、当該建築物の前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のもの。以下この項において同じ。)が幅員が12 メートル未満である場合においては、当該前面道路の幅員のメートルの数値に、10分の6乗じたもの以下でなければならない。
<・・・・以下、省略・・・・>
登録 2002.8.7
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