2012.8.3契約が解除された場合の仲介手数料
弁護士河原崎弘不動産仲介業者が、売主、または、買主との間で専任媒介契約を締結し、不動産仲介業者の仲介により、売買契約が成立したが、その後、当事者が売買契約を解除した。このような場合、不動産仲介(媒介)業者は、仲介手数料(報酬)を請求できるのであろうか。
1.売買契約の無効
媒介の報酬請求権が成立するためには、売買契約が成立することが要件です。そこで、売買契約が無効であったり、取消されたり、解除された場合、報酬請求権がどうなるか、大いに問題です。
報酬請求権は成功報酬ですから、無効な売買契約では、仲介した業者と当事者の媒介契約の目的達成とは言えず、形式的に売買契約が成立しても報酬請求権は発生しません。
2.売買契約の取消
取消により契約は遡及的に効力を失います。従って、契約は初めから存在しなかったことになります。この場合も、仲介した業者と当事者の媒介契約の目的達成とは言えません。仲介業者に報酬請求権は発生しません。
3.解除
- 解除につき特約がある場合
特約がある場合は、特約に従う。例えば、ローン(融資)不成立に伴う解除の場合は、報酬請求権は発生しないと定められていれば、そのとおりになります(標準媒介契約約款)。- 合意解除
仲介業者の報酬請求権に影響はありません。仲介業者は、報酬を請求できます。ただし、全額ではなく、8割など、減額した額になる場合があります。- 解除権留保による解除
手付放棄による解除が典型的な例です。これについては、諸説あり、結論は出ておりません。
成立した売買契約には何らの傷もないのですから、仲介業者には、全額の報酬請求権を認めるべきとする考えがあります。合意解除と同様に考えるのです。比較的多数説です。
解除された場合は、手付けを受けた側が、合意された全額の報酬ではなく、相当な報酬(例:合意された報酬の1/2など)を請求できるとの考えもあります(商法512条)。
初めから、解除権が留保された売買契約であるから、不完全な契約であり、解除権が行使された場合は、報酬請求権はないとの考えもあります。
(私見)
当事者の目的を契約の成立だけでなく、履行の完了とし、契約が成立後、解除されると、減額(8割くらい)した仲介報酬を認めた判決があります。他方、契約の 成立で目的達成として、全額の報酬を認めた判決もあります。
より具体的に考えてみましょう。手付放棄をして解除した当事者(買主)は、あるいは、手付倍返しをして解除した当事者(売主)は、解除につき責任があるから、報酬支払い義務はあるでしょう。ただし、全額ではなく、8割など、減額した額になる場合があります。
他方、解除された当事者は、解除につき責任はありませんが、解除されても、手付けという経済的利益を受けています。やはり、相当なる仲介報酬の支払い義務はあるでしょう。
しかし、仲介料は、売買代金を基準に決められますので、約束された仲介料全額の支払い義務があるとすることは、公平ではありません。手付が仲介料よりも低い場合もあります。受取った(あるいは、倍返しされた)手付より高額な仲介料を支払わせるのは不合理です。
従って、受取った手付額を基準に報酬を考える必要があります。そこで、解除された当事者が支払い義務がある相当な仲介料とは、受取った手付額の半額以下でしょう(半額を最高額とする)。手付の半額を相当なる報酬と認めた判決がありますが、妥当でしょう。
解除の場合、報酬全額を認める判例もあります。一方、解除の場合は、当事者の目的が達成されていない、仲介の手数が省けたなどの理由で、2割くらい減額する判例があります。- 債務不履行による解除
売買契約が成立させることが仲介の目的であり、仲介業者は、その後の履行については責任を負いません。従って、契約成立後、債務不履行によって契約が解除されても、仲介業者に報酬請求権はあるでしょう。ただし、全額ではなく、8割など、減額した額になる場合があります。
なお、債務不履行につき、(説明義務違反など)仲介業者に責任がある場合は、報酬請求権は発生しないでしょう。判決
- 東京地方裁判所平成23年10月12日判決
前記1から3までの認定に前記第2の1(3)及び(4)の各事実を合わせると,被告らは,各自,原告に対し,本件専任媒介契約に基づき,28万9800円 (消費税込み)の練馬物件報酬支払債務を負うこと,その履行期は,うち14万4900円につき5月10日,残り14万4900円につき6月25日であることが認め られる。
また,証拠(甲9,11)及び弁論の全趣旨によれば,本件売買契約の代金は消費税抜きで2619万0477円(土地2000万円,建物619万0477円。 消費税込みで合計2650万円)であること,本件売買契約が被告らの債務不履行により7月16日の経過により解除されたことが認められる。
これらの事実に前記第2 の1(5)の事実を合わせると,被告らは,各自,原告に対し,本件一般媒介契約に基づき,小田原物件の価格の3パーセントに当たる41万2500円(消費税込み。 2619万0477円×3%×1.05÷2)の支払義務を負うこと,その履行期は7月17日であることが認められる。
<<上記は、債務不履行による解除の場合:約定された報酬全額の支払いを認めた>>- 東京地方裁判所平成21年2月26日判決
しかしながら,争点1で示したとおり,不動産売買の仲介契約における仲介手数料(報酬)請求権は,原則として売買契約の成立によって発生するものであると ころ,本件仲介契約においてもこの原則を異に解する事情はないから,本件売買契約が成立した以上,原告の仲介手数料の請求権は発生しているものであって,その後本 件売買契約が合意解約されたからといって,当然にその請求権が消滅するものではなく,この点の被告の主張は,それ自体失当である。
(2) もっとも,不動産売買の仲介契約における仲介手数料(報酬)額は,通常,売買契約が成立し,かつ,その履行がなされ,取引の目的が達成された場合を想 定してその金額が定められているものと解するのが相当であるから,売買契約が成立したものの,当該契約が,合意解約,債務不履行その他事由の如何を問わず,現にそ の履行がされず,契約の目的を達しなかった場合には,特段の事情のない限り,売買契約が成立したという一事をもって,定められた仲介手数料(報酬)の全額の請求を することはできないというべきである(最高裁昭和49年11月14日判決・最高裁判所裁判集民事113号211頁参照)。
<<中略>>
(5) かかる事情を総合的に考慮したとき,最終的に履行されなかった本件売買契約を仲介したことにより,原告が被告に対して請求することのできる仲介手数料 (報酬)金額としては,本件手数料663万円(消費税込み)の8割にあたる,530万4000円とするのが相当である。
<<上記は、合意解除の場合>>- 東京地方裁判所平成17年3月24日判決
(3)以上認定をした被告の行動や前提となる事実を総合すると,被告は,少なくとも,本件売買契約の締結をした当初は,本件不動産の用途について,前記被告の主 張にあるほどに限定的に考えていたわけではなく,その後支払期日の延期を求めたり支払期日に支払わなかったりした理由は本件の証拠上は定かではないが,約定の支払 をしないままいろいろと事業の計画を検討し,Gの調査報告の結果をみたりしているうちに,何らかの理由によって事業計画が立たなくなり,Bからの申し出があったの で,これに応じる形で本件合意解除に至ったものと推認される。
よって,被告の前記主張を認めることはできず,本件売買契約は,原告の媒介行為によって有効に成立したものと認められる。また,本件合意解除は,原告の説明 義務違反に起因していると認めることはできず,これとは無関係の被告の経営判断によっているものと推認される。
3 前記2の検討によれば,本件媒介契約の報酬支払請求権は発生しており,その後の本件合意解除によっても消滅するものではない。
そして,第1の1の判断によれば,本件合意解除をした日である平成16年3月15日には,上記報酬の支払期日が到来したものと認められる。
第2 争点2について前記第1の2の判断から,本件合意解除がなされた原因が原告の説明義務違反にあるとは認められず,被告の主張には理由がない。
よって,原告は,被告に対し,上記報酬合計632万0475円と,これに対する上記合意解除の日の翌日である同月16日から支払済みまで商事法定利率の年6 分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。
<<上記は、合意解除の場合>>
- 東京地方裁判所平成16年4月6日判決
(2)しかしながら,仲介契約に基づく報酬支払請求権は,仲介者がその業務を履行した場合に発生することはいうまでもない。仲介業務には,民法所定の善良なる管 理者の義務はもとより,法所定の宅地建物取引業者としての義務を当然内包する。したがって,重要事項の説明等が過不足なく的確に行われている場合に初めて完全な報 酬請求権が発生するものであって,少なくとも仲介すべき売買契約の成立・存続を妨げない程度の説明をしなければ,報酬請求権は発生しないというべきである。前記 (1)も仲介業務の履行があったことを当然の前提とする議論である。
(3)本件売買契約が解除された原因は,まさに,緑地保全地域の指定にあるから,この点が本件売買契約の命運を握る極めて重要な事項であったことは明らかであり, 法の予定する重要事項でもある。
この点につき,原告は,Aから事情聴取したところ,本件土地にかかる規制が「保存林」とのことであったが(これがどのような規制なのか主張立証はなく,明 らかではないし,甲6(原告代表者の陳述書)とも矛盾するが,),解除され,本件土地については特段の規制がないものと誤信して,本件重要事項説明書には,本件土 地が緑地保全地域の指定を受けていることについて全く記載しなかったというのである。いずれにしても,原告は,かかる重要事項説明書を被告に交付し,当該法規制の 存在する土地であるとの説明をしていない。原告は,Aから事情聴取はしたが,その他法規制の調査をしたことはない。
緑地保全地域に指定されている旨の掲示,看板がないこと,東村山市作成の都市計画図にも記載がなかったことは争いがなく,宅地開発を業とする被告の調査に よっても,この事実は判明しなかったことは確かであるが,本件契約後に被告側でAから関係書類一式を受領し,その内容物を一読して,その規制に容易に気づくことが できた。原告が本件売買契約締結以前に,Aに対し,その程度の調査をすれば当該法規制は判明していた。被告の宅地開発業者としての一般的調査によっては判明しない にしても,仲介業者として売主と折衝する原告がAから事情聴取を正確にすれば容易に判明し得た事柄であるから,原告は,この重要事項についての説明義務そしてその 前提としての調査義務を負うものと言うべきである。
そうして原告がこの業務を履行しなかったために,本件売買契約は解除されざるを得なかったのであり,原告の行為には,「相当」な報酬を基礎づける事実を認 めることができないから,かかる報酬請求権を認めることもできない。
(4)なお,仲介契約上の利益を給付することを求められる仲介業者が,その業務を怠り,委託者に損害が生じさせれば,仲介業者がこれを賠償しなければならないこ とはいうまでもない。本件の場合,被告は,Bに開発業務を委託したとおり,本件売買契約が存在することを前提として業務を進行させた。それにもかかわらず,緑地保 全地域の指定が原因で,これを中止せざるを得ず,そこに損害が発生していることは明らかである。本来は,本件仲介契約に基づき損害賠償の責を負うはずの原告が,被 告の損害については,我関せずと何ら損害賠償をしないまま,十分な仲介契約上の給付をしないまま,報酬を請求できるとすれば,そこには矛盾があるものといわなけれ ばならない。
原告が調査・説明義務の履行を怠らずにいれば,本件売買契約の締結はなかったのであり,原告の行為は,被告が買主の地位を得たこと及び失ったことについて は因果関係があるにしても,その損害賠償についての寄与はなく,原告の仲介行為と被告の違約金取得との間には相当因果関係はないということもできる。
4 そうして,本件売買契約は合意解除されたのであるが,被告が合意解除をしないとしても,債務不履行による解除権の行使は避けられなかったから,本件合意解除 をもって被告が原告の条件付権利を故意に侵害した(民法130条)とすることもできない。
<<上記は、仲介業者に説明義務違反があった場合>>- 福岡高等裁判所那覇支部平成15年12月25日判決
1 仲介業者である控訴人が被控訴人(売主)との間で本件媒介契約を締結して本件土地の売買の仲介業務を行ったこと,控訴人の仲介により被控訴人とA(買主)の間に本件売買契約が 成立したが,その後,Aが被控訴人に交付してあった手付金2000万円を放棄して本件売買契約を解除したことの各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
このよう な場合,仲介業者である控訴人が被控訴人に請求することができる報酬額について特約がある場合にはそれによるべきこととなるが,本件媒介契約上,そのような特約が 存在しないこともまた当事者間に争いがない。
2 そこで検討するに、【要旨】仲介業者である控訴人が本件媒介契約に基づいて行うべき事務の中心的な内容は,仲介により被控訴人と第三者との間に本件売買契約を 成立させることであること,本件においては,控訴人の仲介によって被控訴人とAとの間に本件売買契約が成立し,その後Aが手付金を放棄して同売買契約を解除したけ れども,被控訴人はそれによって経済的利益を得ていることなどを勘案すると,いったん有効に成立した売買契約が手付金放棄により解除されたからといって,控訴人が 被控訴人に対して本件媒介契約に基づく報酬請求をすることができないと解することは相当でない。
しかしながら,このような場合に控訴人が約定の報酬額をそのまま被控訴人に対して請求できると解することもできない。理由は次のとおりである。
一般に,仲介による報酬金は,売買契約が成立し,その履行がなされ,取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁判 所昭和49年11月14日第一小法廷判決・裁判集民事113号211頁参照)。特に,債務不履行による解除や合意解除の場合と異なり手付金放棄による解除の場合に は,売買契約締結に際して解約手付(本件における手付金につき解約手付と異なる趣旨のものであるとの主張立証はない。)が授受されていること,すなわち,当該売買 契約においては各当事者に手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは,仲介に当たった控訴人も当然認識していたはずであるから,仲介業者である控訴人 としては,本件売買契約には手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭に置くべきであるし,控訴人にとって,そのような場合に備えて報酬の額について の特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。
他方,依頼者である被控訴人としては,本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか, 契約締結に際して特に控訴人からその旨の説明を受けたという事情でもない限り,履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介 報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。
これらに加えて,本件においては,本件媒介契約に基づく報酬金の弁済期が本件 売買契約に基づく売買残代金の弁済期と同日と定められていること,一般に,不動産取引の場合,仲介業者は,契約成立後の代金の授受や目的物件の引渡等に関する事務 も付随的に行うのが通常と考えられるところ,手付金放棄による解除の結果,履行に着手することなく売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなくなることを も併せ考慮すれば,手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致する というべきである。
3 そうすると,本件媒介契約に基づいて控訴人が被控訴人に請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるけれども,報酬について特約がない 場合でも,仲介業者である控訴人は相当報酬額を請求できると解される(商法512条)。
そこで,本件において控訴人が請求することのできる相当な報酬額について検 討するに,一般に,特約のない場合に仲介業者の受け取るべき報酬額については,取引額,仲介の難易,期間,労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきであるが(最 高裁判所昭和43年8月20日第三小法廷判決・民集22巻8号1677頁),本件のように相手方が差し入れた手付を放棄して解除した場合においては,さらに,手付 金放棄による解除がなかったとした場合に仲介業者が受領し得たはずの約定報酬額,解除によって依頼者が現実に取得した利益の額等をも総合的に考慮して定めるべきと ころ,本件では,手付金の額(2000万円)が売買代金額に対して比較的少額であること(手付金の額すなわち被控訴人が取得した利益が多額である場合には約定報酬 額全額を請求しうる場合もあると考えられる。),本件売買契約を成立させるについて控訴人が通常の場合以上に格別の労を取ったとか,逆に通常より著しく容易であっ たというような特別の事情,また,被控訴人が本件売買契約締結及び履行のために格別の出捐をしたという事情は窺えず,これが解除されたことにより著しい損害を被っ たというような事情も格別見当たらないこと,被控訴人は手付金放棄による解除により,本件土地の所有権を喪失することなく2000万円を取得する結果となったこと その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,本件で控訴人が被控訴人に請求することのできる報酬額としては1000万円(消費税47万6190円を含む。)を もって相当と認める。
<<上記は、手付金放棄の解除の場合>>- 東京高等裁判所平成6年7月19日判決
(2) 控訴人は、被控訴人が国土法の届出手続以外の仲介業務をしていないことや、本件売買契約が解除されていることを理由に仲介手数料の減額を主張している。し かし、被控訴人が国土法の届出手続以外にも、本件売買契約の締結に向けて精力的に仲介斡旋活動をしたことは前記認定のとおりであり、他に特段の事情の認められない 本件では、仲介手数料を減額する事由とすることができない。また、本件売買契約についてフジ企画の債務不履行を原因として解除の意思表示がなされているが、売買契 約が成立した以上、仲介業務の瑕疵により契約が解除された場合は別として、契約当事者の債務不履行を原因として契約が解除されたとしても、一旦発生した仲介手数料 支払請求権が消滅し、又はそれが減額されるべきいわれはないというべきである。
(3) 控訴人は、被控訴人がプレストとの専任媒介契約の存在を知りながら介在してきたものであり、控訴人がプレストに対し既に仲介手数料6600万円を支払って いるから、総額で建設省告示の金額である6816万円を超えることとなる216万円以上の請求権を容認することは許されない旨主張しており、宅地建物取引業法46条1項、2項には、宅地建物取引業者は、建設省の告示額を超える報酬を受け取ってはならない旨定めていることは控訴人主張のとおりである。
しかし、前記認定のとおり、本件では、被控訴人は、プレストと協力してフジ企画との間の仲介業務を行ったものではなく、プレストとは別に仲介手数料を支払う旨約 したうえ、自ら単独で控訴人のためフジ企画との間の仲介業を行い(プレストは別の買付希望者との間の仲介業務を行っていた。)、それによりフジ企画との売買契約が 成立するまでに至っていたところ、控訴人がこれを妨げたものであるから、被控訴人の仲介手数料の金額は、プレストの受け取る金額に左右されることなく、独自に建設 省の告示額を超えるか否かを判断すべきところ、被控訴人の仲介報酬額4600万円が建設省の告示額の範囲内にあることは計算上明らかであるから、控訴人のこの点の 主張も理由がない。控訴人の主張する判例は、本件には適切ではない。
<<上記は、債務不履行による解除の場合>>- 浦和地方裁判所昭和58年12月23日判決
3 そうすると、本件仲介報酬請求権は、本件売買契約の成立により発生したということになる。
三 次に報酬額について判断する。 本件において、原、被告間に報酬額についての約定がなされていないこと(請求原因5)、本件売買契約は売主の債務不履行により解除されたこと(被告の主張1(四) )は当事者間に争いがなく、原、被告間に契約が解除された場合の報酬額についての約定もなされていなかつたことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができるから、 本件の仲介報酬額は一般事例に倣つて相当とする額ということになる。
そして、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等の媒介に関して受けることのできる報酬の額は建設大臣の告示により定められ、業者はこの額をこえて報酬を受ける ことはできない(宅地建物取引業法4条2項)とされるところ、原告代表者尋問の結果によれば、埼玉県の業者間において契約が中途解約された場合の仲介報酬額は、 予め約定のなされていないときには、当初の取引価格を修正してその2ないし3パーセントの金額を基準として双方の協議により定められるのが通例であり、法定の最高 額を直ちに報酬額とするような慣行のないことが認められ、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第3号証の記載も、業者と一般人間の場合ならば格別、業者間の 場合についての右認定を左右するものではない。従つて、右最高額を本件の報酬額とすべきであるとの原告の主張は失当である。
そうすると、本件の報酬額は、本件における取引額、媒介の難易、期間、労力その他の諸般の事情を考慮して算定するのを相当とするが(最高裁判所第三小法廷昭和43年8月20日判決・民集22巻8号1677頁参照)、これらの諸事情と前掲の当事者間に争いのない事実及び認定の諸事実を総合して認定し得る本件売買の特殊性、 とくに、契約締結に際し、売買の重要な部分を占める道路位置指定及び農地転用許可の成就について当事者間に相当の懸念がもたれていたために、手付金も授受されず、 右諸条件の成就をまつて代金を一括支払うこととされ、債務不履行による契約解除の場合には違約金1000万円を支払う旨の賠償額予定の特約が付されたこと、並びに 本件売買契約解除後原告社員葉山が被告に対し、違約金の中より原告の手数料を出してくれるよう依頼し、被告も金額については未定であるが違約金の中からこれを支払 う旨諒承したと推認し得ることとを考慮すると、右報酬額は違約金として予定された1000万円の3ーセントである30万円を相当とするというべきである。600万円の支払を受けたこと(請求原因5)は当事者間に争いがないけれども、右600万円をもつて報酬 額算定の基準とすべきであるとの被告の主張は合理性に乏しく採用することができない。- 浦和地方裁判所昭和56年3月16日 判決
まず、不動産売買の仲介の報酬は、売買の成立によって約定などによる報酬額につき発生し、その後に当事者の不履行により売買が解除されても、その報酬 額に影響を及ぼさないと解される。その理由は、売買成立により所有権移転までの完全な履行の約定がされており、その後に当事者の不履行で解除されても何ら仲介人の 責に帰すべき事由が存在しないことにある。
<<上記は、債務不履行による解除の場合>>- 最高裁判所昭和49年11月14日判決
思うに、仲介人が宅地建物取引業者であつて、依頼者との間で、仲介によりいつたん売買契約が成立したときはその後依頼者の責に帰すべき事由により契約が履行され なかつたときでも、一定額の報酬金を依頼者に請求しうる旨約定していた等の特段の事情がある場合は格別、一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行が され、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である。
そうすると、本件報酬金100万円も、特段の事情のないかぎり、右のように 取引の目的が達成されたときにのみ請求しうるものとみるべきところ、取引の目的が達成されたか否かを顧慮することなく、また、なんら特段の事情を認定することなく、 単に売買契約成立と同時に支払うとの約定があつたことから直ちに右100万円全額につき報酬金請求権が発生したとする原判決には、審理不尽、理由不備の違法がある といわなければならない。課税
手付解除された場合に、その契約当事者が取得する手付金所得は、一時所得として取り扱われています(所得税基本通達34−1(8))。
仲介手数料は、一時所得の経費になります。