養育費請求の調停で、父親は、虚偽の給与明細を出してきた

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2015.6.12mf
弁護士河原崎弘

相談:虚偽の証拠

結婚していませんが、子供を生みました。父親は認知をしてくれましたが、養育費を払ってくれません。そこで、家裁へ調停申立てをしました。
彼(37歳)は、親戚(叔父)の会社で働いており、年収7百万円前後の給料をもらっているのですが、裁判所に出してきた給与明細では、約280万円です。これは、虚偽の証拠です。 裁判所は、この書類を信用して養育費の金額を決めるのでしょうか。
彼の給料が280万円、私の年収が200万円なので、調停委員は、養育費は2万円(月)だと言い、私を説得しようとするのです。

回答:真実の究明

養育費請求の調停で、相手が虚偽の証拠を提出した場合、真実の究明は難しいです。 裁判所が、虚偽であることを見抜けるかは大きな問題です。家裁の調停では、調停委員2人と1人の裁判官が意見を言います。調停は話し合いです。虚偽内容の給与明細に基づく養育費の金額には応じなければいいのです。
相手方が給与明細を出さない場合は、通常、父親の年齢(この場合37歳の)の場合の統計上の平均賃金を使います。虚偽内容の給与明細を出してきた場合は、虚偽であることを証明すれば、調停委員も、裁判官も、 相手の誠実さに疑問を抱き、それは、相談者に有利に作用します。
調停が成立しない場合は、審判(裁判と同じような手続きです)に移行します。家裁の審判は1人の裁判官が決めます。
審判に不服がある場合は、高等裁判所に対して即時抗告をできます(書類は家庭裁判所に提出する)。高等裁判所では3人の裁判官が合議して決めますので、1人の場合より、合理的な結論になるといえます。
従って、あなたは、給与明細が虚偽の証拠であることを主張し、彼の年収に見合った養育費(月額7万円)を請求し、即時抗告することまで覚悟をすればよいのです。家裁の審判手続きでは、彼の勤務先に年収を照会する手続き(調査嘱託)もとれます。
即時抗告は、書面審理です。 だいたい、申立をして4か月位で決定が出ます。高等裁判所で、家裁の審判が覆る割合は、正確にはわかりませんが、推測で、3割くらいでしょう。

判決:養育費算定に賃金センサスを使った判決

大阪高等裁判所平成16年5月19日決定(家庭裁判月報57巻8号86頁)
3 相手方の収入について
(1)相手方提出の給与支払明細書は,源泉徴収票と概ね一致しているが,給与支払明細書の記載が真実の給与支給額と一致しているとすれば,相手方は,抗告人と交際 期間中(平成12年9月から平成13年夏ころまで),毎月,本件車両の自動車ローンの負担金4万円,抗告人とのデート費用として数万円を支払い,さらにDに生活費 を渡していたということになるが,月々12万円前後の手取り給与だけでそのようなことが可能かどうかは疑問である。
(2)相手方は,当審での審尋の際,相手方が○○織布に就職したころ以降,Dが無職・無収入であり,そのため,Dが相手方の扶養家族となっていると述べているが, 相手方の給与収入だけで相手方世帯が維持されており,かつ,給与支払明細書の記載が正しいとすれば,抗告人との交際期間中は,自動車さえ保有している相手方世帯の 生活費がどのように捻出されたのかも疑問となる。
(3)また,○○織布での週6日,1日8時間の就業時間を前提とすれば,相手方提出の給与明細書に記載された給与支給額は,月1万円の交通費を含めて計算しても時 給650円となり (交通費を除外すれば時給600円となる。),大阪府の最低賃金よりも少ないし,○○織布のパート従業員の時給よりも少ないのであって,相手方 は,非常に過酷な労働条件で就労し,Dとの世帯を維持しているということになる。
  しかしながら,Eは,Dの弟であり,相手方を幼少のころから非常に可愛がっていた人物であって,相手方が○○織布に入社した際には,自らもかなりの経済的な負 担をして高級外国車を相手方の通勤用にあてがったほどである。このような好人物が,上記のような過酷な労働条件で相手方を雇用しているとは容易には考えられないし, 相手方もこれを不服に思わずに○○織布で就労を続けているとも考えにくいところである。 (4)以上にみたとおりであって,相手方提出の給与支払明細書は,相手方が○○織布から受けている給与額を正しく記載したものであると考えるには疑問があるといわ ざるをえず,相手方は,○○織布で稼働することにより,少なくとも,抗告人に告げていた程度の収入を得ていたのではないかと疑われるのであって,この明細書やこれ と概ね一致する源泉徴収票に信頼性を認めて相手方の収入を認定することは困難である。
 (5)したがって,未成年者の養育費に係る相手方の分担額を試算する際には,相手方の収入を平成14年賃金センサス(第4巻第1表F,大阪府繊維産業・企業規模 計・25歳〜29歳男子労働者)により年額378万1000円と推計するのが相当である(この推計額は公租公課を含むものである。)。

登録 2008.8.13
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