(1) GUR(
ガット・ウルグアイ・ラウンド)以降の農産物貿易の概略
GURの農産物分野における包括的関税化は、1986年の協議に始まり、1993
年に合意されました。日本もこれによって、コメの特例措置を除く全ての農産物が自
由化された形になりました。したがって、日本国内に外国の農産物が流入してくる
のをコントロールできるのは、事実上“関税”のみとなったわけです。このGURは、そ
の後WTO(
世界貿易機構)(
世界貿易機構)の体制へと移行しています。
農産物の国際社会での自由化は、今後予想される食糧危機において、大きな威
力を発揮するものと思います。しかし、その前に、食料は身近で自給自足するのが、
生物体として当然の姿ではないでしょうか。また、この地球の生態系とはそのように
出来ているのであり、極端な分業化は基本的には好ましくないものと思います。
それにしても、この間、先進国の中では日本のみが農産物の輸入量が大幅に増
大しています。ここは国家の基本政策にかかわる重大問題ですから、しっかりと舵取
りをしてもらわないと困ります。何故、日本以外の先進国が、食料の自給率を70%
以上まで引き上げて行ったのでしょうか。何故、膨大な国家予算を投入してまでも、
その水準を維持しようとするのでしょうか。
結局、それは、食料の安全保証という概念から来ているものと思います。確かに、
食料においても国際的分業化という考え方もあります。しかし、ここはやはり食文化
においても、基本的には日本の伝統を守って行くべきだと思います。何故かと言え
ば、伝統的な食文化は、日本という国土の中で、また国内の各地域において、その
地元で自給できる食糧だからです。私は、食べ物は、基本的には身近で自給自足で
きるのが正しい姿だと考えています。
最近テレビを見ていて、日本政府もようやく重い腰を上げたなと思いました。大豆や
小麦等の国内増産計画を打ち出してきたからです。むろん、これにはほとんどの国民が
大賛成のようです。そこで、こうした報道を見ていて奇妙に思ったのですが、これにコメ
ントを加えている女性がそろって、“飯の食い方まで政府に指図されたくない”というよう
なことをひとこと付け加えています。これは、何を言いたいのでしょうか?私は首を傾げ
てしまいました。
うーむ...ま、何かの予防線なのでしょうか...しかし、そういう人に限ってキャビア
が好物だったり、フランス料理に凝っていたりして...まあ、私に言わせれば、四季に
合わせた日本料理こそが、日本人の心だと思うわけです。
ま、いずれにしても、政府が農政を本気で改革しようというのなら、それをしっかりと見
守って行きたいと思います。
<発展途上国の農業と新大陸の農業>
日本の食料自給率の異常な低下の他に、もうひとつ世界の農産物の流れで危機
的な現象が現れています。それは、多くの発展途上国が、農産物の輸入国に転落し
てきている点です。これらの国々は、かっては農産物の輸出国だったのです。しか
し、これはどうやら、急激な人口増加や、工業化の進展が影響しているようです。そ
して一方、これまで農産物を輸出していた発展上国の代わりに、特定の先進国が強
大な農産物輸出国を形成しつつあるようです。これは、具体的には、北米やオセアニ
アの新大陸の国々です。しかし、アフリカでのプランテーション農業は、かえってアフ
リカ全体の食料自給率という点ではマイナスに作用しています。
それにしても、大雑把な数字になりますが、フランスの食料自給率が143%。一
方、日本は42パーセント。これは心細い限りです。北朝鮮では、膨大な軍事力を維
持しながら、国民を飢えさせているとして非難されています。しかし、最近の異常気
象から、世界的な大飢饉が来たら、日本も同じ状況に陥らないという保証はあるの
でしょうか。どの国でも、まず自国の国民を食べさせるのが第一であり、日本に輸出
する余力が無くなった時、私たちはどうしたらいいのでしょうか。
日本の国力の維持という観点から、この国の人口の減少傾向が懸念されていま
す。しかし私は、この国土で自給できる以上の人口を抱え込む事に、むしろ危機感を
感じます。ともかく、日本の国土の風景が年々単調で無感動なものになって行くの
は、生態系の復元力の喪失ばかりではないと思います。そこには、精神的・文化的
な単調さ無感動が進行し、社会全体でキレるというような現象が顕在化してきている
ように思います。むろん、こうした現象には複雑な要素が絡み合っていると思います
が、国土の健全化ということも重要な要素だと思います。
さて、戦後の日本の社会は農地開放によって大きく変わりました。これほどの大
改革が出来たのは、まさに敗戦による大混乱と、マッカーサーによる占領政策の成
果といったところでしょうか。ま、この農地開放と、日本国憲法の制定は、いまだにこ
の国の枠組みとして、大きな影響を残しています。
ところで、戦前の地主小作制度からの農地開放は、零細な農地所有者を増大させ
ました。当時は画期的な大事業であり、むろん大きな成果が上がりました。そして、
それから約半世紀...農家の世代交代もあり、日本の農政の行き詰まりもあり...
うーむ、ここは何とかもう一度、新しい仕組みを組立てるべき時に来ているのでしょう
か...社会全体に閉塞感が満ちている昨今、農政や農村のあり方においても、利
権や既得権の保護を超えた自主的な再編成が求められているのではないでしょう
か。
テキストによれば、零細な農地を集積して、大規模な耕作を行うプロ経営者が必要
だとあります。うーむ...そのためには、新しい土地利用ルールの確立等も必要な
ようです。
優良な農地の確保
所有者の農地としての利用義務の明確化
利用者には社会的合理的な農地利用義務の明確化
農業サービス事業体の育成 etc...
この他にも、農村の都市住民への開放とか、生産地域と消費地域の一体的交
流とか、この国の基本的な枠組みも再構成していく必要があります。また、環境やエ
ネルギー問題にも配慮した、地域循環型の農業というものの確立も必要なようです。
これはつまり、一般的な消費から生じる生ゴミや、モミ殻等の事業ゴミ、畜産等の糞
尿を堆肥としてリサイクルしていくシステムです。こうしたものがしっかりと確立され、
さらに風力や太陽光発電等のクリーン・エネルギーのシステムが充実してくれば、少
しずつ未来型社会が出来あがってくるのかもしれません.....