UIVERSITY学習 生物の進化と多様性  / 第 2 室
 

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トップページHot SpotMenu最新のアップロード    担当 : 堀内 秀男  / 白石 夏美

 

< 第 2 室 >

  <3>  化石が物語る生物の進化 / 第6章    <対話形式>  1999.11.30
     

 

                                                      (1999.11.30)

 <3> 化石が物語る生物の進化 第6章

         h10.915.2.jpg (1343 バイト)index.1102.1.jpg (3137 バイト)  < 対 話 形 式>    wpe74.jpg (13742 バイト)  wpe77.jpg (44163 バイト)

                               

「堀内さん、今回は、対話形式の授業ということになりました。よろしくお願いしま

す。」白石夏美が、テーブルの上に資料を置きながら言った。

「こちらこそよろしく。先日のエリザベス女王杯は残念だったね」

「あら、」夏美は笑窪を作り、ニッコリと笑った。「見ていらしたんですか?」

「ああ。連下のフサイチエアデールは取っていたのにね」

「はい。メジロドーベルではなく、エリモエクセルを軸にしてしまいました。うーん、残念

でした...」

「ま、そうしたものさ...さて、始めるかね」

「はい」

「うむ...テキストを半分ほどざっと読んでみたんだが、初心者にとっては、最初の

方はずいぶんと難しい内容だね。そこでだ、初心者にも興味深いあたりから始め、き

わめて専門性の高い最初の章は後に回そうと思う。かまわんかね、白石君?」

「はい。私のほうはかまいません。すべて堀内さんにお任せしていますので、」

「うむ。ありがとう。では、まず今回は、進化の系統樹関係の第3章、4章、5章を抜い

て、第6章の“化石が語る生物の進化”に入ろうと思う。第3章の“生物界の分子系統

樹”、第4章の“動物ゲノム進化の道筋”、それから第5章の“動物の系統樹”は、少

し後にまわす事にするか、一番最後にしようと思う

「はい、」夏美は、コクリとうなづいた。

 

 

 (1) 地球の年零と生命の初期進化                 

 

「まず、よく知られているように、地球の年零は、約46億年。そして、テキストによれ

ば、最も古い堆積岩(グリーンランドで発見)は約38億年前とある。つまり、少なくともそれま

でには海が形成されていたということになる。そして最古の生物の痕跡は、35億年

前の地層から発見されたラン藻と思われる微化石(西オーストラリアで発見)だ。大きさが数

ミクロン程度の原核生物のようだ」

「これがつまり、ストロマトライトでしょうか?」

「うむ。シアノバクテリアの集団塊だ。グリーンランドやオーストラリアで発見されたこ

れらをストロマトライトという。この頃はまだ、地球にはパンゲアという一つの巨大な大

陸しかなかった。」

「つまり、実際には、この二つの地域は近かったのかもしれないと、」

「うむ...それから、この35億年前頃の海水には、分子酸素が存在していない。し

かし、シアノバクテリアは光合成によって二酸化炭素から糖を生産できた。そして、こ

の化学反応の過程で、分子酸素を放出した。いいかね、この最初の生物が、酸素を

放出したというところが大事だ。つまり、こうして、地球表面に酸素が蓄積されてきた

わけだ」

「水蒸気の紫外線分解はどの程度なのでしょうか?」

「うーむ、量的にはたいしたことがない様だね。ま、講義の中で、少しずつ分かってく

ると思う。それよりも、なぜシアノバクテリアであり、この惑星に、大量の酸素が蓄積

されてきたかだ。まるで、この惑星に、巨大生命圏を出現させるかのようにだ。この

ホームページのテーマの1つである“人間原理”の考え方からいけば、まずここに人

間ありだから、当然ということになるがね。いずれにしても、我々に確実に分かってい

ることは、この惑星に人類文明があるということだ。すべてはここから出発している。

いいかね、これはテキストの話からは少し脱線するが、最初にあったのは、原始の

海ではない。最初にあったのは“今”なのだ。ここからすべてが拡大している」

「はい...」

「さてと...46億年前に地球が誕生してから、5億7000万年前までの間。これを先

カンブリア時代という。これは、次に来る古生代のカンブリア紀の前という意味だ。こ

の期間は別のいい方をすれば、最初の生命の痕跡から、約30億年が経過するまで

の期間だ。この30億年の間に、地球の大気中の酸素濃度が確実に上昇している。

つまり、これはシアノバクテリアの仕業というわけだな。そして、それと共に生物体も

進化している。原核生物から真核生物へ、そして多細胞生物の出現へと多様化して

行く。

  そして、先カンブリア時代の末期から古生代のカンブリア紀へ入ると、生物の大爆

発が展開する...うーむ、いずれにしても、酸素濃度が“パスツール・ポイント”を越

したことが臨界点だったようだ」

「“パスツール・ポイント”について説明していただけますか」

「うむ。パスツール・ポイントは、具体的には大気中の酸素濃度が1%のことだ。いい

かね...デンプンに酵母を加えると、いわゆるアルコール発酵をおこす。これによっ

て、デンプンはアルコールに変わるわけだな、」

「はい、」

「この反応が進行するには、酸素濃度は1は%以下でなければならない。すると、酸

素濃度が1%を越えるとどうなるか...アルコールは出来ずに、二酸化炭素と水が

できる。デンプンはアルコール発酵を起こさずに、単に二酸化炭素と水に分解してし

まうわけだ。しかし、いいかね、ここが肝腎なのだ。デンプンは、アルコールになるよ

りも、二酸化炭素と水に分解された方が、19倍ものエネルギーを発生する!」

「それが???」

「つまり、大気中の酸素濃度が1%を越えると、いわゆるアルコール発酵は起こら

なくなり、デンプンは二酸化炭素と水に分解されるようになる。そして生物体は、アル

コール発酵の19倍ものエネルギーを手に入れることが出来るようになる。ここから、

生物が爆発的に増大していくことになるわけだ。多様性の面でも爆発していく...」

「すごいですね」

「うーむ...私も参考になることが多いね」

 

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「お茶をどうぞ...」ミミちゃんが、後ろのテーブルにお茶を並べて言った。 

「おお、ミミ君か。ありがとう」堀内は言った。「では、夏美君、一休みして、お

茶でもいただくとするか、」

「はい。ミミちゃん、どうもありがとう」

「うん」

「講義は難しいかね、ミミ君?」堀内は、茶碗を口へ運びながら言った。

「対話形式だと、分かりやすいです」

「そうか...それは良かった」

 

 

<エディアカラ化石群>

 

「さて...この化石群は、オーストラリア南部のエディアカラ丘陵という所

で大量に発見されたものだ。先カンブリア時代の末期、今からおよそ6億

年前といわれている。この後、5億7000万年前から古生代のカンブリア

紀が始まるわけだから、それより少し前ということだね...これは、この地

球上で見つかっている最古の大型生物の化石ということになる。ストロマト

ライトは大きさが数ミクロン程度の微化石だからね」

「どんな生物なのでしょうか?」

「うーむ。特徴的なのは、軟組織だけの生物体だということだ。つまり、ま

だ骨格や殻のような硬組織が発達してきていない。最大で、1メートルに達

するものもあるが、当時の海には外敵というものがいなかったのだろう。そ

うした原始の海で、のどかに繁殖していたわけだ」

「これらは、今も残っているのでしょうか?」

「少し前までは、クラゲやゴカイなどの仲間と考えられていたようだ。しかし

最近は、ベンドゾア生物という、全く別のものと考えられている。構造は隔

壁のあるエアマットのような状態で、口もなければ消化器もない。つまり、

内部構造がないわけだ。こうした化石は、このエディアカラ丘陵だけでな

く、アフリカ、イギリス、ロシア、カナダ、中国などでも見つかっている。しか

し、いずれも、爆発的な生物の大発生となる古生代のカンブリア紀までに

は絶滅している」

「それが、化石から分かるわけですね」

「うむ。それ以後の地層からは、全く発見されなくなるからね。これは“進化

の袋小路”だったといえるわけだ。しかし、だからといって、このベンドゾア

生物が無意味なものだったというわけではない」

「はい...」

 

<バージェス動物群>

 

「さて...バージェス頁岩は、カナダのロッキー山脈で発見されたカンブリ

ア紀中期の地層だ。しかし、これについて説明する前に、5億7000万年

前から始まる古生代のカンブリア紀について説明しておこう。生物の歴史

は、こ先カンブリア紀カンブリア紀との間で大きく分かれている。つまり、

このカンブリア紀から、まさに生物が爆発的に増大してくるわけだ。最初の

生物が発生して以来、30億年もの間、古代の海は静かでのどかだった。

しかし、カンブリア紀からは、突然、多細胞生物が爆発的に大増殖してい

る。生物進化の多様性も大ブレイクするわけだ。この要因が、つまり

 

  “大気中の酸素濃度が1%に達するパスツール・ポイント”

 

だと考えられる。生物体は、アルコール発酵の19倍ものエネルギーを容

易に手に入れることが出来るようになったわけだ。いってみれば、木炭自

動車からガソリン自動車に変わったようなものだ」

  夏美は、コクリとうなづいた。

「それでパスツールポイントが重要になってくるわけですね。地球大気の酸

素濃度がパスツールポイントを超え、先カンブリア時代が終了すると、」

「うむ。しかし、このパスツール・ポイントは、原核生物から、真核生物の発

生時期だったという意見もあるようだね」

「酸素濃度は、今もどんどん上昇しているのでしょうか?」

「どうかな...いや、それはないと思う。ともかく、現在の約20%が最適

だ。これよりも1%でも酸素濃度が高くなると、発火点が低くなってしまう。

つまり、火事が起き易くなるわけだな。まず、何と言っても、森林火災が急

増してくるはずだ。それに、石油や石炭もやたらに燃えやすくなるだろう。

そうなると、この地球上に生命体は住みにくくなる。これはテキストにはな

い話になるが、現在のこの奇跡的に安定している状態は、」

「じゃ、相当に、微妙なのでしょうか?」

「ま、そう言うことだ。いいかね、この現在の状況は、非常に微妙なバラン

スの上にある。地球の現在の状況は、ちょうど水が3つの相を常に遍歴し

ている。つまり、水蒸気である気体と常温での液体、そして氷という固体の

相を、大規模なレベルで循環している。海水が水蒸気となって蒸発し、雨

や雪を降らせるのを見ても分かるだろう。この地球の温度の微妙さは、我

々生命体の体温の微妙さにも似ている...」

「はい...」

「これは、太陽の放射熱や、地球の惑星軌道距離、大気圏の成分や厚さ

等、様々な要素が絡み合って、この今の地球表面の温度が保持されてい

る。ま...くり返しになるが、この奇跡的なバランスの上に、地球の巨大生

命圏が形成されているわけだ。そして、有機質の生命体を数十億年にわ

たって育んできた...これをどう思うかね、夏美君?」

「裏返せば、“人間原理”の発想ということでしょうか?」

「うむ。さて、テキストに戻るとするかね」

「はい。ええと...バージェス動物群の説明からです。」

「うむ。この、カナダのロッキー山脈で発見されたバージェス頁岩は、カンブ

リア紀中期の地層だ。大量の化石が含まれていて、軟体部の細部にいた

るまで非常に良く保存されているようだ。特徴的なのは、まだ無脊椎動物

ただということだ。しかし、先カンブリア時代の生物と異なる点は、殻や、骨

格などの硬組織を持つグループが出現し始めてくることだ。その代表格

が、有名な三葉虫だ。これは節足動物だが、カンブリア紀に大繁栄を誇っ

ている。その他に、海綿類、腕足類、古杯類などがあるが、他にも多様な

動物がいた。ちなみに、バージェス動物群は、門レベルで30に区分されて

いる。そのうち、現在知られている門は11のみで、残りの19門は所属不

明の未知グループになる。ま、こうしたグループは、後の世代に子孫を残

せず、絶滅したのだろうね。ま、全体的に、生物進化の試行錯誤が展開し

ていたようだ...」