「はじめまして、会議室担当の里中響子と申します」
里中は、二人が談笑しているテーブルの方へ行き、微笑して頭を下げた。二人はス
ッと椅子から立ちあがり、握手の手を差し出した。
「やあ、青木です」
「堀内です」
里中は、一人づつていねいに握手を交わし、椅子に掛けた。
「ええ、青木さんは、政治・経済・軍事方面ということで。それから、堀内さんは、科
学・環境・厚生医療方面ということですね」
「ま、一応そうなっています。しかし、そう割り切れるというものでもありません」青木
は、タバコに火をつけながら言った。「そうかといって、私に物理学のことを解説しろとい
われてもできませんがね」
「たとえば、」と、堀内が慎重に言葉を選ぶように言った。「J−1会議室は、政治・社
会となっていますが、どちらにとっても関連があるし、きわめて重要に場所になります
です」
「ええ。はい。よく分かっております。ええ、それでは引き続き、第1回/J−1会議の
方へ移っていただきたいと思います。よろしでしょうか?」
「ああ、」青木は、灰皿の上でタバコをもみ消した。
三人は、閑散としているロビーのテーブルから立ちあがった。広く観葉植物のあふ
れるロビーは、天井も壁もガラスになっていた。が、壁の窓ガラスは外へ開け放た
れ、新鮮な外気が吹き抜けている。会議室も含め、このブロックのサイバースペース
は、すべて里中響子の設計によるものだった。
天井のガラスから入る太陽の光を受け、様々な観葉植物や花が光を反射している。
しかし、すでにその光に夏の輝きはなく、落ち着いた秋の光に変っていた。
「夏からずっと、ここの準備をされてこられたそうですね」堀内が、会議室の方へ歩き
ながら、里中響子の肩に声をかけた。
「ええ、大変でした。設計は好きなのですが、各会議室からロビー、レストハウスのデ
ザインまでありましたから、」
「ほう、レストハウスがあるのですか?」青木が聞き返した。
「はい。それから、街にはレストランや食堂もあります。これらは、いずれ他のブロック
やエリアと結合していきます。あ、それからこのロビーの天井と壁面のガラス部分は、
開閉式のシャッターが下ります。」
「将来の展望が楽しみですな」
「こちらの方は何とか。設計は楽しいですわ」
三人は、J−会議室の方へ廊下を回り、そこから最初のJ−1会議室のドアを押し
た。