「東京はもう、桜も散り始めたよな.....」
ポン助は、杯の中に桜の花びらが舞い落ちたのを見つめた。それから、桜の枝を見
上げた。すると、サーッ、と微風が渡って来て、花びらが一斉に舞い落ちてきた。その
一枚が、また酒の上に浮かんだ...ポン助は、その杯をキュッとあおった...
「おいしい?」ミミちゃんが聞いた。
「うまいよな...」ポン助は、花びらが風に乗って流れていくのを見送った。
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「ええ...My Weekly Journal 編集長の、津田真です...前回は、マチコさんひと
りに頼みましたが、今回は大丈夫!」
「はい!」マチコが、嬉しそうにうなづいた。「でも、私に出来るかしら?今回は、ちょっ
と長そうなので、私ひとりでは心配です」
「はっはっ、大丈夫!ええと...今回のテーマは、“何のための浄財か!”だね。
うーむ...これは、たびたび取り上げている事だが、公共放送のNHKに関する苦
言になる。まあ、こうした社会情勢だから、あえて、繰り返し、苦言を申し上げるという
ことだな...嫌われ者は覚悟で、誰かが言わなければならないことだ」
「はい!」
「まあ、最近の日本は...何故か、本当の事が言いにくくなり、マスコミに載せられ
て、“裸の王様”が何人も闊歩している。“世代交代”、“人心一新”が必要な御時世に、
老人グループがしがみ付いている。それが、この国の改革の道を阻んでいるわけだ」
「うーん...テレビでも、相変わらず、顔ぶれが同じですよね」マチコは、脚を組み上げ
て、片手で自分の茶を取り上げた。「日本をこんな事にしてしまった政治家たちが、この
国の将来をどうのこうのと言っていますよね...」
「うむ、その通りだ。そうした政治家も、“裸の王様”の部類に入るわけだが、本人はそ
れが分っていない。いずれにしても、日本が未曾有の大混乱に陥ってしまった現状に
ついて、国会でもマスコミでも、誰も本格的な追求をしていない。そのために、本来、厳
しく責任追及されるべき政治家や官僚や、マスコミ人が、依然としてトップに君臨して
いるわけだ。これでは、国家や社会の改革など、進むわけがない」
「ようよね...」マチコは、両手で握りしめていたお茶を、そっと口に当てた。「その人
たちが、“裸の王様”なのかしら?」
「いや、“裸の王様”と言うのは、少し違うねえ...
私がそう言うのは、芸能人なんかで、本当は嫌われているのに、やたらにテレビに
出てくるような人のことだ。それから、有名人の2世などは、親の七光りでマスコミに登
場してくるが、実は“そのコト”そのものが、国民から嫌われ始めているということだ。国
民は、2世議員を嫌うように、スターの2世だって好きなわけがない。その人に、本当に
スター性があれば、話は別だがね...」
「うーん...」マチコは、もう一口お茶を飲んだ。
「さて、現在、日本の状況は、“建国以来の国難”と言われています」津田は、口調を
改めて言った。「それは、この国の文化の、“花”や“葉”の部分がほとんど萎(しお)れ
てしまい、モラルハザードが社会や経済に蔓延し、構造的不況がさらに国民の心を
蝕んでいるからです。いったい、これほど“文化”がないがしろにされ、勇気や努力や
勤勉という“慣習法”が無視された時代が、かってあっただろうか...」
「はい...」マチコも、組んでいた脚を下ろし、膝に両手を置いた。
「また、社会で堂々と、“悪事”がまかり通り、“刑務所の塀の中”が面白おかしくから
かわれ...そうした“善悪の境界”というものを、灰色にしてしまった時代が、かって
あったでしょうか...
そのために、青少年が酒を飲み、タバコを吸い、“オヤジ狩り”や“援助交際”をやっ
て、それで平気でいられる社会風土になってしまったわけです...いったい、誰がこ
んな事にしてしまったのか...まさに、この国は、建国以来の未曾有の大混乱に陥
っているのだと思います」
「うーん...そして、誰も責任が追及されていないし、罪にも問われていないわけよ
ね。善悪の境界も灰色だし...これでは、この社会を変えるのは、容易ではないわけ
ね」
「うむ...こうした折、問題の当事者ともいえるマスコミですが...」津田も、湯飲み
茶碗を片手でつかんだ。「何故か、“新しい日本文化の創出”の代わりに“野球”を押
し付け始めています。また、“国民的な大討論”の代わりに、“食い物の話”や“芸能
人の話題”を流し続けています。いったい誰が、こんなことを画策し、推進しているの
でしょうかねえ、」
「うーん...マスコミが、“コネ人事”などで、力を落しているからでしょうか?」
「まあ、それもあると思います。しかし、“野球”を押し付けたり、“国民的な大討論”か
ら話題をそらしているのには、明らかな作為が感じられますね。しかし、それは当初
のもくろみを超えて、国家全体を非常に“危険な方向”へ導く要素をはらんできたよう
です」
「はい...そうなんでしょうか?」
「まあ、私も、これが杞憂(きゆう/取り越し苦労)であってくれればいいと思っています。それ
から、日本の社会に、新たな支配階級というか、上流階級のようなものが形成されつ
つありますねえ。今後、さらに国民に対する弾圧的なマスメディアの支配が続けば、そ
の方面への反動も心配されます」
「はい」
「さて、私の感覚では...
日本はこうした中で、“背水の陣”にあります。そして、まさにこんな時に、NHKはほ
とんど何もしていないという不満があります。いや、こんな折に、何故、野球なのかと
言いたいですね。やる事をやった上での、野球なら、いいですがね、」
「はい」
「まさに、国民は、何のために“浄財”で、NHKを支え続けているのかということです。
NHKは、単に“関係者のメシの種”として存在しているわけではないのです。この国
の、唯一の公共放送なのです。民放と同じような事をやっていたのでは、困るわけで
す」
「そうですよね」
「冒頭でも言いましたが、“高校野球、大リーグでの松井選手の活躍、プロ野球、相
撲、ドラマ、歌謡曲、クイズ”...この程度のものを、わざわざ“国民の浄財”で支える
必要が、はたしてあるのでしょうか。こうした娯楽的なものは、コマーシャルベースの
民間放送でも十分にこなせるはずです」
「ええ」
「まあ、国民としても...船が嵐の中で難破しかけている時に、公共放送にそんなも
のを期待していないはずです。まさに、こんな時こそ、嵐の状況をしっかりと見極め、
分析し、ピッチング(縦揺れ)とローリング(横揺れ)を最小限におさえ、“国民から任されて
いる操舵手の任務”を、しっかりと遣り遂げて欲しいという事です。
それが、NHKを“国民の浄財”で支えている意味なのではないでしょうか。こんな
簡単な事は、是非分ってほしいと思います」
「あの、編集長...」マチコが、ノートパソコンのメモを見ながら言った。「先日、衆議
院と参議院で、NHKの決算が承認されましたよね?国会が、こんな状況を、承認し
たという事なのでしょうか?」
「うーむ...どうも、そういうことだろうねえ...
NHK運営委員会も、国会も、何をやっているのか良く分らない...まあ、国会は、
社会保険庁が厚生年金の積立金で、職員の官舎を建てていたのも認めていたわけ
ですからねえ。その程度が、国会審議の実態なのかも知れません...」
「うーん...結局、あの社会保険庁の官舎は、どうなったのでしょうか?」
「国会が承認したとしても、国民としては、絶対に承認するわけには行かない問題だ
ろうねえ。だから、私は、“情報公開”と“国民参加型の評価システム”の確立が急務
だと言うわけです」
「はい!」
「ところで...最近、NHKで、“年金問題”で3日連続の特集がありましたね」
「あ、はい」
「まあ、あまり白熱した議論にはならなかったですがね。設定が、あまり良くなかった
のでしょうか。連合・会長の笹森さんの意見が、印象に残っている程度です。あれは
確か、年金の水準は、“豊かさ”を求めるものではなく、“安心”を求めるものだ、という
ものでした...」
「うーん、はい...」
「国家が大混乱の時ですから、NHKにはこうした番組を、毎日、1年中、白熱した議
論をやって欲しいですね。現在の日本には、国民が大議論すべき課題が山積してい
ます。そして、まさに、こうした討論の場を、“国民の浄財”で支えられているNHKは、
しっかりと提供すべきなのです」
「どうして、NHKは腰が重いのかしら?何故なのでしょうか?」
「そうだねえ...
いわゆる“組織”というものは、そんなものなのでしょう。官僚組織や地方行政組織
も、そうですからねえ。NHKは、前にも言いましたが、“日本のミニチュア”のような解
放系システムです。しかし、わざわざ“国民の浄財”で支えるほどの意味のない組織
なら、国民としては“聴視料”を拒絶すればいい訳です。そして、“新しい公共放送を
再編成”する事です。これは、国民としての、“正当な権利”でしょう」
「はい。これは、単純明快ですよね」
≪国民に対する弾圧・・・≫

「さて...
くり返しになりますが、国民が公共放送のNHKに求めているのは、“正しい社会”
を演出する“旗振り”の仕事です。また、文明の進展や、時代と共に変化していく、こ
の国の民主主義社会を見守り、“時代の舵”をしっかりと取って行くことです。
また、あえて言えば、再びかってのような、国家全体を戦争に突入させるような事
態には、絶対に導かないで欲しいという、願いが込められています。いったいこの願
いに、NHKは、しっかりと答えているのでしょうか」
「うーん...」マチコは、腕を組んで、首をかしげた。
「まあ、状況は、“黄色信号”から“赤信号”へ移行しつつあるのではないでしょうか。
何となく自衛隊が海外へ派遣され、“国家主義”が台頭し、“国民全体が抑圧”されつ
つある様に感じます。冗談が、冗談でなくなりつつあるのを、感じるわけです...
大多数の国民が、日々、非常に苦しい生活を強いられています。しかし、テレビ画
面からは、そうした臭いが、すっかり消し去られています。“明るい話”、“元気を出せ
という掛け声”とは裏腹に、“国民に対する弾圧”が、徐々に進行しているのかも知れ
ません...
“医療費の負担増”や、“今後予想される増税”の背後で、憲法問題や有事法制が
議論され始めています。これそのものを議論する事は、決して悪い事ではないと、私
は思います。しかし、国家が未曾有の大混乱の折に、しかも出口も見えない状況下
で、それが議論されている事に、少なからぬ不安を感じます...」
「はい」
「政治の無気力...マスコミ文化の単調化...解決策が示されないモラルハザー
ド...これらは、本来、景気の上向きで解消できるものではありません。放置してお
けば、事態は悪化する一方です。また、長い不況の中で、国民生活は益々苦しくなっ
ているのが実状です。
こうした状況下で、軍事力である自衛隊が動き始めたわけです...今後、こうした
流れは、益々加速していくでしょう...アメリカも、その気で日本をグイグイと押してく
るでしょうし、」
「アメリカに、ついていく方がいいのでしょうか?」
「まあ...私は、アメリカという国は好きです。それに、アメリカも、いろいろな側面を持
つ国だということです。また、大統領が変われば、アメリカの政策そのものも、大きく変
わるということがあります。
こうした事を、全て考慮した上で...さて、現在のイラクの状況や、パレスチナ問
題への対応は、素直に賛成できないものがあります。こうした状況下での、自衛隊の
海外派遣になったわけで、今後の推移が、非常に気になるわけです」
「うーん...危険な臭いがするのでしょうか?」
「うーむ...私は、それを危惧しています...良くするも悪くするも、日本の社会は
今、大きく変わろうとしているのではないでしょうか。悪くすれば、戦前の国家主義や
軍国主義のような臭いが出てきます...一方、私としては、“新・民主主義”の時代が
到来する事を願っているわけです」
「はい...でも、本当に、そんな事態が進行しているのでしょうか?」
「ま、実際の所は、分りません...
ただ、国民もマスコミも、本当に言いたいことを言えないような現実も出て来ている
わけです...テレビでは、上意下達的に、人気者は松井選手に集中しています。ま
るで、他の選手や、他のスポーツは存在していないかのようです...
それから、テレビ・通販や保険なども、コマーシャルを流している企業の寡占化が
進んでいるように思います。つまり、多様性が失われ、文化面での風景が非常に単
調になってきているわけです。これは、非常に危険な傾向だと思います...」
「はい...」
「だから私は、“情報公開”と“国民参加型の評価システム”の確立で、新・民主主義
社会への脱皮を急ぐべきだと、主張しているわけです」
「現在、この国の文化は、危うい所にあるのでしょうか?」
「このまま行けば...弱さの反動から、国家主義や民族主義が台頭する芽が出て来
る...可能性があります。それは、戦後もっとも警戒していた、戦前への回帰になっ
てしまう可能性があります...ま、国民の思いとは裏腹に、思わぬ方向に流れていく
危険があるということです」
「うーん...だから、NHKの役割が、非常に重要だということですね、」
「そうです。アメリカの大リーグの試合を中継したり、日本の巨人軍の試合を増やした
りと言うのは、本末転倒でしょう。“国民の浄財”で、公共放送を運営して行くのであれ
ば、まず“正しい社会の器”を創出し、“時代の舵”をしっかりと取っていく事に専念す
るべきです。
息抜きの時間に、音楽や文化的な娯楽番組が入るのは結構ですが、現在のNHK
は、まさに、それが逆転しています。
NHKには、はるかな“大所・高所”から、時代を見つめ、世界と日本を見つめ、この
“日本丸の舵”を、しっかりと取って行って欲しいと思います...それが出来ない時
は、公共放送の“解体再編成”が必要になります...
...まあ、現在のNHKの状況を判断するのは、この国の主権者である、国民自
身の仕事です。そして、どうしても現在のNHKの体制が、納得できないと言うのであれ
ば、“聴視料”を一時的にストップすることも要です。そうした行動を取らないのであれ
ば、現在の状況を“承認”した事になるわけですから...」
「はい」
「まあ、私としては、NHK自身が、“徹底的な構造改革”を断行することを願っていま
す。ただし、もう残された時間は、あまり無いと思います...」
「うーん、はい!」
≪惑星・地球史・・・46億年の頂点で・・・≫


「さて...
NHKが、“公共放送”に名をかり、自分たちの好き勝手な番組を制作し、国民の浄
財を“メシの種”に変えているのであれば...もし仮に、そうなのであれば...ぜひ
考え直して欲しいと思います。そして、何とか、この国が立ち直る方向へ、大きく舵を
切って欲しいと思います。
何故なら、まさに現在、この国は未曾有の大混乱の真っ只中を漂流しているから
です!“21世紀初頭の嵐の海”を、操舵手がいないまま、荒波にもまれています」
「はい!」
「この時代に生まれてきた私たちは...この難しい21世紀初頭という時代を切り抜
け、安定した次の時代へ、文明を受け継いで行く、非常に重い責任があります。まさ
に、この時代に生まれた者の責務だと思います。そして、その後は、おそらく人類文
明は、ある種の安定期に入っていくものと思います...」
「はい...」
「人類文明は、その“文明の暁”から、まだわずかに1万年弱...また、あの18世紀
の、蒸気機関車に代表される“産業革命”からは、わずか200年余り...そして、
21世紀に突入した現在、第三の波の“情報革命”が爆発し、まさにそれが加速中で
す...
この加速は、いったい何処まで続いて行くのでしょうか...はるか、太陽系の果て
まで続いているのでしょうか...高杉・塾長によれば、人類文明の版図が、広大な
太陽系空間にまで拡大した時、1つの安定期が到来するといいます...さあ、そうし
た“超越的な時代”を、はたして人類は迎える事が出来るのでしょうか...」
「うーん...いずれ、そうした時代がやってくるわけですよね。私たちはいないけど、」
「高杉・塾長が言うには...人類文明は今、惑星・地球史の46億年の頂点にあり、
“非常に特異な今”を、“今の中”へ繰り込んでいると言います...その真意は、私に
は分りませんがね、」
「うーん...」マチコは、首をかしげた。「“今”というのが、分らないわよね、」
「まあ...それは、“認識の形式”の問題だと思います...“この世の形”を、基本的
にどうとらえるかという問題でしょう...私たちは、“意識”を時間と空間の関係式で
記述しているわけですが、リアリティーは時間と空間が未分化の領域に広がってい
ます...その、“この世”というものを、塾長はどうとらえているのか、それが分らな
い...」
「はい...」
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「ええと...この辺で、まとめに入りましょうか?」マチコが言った。
「うーむ...そうだね...
ええ...私たちは、NHKが劇的に変り、日本再生が軌道に乗っていく事を期待し
ています...そのために、NHKがまずやるべき事は、“社会正義の確立”だと思い
ます。ともかく、NHKには、社会で堂々と悪事が行われている現在の風潮を、一掃す
るような運動を推進して欲しいと思います。まず、そうした“基本的な秩序”を、社会の
土台に据える事が、今はもっとも大事な仕事だと思います。まあ、ごく、当然のことな
のですがね」
「はい!」


「ええ、マチコです...今回は、これで終ります...
今、日本では“桜の開花前線”が北上しています。でも、心なしか、今年の桜は淋
しそうです...早く、この国が、しっかりと立ち直って欲しいと思います...
ええと...ポンちゃんとミミちゃんは、今回は出番がありませんでした。ともかく、
ご苦労様でした」
「うん!」ミミちゃんが言った。