My Weekly Journal  /第1編集室 医療現場からのレポート

 

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 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                       編集長 :   津田  真

  

 

 
  プロローグ

 

 ずっと健康だった私の母にガンが発見されたのは、3年近く前でした。埼玉県越

谷市の吉村胃腸科クリニックで、健康診断による血液検査で見つかりました。それ

で、癌研(東京都豊島区の癌研究会付属病院)を紹介され、検査したところ、乳ガ

ンと分かりました。

 79才の高齢でしたが、右側の乳房を完全に切除し、無事退院しました。以後の

経過も順調で、すでに2年数ヶ月がたっています。先月の3月26日には、癌研で

最後の検査を行い、一応全てが終了したようです。

 母は、乳ガンでは日本でも屈指の先生に見てもらっているのだと、自慢していま

した。私はお会いしたことはないのですが、この場を借りて改めてお礼を申し上げ

ます。病院にとっては何十人、何百人の患者の中の一人だとは思いますが、私に

とってはたった一人の母であり、かけがえのない命です。本当にありがとうござい

ました。

 

  さて、癌研の最後の検査で、便に潜血があるということでした。そこで、再び越

谷市の吉村胃腸科クリニックで見てもらったところ、手術が必要とのことです。手術

は、独協医科大学越谷病院で行うことになるようです。高齢の母も、いよいよこれ

からは病院のお世になることが多くなるのかも知れません。私も医療現場を見る機

会が多くなりそうです。

  そこで、私がナマで見た医療現場の風景をレポートしようと思います。感動する

こと、考えること、耳にしたことなどを、私なりの感性でまとめます。また、現在問題

となっている保健財政や、最新の医療情報なども掲載します。ご期待下さい!

 

   (1) 入院/4月30日の予定                                          

 

  母も82才と高齢ですので、手術となるとやはり心配です。4月15日にバリウム

を飲んでレントゲンを撮りました。それから4月20日に胃カメラで検査をするという

ことで、また2リットルあまりの液体を飲んでいました。母も、一度で済ませてくれれ

ばいいのにとこぼしていました。結局、1週間に2度胃の検査したので、体調をか

なり崩してしまったようで、手術の方が心配です。こうしたことは、手術を受ける誰も

が心配することなのでしょうが、私もそんな不安な気持ちを味わっています。いずれ

にしても、たった一つの命ですから。

 

 

                                                     (98.4.26/追加)

   (2) ピロリ菌                                                         

 

           日経サイエンス.1996年4月号

             “潰瘍の背後に潜むピロリ菌”の巻頭文より一部を抜粋

                                         (以後、この論文を参考にします。)

 

  人間の胃にすむヘリコバクター・ピロリ菌の発見と、この菌の病原性の解明は、

最近の医学会での最もホットな話題の一つである。この菌は胃炎だけでなく、胃潰

瘍(いかいよう)と十二指腸潰瘍、さらにはどうやら胃ガンにもかかわっているらし

いのである。

 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者は、高い率でピロリ菌に感染している。従来の治

療法にしたがって胃酸分泌抑制剤を飲めば、ほとんど全ての潰瘍は治るが、薬の

服用を止めるとじつに再発しやすいのである。一方、抗生物質によるピロリ菌の除

菌療法をした場合は、治った潰瘍はほとんど再発することはない。(編集部)

 

                                  *******************

                             

 さて、内容のいくつかを抜粋しますと、ピロリ菌でも病原性の強いものがあるよう

です。cagAという遺伝子をもつ菌は、炎症がよりひどく、胃ガンになる危険性もより

高いようです。

 また、ピロリ菌の感染では、数ヶ月のうちに慢性表層性胃炎に進展するようで

す。

そして治療せずにおくと、ほとんどの人は、消化性潰瘍やリンパ種あるいは胃ガン

へと進展するような、重症の慢性萎縮性胃炎を引き起こすようです。

 

 私などは、この菌に感染しているのでしょうか。この論文の見出しには、副題とし

てこうあります。

 

    “全世界の1/2〜1/3の人の胃袋には、

                   潰瘍の犯人となる細菌がすみついている”

 

  つまり、菌を持っている可能性が、かなり高いということでしょうか。それにして

も、タバコや酒などの不摂生以外の原因で、胃腸がおかされている事があるという

ことは意外でした。私なども、肝に銘じておく事かもしれません。つまり、胃腸がお

かしかったら、やはり素人療法に徹する事なく、たまには診察を受けた方が良いと

いうことでしょうか .....

 

 私の母も、このピロリ菌の薬をもらって服用しています。

 

  さて、このピロリ菌ですが、これに対しては当然体の方が免疫反応を起こしてい

ます。しかし、これがうまく機能していないことが、このピロリ菌の最大の問題のよう

です。耐性黄色ブドウ球菌が典型的な例かもしれませんが、ここにもやはり簡単に

はやっつけられない病原体があったのです。むろん、この菌を完全にやっつけるこ

とは可能なわけですが、それでは胃がもたなくなります。そこで人体は進化の過程

で、ある一つの決断をしてきていると言います。つまり、この菌と対決するのではな

く、この菌に対しては寛容となり、共存していくという道です。論文によれば、マラリ

アやらい病でも、同様な選択がなされたと思われる、とあります。このピロリ菌のケ

ースでは、宿主は免疫反応を弱めることによって適応しているわけです。

 

  また、このピロリ菌は、消化器系の炎症を引き起こすだけでなく、腺ガンやリンパ

種のような悪性腫瘍の発現にも強く関与していると思われる、とあります。母の乳

ガンは、このような所から発現してきていたのでしょうか。

 

 

                                                   (98.5.14/追加)

  (3) 手術の説明                                                      

 

  母の手術が5月18日に決まり、今日、獨協医科大学越谷病院へ、手術の説明

を聞きに行ってきました。これは聞きには行かないつもりだったのですが、母から

電話があり、結局行くことにしました。肛門より10センチメートルほど上に、ポーリ

ープがあり、それが悪性のガンだということです。今の所は、他への転移もなく、何

とかなりそうとの感触です。肛門から上の方を、15cmから20cm切除するそうで

す。いずれにしても、82才と高齢ですので心配です。

  実は、吉村胃腸科クリニックで直腸ガンだと言われた時(私は立ち会わなかった

のですが)、2年間乳ガンでお世話になっていた大塚の癌研で手術をしてもらおうと

考えました。が、姉が結局、吉村胃腸科クリニックで進められた、獨協医科大学越

谷病院に入院させました。むろん、これも御仏の深い深いお導きと思っています。

人の生死を超えた所で、人知を超えたストーリイが描かれているのですから 。

 

( ただ、癌研で2年間監視していて、直腸ガンが見えなかったのでしょうか。私の

小さな疑問です。すでに乳ガンが発現したわけですし、そんな風に直腸ガンも発現

したのでしょうか .....そうそう、そう言えば直腸ガンが見つかった時、吉村胃腸

科クリニックは、どうして大塚の癌研へ連絡しなかったのでしょうか。そっちへ一言

連絡すれば、本来癌研の患者なのですし、その方がスジが通ったはずです。い

や、改めて考えてみれば、一言癌研の方へ連絡するのが、スジだったのではない

でしょうか。直前まで2年間も、癌研の処方する薬を出してくれていたのですから。

何故だったのでしょうか?)

 

  もう、高齢の母のことなので、私自身も心残りがないように、多少言い

にくいことも書き記しました。これは医療現場に対する、一患者家族の素

朴な疑問です。こうしたことは、批判精神として、今後も書いていくつもり

です。

 しかし一方、病院へ行って、心から親切に患者に接している医師や看

護婦たちを見ていると、本当に頭が下がります。看護婦たちが、なにかと

暗くなりがちな病棟の雰囲気を、大変な努力で明るく心温まる空間に作り

替えているのが分かります。

 

 

                                                   (98.5.15/追加)

  (4) 疑惑と苦悩                                                   

  上に記しましたように、患者や患者家族の心理というものは、大変不安

定です。私も、今までは縁が無かったので、初めてこんな経験をしていま

す。そこで、ここではそんな情景、疑惑や心の葛藤を、母の闘病の記録とし

て、赤裸々に綴っていきます。

 

  さて、私は5月14日に母の手術の説明を聞くまで、まさかガンではあるまいと考

えていました。姉はそう言っていたのですが、癌研で2年間も監視していたのですか

ら、そんなはずはないと考えていたのです。そして、その監視が終わった直後に、

直腸ガンだというのです。今でも本当だろうかという疑惑があります。

 

    しかし、これが本当だったら、病院や医師を疑うことになります。心の中で疑うくらい

は罪にはならないでしょうが、親切に真剣に取り組んで下さっている方々を疑うのは、

大変失礼なことになります。一方、あらゆる分野で、全てが信用できなくなった現在の日

本の社会状況を考えると .....

 

  いずれにしても、母は高齢ですので、手術は確実に母の命を縮めるものになると

考えています。さて、私はどうしたらいいものかと思案しています。まあ、とりあえず

は、私の気持ちの整理のためにも、切除した患部を保存し、ガン細胞の確認をして

もらう事も必要かと考えています。

 

   私はこんな経験は初めてなのですが、多くの人々が、こんな経験をして

いるのでしょうか。まだ若い母親を亡くした子供、働き盛りの最愛の夫を

亡くした妻 ...たった一人で風来坊を通してきた私には、そうした人々

がみんな大変偉く見えます。

 

 

                                                  (98.5.18/追加)

  (5) 手術                                    <1998.5.18>

 

 いよいよ今日、9時から母の手術が始まります。私の心配も、取り越し苦労なら良

いのですが ...

 

  このページは、医療現場からのレポートですので、手術に臨む患者家族の不安

な気持ちも綴っています。また、しばしばマスコミで取り上げられている、医療に対

する不信や不満も記録しています。むろん、ほとんど全ての医療現場で、非常に真

面目に医療に取り組んでいることは、十分に承知しています。しかし、現在の日本

では、あらゆるものが信用できなくなっていることも事実です。確かだと思っていたも

の、信じていたもの、取り締まりかつ秩序を維持してきた側が、ことごとくデタラメを

やっていました。特に、エイズやダイオキシン、産廃汚染、高齢者福祉事業等の厚

生省関連の不祥事は、直接人命にかかわるだけに、とり返しがつきません。そし

て、医療もやはり、この厚生省の問題に入るのです。私も今、そのとり返しのつかな

いストーリイの真只中にいるのかも知れません。

 では、何故こんなことになったのか、その状況をもう少し詳しく説明します。私も、

マスコミばかりでなく、身近な人たちからも、さまざまな医療現場の不信、不満を耳

にしています。そのため、私もこの手術では大変悩みました。しかし、一方、実際に

はそんなことはなく、全ての人たちがそれこそ心を込め、寝食を忘れて取り組んでく

れているのかもしれないのです。もっとも、だからこそ、私たちは悩むのかもしれま

せん。患者のがわであり、素人でもある私たちは、一体どうしたらいいのでしょうか。

何が出来るのでしょうか。

 今回、私は母を、2年間お世話になった大塚の癌研に入院させようと思いました。

身内の恥ずかしい話ですが、それで姉たちと大喧嘩をしました。( これもまた、家族

の苦悩の風景としてここに記録しておきます。そして、母の記録ともなります。) 結

局、一番末の弟である私は負けまして、姉たちはさっさと入院させました。しかし、

ここで問題なのは、姉たちのとった行動の方が、結果として正しかったのかもしれな

いということです。緊急を要する悪性のガンだということなら、のんびりと構えている

ことはできません。そして、結局、母は私一人の母ではなく、他の3人の姉の母でも

あったのです。また、姉たちも、私と同様に、真剣に母のことを考えていたのですか

ら...

 

  ところで私は最初、母が直腸ガンだとは聞かされていませんでした。レントゲンを

撮り、胃カメラをやり、入院と聞いたので、入院はちょっと待てと言いました。2年間

元気に暮らしていたのだから、急ぐことはあるまいと言いました。やっと癌研からオ

ーケイのお墨付きをもらったのだから、高齢の母を少しゆっくりとさせてやりたかった

のです。また、すぐに入院というのも変だから、他の病院でもう一度よく見てもらった

方がいいと言いました。すると、姉は、母は悪性の直腸ガンだと打ち明けたので

す。

 そこで私は、そんなはずはあるまいと言ったのです。2年間も癌研の監視下にあ

って、悪性の直腸ガンを見逃すはずはないと主張したのです。確かに、多少の潜血

はあると聞いていました。しかし、潜血があると承知していたら、癌研はそれがガン

かどうかを調べたはずです。しかし、相手は人間の体ですから、レントゲンや胃カメ

ラで直接よく調べたら、ガンだったと言うことも、十分に考えられます。だったら、や

はり癌研へ行って、よく診断してもらうべきだと言ったのです。いずれにしても、私た

ち素人が見ても、レントゲン写真のことなど分かりません。やはり、癌研へ行くべき

だったと、私は今でも思っています。そして前にも書きましたように、吉村胃腸科クリ

ニックの方でも、とうぜん癌研の方へ一報を入れるべきだったと思っています。癌研

の患者として、2年間も癌研の処方する薬を出してくれていたのですから...

 

  さて、以上の様な状況です。いま、私はまだ手術をさせるべきかどうか悩んでい

ますが、すでにシステムは動き始めています。また、母はいずれにしても高齢です。

ただ一つ嬉しいのは、母は至って元気だと言うことです。母の体の細胞は若いと聞

いていますし、何とか乗り切ってくれるのではないでしょうか。

 

 私は今こうしてここに書いていますが、他の全ての人々も、こうした事を体験して

いるのでしょうか。いや、あのテレビ・タレントの逸見さんのように、働き盛りでいって

しまう人もいるわけです。そうした風景の全体を、凄絶と見るべきか、美しいと見る

べきか。いずれにせよ、人生に、人間に、命の歌に、深い共感をおぼえます。

                                          (5月18日、5時15分)

 

  今回は、読み返していませんので、かなり乱文になっているかと思いま

す。後で時間のあるときに校正します。

 

 

 

                                                 (98.5.19/追加)

  手術を終えて.....                                             

 

   5月18日、母の手術が終わりました。9時に2階の手術室に入り、寝台ごとエア

ロックの様な小部屋で消毒。無事手術を終えて出てきてのは、13時半頃だったで

しょうか。予定どおり手術室を出てきたので、ホッとしました。高齢ですので、そのま

ま冷たくなってしまうのではないかと、非常に心配しました。後は感染症や縫合が

ほつれないかの問題ですが、これは2週間ほどの監視が必要とのことです。こっち

の方も、無事に経過してくれることを祈っています。    

 

 

                                                   (98.6.1/追加)

  退   院.....                   

 

 5月18日に手術した母が、予定より2週間ほど早く、今日退院しました。大腸を

十数cmほど切除したのですが、回復が非常に早く、手術からちょうど2週間で退院

できました。異例なほど早い回復だったそうです。

  そういえば私は初めて気づいたのですが、手術に臨む時の母の気丈さは、異常

なほどのものでした。今までそんな気丈な母は、見たことがありませんでした。しか

も、「大丈夫、大丈夫」と力強い声で、繰り返し私達に言っていました。母は、よほど

の確信があったのだと思います。それが何だったのか、私は聞くつもりもありません

が、思い当たることは一つあります。それは、母が長い間お世話になっていた尼さ

ん(私の名付け親でもあります。母は、姫野先生とよんでいました。)から、このあた

りのことを聞いて知っていたのではないかということです。しかし、予知というもの

に、それほどの確信と信頼がもてるものなのでしょうか。しかも、これは分別から来

たものではないと思います。それこそギリギリの、裸の全人格から来た確信だった

のではないでしょうか...これには、驚きました。そして、この回復の速さです。こ

れも何だったのでしょうか?

 一方、82才という高齢での手術ということで、私の方は思いも寄らない疲労が積

み重なっていました。気にしていないつもりでも、手術の前の晩は眠れませんでし

た。また、手術が終わってからも、ツキも体力も、みんな母にくれてやったようにしぼ

んでいました。競馬はまるっきりだめでしたし、原因の分からない疲労で体調がか

なり狂ってしまいました。今日は母の退院の日でしたが、何故か目の周りにクマが

でき、げっそりとしています...

  が、ともかく、母は無事にまた私の所へ戻ってきました。今まで、母には何もして

あげられませんでしたが、これからは何とか親孝行らしいことをしてあげようと思っ

ています...