Menu生命科学(生物情報科学)免疫システムの考察免疫シナプス

                            神経シナプスと似た 

   wpe5.jpg (12116 バイト) 免疫シナプスの光景           wpe5.jpg (12116 バイト)           wpe5.jpg (12116 バイト)     

                              index.1102.1.jpg (3137 バイト)

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                       生物情報科学 : 外山 陽一郎 

     INDEX            wpe8B.jpg (16795 バイト)wpe89.jpg (15483 バイト)  

プロローグ   2006. 4.25
No.1 〔1〕 神経シナプスと免疫シナプス 2006. 4.25
No.2 〔2〕 ダイナミックに変わる、免疫シナプスの光景 2006. 5. 4
No.3 〔3〕 新たな展開/エイズウイルスナノチューブ 2006. 5. 4

  

     参考文献      日経サイエンス /2006 - 05   

                   会話する免疫細胞 D.M.デイビス  (ロンドン大学インペリアルカレッジ) 

   プロローグ             index.1102.1.jpg (3137 バイト) wpe8.jpg (26336 バイト)

「お久しぶりです。“MENU”担当の白石夏美です...

  ええ、“免疫システムの考察”のページが開設され、私がサブを担当することにな

りました。外山陽一郎さんの“生物情報科学”の分野は、里中響子さんがサブに付い

ていたのですが、“危機管理センター”の仕事量が急増していますので、私が代わっ

て担当することになりました。

  私の、この方面の仕事では、“環境・資源・未来工学”を担当している堀内秀雄

んのサブを努めて来ました。こちらの方も、仕事量が増大していますので、何人か新

規の採用があると思います。

  ええ、とりあえず、よろしくお願いします...」

 

〔1〕 神経シナプスと免疫シナプス  wpe89.jpg (15483 バイト)h4.log1.825.jpg (1314 バイト)

           index.1102.1.jpg (3137 バイト) wpe5.jpg (38338 バイト)

 

「外山さん、よろしくお願いします」白石夏美が言った。

「こちらこそよろしく...」外山は、ハンカチで眼鏡を拭きながら言った。

「さっそくですが、外山さん...

  疫系では最近、自然免疫システム“サイトカイン(/シグナル・タンパク質の総称)に関連

した“Toll様受容が話題になっていますが、“免疫シナプス”という概念は、実は、

今回初めて聞きました...」

「うーむ...そうですねえ...」外山は、ハンカチを背広の胸のポケットに押し込み、

眼鏡をかけた。「一般的には、そうかも知れませんねえ...むろん、“免疫シナプス”

いうのは新しい概念です」

「はい、」

1995年“キーストーン・シンポジウム”で、米国立ジューイッシュ医学研究センター

アブラハム・クップファーが、衝撃的な発表をしています。おそらく、それまでは、全く

知られていなかった概念でしょう...

  その時、クップファーは、免疫細胞が互いに作用しあっている様子を、初めて三次元

画像で示したのです。まさに、衝撃的な事実が、高性能顕微鏡と、最新のコンピュータ

ーの画像処理によって、三次元画像で示されたわけです」

「うーん、そんなことがあったのですか...

  1995年は、実に色々なことがあった年だと、高杉・塾長が言っていました。そんな

こともあったんですね...あの年には、阪神大震災があり、アフリカでエボラ出血熱

感染拡大があり...うーん...とにかく歴史的な事件が、集中的に起こった年だと

言っていました。

  そうそう、パソコン・OSのWindows95が発売になったのも、その年ですよね。こ

れも、世界を一変させたものの1つですわ」

「うーむ...

  そうした、色んなことが重なる年というものは、あるものなんでしょう...まあその

1995年から、10年が経過し、2006年になっています...この“免疫シナプス”とい

う概念も、ようやく10年が経過したわけです。そろそろ、新しい概念として定着して来

たと言えるでしょうか」

「はい、そういう段階なんですね」

「まあ、そのようですねえ」

「はい」

「さて...

  この概念は、免疫細胞(/リンパ球、マクロファージ、T細胞など)が他の細胞と接触する様子を、

解像度顕微鏡でのぞき、コンピューターで画像処理することによって可能になった

ものです。まあ、最近の情報処理技術の成果が、大いに貢献しているわけです」

「はい。“文明の第3ステージ/情報革命”時代の、大きな側面の1つですね」

「まさに、その通りです。今後、そうした側面の1つとして、劇的に飛躍する可能性を秘

めています」

「はい」

       index.1102.1.jpg (3137 バイト)  

「さて...この“免疫シナプス”について、話を進めましょう...」外山が、スーパーコ

ンピューターのモニター・スクリーンに向かい、キーボードを叩いた。

「はい...」夏美も、手元のキーボードを叩いた。画像をカメラ正面の、壁面スクリー

ンに転送した。「ポンちゃん、システムの維持をお願いね」

「おう!」ポン助が、壁面スクリーンの横へ行き、コンソールパネルを開いた。「いいよ

な...」

「この“免疫シナプス”の様子というのは...」外山が、壁面スクリーンの方へ目を移

した。「ちょうど、選挙の時に候補者が、次々と出会った人々と握手を交わして行く様

に似ています...」

「うーん、はい...」夏美は、首を斜めにし、外山を眺めた。

「...免疫細胞では、2〜3分程度短い接触時間情報交換をすると考えられま

す。会話を交わし、健康な細胞か、病気にかかった細胞か、応答無しか、他に抗原提

などの重要な情報を持っているかなどを聞き取ります。

  ただ、握手とは決定的に違うところもあります...免疫細胞は、選挙の候補者と

違って、異常な細胞は、直ちに毒素を送り込んで破壊するということです」

「ウイルス感染している細胞などですね」

「そうです...

  選挙の候補者と違って、免疫細胞“殺しのライセンス”と、その“殺しの機能”

持っているということです。別な言い方をすれば、“裁判権”“執行権”を同時にあわ

せ持っているのです」

免疫細胞ですもの、そうですね...ものすごい自信ですね」

「それだけ、システムの信頼性があり、複雑系の中で迅速性が求められているわけで

す」

「それが、生物体の全システムを支えているわけですね」

「そうです...

  不要になった細胞は、直ちに破壊し、全体への被害を最小に抑えるわけです。免疫

細胞自身に、事態を処理する能力の無い場合は、直ちに警報を発し、援軍を呼び寄

せます...

  それが、夏美さんが言ったような、“サイトカイン(/シグナル・タンパク質の総称)の放出だっ

たり、“B細胞”“T細胞”を活性化させたり、“抗原提示”をしたり...ともかく、異常

を知らせるわけです...生物体における、膨大な、精密きわまる、防御ネットワーク

1つです」

免疫システムは、主にウイルス細菌の侵入に対しての防衛システムですよね。不

思議に思うんですけど、こうしたシステムは、何処でコントロールされているのでしょう

か?」

「それは、難しい質問です...」外山は、掌で口をおさえた。「人体全体が、まさにそう

したシステムの塊なのです。それが、生命体の謎です...

  “神経シナプス”“免疫シナプス”は、似ているとされるわけですが、“神経シナプス

の系統でコントロールされているとは言い切れないでしょう...

  ともかく、全体が統合されて、1個の生命体なのです。したがって、無関係ではあり

ませんがね。まあ、今後、徐々に解明されて行くでしょう...

  高杉・塾長は、生命体の全システムを統合しているのは、無意識も含めた“意識”

ろうと言っています...そうなのかも知れません...あるいは、“意識”とは、それ以

上のもの...つまり、はるかに“上位のもの”なのかも知れません...」

「はい...

  免疫細胞は、まるでハイテク化した戦士のようですね。これらの軍事システムは、

60兆個人体の全細胞を、外部の侵入者から守っているわけですから、」

「うーむ...そうかも知れません...

  防御システムとしては、完璧に近いものでしょう。インターネットのファイアーウォー

のような、素朴で粗(あら)いものではありません。非常に精密で、柔軟性があり、深

遠なものです。

  本来、この免疫システムというのは、生物体が疾病(/特に感染症)に対して抵抗力

獲得するものです。“自己”“非自己”を識別し、非自己から自己を防衛する機構で

す。まあ、脊椎動物で、特に発達したと言われるシステムです」

「はい...」

「もう少し詳しく説明しましょう...

  生命というのは、ご存知のように、細胞最小単位です。多細胞生物というのは、こ

細胞の集合体です。脊椎動物のような大きな生物体になると、生物体という固有の

アイデンティティの中に、膨大な数量の微小生物体(/細菌やウイルス)が侵入してきま

す。

  まあ、ウイルス機動性・遺伝子のような存在ですから...生物体かどうかは微

妙な問題ですが...ともかく、そうした微小な侵入生物体もまた、それぞれアイデン

ティティを持っているわけです。そこで、私たちの体内で、“自己”“非自己”を識別

し、非自己から自己を防衛するシステムが必要になってくるわけです。

  こうした自己認識システムが無ければ、約60兆個の細胞から構成される人体は、

たちまち崩壊の危機に直面します。臓器移植等で、他者の臓器が移植された場合、

拒絶反応をおこすのは、このためなんです」

「はい、」

「さて...

  ウイルス等に感染した、異常な細胞を発見するのが免疫細胞ですが...何かの

原因によって、誤認することもあります...誤って、健康な細胞を殺してしまうことがあ

るわけです。膨大な細胞の海の中で、そして膨大な生物個体数の中で、誤認はごくわ

ずかでしょうが、そうした間違いが発生します...

  そうした免疫細胞の暴走が、“多発性硬化症”“全身性エリテマトーデス”など

の、“自己免疫疾患”なのです。一般的に言う、アレルギーも免疫疾患の1つです。

“殺しのライセンス”“殺しの機能”を持っているだけに、これは非常に厄介な病気に

なるわけです...」

「うーん...複雑で、精巧であるがゆえに、それが狂ってしまうこともあるわけですね」

「その通りです...

  “全身性エリテマトーデス”は、女性に多いわけですが、女性の方が男性よりも免疫

機構のクォリティー(品質)が高いようです。その高い分だけ、システムの暴走も起こりや

すいということでしょうか...」

「うーん...」

「さて...

  その免疫細胞の、接触・会話の光景が...高性能顕微鏡最新のコンピューター

画像処理の技術的展開で、しだいに明らかになりつつあります」

「はい」

「それは、“神経シナプス”とよく似た構造であることから、“免疫シナプス”という名前

が付けられました。また、“免疫シナプス”は、これまでの免疫系の概念を変えつつあ

るとも言われます。

  まさに、文字どうり神経系にも似た、非常に精密な情報ネットワークであることが分

かってきたようです...まあ、これから、本格的化するのでしょう」

「あの、外山さん、“神経シナプス”とよく似た構造というのは、どういうことなんではょう

か?」

「はい。まさにそれが、このページのテーマです...

  この免疫系システムを、“免疫シナプス”と名付けたことから、“神経シナプス”を扱

神経学者と、免疫学者との意見交換が始まったようです。そして、実際に、この2つ

タイプのシナプスは多くの共通タンパク質を使っているらしいことも、分って来てい

るようです」

「うーん...それは、そもそも、どういうものなのでしょうか?」

「はい、まずそれを説明しておきましょう」

「はい」

                   (写真/日経サイエンス/2006.05より) 

            wpe8B.jpg (16795 バイト) 

    <No.1> 神経シナプス            <No.2> 免疫シナプス

 

「ええ、まず...シナプスということについて説明しましょう...ここに、“神経シナプ

ス”と、“免疫シナプス”の図を示しました。それぞれの写真は、2つの細胞どうしの

触面を、円形の図として表示しています。その接触面の構造が、シナプスなのです」

「それは...どのようなものなのでしょうか?」 

「まず、シナプスという言葉は...“くっつける”“固定する”という、2つのギリシャ語

の単語に由来します。そして、まさにその名前の通り、シナプスは2つの細胞がくっつ

いて分子シグナルを交換し合い、しばしば結合タンパク質によって、物理的にも固定

います」

「うーん...“癒着(ゆちゃく)とは、違うわけですよね、」

「それは、いい指摘ですねえ!

  もちろん、“癒着”とは違います。“癒着”は、医療現場で見られるわけですが、しば

しば行政組織と産業界の“癒着”などというように、犯罪的な意味で使われます。本来

あってはならないことです。まあ、ともかく、あまり良い意味ではないですねえ...

  しかし、シナプスは、細胞どうしが単純に並んでいるのでもなく...“癒着”してい

るのでもなく...構造的に分子シグナルを交換し合い、特殊な結合タンパク質で固定

されているのです。つまり、精密な情報交換機能をもった、高度な組織的結合です」

「はい、」夏美が、深くうなづいた。

“神経シナプス”は、ニューロン(神経細胞)間の接続部に見られることは、よくご存知だ

と思います。これは一般的に長期間にわたって固定されています。ところが、“免疫シ

ナプス”では、だいぶ様相が異なります。

  そもそも、マクロファージT細胞などの免疫細胞は、非常に機動的に動き回って

いるわけです。そのために免疫細胞は、素早く接触し、素早く対話を交わし、素早く離

します...およそ、長期間にわたって固定、などというものではないでしょう」

「そうですね、」

「しかし、同じ生体内部のシナプスですから、当然似ているところもあるのでしょう。

“免疫シナプス”というネーミングは、正解でした。しかし、むろん、違うところも、大いに

有るわけです。

  免疫細胞のシナプスでは、細胞のタイプごとに、シナプス異なった形をしていま

すしねえ...」

「うーん...ヘルパーT細胞キラーT細胞では、シナプスの形も違うということでしょ

うか?」

「その通りです。まあ、細胞の機能が違うのですから、それは当然といえるかもしれま

せん」

「はい...」

 

  〔2〕 ダイナミックに変わる  wpe8B.jpg (16795 バイト)wpe89.jpg (15483 バイト)   

               免疫シナプスの光景

       <No.3>      index.1102.1.jpg (3137 バイト)

                      

「ええ...<No.3>の写真は...」外山が言った。

「あ、ポンちゃん、」夏美が、ポン助の方を振り返った。「写真の<No.3>を拡大して

下さい」

「おう!」ポン助が、壁面スクリーン上で、<No.3>の写真を拡大した。

「うむ...ありがとう、ポン助君...」外山が、片手を上げた。「ええ、この写は...2

つの免疫細胞が、コミュニケーションをしている光景です...

  両細胞の接触面に、黄緑色のシナプスが形成されているのが分かります。むろん、

これは、分かりやすく画像処理をしたものです。このシナプス細胞の内部から見れ

ば、同心円を描いたガスケット(うすい板状のパッキング)のような形で、ここを介して情報交換

がなされています...

  写真は、右上の“B細胞”健康で、破壊すべきでないことを、左下の“ナチュラルキ

ラー細胞”に知らせているところです...このやりとりが無い場合、ナチュラルキラー

胞”は酸性の“細胞小器官(左下の赤)シナプスに差し向け、毒液を注入し、この“B

細胞”を殺します...」

「うーん...素早く処理するわけですね、」

「そうです...

  さて...この“免疫シナプス”について、もう少し詳しく説明しましょう。まず、この

ナプスは、非常に動的なものだということです。シナプスを形成するタンパク質が、細

胞どうしのコミュニケーションが続いている間に、変化するということです...」

「はい、」

         <No.2> 免疫シナプス wpe8B.jpg (16795 バイト) 

「上の図は...先ほど示した“免疫シナプス”の概略図です。左上は、ガスケット状の

シナプスの立体構造を示したものです。右下の図は、それを平面的に投影したもので

す。

  これは、細胞間のコミュニケーションが終わり、成熟し、完成したシナプスの図です。

中心の黄緑色はT細胞レセプター赤色は接着分子です。一番外側の青色は、シグ

ナル伝達を制御している45と呼ばれるタンパク質です。

  完成したシナプスは、図のように、一方の細胞の内側から見た場合、“矢の的”のよ

うに同心円になっています。ところが、細胞どうしが接触し、コミュニケーションを開始し

時点では、この色の配置は逆になっています。つまり最初は、赤色の接着分子が中

心にあり、黄緑色のT細胞レセプターと、青色のCD45混ざった状態で、その外側

同心円状に集まっています...」

「うーん...

  つまり、“免疫シナプス”は、2つの細胞が接触し、コミュニケーションが開始されて

行くと、そのシナプス構造を、ダイナミックに変化させて行く...ということでしょう

か?」

「まさに、その通りです!

  接触当初の未熟なシナプスが、成熟して行く過程を経て、機能タンパク質の配置が

変化し、最終的な配置完了のパターンになります。上図の<No.2>は、ヘルパーT

細胞の例ですね。

  写真<No.3>は、別の種類で、白血球であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)のも

のです。ここでは配置完了になると、真中に酸性の細胞小器官(/シナプス後方にある赤い部

分)が集まり、シナプスから毒液を注入します...まあ、この写真では、B細胞が健康

で、破壊すべきではない状態を示しています...」

「その毒液とは、どのようなものかしら?」

「詳しいことは分かりませんが、細胞溶解性タンパク質でしょう。細胞の種類によって、

違うのでしょうねえ...ま、この機能そのものはキラー細胞マクロファージ(大食細

胞)などとして、以前から知られているわけです」

「はい」

免疫細胞コミュニケーションの様子が分かり、今後はその調整がどのようになされ

ているのかという、新しい科学研究の道が開かれて来たわけです...」

「うーん...そうですね。ますます奥が深くなっていきますよね」

「その通りです...

  では次に...細胞内のタンパク質は、接触面にどのように移動してシナプスを形成

するのか...どのように特定パターンを取るのかを、考察してみましょう。免疫学者の

関心は、即、その方向に動いているわけです」

「はい、」

 

          wpe89.jpg (15483 バイト)

「ええ...

  何故、どのように...機能タンパク質は機敏に、細胞と細胞の接触面に移動でき

るのでしょうか...それが出来なければ、そもそもシナプスを形成できません」

「うーん、そうですよね、」

「どの細胞でもそうですが...細胞には、“細胞骨格”と呼ばれるフィラメント(糸状のも

の)のネットワークがあり、それがタンパク質移動の、1つの原動力になっています」

“細胞骨格”ですか、」

「そうです...

  “細胞骨格”は、長さが伸び縮みする長い鎖でできていて、アダプタータンパク質

よって、細胞表面につながれています。この鎖の長さを変えることによって、細胞膜を

押したり引いたりできるわけです。筋細胞が収縮するのも、精子が泳げるのも、この動

きによるものです」

「ふーん、」

「試しに...毒素で“細胞骨格”を動けないようにすると、一部のタンパク質は、シナプ

の方へ移動できなくなるようです。

  どうやら...いつ、何処に、タンパク質を移動してシナプスを形成するかは、“細胞

骨格”フィラメントによって、コントロールしているようです。まあ、その他にも、少なく

とも2種類の機構が関与しているようですが...これからの研究課題でしょう」

「はい」

「さて...

  【1つの仮説】として...数個のタンパク質からなる小さなまとまり(プラットフォーム)が、

細胞膜上で集合し、一緒に細胞表面を動き回っている、という考え方があります...

  この移動も、もちろん“細胞骨格”が関与しているものと推定されます...このよう

な分子の“いかだ”が、相手の細胞が健康かどうかを調べるレセプター・タンパク質

共に、シナプスに運ばれて来ます。そして、それらの相互作用によって、免疫細胞が

活性化する...と考えています...」

「ふーん...話が難しくなってきましたね、」夏美が、首をかしげた。

「まあ、最先端の、研究途上の領域での話です...

  私も、完全に理解しているわけではありませんし、研究成果も流動的です...全体

の概念を把握するために、ザッと聞き流しておいてください。いずれ参考になる時が来

ます...そうした時代が、もうそこまで来ています」

「はい...」

「話を戻しましょう...

  もう1つ、可能性が指摘されています...それは、細胞どうしが接触する時に、

ナプスを形成する、各タイプの機能タンパク質が何処へ行くかは、その“物理的サイ

ズ”によって決まるというものです...

  細胞の機能タンパク質が、相手の細胞の機能タンパク質シナプスを形成する時、

双方の細胞膜は引き寄せられます。両者の間にできた隙間(すきま)の幅は、結合した

ンパク質の大きさで決まります。そうでしょう...」

「あ、そうですね...“免疫シナプス”は、双方の細胞の間で、形成されるものですも

のね、」

「そうです...そのために、小さなタンパク質が中心に集まっている時には、細胞膜は

互いに近くに引き寄せられていて、大きなタンパク質は周囲に押し出された格好にな

ります...まあ、こうした概念が検証されているということを、頭の隅に入れておいて

ください」

「はい」

「さて、次に...

  そもそも、これらのタンパク質の移動は、免疫細胞コミュニケーションにおいて、

んな意味があるのかということです。あるいは、“とくに意味はない”ということも、あり

うるわけです。しかし、ジャンク(がらくた)DNAの場合もそうでしたが、その何もないと思

われていた所にこそ、より深い意味が隠されていたこともあるわけです...」

「そうですよね、」夏美が、うなづいた。

「ちなみに、初期の頃には...“免疫シナプス”は、相手の細胞に向かってサイトカイ

を分泌するための、ガスケット(うすい板状のパッキング)のようなものと考えられていまし

た。しかし、“免疫シナプス”には、別の機能もあることが、しだいに明らかになって来

ています」

「はい、」

「それは、免疫細胞の種類によって違いますが、会話の開始や終了のシグナル

あるいは、細胞間シグナルのボリューム調整機能などが考えられるようです。例え

ば、キラーT細胞抗原提示細胞の会話のボリューム調整機能です。

  キラーT細胞は、レセプターを介して、あまりにも多くの抗原による刺激を受けると、

死んでしまいます。しかし、逆に、ごく少量の抗原しかない場合は、シグナルが非常に

微弱になってしまいます。そこでキラーT細胞は、“免疫シナプス”レセプターを増減

させて、シグナル量調節しているようなのです」

「うーん...分かりやすいですね、」

「それから...

  病気にかかった異常細胞の場合...細胞表面上のタンパク質の欠損などにより、

“免疫シナプス”パターンに影響を与えているようです...パターンの違いは、標的

細胞不健全性を反映しているとも考えられます。したがって、最終的に毒素を注入

するかどうかに、何らかの影響を与えていると考えられるわけです...

  まだ、ともかく、研究が進められている段階なのでしょう...」

「うーん...色々なことが分かってくるんですね、」

サイトカイン(シグナルタンパク質の総称)も含めて、免疫システムの全体像が、まだまだ研究

途上です。しかし、免疫細胞生きた姿を画像化できるということは、大きな意義があ

ります。

  ちなみに、免疫細胞が、疾病を認識する時に働く表面タンパク質は、すでにほとん

どが特定され、名前も付けられているようです」

「はい、」

 

    <No.4>    index.1102.1.jpg (3137 バイト)

「上の<No.4>の写真は、右上の2個が、キラーT細胞です。もちろん、分かりやすいよ

うに、コンピューターで画像処理されています。それが、中央の病気にかかった細胞

(/中央の薄暗い細胞)を、破壊しようとしているところです...

  有毒な細胞溶解性タンパク質(/緑色)が、“細胞骨格”フィラメント・タンパク質(/赤

色)によって運ばれ、キラーT細胞標的細胞の間にできた“免疫シナプス”に移動して

い行くころです...この後、細胞溶解性タンパク質は、シナプス構造の中心部から、

標的細胞に注入されます...」

免疫細胞は、こうやって異常な細胞を処分し...病気感染症から、生物体をガッ

チリと守っているわけですね」

「そういうことです」

  〔3〕 新たな展開・・・  wpe5.jpg (12116 バイト)      wpe5.jpg (12116 バイト)     wpe5.jpg (12116 バイト)   

        “エイズウイルス”“ナノチューブ”

  <No.5>      index.1102.1.jpg (3137 バイト)  

                 

「さて...<No.5>の写真を見てください...

  これは非常にビックリす写真です。ごく最近ですが、この“免疫シナプス”のシステ

ムが、エイズ(AIDS/後天性免疫不全症候群)の原因となるHIVウイルスなどによって悪用され

ているというレポートがありました」

エイズですか!」

「そうです...

  これらのウイルスが、細胞から細胞へ移動する時、細胞間の接触点にタンパク質

が凝集し、免疫シナプスと類似構造をとっていることが明らかになったのです。写

<No.5>は、その免疫シナプスと類似構造の状況を示しているものです...

「これが...HIVウイルスが、別の細胞へ移る様子ですか?」

「これはHIVウイルスではなく、HTLVウイルス(ヒトT細胞白血病ウイルス)です...

  くり返しますが、これは“免疫シナプス”に似た構造であり、“免疫シナプス”そのもの

ではありません。類似構造として悪用されているというレポートがあった段階です。ま

だ、高解像度顕微鏡で補足されたわけではないのでしょう...」

「うーん...エイズですか...」

「さて...

  この<No.5>の写真ですが、今も言ったように...HTLVウイルス/ヒトT細胞

白血病ウイルス(/赤色)の感染の様子です...感染しているT細胞(/右側の細胞)から

感染のT細胞(/左側の細胞)へ移動している様子です。接着分子のタリン(/緑色)が、両細

胞の接触面に集まっているのが分かります。

  これが、“免疫シナプス”と似た構造になっているのです...」

T細胞は、免疫細胞ですよね、」

「もちろんです」

「強力な免疫細胞が、どうしてウイルスに感染してしまうのかしら?」

HIVウイルスHTLVウイルスは、実は免疫細胞としているからです...そ

のために、きわめて手強いエイズ(AIDS/後天性免疫不全症候群)を引き起こすわけです。

  そして、これらのウイルスは、感染を押し広げるために、細胞の情報伝達機構をの

っとり、どうやらその機能をも、利用しているらしいことが分って来たのです...」

「どういうことかしら?」

「...ウイルスは、宿主細胞の装置をのっとり、自分の遺伝子を大量にコピーし、感染

症を拡大して行きます、」

「はい!」夏美は、コクリとうなづいた。

「それと同じです。どうやら遺伝子のコピーばかりではなく、細胞の情報伝達機構をも

横取りし、感染拡大に利用している様なのです」

「うーん...“悪いヤツ等”ねえ...」

「まあ、“悪いヤツ等”です...

  しかし、その複雑きわまる悪知恵、何処から発現しているのか...何処で獲得

したのか...何処とリンクしているのか...膨大なDNA遺伝子系大戦略の深海

で、いったい何が起こっているのかという話になります...

  高杉・塾長の言葉を借りれば...“DNA原理の源流から湧き上がって来る無明

(一切の迷妄・煩悩の根源)の風の中で...構造化と進化の時間軸を吹きわたるベクトルの

風の中...いったい何が起こっているのか...”と、いうことになります...」

「うーん...はい...そうした中では、も無いということですね...」

「そうです...

  これも、高杉・塾長の言葉ですが...“何者かが、私の中で/私と共に、轟々と流

れているということです...”」

「はい、」

 

   <No.6>     index.1102.1.jpg (3137 バイト)

「ええと...」外山は、スーパーコンピューターのモニターを操作した。それを壁面スク

リーンで拡大した。

「この<No.6>の写真は...神経細胞、そして免疫細胞です...両方

の写真とも、細胞間を結んでいる糸のような物が見えます...これは、実は、細胞膜

でできた長い管/ナノチューブ(/ナノサイズのチューブ)です」

「はい」

「このナノチューブの機能は、まだ謎に包まれています...シナプスを持つ神経細胞

免疫細胞で、このようなものが発見されたわけですが...本格的解明は、これか

らでしょう...」

「細胞間のコミュニケーションに、何か関係があるのでしょうか?」

「当然、あると考えられます...

  まあ、このようなナノチューブを使えば、遠く離れた細胞へも、サイトカインを分泌す

ることが可能になります」

「すると、シグナル伝達機構なのでしょうか?」

「そうとも言えますねえ...

  ナノチューブハイウェイを使えば、数百μm(マイクロメートル/100万分の1m)もはなれた

場所に、わずか数秒で、カルシウムイオンシグナルを送れるそうです。これは、細胞

にとっては相当に長い距離でしょう...」

「ふーん...」

「実際に、神経細胞でも免疫細胞でも、このナノチューブを介しタンパク質カルシウ

が運ばれているのが観察されています」

「あ、そうなんですか、」

「詳しいことは分かりませんがね...

  それから...驚いたことにウイルスも、このナノチューブを通って、細胞間を移動

るのが観察されているそうです...」

「うーん...」夏美は、腕組みをした。「生命というのは...ますます奥が深いですね」

「そうですねえ...生物体/生命体について、今ようやく、もう1つの新しい窓が開け

て来たということでしょうか...」

「それは、“ヒトゲノムの解読”以降...でしょうか?」

「そうですね...そうともいえます...

  分子生物学が進展し、ゲノム全般が解読され、生物情報科学 (バイオインフォマティクス)

新たな展開を見せています。タンパク質糖鎖の解明も進んでいますね...」

「はい...」夏美が、姿勢を正した。「ええ...

  このページは、ここまでとします...“免疫シナプス”の今後の展開に、注目したい

と思います...ありがとうございました!」

                         index.1102.1.jpg (3137 バイト)  wpe5.jpg (38338 バイト)

               

 

 

Just MyShop(ジャストシステム)      クリアランス特集【トイザらス】       大塚製薬の通販【オオツカ・プラスワン】         astyle ANAショッピングサイト      日比谷花壇 ディズニーのフラワーギフト 白雪姫