トップ・クォークの発見
1995年3月、シカゴ近郊の国立フェルミ加速器研究所で、2つの緊急セミナ
ーが相次いで開かれ、新素粒子
「トップクォーク」の発見という歴史的な発表
が行われた。
(日経サイエンス /1997年12月号/“トップクォーク発見への道”より
)
日経サイエンス/97年12月号を開いていて、“トップクォーク発見への道”という
論文を目にし、びっくりしました。いずれ見つかるという話は聞いていましたし、あと
残るのはトップだけだという話も聞いていました。しかし、それでも、私には半信半
疑でした。が、考えてみれば、トップクォークが発見されようがされまいが、私自身
の気持ちの整理という意味では、あまり関係の無いことでした。ただ、さすがにその
素粒子論、標準モデル、クォーク力学という方法論的学問の威力たるや、すごいも
のだと感心しています。すでに、量子力学にかわって、クォーク力学の時代がやっ
てきているのでしょうか。
(そもそも、クォークには構造というものが無く、どのクォークの中身も同じで、均一
のはずです。つまり、これ以上分解できない、最終的な根元的粒子というわけです。
しかし、最初は原子がそれだと考えられていたのです。ところが、原子には構造が
あることが分かりました。ご存知のように、原子は陽子と中性子の核を持ち、その周
りを電子が雲のように周回していたのです。そして今度は、第二の根源的粒子のは
ずだった陽子や中性子が、アップクォークとダウンクォークから構成されているとい
う話になってきました。しかも、1/3
とか、2/3 という半端な電荷をもっているとい
います。これが、本当に根源的粒子なのでしょうか...まあ、私には何とも言えま
せんが...)
アップクォーク、ダウンクォークは、ともに質量が
0.3/GeV。
(GeV=ギガ電子ボルト。1GeV=10億電子ボルト。アインシュタインの“E=mcの2
乗”の関係式により、エネルギー単位がそのまま質量単位になっています。)
ところが、トップ・クォークの質量は、175GeVと言われ、超巨大なクォークである
ことが確認されました。上記の論文によれば、これは金の原子の質量にほぼ等し
く、たった1個のトップクォークが、アップクォーク400個とダウンクォーク200個の合
計に相当するそうです。それにしても、最後に姿をあらわしたトップクォークは、また
また大問題をはらんでいるようです。
6個あると予想されたクォークのうち、5個目のボトムクォーク(4.5/GeV)が発
見されたのが1977年。それから18年あまりもトップクォークが見つからなかったの
は、この超巨大質量のためだったようです。つまり、それ以前の加速器では、生成
が不可能だったのです。
若い頃、同じ日経サイエンス(
当時は、“サイエンス”だったと思います。)でウイークボソ
ン(たしか、W粒子だったと思います。これは、プラスとマイナスの2種類があります。)の論文を
幾つか読んだ記憶があります。それから、電気的に中性のZ粒子確認の論文を読
みました。それが、いつのまにかトップクォークが発見され、クォーク力学はこれで
新たな段階に突入したようです。
<とりあえず、これぐらいは記憶しておいて下さい
> No.1
ウイークボソン.....W−、W+、Z0
(−、+、0
は、電荷を表しています。電荷の記号は、W・Zの右上の方につくのですが、ワープロの表記が
うまくいきません。未熟者と、お笑い下さい...)
(
日経サイエンス/12月号の論文では、ベクトルボソンとなっています...)
ウイークボソンは、この3つのみです。これらの素粒子は、原子核の放射性崩壊を
起こす“弱い力”(弱い相互作用の力)を伝えます。要するに、原子爆弾の核エネル
ギーを、相互作用で記述するものとお考えて下さい。
(
これらは、後ほど繰り返し説明します。理論的なニュアンスも、そのうちに分かってくると思いま
す。おそらく、私自身にも....)
ところで、クォークという名前は、アメリカ人のマレー・ゲルマンが命名したものです
が、経緯が実にユニークです。彼は最初、クォークは三種類と考えていました。それで、
ある小説の中で、海鳥が“クォーク、クォーク、クォーク”と三回鳴くところがあり、そこか
ら取ったといいます。また、ここで用いられている他の名称も、きわめてユニークなもの
が多くあります。これも、やはり時代の文化的背景というものなのでしょうか.....
さて、もう少しデータが溜まっていかないことには、理論的説明にも入れません。
そこで、ここでは標準モデルにおける粒子というもの全体像を俯瞰し、それがどのよ
うに分類されているかを見てみましょう。細かなことはとりあえず脇に置き、まずは
ガイドラインを見ていきます。
<とりあえず、これぐらいは記憶しておいて下さい
> No.2
まず、素粒子は、次の二つに分類することができます。
(1) 物質を構成する粒子...フェルミ粒子(
fermion )
(2) 力を伝達する粒子 ....ボーズ粒子 ( boson
)
物質を構成する粒子は、さらに“クォーク”と“レプトン”という二種類に大別されま
す。あらゆる物質は、この二種類の素粒子グループから出来ています。さて、問題
のクォークですが、六種類あります。レプトンも、六種類です。
(1) 物質を構成する粒子 (
フェルミ粒子)
(
質量は、粒子を比較するための個性とお考えください。ここでは、詳しい数字を覚え
る必要はありません。)
(
GeV = ギガ電子ボルト 1GeV = 10億電子ボルト)
< クォーク > / 6種類
アップ (0.3/GeV)
チャーム (1.5/GeV)
トップ (175/GeV)
ダウン (0.3/GeV)
ストレンジ (0.5/GeV) ボトム (4.5/GeV)
< レプトン >
/ 6種類
電子
ミュー
タウ
(0.0005/GeV) (0.106/GeV) (1.7/GeV)
電子・ニュートリノ
ミュー・ニュートリノ
タウ・ニュートリノ
(0...?) (0...?) (0...?)
例えば、
陽子や中性子は、アップとダウンという2種類のクォークから構成されて
います。したがって、これにレプトンの電子を加えれば、周期律表にあるすべての原
子が記述できます。
アップとダウンは、最小質量のクォークです。これらが、現在の宇宙の 物質のほ
とんど全てを占めています。それ以外の4つのクォーク、そして電子以外の5つのレ
プトンは、ビッグ・バン直後の宇宙にのみ存在していました。ビッグ・バン直後の超
高エネルギー状態を再現できるのは、巨大加速器のみです。
(2) 力を伝達する粒子 (
ボーズ粒子 )
(これには、以下の4種類があります。)
<ウイークボソン>
弱い力 ( 弱い相互作用の力)
W−、W+、Z0
< 光子
> 電磁力 ( 電磁相互作用の力)
< グルーオン
> 強い力 ( 核力/強い相互作用の力 )
< グラビトン>
重力=引力
素粒子論では、すべてを粒子の相互作用とみなし、力の伝達も、これらの粒子で
記述されます。そう言えば、何処かで“時間子”などという言葉も見たことがありまし
た。これは、時間までも粒子として扱うということなのでしょうか。しかし、これを粒子
として扱うとなると、オモチャ箱をもう一度ひっくり返すようなことになりそうです
が.....
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参考文献: 日経サイエンス1997年12月号
“トップクォーク発見への道”
/
T.M.リス(イリノイ大学)、P.L.ティプトン(ロチェスター大学)
(
最新のデータは、上記論文より抜粋しました。 )
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