推進システムの概略 
「宇宙空間での推進システムと言っても、非常に広範囲に及びます」里中響子が、コ
ンピューターのディスプレイに対し、半分肩を回して言った。「よく知られている、化学
ロケット、原子力ロケット、イオンロケット、それから、まだあまり耳にすることはない
かもしれませんが、ホール効果ロケット、や磁気プラズマロケット、というのもありま
す。それから太陽光や太陽風を利用する宇宙帆船...ざっと眺めると、こんなものか
しら?」
「うーん、ロケットではないけど、“テザー(ひも)”も宇宙空間では有効な推進システム になります」マチコが言った。「これは着実に実用化されると思いますので、別の項を
設けて説明します。後は、レーザーやマイクロビームを推進力に使う円盤などがあり
ますが...少し分りにくいわねえ」
「じゃあ、一応は、あるということね、」
「はい、」マチコは、マウスでパソコンの画面を操作した。「それから...実現性その
ものにまだ疑問符がつくけど、量子テレポーテーション、ワームホール、運動量の消
去、など、将来に夢を託す革新的な未来技術もあります。これ以外にも、現在まだ目
に見えて来ていない、新技術や新理論が大きなインパクトを持つ可能性も十分にあ
ります。19世紀には、相対性理論も、コンピューターも無かったのですから、」
「うん。その、量子テレポーテーションやワームホールは、説明はできるの?」
「はい。じゃあ、この中では量子テレポーテーションを、特集の方で説明しようかな。
このテレポーテーションは多分将来、“量子コンピューター”に発展していくから、1番
具体性があるんじゃないかしら、」
「そう...じゃ、まず、化学推進ロケットから、簡単に説明していくわね。まず、私が
説明していい?」
「うん」マチコは、パソコンのマウスを響子に渡した。

「ええ、それでは、私が簡単に説明していきます、」響子は、慣れた手つきでマウスを
滑らせ、円を描いた。そして、クリックを繰り返し、化学ロケットの画像を表示した。
化学ロケット
「ええ、この化学推進ロケットは、現在まで主力となってきたものです。代表的なもの
は、液体酸素と液体水素を燃料とし、燃焼ガスの膨張と噴出で推力を得てきたもの
です。もちろん、NASAのスペースシャトルも、日本のN-ロケットも、この範疇に入り
ます」
原子力ロケット
「ええ、このエンジンは、原子炉の中に液体水素を通して推力を発生させます。この
ロケット・エンジンは最も実用化が近いので、後で特集の方で詳しく考察します。外
惑星行きの本格的な探査機となると、どうしてもこの原子力ロケットが必要になってく
るのではないでしょうか」 (後で、もう少し詳しく考察する予定です。)
イオンロケット/ホール効果ロケット/磁気プラズマロケット
「イオンというのは、マイナス・イオン、プラス・イオンというように、これは荷電粒子の
ことです。したがってこの推進システムは、推進剤の加速は熱ではなく、電場を使い
ます。具体的には、セシウムやキセノンのような燃料ガスを電子銃でイオン化し、こ
れを電場で加速させるわけです...さあ、どうなのでしょうか、私も実物を見ている
わけではないので、どうもピンとこないものがあります。
ホール効果推進というのは、このイオン推進と同類なのですが、電場の作り方が
違うようです。ただ、イオン推進よりも加速が容易なようです。一方、磁気プラズマ・ロ
ケットでは、電場ではなく磁場を使うことになるわけです。いずれにしても、まだ全て
が研究段階ですが、実際に研究開発が進められているものです。
どうなのでしょうか...将来的には、こうしたものの有力なものが選択され、生き
残っていくのでしょうか、」
太陽光や太陽風を利用する、宇宙帆船
「太陽光や太陽風の圧力は、単位面積辺りのエネルギーは小さなものですが、それ
が溜まっていくと膨大なエネルギーになります。しかも、光圧や風圧ですから、燃料
の心配は要りません。本格的な太陽系・大航海時代になれば、時間的制約のゆる
い物資の移動は、こうした帆船が主力になるのでしょうか...」
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