裁判所においてセクハラが否定された例

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Last updated 2015.7.21mf
弁護士河原崎弘

セクハラ相談:セクハラ委員会で裁定を受けた

私は、旅行会社に勤務していますが、勤務先にきていた取引会社の社員(女性添乗員)と交際しました。その後、私が、彼女を避けるようになると、彼女は私を会社のセクハラ委員会に訴えました。セクハラ委員会では、セクハラ苦情裁定書を出し、セクハラがあったとの裁定を出しました。
その後、彼女は、私に対し、セクハラを理由として500万円の損害賠償を請求して訴えを提起しました。会社は、示談するように言います。
相談者は、妻と一緒に法律事務所を尋ね、弁護士に相談しました。

応訴・反訴の提起

相談者(男性)は、これまでの相手(女性)との交際の模様を話し、相談者が、執拗な相手を避けようとしたことが発端となり、相手が金銭を要求してきた経過を弁護士に説明しました。 その頃から、相談者の自宅と勤務先に、無言電話と相談者を中傷する怪文書が頻繁に届くようになりました。
本件は、典型的なセクハラ事件で、職場における恋愛関係が発展し、女性が、職場のセクハラ対策委員会に訴えるケースです。この種の事件は事実認定も難しいし、解決も簡単ではありません。 職場における恋愛がスムーズに進んでいる場合はよいが、男性が、消極的になると、女性は、セクハラと主張し始めたのです。
この場合、職場では、トラブルを嫌い、真実の究明より、トラブルの解決を目指すことが多いです。加害者の男性は、金銭解決を押し付けられる。それができないと、加害者の男性は、左遷され、裏街道を歩かせられる。本件も同様でした。相談者は、地方の倉庫係りに配転されてしまいました。
そこで、弁護士は、相談者を反訴原告として、相手の訴訟が不当であること、相手が嫌がらせの怪文書を送っていることを理由として、反訴を提起しました。

判決

裁判の過程で、当事者が問題解決のために、交渉していたことが明らかになりました。時には、アルコールの飲酒を伴う食事をしながら交渉していているのです。セクハラの被害者が、事件後、加害者と飲酒をするでしょうか。これでは、セクハラと認定するには、極めておかしいです。慎重に調べると、被害者の訴えが真実か否かを判定することは、それほど、難しくないのです。

(本訴について)

裁判所は、相談者が、相手の添乗業務に直接の影響力を及ぼしうる立場になかったこと,むしろ、相手と相談者が一時は個人的に相当親しい間柄にあったことが推認されること,ホテルに行った際の相手の供述に重 大な疑問点があること,相談者の供述が全く不自然なものでもないこと等から,相手の供述は信用することがで きないとして,セクハラを否定し、相手の損害賠償請求を退けました。

(反訴について)

怪文書については、6月末頃から、相談者の自宅にかかってきた無言電話が、相手によるものとの主張は、相談者の推測にす ぎず,相談者を中傷する内容の手紙についても差出人が相手であると認定するのが困難なこと,不当訴訟だとい う点については,相手が、相談者に対する積極的な害意または重過失によって本訴請求を提起したとまでは認めら れないとして,相談者の損害賠償請求を退けました。

結局、セクハラ委員会が認定したセクハラは、裁判所では否定されました。相手の女性は控訴しました。控訴審判決でも、相談者が勝訴し、セクハラは否定されました。
相談者の勤務する会社は、大会社です。医師、弁護士、会社の社長、大会社のサラリーマンは、狙われています。気をつけましょう。

セクハラ委員会

本件では、相談者が勤務している会社のセクハラ委員会が、セクハラを認定していました。 しかし、困ったことは、セクハラ対策委員会に判定能力がないことです。
セクハラ事件は、刑法の強制わいせつ罪に該当する場合もあります。刑事では、真実発見のために、職権主義的発想から、裁判所は、少なくとも被告人のために当事者の訴訟活動の不足部分を補います。労働者は、セクハラ委員会の判定によっては、左遷のコースが予定されていることも多いです。 従って、セクハラ対策委員会には、相当な工夫と努力が期待されます。
真実の究明には、被害者の言い分を吟味すること、加害者の言い分を充分聴く必要があるが、セクハラ委員会のメンバーに、この能力もなく、意欲もないのです。
セクハラ委員会は、寄せ集めのメンバーが本業の片手間に運営していることが多いからです。 急こしらえのセクハラ委員会の誤った判断のため、舞台が裁判所に移り、セクハラ委員会におけるセクハラ認定が、裁判所において覆った例でした。
男性は甘い感じのハンサムでした。女性は、この男性と交際したかったのでしょう。勤務先の会社のセクハラ委員会がセクハラを認定し、加害者は左遷されたのに、裁判所においてセクハラが否定された珍しい事例です。

本件は、当法律事務所が依頼を受けて成功しました。控訴審でも男性が勝ちました。1審判決の事実認定の部分を下(東京地裁の判決)に掲載します。

判決中の事実認定

登録 2006 12 26
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