相談:不動産
私所有の土地に 4 軒の家が建っており、その 1 軒に私たちが居住し、他の 3 軒は貸していました。
この土地にビルを建てることなり、他の3軒と、不動産業者を通して、立ち退きについて長い間交渉し、この度、まとまりました。
明渡し時期は違っているのですが、それぞれ、前渡金を支払うことになっています。既に建築会社とは契約していますので、明渡し料を支払っても、後で明渡してもらえないかと心配しています。
どのような契約をしたら確実に明渡してもらえますか。公正証書にしたら、よいでしょうか。
回答明渡しを確実にするには、次のような契約を締結すると良いでしょう。
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過怠約款:
まず、 建物明渡契約書 には、「期限までに明渡しを怠った場合には、遅延した日数 1 日につき、2万円(金額は適正賃料の 2 倍前後がよいでしょう)の遅延損害金を支払う」などの過怠約款を付けておくと、効果的です。
- 公正証書:
公正証書では、金銭債務の強制執行ができます
が、金銭債務以外の債務は強制執行できません。
明渡しの債務は公正証書で決めても強制執行できないのです。
公正証書にした場合、明渡し料を受取る相手方は、あなたに対し(明渡し料について)強制執行できるのですが、あなたは相手に対し明渡しの強制執行はできないのです。
そこで、もし期日までに明渡しをしなかった場合には、「遅延した日数 1 日につき、2万円(金額は適正賃料の 2 倍前後がよいでしょう)の遅延損害金を支払う」などの過怠約款を付けて公正証書を作成すると、効果的です。
当事者双方が公証役場に行く必要がありますが、本人が行かず、代理人(弁護士でなくとも可)が行ってもいいです。そこで、相手から、条項が書かれた訴訟委任状と印鑑証明をもらっておき、その委任状を利用して、他人が公証役場へ行って、公正証書を作成することができます。
- 起訴前の和解:
それでも、約束を守らない人がいますので、訴え提起前の和解(民事訴訟法 275 条、旧民訴法356条)をしておけば、相手が不履行の場合、強制執行ができます。
これは即決和解、起訴前の和解などとも言います。土地明渡し、建物明渡しによく利用されます。普通の裁判は時間がかかりますが、訴え提起前の和解は簡易裁判所に申立てをしてから、1 か月ほどで和解できますので、非常に便利な制度です。
申立人、相手方双方が裁判所に出頭する必要がありますが、本人が出頭せず、弁護士が代理人として出頭してもいいのです。そこで、相手から、和解条項が添付された訴訟委任状をもらっておき、その委任状を利用して弁護士を依頼しても、即決和解は成立させることができます。
本件は、起訴前の和解が最適です。
参考判決
- 東京地方裁判所平成8年9月26日判決(出典:判例タイムズ955号277頁)
民事訴訟法356条は、訴えの提起される前に当事者の申立てにより裁判所において和解の途を開き、もって民事紛争が訴訟に持ち込まれることを未然に防止するとと
もに、紛争の解決を図ることを趣旨とするものと解されるから、同条1項に規定する「民事上ノ争」とは、権利義務の存否、内容又は範囲について紛議があることに限ら
ず権利義務の存否等が不確実であり、若しくはその権利義務に係る実行において不安があること又は将来において紛争が発生することが予測されることを含むものという
べきである。
これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件賃貸借契約は、原告の強い希望により補助参加人の保証のもとに、被告において本件土地に係る開
発事情等を考慮して幾つかの条件を付した上一時使用を目的とし、期間を5年間として締結されたものであり、さらに原告の要望を入れて、被告において、付加的に将来
における付近の開発の進展状況等にかんがみ、場合によっては、あらためて即決和解等をすることにより明け渡し猶予の形で更に5年間に限り使用させることを承諾し、
右承諾に当たり作成された念書にも原告においてその即決和解調書及び各約定を遵守し、期間の満了時に権利主張をしないことを確約する旨の記載がされているのであり、
これらの契約の締結の端緒、契約の内容に加えて、前認定のような本件和解調書の申立てに至るまでの事情からすれば、被告にとって本件賃貸借契約の締結に際して、一
時使用目的の賃貸借を明確にし、もって将来賃貸借の性質をめぐって紛争が発生するのを避けるとともに、原告による本件建物の明け渡しの履行につき不安があったので、
その履行を確保する必要が存していたものということができ、ひいては将来の紛争が発生することが予測されたので、それを防止する目的から出たものということができ
る。
したがって、本件において、原告と被告との間には、民事訴訟法第356条第1項に規定する民事上の争いが存したものということができるから、原告の主張は、理由
がない。
虎ノ門(神谷町駅1分) 弁護士河原崎弘 03−3431−7161