賃料不払いの借主を退去させる裁判、強制執行
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2015.12.26mf更新
相談:不動産
私は、3か月ほど前にマンションの1室を賃料月額12万円で貸しました。
ところが、借主は、最初に敷金、権利金、1月分の家賃を支払っただけで、その後、家賃を全然支払いません。借主は、愛人らしい女性と一緒に住んでいます。
何度も請求しても、相手は支払いません。
賃貸借の契約書には、「賃貸借終了後、借主が本件建物内の所有物件を貸主の指定する期限内に搬出しないときは、貸主はこれを搬出、保管、処分の処置をとることができる」との条項があります。そのため、仲介してくれた不動産業者は、「契約を解除し、強制的に荷物を出し、鍵を変えることができる」と言います。どうでしょうか。
大家さんは、法律事務所を尋ね、弁護士に相談しました。
回答
賃貸借契約書中にある
借主の退去前に家具類を運び出すことを認める合意は、自力執行の合意であり、無効です(後記判決)。しかし、契約書中にこのような条項を入れるべきです。心理的に効果があるだけでなく、強制執行のときに、執行官は、この条項を認めます。
法律に触れることを覚悟するのなら、鍵を換えたり、裁判をせずに荷物を強制的に排除することは可能です。
鍵を換えて、様子をみるのも1つの方法です。それが、効果がないなら、
事実、部屋から荷物を出し、建物の前の道路に置く家主も多いです。
相手が訴えなければ刑事事件にはなりません。相手が、訴えた場合は、犯罪(住居侵入罪あるいは窃盗罪)になり、損害賠償責任を負います。借主は、家賃を払っていない後ろめたさから、訴えない人もいます。
合法的に手続きをするなら次の通りです。
- 内容証明郵便にて保証人に対し、滞納家賃と明渡しをさせるよう請求する。
- 電話あるいは内容証明郵便にて、借主の親族(親兄弟)、保証人に明渡をするよう請求する。借主の親族に伝える方法は効果があります。
理解のある親、兄弟、保証人なら、荷物を運び出してくれます。このような場合は、保証人は重要です。
- 借主に対し、家主が執拗に家賃を請求し、払わない場合は、同様に執拗に立退きを求める方法が、合法的で費用もかかりません。
- 以上が不可能な場合は、弁護士に依頼し、占有移転禁止の仮処分をし、訴を提起し、判決を取る必要があります。普通の人はこの段階で自主的に立退きます。
しかし、本件の借主は初めから家賃を払わずに住もうと計画していますから、強制執行をする必要があるでしょう。
弁護士に依頼し、合法的に処理するには、判決までで最低60万円位、強制執行をするには、さらに、作業員代を含めて50万円から60万円位の費用が必要です。執行官立会いの下に、強制執行を1時間位で終了させるため10人位の作業員が必要なのです。
強制執行の費用は、債務者(借主)負担です(民事執行法42条)。荷物は、高価品を除き断行の日に即日売却できます(民事執行規則154条の2、2項、3項)が、それでも、債務者から取り立てること自体が難しいです。
その後
相談者の場合は、弁護士に依頼し、占有移転禁止の仮処分をし、借主および保証人を相手に訴えを提起しました。借主は裁判所に出頭しましたが、
保証人は欠席しました。約2か月で裁判は終わりました。家主は判決を取り、強制執行に着手しました。
最初の強制執行は警告だけです。その1か月位後に、実際に明渡しを実行します。
相手は明渡し断行の強制執行の前日に引越しをしました。そのため、相談者は合計80万円の費用を使いました。時間的には半年ほどかかりました。
その1年ほど後に、借主は破産したとの通知がきました。現在、保証人が滞納家賃を月1万円づつ振り込んできます。
最近、このように、家賃を支払う意思がないことを隠して賃貸借契約をし、室を占拠する人が増えています。部屋を貸す際には相手を選ばないとひどい目に遭います。
判例
- 大阪地方裁判所平成21年11月13日判決(出典:判例秘書)
家賃滞納を理由に鍵を交換して閉め出し,居住権を侵害されたとして借主が不動産賃貸会社に対し,慰謝料等の支払を求めた事案で,鍵交換は,法律の定める手続によらず一方的に賃借人の居住を妨げる違法な行為であるとして,請求を一部認めた一審簡裁の判決(慰藉料金50万円、逸失利益金9万1697円、代理人費用6万円)を支持し,賠償額の増額を求めた借主の控訴を棄却した。
- 東京地裁平成16年6月2日判決(出典:判例時報1899−128)
賃貸人が、賃料不払い(約3か月分)を理由に
建物賃貸借契約を解除した後に、建物の鍵を交換したことについて、違法な自力救済
として不法行為が成立するとしたが、賃借人に損害が生じたとは言えないとし、賃借人の損害賠償責任が棄却された。
- 札幌地方裁判所平成11年12月24日判決(出典:判例タイムズ1060号223頁
)不動産管理会社が建物賃貸借契約書所定の自力救済条項に基づいてした賃室使用妨害行為が不法行為を構成するとし、損害賠償約14万円の支払いを命じた。
本件は、原告が、賃借していたマンションの管理会社(被告会社)及びその取締役等である被告に対し、被告会社は、その従業員をして原告方居室内に不法に侵入させ、同室のガス及び水道を使用できなくさせた上、同室の錠を取り替えて原告が同室に立ち入
ることができないようにさせた、被告会社の取締役等として、被告会社の従業員に右行為をするよう教唆したとして、それぞ
れ不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた事案である
。
- 東京高等裁判所平成3年1月29日判決(出典:判例時報1376号64頁)
本件賃貸借契約の契約書には、賃貸借が終了した場合につき、借主は直ちに本件建物を明け渡さなけれ
ばならないものとしたうえで、借主が本件建物内の所有物件を貸主の指定する期限内に搬出しないときは、貸主は、これを搬出保管又
は処分の処置をとることができる、との記載があり、これによれば、本件賃貸借契約において右内容の合意が成立したことが明らかで
ある。
そこで、この合意が存在することによって、被控訴人の前記行為が違法性を欠くものといえるかどうかについて検討する。
右合意は本件建物の明渡し自体に直接触れるものではなく、また物件の搬出を許容したことから明渡しまでも許容したものと解する
ことは困難であるから、右合意があることによって 本件建物に関する控訴人の占有を排除した被控訴人の前示行為が控訴人の事前の
承諾に基づくものということはできない。
また、什器備品類の搬出、処分については、右合意は、本件建物についての控訴大の占有に
対する侵害を伴わない態様における搬出、処分(例えぱ、控訴人が任意に本件建物から退去した後における残された物件の搬出、処分)
について定めたものと解するのが賃貸借契約全体の趣旨に照らして合理的であり、これを本件建物についての控訴人の占有を侵害して
行う搬出、処分をも許容する趣旨の合意であると解するのは相当ではない。
これが後者の場合をも包合するものであるとすれば、それ
は、自力執行をも許容する合意にほかならない。そして、自力執行を許容する合意は、私人による強制力の行使を許さない現行私法秩
序と相容れないものであって、公序良俗に反し、無効であるといわなければならない。これに対して、前者は、控訴人の支配から離れ
た動産の所有権の処分に関する問題にすぎず、これを他人に委ねることに何らの妨げもないというべきである。
したがって、右合意は、
前者のように解する限りにおいてのみ効力を有するものと解するのが相当である。
そうすると、前説示のとおり、被控訴人による前示搬出、処分の行為は、本件建物についての控訴人の占有に対する侵害を伴って行
われたものであるところ、右合意の存在によりその違法性が阻却されるものではないことが明らかである。
被控訴人は、前示売却及び搬出は、本件賃貸借契約の条項に基づくものであるうえに、その具体的な行使について慎重な方法をとっ
たので、右行為には何らの違法性もないと主張する。しかし、右条項の存在によって自力執行である右行為が適法となるものではない
ことは右に説示したとおりである。また、前認定の事実経過によると、確かに、被控訴人は、控訴人の申請した仮処分が却下されるま
で右行為の実行を留保し、かつ、物件の売却についても、古物商の資格を有する株式会社東屋商会に売却するなど、注意深くこれを行
ったことが窺われるところであるけれでも、このことから、右行為が違法性を欠くものと解すべき何らの根拠もないというべきである。
そして、各証拠を検討しても、被控訴人において、本件建物の明渡しを急がなければならない状況にあっだこと認めることはできず
(前記認定のとおり、被控訴人は控訴人に昭和61年5月2日に10か月程度なら明渡しの猶予が可能であると提案している。)、そ
の他、法的手段を講じないで右条項を実行しなければならない特別の事情があったと認めることもできない(なお、《証拠略》中には、
前記仮処分事件の審理中に担当裁判官が右条項を実行すればよいと示唆したとの供述部分があるが、かりにそのような事実があったと
しても、本件建物の明渡しをどのような方法によって実現するかは、当事者である被控訴人の責任において処理すべき事柄であるから、
右事実によって被控訴人が前示搬出及び処分に関する責任を免れるものではない。)。
虎ノ門(神谷町駅1分) 弁護士河原崎弘 03−3431−7161
登録 Sept. 25,1998