有責配偶者の婚姻費用分担請求
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相談:不貞行為をした妻が婚姻費用を請求してきた
妻が、9歳の子供をつれ、家を出て実家に戻り、別居となり、半年になります。妻には、親しい交際相手がいて、妻とその人の不貞が、私たちの家庭生活の破綻原因です。
私は、家庭裁判所に離婚調停の申立をしました。そうすると、妻の弁護士が生活費(婚姻費用)を請求してきました。
私は、子供の生活費は払いますが、妻の生活費は、払いたくありません。
アドバイス:有責配偶者の婚姻費用分担請求は制限される
不貞行為などをして自分で婚姻生活を破綻させた配偶者、すなわち、有責配偶者が、婚姻費用分担を請求した場合、それは、権利濫用として制限されます。子供の生活費(養育費相当額)を請求することは認められますが、自分の生活費を請求することは認められません。
当初の判例は、有責性と婚姻費用は関係ないとしていました。しかし、最近の多くの判例では、有責の配偶者は、婚姻費用を請求できますが、その金額は、養育費金額と同じです。自分の生活費は請求できない、請求できるのは、子供の生活費だけです。
子供がいない場合、子供が成人している場合は、有責配偶者の婚姻費用分担請求は認められません
判決
- 大阪高等裁判所平成28年3月17日決定
しかしながら,上記1(2)で補正の上引用した原審判の認定事実によれば,抗告人と相手方が平成25年に再度同居した後,
相手方は本件男性講師と不貞関係に及んだと推認するのが相当であり,抗告人と相手方が平成27年□月に別居に至った原因は,主
として又は専ら相手方にあるといわざるを得ない。相手方は,上記不貞関係を争うが,相手方と本件男性講師とのソーシャルネット
ワークサービス上の通信内容(乙4,5)からは,前記のとおり単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思わ
れないやりとりがなされていることが認められるのであって,これによれば不貞行為は十分推認されるから,相手方の主張は採用で
きない。そうとすれば,相手方の抗告人に対する婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地から,子らの養育費相当分に
限って認められるというべきである。
- 東京家庭裁判所平成20年7月31日審判
以上によれば,別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというベきところ,申立人は別居を強行し別居生活が継 続しているのであって,このような場合にあっては,申立人は,自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許さ れず,ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。
- 福岡高等裁判所宮崎支部平成17年3月15日
決定
1 争点(1)(相手方の不貞)
本件抗告事件記録により認められる基本的事実によれば,相手方がFと不貞に及んでこれを維持継続したことを有に推認することができる。
2 争点(2)(相手方の婚姻費用分担請求権の存否)
上記によれば,相手方は,Fと不貞に及び,これを維持継続したことにより本件婚姻関係が破綻したものというべきであり,これにつき相手方は,有責配偶者で
あり,その相手方か婚姻関係が破綻したものとして抗告人に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは,一組の男女の永続的な精神的,経済的及び性的な紐
帯である婚姻共同生活体が崩壊し,最早,夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することに他ならないのであるから,このような相手方から抗告人
に対して,婚姻費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。
- 名古屋高等裁判所金沢支部昭和59年2月13日決定
当事者双方が別居に至つた原因については相手方に主要な責任があるものといわざるを得ないところ、抗告人の未成熟の二子に
対する養育費の負担については右責任の所在が何れにあるかにかかわらず、子供が親と同程度の生活を保持するための費用を分担する義務があるものであるが、右別居
につき責任を有する配偶者である相手方自身の生活費については右と同様に抗告人の分担義務を定めることは相当でない。
(二) しかるところ、相手方の養育している未成熟の二子の養育費として抗告人の負担すべき金額については、当裁判所も原審と同様に判断するので、原審判理
由2(二)イに説示するところを引用する。
(三) 次に相手方自身の生活費として抗告人の負担すべき金額について
検討するに、相手方が金沢家庭裁判所に本件申立をした昭 五八年四月一九日以降同年七月末日までの期間は別居後間もない時期に当たり、無収入の相手方がみずか
ら稼得する途を探求するなど生活の建直しに少くとも必要相当の期間であると考えられるから、右期間中の生活保障は抗告人に求めるほかないこと、しかし抗告人と相
手方との夫婦関係が破綻し別居に至つた責任が主に相手方にあつたこと及び相手方は同年三月以降二子とともに実家に同居し、生活の面倒をみて貰つてきたことなどの
事情に照らすと、右期間中においては相手方自身の生活費の分担として原審判理由記載の生活保護法による生活扶助基準月額金三万八二七〇円の割合の金員は抗告人に
負担させるのが相当である。しかしながら同年八月以降のものに関する部分の申立については、相手方は同月以降自己の労働により右生活扶助基準月額を超える月額約
八万円の収入を得ているが、右収入も父親の飲食店の業務を任かせられていることの 酬であり、また同居先の実家から開店日に右飲食店に出向いて働いているなど生
活も一応安定した状況にあるほか、別居に至つた事情、その責任の所在が前述のとおりであるなどの点を勘案すると、相手方が収入を得るに至つた昭和五八年八月以降
相手方自身の生活費の分担を抗告人に求める申立の部分は認めることができない。
- 東京高等裁判所昭和58年12月16日決定
民法七六〇条、七五二条に照らせば、婚姻が事実上破綻して別居生活に入つたとしても、離婚しないかぎりは夫婦は互に婚姻費用分担の義務があるというべきで
あるが、夫婦の一方が他方の意思に反して別居を強行し、その後同居の要請にも全く耳を藉さず、かつみずから同居生活回復のための真摯な努力を全く行わず、そのた
めに別居生活が継続し、しかも右別居をやむを得ないとするような事情が認められない場合には、前記各法条の趣旨に照らしても、少なくとも自分自身の生活費にあた
る分についての婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ、同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるというべきで
ある。そして、右認定事実によれば、相手方は抗告人の意思に反して別居を強行し、その後の抗告人の再三の話合いの要請にも全く応ぜず、かつみずからは全く同居生
活回復の努力を行わず、しかも右別居についてやむを得ない事情があるとは到底いいがたい状態で一〇年以上経過してから本件婚姻費用分担の申立をしたものと評価す
べきであるから、自己の生活費を婚姻費用の分担として抗告人に請求するのは、まさに権利の濫用であつて許されず、ただ相手方と同居する長女敦子、二女知子の実質
的監護費用だけを婚姻費用の分担として抗告人に請求しうるにとどまるというべきである。なお、抗告人主張のような多額の金品を別居に際して相手方が持去つたこと
を認めるに十分な証拠はないし、もつとも若干の金品を相手方が持去つたことは窺えないでもないが、これとても、本件婚姻費用分担申立てに至るまでの二人の子の監
護費用に充ててなお余りあるものとは認められないから、この点は、婚姻費用分担の当否には影響するものではない。
- 東京高等裁判所昭和42年9月8日決定
ところで、民法第七六〇条所定の婚姻費用分担の規定は、別に同法第七五二条に夫婦の同居と協力扶助義務について規定されていることに鑑みると、夫婦が別居して
いる場合にもその適用をみるものと解せられ、夫婦がその社会生活の必要その他の事由から、相互の協議をもつて別居した場合とか、正当な事由によつて已むなく別居
せざるを得なくなつた場合に同条が適用されるものであることについては疑問の余地がない。しかしながら、配偶者の一方が、相手方配偶者の意思に反して、あるいは
正当の事由もなく、独断的に別居を敢行した場合にまで、該配偶者に、相手方配偶者に対する自己の生活に要する費用等の支出を請求する権利があると解することは相
当でない。けだし、右規定の趣旨は、夫婦相互の同居および協力扶助の義務を定めた民法第七五二条と相俟つて、夫婦相互の協力による健全な婚姻生活の保持を計つて
いるものであつて、今日の社会体制ならびに社会通念においては、健全な婚姻生活の本質的要素は、なんといつても、夫婦の同居と相互協力にあるというべきであるか
ら、婚姻生活の右本質的要素を構成する義務に正当な事由もなく、自ら積極的に違背する挙に出ている者にまでなお相手方配偶者から、生活費等の支払をうける権利を
認めることは、他に特段の事由(未成年の子を伴つている等)でもない限り、とりも直さず、健全な婚姻生活の破壊を是認し、助長することに帰するからである。
- 大阪高等裁判所昭和41年5月9日
決定
しかしながら、別居中の夫婦間の婚姻費用の分担は、別居によつて二個(又はそれ以上)
に分れた家庭の経費の合計額を、同居中の夫婦の家庭経費を夫婦間で分担する場合と同様の率で、夫と妻との間に分割して負担させようとするものであるから、法律上
の夫婦関係が存続している限り夫婦で負担すべき家庭経費に関し、その支出少く分担すべき額の多い夫婦の一方からその支出多く分担すべき額の少い他方に対してその
支出と分担すべき額の差額を支給せしむべきものであつて、別居原因が夫婦のうちのいずれの側の責任に帰すべき事由によつて生じたかの如きは、右費用の支給を受く
べき側が故なく同居を拒む等の行為によつて費用の支給を受くべき権利を喪失又は放棄したと認められる場合等は別として、原則として、右支給を受ける権利又は右支
給をなすべき義務の存否及び数額に影響を及ぼすものではない。
2017.10.12
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