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2022.12.29mf
弁護士河原崎弘

違約条項付貞操を守る契約書

相談

夫は不貞をしました。私は、離婚したいのですが、 慰謝料、財産分与が安すぎて離婚できません。
夫は、現在、反省した様子を見せ、 「今度、浮気したら1000万円を支払う」と、言います。 私は、法律に詳しい人に次のような契約書を作ってもらいました。
夫とこの契約書を取り交わした場合、有効でしょうか。私は1000万円をもらえますか。

相談者は、法律事務所を尋ね、弁護士に相談しました。

違約条項付貞操を守る契約書

〇〇 〇〇男を甲とし、〇〇 〇〇子を乙とし、次のとおり契約を締結する。

第1条 甲と乙は、互いに貞操を守り、不貞行為をしない。
第2条 甲あるいは乙が不貞行為をした場合は、直ちに相手方に対し、損害賠償として金1000万円を支払う。
第3条 前条の支払いを遅滞した者は期限の利益を失い、そのときの残金にそのときから年20%の損害金を付加して支払う。
第4条 本契約により甲乙間の財産分与および慰謝料に関する紛争は一切解決したものとし、以後互いに何らの請求をしない。
第5条甲、乙は、今後、相手方および相手方の関係者(勤務先を含む)に一切連絡をしない。
本契約は秘密とし、他に漏らさない

本契約を証するためこの証書を作り各署名・押印し各その1通を保有する
2011年〇〇月〇〇日
住所 東京都渋谷区恵比寿南
        氏名(甲)          

住所 東京都渋谷区恵比寿南
       氏名(乙)          

回答:夫婦間契約は取消しできる

よく考えましたね。しかし、民法 754 条には、「夫婦間の契約はいつでも取消しできる」と、規定されています(下記に条文)。従って、あなたの夫は、この契約をいつでも取消しできるのです。取消されると契約は効力がなくなります。
しかし、下記2の判例を類推すると、夫が不貞を犯し、夫婦関係が破綻に瀕しているときには、夫はもはやこの契約を取消すことはできないでしょう。夫の不貞により夫婦関係が破綻した場合には、この契約は意味があり、あなたは1000万円請求できます。明確な判例はありませんが、このような解釈ができます。
なお、判例では、夫婦関係が破綻しているときに締結された契約は取消しできません(下記判例1)。
以上の関係を要約すると下記の通りです。

この契約のポイントは、 適正な財産分与および慰謝料金額から離れない金額(3倍以内)を損害賠償の予定(違約金)にしてください。余りに大きな金額だと、相手の窮迫に乗じたとか、公序良俗に反するとかの理由で無効とされる可能性があります。

さらに、夫が本当に1000万円を支払う意思があったかということも問題となります。夫の支払能力の範囲の金額がいいですね。支払能力を超える約束は、真実は、支払い意思がない、心裡留保(民法93条)であり、無効と判断されるおそれがあります(東京地方裁判所平成20年6月17日判決)。
このような条項が、裁判所で、有効か、無効かを判断される場合は、以上のような関門があります。しかし、公正証書など、債務名義になっている場合は、そのような関門は少ないです。精々、強制執行に対する請求異議の訴えがあった場合に、問題となります。

契約締結時取消し時可否参考
円満円満取消し可民法754条
円満破綻取消し否下記判例2
破綻円満取消し否民法754条
破綻破綻取消し否下記判例1

法律

民法754条 [夫婦間の契約取消権]
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

判例

  1. 昭和33年3月6日最高裁第一小法廷判決(出典:判例時報143号22頁)
    夫婦関係が破綻に瀕している場合になされた夫婦間の贈与は、これを取り消すことができない。
  2. 昭和42年2月2日最高裁第一小法廷判決(出典:判例時報477号11頁)
    民法754条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、 形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である。
  3. 東京高等裁判所昭和55年2月28日判決(出典:判例時報960号45頁)
    以上認定の各事実によれば、控訴人は被控訴人に対し被控訴人主張の時に本件各 土地を贈与し、これに基きその所有権移転登記を了したものと認められる。
    二 次に、夫婦間の贈与契約の取消について考えるに、民法754条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続しているだけではなく、実質的にもそれが継続し ていることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても同条の規定により、夫婦間の契約を取り消す ことは許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和42年2月2日判決、民集21巻1号88頁参照)。
    本件において、控訴人が昭和54年9月27日の本件口頭弁論期日において被控訴人との間になした本件贈与契約を取消す旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかであ るが、《証拠略》によれば、右取消当時、控訴人と被控訴人とは本件土地上に存する控訴人所有の家屋に同居している夫婦ではあったけれども、控訴人は被控訴人を好か ず別れたいと思っており、被控訴人も控訴人と離婚する意思はないと供述するものの、昭和50年12月に千葉家庭裁判所松戸支部に離婚調停の申立をなしたが本件訴訟 が提起されたために右申立を取下げたもので、現に食事も双方銘々に料理したものを各別に食べるなどおよそ通常の夫婦の同居生活というには程遠い状態にあり、夫婦関 係は破綻に瀕していることが認められ、このような場合には民法の右法条を適用すべきものではないというべきであるから、控訴人の取消の意思表示はなんら効力を生じ ない。
  4. 高松高等裁判所平成6年4月19日判決
     控訴人は、内縁関係にも民法七五四条を類推適用すべきであると主張するが、そもそも、民法七五四条は、夫婦間に紛争がないときはその必要性がなく、夫婦間に紛争が存在すればかえって不当な結果を招くことが多い規定であって、その存在意義が乏しいうえ、内縁の妻には相続権がない等、内縁関係は婚姻関係に比べて内縁の妻の財産的保護に薄いので、仮に内縁関係に民法七五四条を類推適用すると、贈与を受けた内縁の妻の法的地位が不安定なものとなり、ますます内縁の妻の保護に欠けることとなって、不当な結果を招来するので、同条は内縁関係に類推適用されるべきではないと解するのが相当である。

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