違法に取得されたメールは浮気を証明する証拠になるか
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Last updated 2024.5.24 mf
弁護士河原崎弘
相談
夫の過去の不倫のことが今も許せない自分がいます。
相手の女性から慰謝料を取りたいと思いますが、不貞(不倫、浮気)の証拠が問題です。しかも、過
去のことです。
それで、HPをいろいろ見ているうちに、このHPに行き当たりました。
HPでは、離婚する場合の証拠について取り上げられていますが、夫の不倫相手から慰謝
料をとる場合はどうなのでしょうか。
私は、内容からはっきり性行為があったとわかるメール(夫、相手の女性双方の
分)を印刷したものを持っています。このようなレベルなら不貞があったという証拠になるでしょうか。
また、これは偶然パソコンに夫のパスワードが残っていたため、もしやと思った私が、
そこから夫のメールボックスまで進んで、知ったものです。
盗聴して得た証拠として認められないということですが、この場合はどうでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れ、弁護士の意見を聴きました。
説明
【違法取得】
刑事事件では、違法に取得(収集)された証拠について、原則として証拠能力を否定されます(証拠として法廷に提出することを認めない)。その趣旨の判決は多くあります。捜査機関の違法捜査を防止するために証拠能力を否定することが、違法捜査を阻止するために有効だからです。
民事事件では証拠能力について規定する法規はありませんが、民事事件でも同様な考え方はあります。民事事件では、違法収集証拠につき、証拠能力を肯定した判例も、否定した判例もあります。他人の家に入る、暴力を使うなどの重大な違法行為の場合は、得られた証拠は却下されるでしょう。
他人のパスワードを使って他人のメールボックスにアクセスする行為は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律 3 条 1 項 に該当します。これに対する刑罰は、1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金です。
あなたの行為は、これに当たり、違法です。そこで、このように違法に取得されたメールについては、次のような考えがあります。
- 違法に取得されたメールは、民事裁判では使用できない。
-
しかし、メールの取得行為は違法だが、刑罰が軽く、しかも、同居の夫婦間の行為です。行為は軽い違法行為ですので、証拠能力は否定されない。裁判所に、メールを証拠として、提出できる。
*参考 不正アクセスとはパスワードの入力を要するか
過去の判例を見ると、メール取得過程が明らかでありません。従って、裁判所の態度は明確でありません。取得過程の違法性が明らかになれば、より明確な判決が出るでしょう。
【デジタル性】
メールは、デジタル証拠ですので、容易に改変ができます。そこで、証明力に問題があります。
メールを証拠に出した場合、筆者経験では、「自分のメールである」と認める人(相手)が多いです。相手の態度は次の通りです。
- 自分のメールではないと主張する。
そういう主張すると、多分、裁判官から、裁判における全部の主張につき、嘘との認定をされるでしょう。
- 自分のメールであると認めて、「だが改変されている」と主張する。
当事者のどちらの主張が真実を述べているか裁判官が判断します。
- 自分のメールであると、認めて、不倫はしていないと抗弁する。
この場合、相手は、メールが存在するのに、「不倫はしていない」との合理的な説明ができるでしょうか。
【提出方法】
メールを証拠として提出する方法は次の通りです。
- プリントし、書証として提出する。
簡単ですが、相手が、存在を否認しなければ、これで十分です。相手がメールの存在を否認した場合(偽造されたと主張した場合)、メールの存在、態様の証明が、難しいです。当事者が法廷で陳述し、メール取得の経緯について説明し、裁判官に信用してもらう必要があります。
- カメラでメール画面を撮影して、写真として提出する。
この方が、メールの存在を証明してくれます。
日時、発信者、受信者の表示があるヘッダー部分も含めて撮影します。
特に、携帯電話に入っているメールの場合は、スクロールさせて、撮影し、数枚の写真として提出するとよいでしょう。
結局、裁判において、メールは、不貞を証明できることが多いです。相談者の場合も、メールに証拠能力があるでしょう。
【証拠確保】
メールをサーバー上で消した場合は別ですが、自分のパソコン上で消した場合は、復活できます。メールソフトの Import を使います。
判例
- 東京地方裁判所平成30年3月27日判決
被告が原告の夫と不貞関係に及んだとして,原告が、不法行為の賠償請求をした事案。
裁判所は,別荘で入手したLINEデータの証拠能力につき,別荘への立ち入り方法及びデータ入手方法は,著しく反社会的とは評価できないとしてその証拠能力を認め,その正確性は担保されているとした上,当該データから,遅くとも平成26年3月7日時点で肉体関係を持ったと認定した。
- 東京地方裁判所平成18年6月30日判決(出典、判例秘書、夫が、妻の不貞相手を、夫が訴え、妻の意思に反してメールを取得し証拠とした)
民事訴訟法は,いわゆる証拠能力に関して規定を置かず,当事者が挙証の用に供する証拠については,一般的に,証拠価値はともか
くとしても,その証拠能力については,これを肯定すべきものと解されている。しかし,その証拠が,著しく反社会的な手段を用い,
人の精神的,肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集されたものであるなど,それ自体違法の評価を受ける場合
は,その証拠能力も否定されるものと解すべきである。
そして,使用者の同意なくして携帯電話からメールを収集する行為は,通常,使用者の人格権の侵害となり得ることは明らかである
から,その証拠能力の適否の判定に当たっては,その手段方法や態様等が著しく反社会的と認められるか否かを基準として,考察する
のが相当である。
これを本件についてみるに,原告(夫)は,A(妻)の鞄や衣装ケースから携帯電話を抜き出したり(原告本人),洗顔中,着用しているジーン
ズの後ろポケットから携帯電話を背後から抜き取り(原告本人,証人A),これを奪い返そうとしたAともみ合いになり,その際,原
告は,Aの顔面や脚部を数回,殴打するなどの暴行を加えた(証人A)というのであるが,その暴行の程度を証明する診断書や写真等
の客観的な証拠は提出されておらず,Aの証言を除いて,これを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告が,Aの意に反して,本件法廷に提出された証拠(甲6,7,9,ないし12(枝番を含む))を収集したこと
は認められるとしても,このことをもって,Aの人格権を著しく害する反社会的な手段方法や態様において,これを収集したものとま
でいうことは困難であるから,前記各証拠が証拠能力を有しないものとすることは相当ではない。
- 東京地方裁判所平成17年5月30日判決
妻の他の男性との不貞行為につき、夫婦の貞操義務、同居義務、協力義務に違反するとして、妻と男性に対し、共同不法行為責任を認めた裁判で、
被告Aは,原告から提出された被告Aのメール(甲1,以下「本件メール」という。)について,原告が被告Aの承諾
もなく,勝手に認証を行い,閲覧,コピーしたものであって,違法収集証拠であるとして,証拠の排除を求めている。
そこで付言する
に,証拠によれば,本件メールは,原告と被告Aが共同で使用するパソコンの中に保存されていたものであること,原告は,被告Aが,
平成13年7月8日,行き先も告げずにマンションを出て行ってしまったため,共通のパソコンを開いて,メールを閲覧,謄写したこ
とが認められる(甲7,なお,原告が,認証を勝手に行ったと認めるに足りる証拠はない)。以上認定の事実に照らせば,原告が,
被告Aの家出後,被告Aの所在や事情を確認する必要から,共通のパソコンを開いて本件メールを閲覧したとしても,その取得方法が,
民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほど,著しく反社会的方法によって取得されたものとは認められず,被告の主張
は採用できない。
- 東京地裁平成10年5月29日判決
夫が妻の不倫相手に対して慰謝料を請求した事件において、裁判所は、別居後、夫の自宅から盗み出した妻の行為に強い反社会性があるので、盗み出した陳述書の原稿を、証拠として認めなかった。(判例タイムズ1036-240)。
- 名古屋地裁平成3年8月9日判決(判例時報1408号105頁)
夫の不倫相手に対して妻が請求した慰謝料請求事件において、夫の賃借していたマンションの郵便受けから妻が無断で持ち出した信書が書証として提出された。
被告は、これは違法収集証拠であるから証拠として採用すべきでないと主張した。
裁判所は、民事訴訟法は、証拠能力について何らの規定をしていない、証拠は、それが著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである等、その証拠能力が否定されてもやむを得ないような場合を除いて、その証拠能力を肯定すべきであるとして、無断持ち出しの違法性はその証拠能力に影響を及ぼさないとして、証拠能力を認めた。
これは、夫と情交関係にあるフィリッピン人女性に対して、妻が1000万円の慰謝料を請求した事件です。裁判所は100万円の慰謝料を認めました。この夫婦は離婚しませんでした。従って、慰藉料も低額でした(判例時報1408-105)。
2003.6.25
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301 弁護士河原崎法律事務所 神谷町駅1分 03-3431-7161