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2017.10.9mf更新
弁護士河原崎弘
婚約していない場合の慰謝料請求
相談
結婚するように装い、複数の女性と交際する男 の話を読みました。
私(39歳)の彼(同じ会社、34歳、年収400万円)は、私との交際をやめ、他の女性と交際するようになりました。やはり、複数の女性(会社の同僚)と肉体関係のある交際をしているようです(噂がある)。まだ、私とは、婚約はしていません。
私は、悔しくて、何とか法的処置をとりたいです。
- 私も慰謝料を請求できますか。
- 弁護士としてどう考えますか。
- このような事件は、弁護士にとって、経済的にはどうなのでしょう。
- また、このような事件を扱うことをどのように考えていますか。
回答
:婚約していない場合の慰謝料
婚約していない場合、当事者の一方が単に交際をやめただけでは、不法行為(民法709条)には該当しません。上記ページに掲載されている判決では、当事者は結婚相談所を通して知り合っていますので、当事者は、当然、結婚の目的があることが前提での交際なのです。あなたの場合とは、事情が異なります。
婚約していないのに慰謝料請求が認められた例は、嘘があるなど、交際相手の行為が不当であり、相当ひどく、人格権侵害などの不法行為になる場合です。
- 相談者の場合、通常は、慰謝料請求は無理でしょう。彼が、既婚者なのに、独身と、嘘の説明をしていた場合は、慰謝料が認められる可能性はあります(下記判決)。
訴えの提起は、金銭的負担、訴訟の準備の煩わしさを考えると、慎重にお考え下さい。
- この交際は、法的範囲を越えた、自由な領域での交際のような気がします。
- 弁護士にとっても、多くある事件です。
- よく考えてみると、彼は不誠実です。結果を見ると、相談者は、傷つき、救われるべきです。しかし、法的には、損害賠償を請求する論理が弱いです。相談者の主張は、結果は妥当ですが、論理的に弱いのです。裁判をする価値はあるのです。
そこで、依頼人が、納得できない、法的決着を付けたい、そのためにも費用を負担するとの考えなら、弁護士は事件を引き受けます。彼の行為の不当性(同時進行中の女性がいたことなど)の立証に力を注ぐべきでしょう。
弁護士としては、依頼人に対し、主張が認められない可能性も説明すべきです。
日本の裁判は、和解で終わることが多いです。この件も和解で終わる可能性があります。
判決
- 東京地方裁判所平成27年1月7日判決
(2) 被告は、当法廷において、原告と沖縄旅行をしたときは、もう関係を終えるつもりでいたが、別れ話をすると原告が感情的になるのが怖く、うまく自然に別
れたかったとか、原告が勝手に被告の携帯電話のメールを見たり、自宅まで訪れるなどしたことから、何をされるか分からないと思ったので、原告の機嫌を損ねないよ
うにメールを送信したなどと供述している。しかし、仮に、原告の精神状態が不安定になったのだとすれば、それは、被告が原告に対し妻がいることを正直に告げず、
一方では妻との関係を修復しながら、なお、原告との性的関係を維持することを望み、原告との結婚について曖昧な態度をとり続けたことが一因であると推認されるべ
きであり、被告の携帯電話のメールを見たり、被告の自宅近くまで訪問した原告の態度に被告が不安を感じたというのであれば、それは、自らの不誠実な言動が招いた
結果である。そもそも、被告が原告に対し「大切な花子ちゃん」「愛しているよ」等と記載したメールを送信したのは、妻との関係を継続しつつ、なお原告との性的関
係も維持したいという身勝手な欲望のためであって、メールの趣旨に関する被告の供述をにわかに信用することができないことは上記判示したとおりであるから、被告
が縷々述べる点は、被告に不法行為が成立する旨の上記判断を何ら左右するに足りるものではない。
(3) そこで本件不法行為による原告の慰謝料について検討するに、被告が原告と交際中に妻との関係を修復しながら、原告からの別れ話に対しては、あたかも原
告との将来の生活を考えているかのようなメールを送って原告の心を引き止め、妻からのメールも妹からのメールであると虚偽の事実を告げるなどして、原告との関係
を維持しようとするなど不誠実かつ身勝手な態度をとっていたことその他の本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件不法行為により原告が受けた精神的損害を慰謝
するための慰謝料としては、一〇〇万円が相当であり、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士報酬相当の損害は一〇万円をもって相当と認める。
- 岡山地方裁判所平成24年3月28日判決
原告(男性)と被告(女性)は,上記(2)(3)に認定したように,遅くとも平成14年3月下旬ころから平成18年10月ころまでの長期にわ
たり,二人で全国各地に旅行をするなどして,性交渉を伴った交際を続けていたのであって,その間,上記(5)に認定のとおり,血酒の誓いや,伊勢神宮への特別参
拝を経て,最終的には,××の共同経営をするに至ったのではあるが,それ以上に,原告において両親に被告との婚約を報告したり,被告においては既婚者であり原告
と結婚するには法律上の障害があったにもかかわらず,夫と離婚の協議をしたりするなど,いずれも結婚に向けた具体的な行動をとった事実は認められない。
このように,何ら外形的事実関係がないことに照らすと,両者間における婚約の成立については相当慎重に判断する必要があるところ,原告と被告の二人の間
においてすら,結婚の時期や,結婚に向けた手続等について具体的な話が進んでいたとは認められないことからすれば,仮に,原告と被告間において,将来の結婚に関
する言辞が交わされていたとしても,それは両者間における恋愛感情を高め,男女関係を維持するためのものとみるのが相当であり,これをもって法的保護に値する婚
約とまで認めることはできないというべきである。
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