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2023.1.13mf更新
肖像権侵害/弁護士の法律相談
質問
私は、英会話の学校に通い、そこの留学制度を利用してアメリカに留学しました。ある機会に、
英会話の学校のパフレットを目にし、そこに私の顔写真が掲載されていることを知りました。
内容は私を誉めた内容でしたが、私に無断で私の顔写真を載せていたことに変わりはありません。
調べたところ、その学校のホームページにも同じ写真が載っていました。
私は学校に対し良いイメージを持っていませんでした。私は、学校に電話をしましたが、学校は「あなたが卒業生であることは事実だから」と言って取り合ってくれません。その後、学校はホームページの写真は削除しました。以前のパンフレットも使っていないようです。
私は、学校に対し慰藉料を請求できますか。写真の大きさは高さ4cm、横3cmの楕円です。
相談者は、電話で予約して、弁護士会で弁護士の意見を聴きました。
回答
顔写真の発表は、写されている人の承諾が必要です。承諾なく公表すれば肖像権(人格権の1つ)侵害として不法行為となります。
しかし、表現の自由との調整を図ると、写真の掲載が公共の利害に関係する事柄で、公益を図る目的でなされた場合は違法性がなく肖像権の侵害とは言えないでしょう。「原告の経営する会社が2300億円を滞納をして都税滞納ワースト10に入っており、その原告の上半身の写真を載せた週刊誌」につき、裁判所は合法と判断しています(平成8年2月19日東京高裁決定)
あなたのケースでは、学校側に、公共の利害とか、公益を図る目的がありません。従って、写真を掲載するには、あなたの承諾が必要です。
しかし、肖像権侵害の損害賠償(慰藉料)額は多くありません。核燃料サイクル施設の事業者らの発行する地域情報誌の表紙に、核燃料サイクル施設反対派の者が漁をしている写真を無断で掲載したことについて、肖像権侵害と名誉感情が害されたとして発行者に10万円の損害賠償を命じた判決があります(平成7年3月28日青森地裁判決)。
あなたを誉めた文章の中の写真でも、肖像権侵害と言えます。慰藉料は3万円〜10万円くらいでしょう。
最近は、この種の権利について厳しくなり、物(室内)を撮影して、不法行為を認めた判決もあります。
女性の写真を出会い系サイトの広告に無断で載せるケースがありますが、このようなケースでは人格権侵害の程度は著しいので(名誉毀損罪にもなる)、慰謝料は100万円くらいになります。
判決
- 東京地裁令和4年7月19日判決
これを本件についてみると、証拠(甲1、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、元プロテニス選手で当時社会的地位もあった原告が、いずれも、著名人と並んで笑顔で握手等をしている場面を撮影したものであるから、公的領域において撮影されたものと認めるのが相当である。そして、本件写真の上記の内容によれば、原告を侮辱するものではなく、原告のブログで公開されていた写真であったという事情も考慮すれば、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するものともいえない。仮に、本件写真が私的領域において撮影されたものと認定したとしても、証拠(甲1、16、乙6の1ないし4、乙7、8、証人丙、証人丁)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告と著名人との親交を示すものであり、A(丙)をして原告が億単位の出資をするに足りる人物であると思わせて、A(丙)が原告に出資する理由の一つとなったものと認められることからすると、本件写真は、原告が社会的に強い非難の対象とされる行為を犯した旨を摘示する本件記事を補足するものであるから、公共の利害に関する事項であるといえることは明らかである。そうすると、仮に上記のとおり認定したとしても、上記の結論を左右するものとはいえない。
- 最高裁判所平成24年03月23日判決
(1)ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
前記事実関係によれば,本件記事は,インターネット上のウェブサイトに掲載されたものであるが,それ自体として,一般の閲覧者がおよそ信用性を有しないと認識し,評価するようなものであるとはいえず,本件記載部分は,第1文と第2文があいまって,上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが,本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから,本件記事は,上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。
(2)そして,前記事実関係によれば,本件販売店の所長が所持していた折込チラシは,訴外会社の従業員が本件販売店の所長の了解を得た上で持ち帰ったというのであるから,本件記載部分において摘示された事実は真実ではないことが明らかであり,また,被上告人は,上告人会社と訴訟で争うなど対立関係にあったという第三者からの情報を信用して本件サイトに本件記事を掲載したと主張するのみで,本件記載部分において摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったというに足りる事実を主張していない。
(3)そうすると,被上告人が本件サイトに本件記事を掲載したことは,上告人らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成する>というべきである。
- 東京地方裁判所平成19年5月23日判決(出典:判例秘書)
4 争点(4)
(原告に生じた損害額及び本件謝罪広告掲載請求の可否)
本件グラビア記事は,純粋な私生活上の事実を報道したものであること,本件雑誌は,発行部数の多い全国誌であること,本件説明文には,「あれれ?これって「カカア天下」って
言うんですよね?」等原告を揶揄するかのような表現が用いられている上,本件写真は,原告
の容ぼうが鮮明に認識できる形態で,グラビアページに見開き2頁にわたって掲載されたもの
であること,被告は,原告が事前に本件グラビア記事の掲載を取りやめるよう求めたにもかか
わらず,これを掲載したこと,他方,本件写真が撮影された場所は,居宅の中など,完全に私
生活の秘密が保障されるべき場所に比べると,その秘密に対する期待は若干低下するというべ
き場所であること等の事情を総合的に考慮すると,本件グラビア記事の掲載及び本件写真の撮
影による原告のプライバシー権及び肖像権侵害によって生じた原告の精神的苦痛を慰謝するの
に必要な額は,150万円と認めるのが相当であり,被告に対して本件謝罪広告の掲載を命ず
る必要性があるとはいえないというべきである。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は,不法行為による損害賠償請求権に基づき150万円及び
これに対する平成18年4月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める限りで理由があるからこれを認容し
- 東京地方裁判所平成17年12月16日判決(出典:判例時報1932号103頁)
出会い系サイトに顔写真を無断で載せられた女性が、写真家、出会い系サイトを経営する会社及び会社の社長を訴えたケースでは、120万円の損害賠償(慰謝料100万円、弁護士費用20万円)が認められました。
- 最高裁判所平成17年11月10日判決(出典:判例タイムズ1203号74頁)
人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。
人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。
刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。
刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。
- 東京地方裁判所平成17年9月27日判決(出典:判例時報1917号101頁)
東京の最先端のストリートファッションを紹介する目的で、公道を歩いていた原告(女性)の写真を無断で撮影し、ウェブサイトに掲載したことが肖像権の侵害にあたるとして、35万円の損害賠償請求が認容された
- 東京地裁平成17年3月23日判決(出典:判例時報1912号30頁)
依頼者と弁護士間で紛争が発生した後、依頼者が、弁護士事務所内部を無断で写真撮影したことにつき不法行為を認め、慰謝料として15万円の支払いを命じた。
- 東京高等裁判所平成8年3月19日決定(出典:東京高等裁判所判決時報民事47巻1〜12号10頁)
一 人が、その意に反して、自己の容貌、姿態を撮影した写真を公表されることのない利益は、いわゆる人格権の一内容として法的保護の対象となる。
二 人の容貌、姿態を撮影した写真が契約関係又はこれに準ずる関係に基づいて公表される場合においても、右公表が正当化されるためには、権利者の同意又はこれと同等の事由が疎明される必要があり、右事由の疎明のない限り、その写真の公表は、被保全権利たる肖像権を不法に侵害するものといわなければならない。
三 モデルである女優の意に反する写真を写真集に掲載してこれを公表することは、モデルの肖像権を侵害するものであり、出版社がこれを正当化できる事由を何ら疎明できない以上、モデルが右権利侵害を甘受しなければならない理由はないというべきであるから、本件写真集の出版差止めを求める仮処分の必要性があるものというべきである。
- 東京地裁平成8年2月29日判決(出典:判例タイムズ915号190頁)
個人の顔写真の掲載により肖像権が侵害された場合であっても、その違法性の判断においては、表現・報道の自由との適切な調整を図る必要があることから、当該写真の掲載が公共の利害に関する事項にかかわり、かつ、専ら公益を図る目的でなされ、しかもその公表された内容が右の目的に照らして相当なものであれば、右侵害行為は違法性を欠くと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件写真は、本件記事及び本件広告の中で都税に関する報道に用いられているところ、都税に関する事柄は公共の利害に関する事項にあたるものであり、その経済活動が世間の話題になっている原告の経営する桃源社が、都税多額滞納者のワーストテンに入っていることも、広い意味で公共の利害に関する事項に該当するのであって、被告の本件写真の掲載目的も専ら公益を図ることにあるといえる。
そして、本件記事及び本件広告中に掲載された写真は、いずれも原告の上半身、正面の顔写真であり、それ自体特に秘匿されるべき態様の写真ではない。
なお、原告は、特に本件広告について、「2300億円ないしそれに準ずる相当額の都税を滞納していながら、開き直って逆に都の税金Gメンを怒鳴りつけたり、これと同様の不誠実な対応をした者がおり、その中の一人が原告である」という意味にしか解釈できないとし、その事実に反する虚偽の本件見出しに添えて原告の顔写真を掲載することは、表現方法として極めて不当である旨主張するが、前記のとおり、本件見出しの意味内容は、必ずしも原告主張のとおりに一義的であるとはいえないのであって、本件週刊誌の宣伝のために本件見出しに原告の顔写真を添えて掲載したことが、公表の方法として相当性を逸脱しているとまではいうことができない。
したがって、被告が本件記事及び本件広告の中で本件写真を掲載したことは、違法性を欠くものと判断することができる。
- 青森地裁平成7年3月28日判決(出典:判例時報1546号88頁)
(一)肖像権侵害及び名誉感情の侵害
原告に無断で撮影され「ふかだっこ」第72号に掲載された本件写真(別紙(三)参照)
は、原告がゴリ漁をしているところを撮影したものであって風景写真と言えなくもないが、原告がかなり大きく写っており、横顔とはいえ原告をよく知っている者が見れば被写体が原告であることが容易に判断できるものと認められる。したがって、このような写真の無断撮影、掲載は原告の肖像権を侵害するものと認めるのが相当である。
また、「ふかだっこ」は、前記のとおり、六ケ所村内、青森県内においても相当数の反対者が存在し、反対運動も活発に行われている中で、核燃料サイクル施設の事業者が右事業を円滑に進めることを目的として発行している地域情報誌であること、他方、原告は六ケ所村のもと村長であり、核燃料サイクル施設に反対の立場をとって積極的に反対運動に取り組んでいる者であることからすると、原告を撮影した写真を「ふかだっこ」の表紙に掲載したことは原告の名誉感情をも侵害したものと認められる。
そして、右のような事情並びに被告らには本件写真を是が非でも表紙に掲載しなければならない格別の必要性があったとは言えなかったことに照らすと、本件写真が屋外、それも公の場所というべき漁場で撮影されたものであることを充分考慮してもなお、右侵害は受忍限度内に止まるものとは認められない。
<<中略>>
前記認定のとおり、肖像権侵害及び名誉感情を損なわれたことによって原告に生じた損害は受忍限度内に止まるものではなく、右(一)で述べた被告らによる損害回復の各措置によっても完全に損害が填補されたものとは認め難い。そして、すでに認定説示したところその他本件に顕れた一切の事情を総合して斟酌すると、原告に生じた精神的損害を慰謝するための金額としては、金10万円が相当である。
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