パブリシティの権利
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2023.1.8mf更新
弁護士河原崎弘
相談
私はある社会奉仕団体に所属しています。毎年、老人ホームを訪問したり、街頭で募金を集めるなどの奉仕活動をしています。ときどき、タレントなどの有名人も参加してくれます。
その際には、タレントと一緒に、写真を撮ったりしています。当クラブでは、そのタレントが写っている写真をホームページに載せようと企画しています。これは許されるでしょうか。写真の著作権は、撮影者である私にあると思うのですが。
相談者は、5分ほどですが、弁護士会の
電話無料相談 を受けました。
回答
(著作権)
写真の著作権は、撮影者にあるので、著作権については、問題ありません。
(肖像権)
顔写真の発表は、通常、写されている人の承諾が必要です。承諾なく公表すれば肖像権侵害として不法行為となります。
これは、人がむやみに氏名を使用されたり、その肖像を他人の目にさらされたりしないことを保護する人格的利益です。プライバシーの保護の一環です。
例外的に、写真などの使用が肖像権の侵害にならないのは、@真実性、A公共性、B公益性がある場合です。
(著名人の場合)
他方、著名人は、その著名性ゆえに、著名人としての活動やそれに関連する事項が、一般人よりも社会の正当な
関心事の対象となりやすいものである。そのため,著名人は、その著名人としての活動等が雑誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって批判、論
評、紹介等の対象となることや、そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されることについて、言論,出版,報道等の表現の自由の保
障という観点から、これを容認しなければならない場合がある。
あるいは、俳優などの場合は、自己の氏名、写真が大衆の前に公開されることを包括的に許諾したものであって、このような人格的利益の保護は大幅に制限されます。
俳優などが、自己の氏名、肖像などを無断で使用されたとして損害賠償を請求できるのは、その使用が、純然たる個人生活の場合です。
(パブリシティの権利)
俳優などは、プライバシーの保護としての肖像権はないのですが、自己の氏名、肖像を対価を得て使用させる利益を持っています。これがパブリシティーの権利です。これは人格的利益ではなく、経済的利益です。写真などの使用行為が当該著名人の顧客吸引力に着目し、専ら顧客吸引力の利用を目的とするものである場合は、パブリシティの権利を侵害しています。
あなたのクラブのホームページに、そのタレントの写真を使うと、問題になるのは、このパブリシテーの権利の侵害になるかです。
明確には断言できませんが、タレントは、通常、どのような写真の場合対価を請求するかとの観点から考えたらどうかと思います。
その団体が営利団体でないことを考慮すると、そのタレントの顔写真で、クラブを宣伝している写真の掲載の仕方は、パブリシティの権利の侵害となる可能性があり、奉仕活動に参加している写真とか、奉仕活動の際の記念写真ではパブリシティの権利の侵害の可能性は低いと思います。
判決
- 最高裁判所平成24年2月2日判決(出典:判例秘書)
そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,@肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,A商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,B肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。
- 東京地方裁判所平成22年10月21日判決(出典:判例秘書)
これに加えて,前記のとおり原告の氏名及び肖像は強い顧客吸引力を有すること,本件雑誌が上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であること
などを併せ考えると,本件雑誌において,その人気ぶりが一種の社会現象となっている原告の本件来日時の芸能活動を紹介するという一面があったことは否定されないと
しても,本件雑誌のように表紙及び本文の大部分において,原告の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様での原告写真の使用は,
原告の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものと認められ,原告のパブリシティ権を侵害するものというべきである(なお,上記の原告写真のうち符号11,
12及び14の写真については,ビーオーエフが本件ドラマの記者会見の報道用に配布したものであると認められるが(弁論の全趣旨),ビーオーエフにおいて,本件雑
誌のように原告のパブリシティ権を侵害するような態様で掲載することまで許容した上で上記写真を配布したものと認めるに足りる証拠はない。したがって,上記写真を
ビーオーエフが配布したという事実は,上記判断を左右するものではない。)。
一方,本件雑誌中の,原告の写真よりも記事部分の方が多くを占めているページ(14,25,38,39ページ)(前記(3)ウ(ウ),(エ),(ク))
,原告の写真の他に共演者等の写真が掲載され,記事部分も相当程度を占めているページ(16,17,34,37ページ)(前記3ウ(ウ),(キ))に原告の写真を
掲載したことや,原告の姿がごく小さくしか写っておらず,原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができるものとはいえない写真(符号37,38,43,44)
を掲載したことについては,原告の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものとまでは認め難いから,パブリシティ権を侵害したとは認められない。
- 最高裁平成16年2月13日判決(判例タイムズ1156号101頁)
競走馬の所有者は、当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作、販売した業者に対し、その名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作、販売等の差止め及び損害賠償を請求することはできない。
- 東京地裁平成10年1月21日 判決(出典:判例時報1644号141頁)
世界的に著名なロックグループに関する書籍の出版について、パブリシティ権の侵害に基づく損害賠償及び当該書籍の販売差止請求が認められ、書籍の出版によるパブリシティ権侵害に基づく損害につき、著作者が得る印税額が基準とされた。
- 東京地裁昭和51年6月29日判決(出典:判例時報817-23)
原告マーク・レスターは、本件コマーシャルは同原告に無断でその氏名及び肖像を商品宣伝に利用するもので、これにより同原告の氏名権及び肖像権が侵害された旨主
張する。そこで、右主張の当否を判断するに先立って、まず「氏名権」及び「肖像権」の一般理論について検討することとする。
(一) 氏名及び肖像に関する利益の法的保護
通常人の感受性を基準として考えるかぎり、人が濫りにその氏名を第三者に使用されたり、又はその肖像を他人の眼にさらされることは、その人に嫌悪、羞恥、不快等
の精神的苦痛を与えるものということができる。したがって、人がかかる精神的苦痛を受けることなく生きることは、当然に保護を受けるべき生活上の利益であるといわ
なければならない。そして、この利益は、今日においては、単に倫理、道徳の領域において保護すれば足りる性質のものではなく、法の領域においてその保護が図られる
までに高められた人格的利益(それを氏名権、肖像権と称するか否かは別論として。)というべきである。けだし、社会構造が複雑化、高度化し、マスコミニュケーショ
ン技術が異常な発達を遂げた現代社会は、常に個人の氏名や肖像が多様な形式で他人に利用され、公表される危険性をはらんでいるが、かかる危険が高まるに従って、逆
に各人の、その氏名や肖像を他人にさらさずに生きたいという願望が強くなるというのが、現代人に共通の意識と考えられるのみならず、我国の法制がよって立つ個人尊
重の理念は、かかる利益に対する不当な侵害を許容しない趣旨をも含むと解されるからである。かような人格的利益の法的保護として、具体的には違法な侵害行為の差止
めや違法な侵害に因る精神的苦痛に対する損害賠償が認められるべきであって、民法七〇九条にかかる違法な侵害を不法行為と評価することを拒むものと解すべき根拠は
存しない。
(二) 俳優等の氏名、肖像に関する利益ところで、右に述べたような人格的利益に関する一般理論は、その主体が映画・舞台の俳優、歌手その他の芸能人、プロス
ポーツ選手等(以下「俳優等」という。)大衆との接触を職業とする者である場合には多少の修正を要するものと考えられる。
何故ならば、前記のような人格的利益は、それがアメリカ法においてはプライヴァシー法の一環として論じられていることからも明らかなとおり、人が自己の氏名や肖
像の公開を望まないという感情を尊重し、保護することを主旨とするものであるが、俳優等の職業を選択した者は、もともと自己の氏名や肖像が大衆の前に公開されるこ
とを包括的に許諾したものであって、右のような人格的利益の保護は大幅に制限されると解し得る余地があるからである。それだけでなく、人気を重視するこれらの職業
にあっては、自己の氏名や肖像が広く一般大衆に公開されることを希望若しくは意欲しているのが通常であって、それが公開されたからといって、一般市井人のように精
神的苦痛を感じない場合が多いとも考えられる。以上のことから、俳優等が自己の氏名や肖像の権限なき使用により精神的苦痛を被ったことを理由として損害賠償を求め
得るのは、その使用の方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例
えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定されるものというべきである。
しかしながら、俳優等は、右のように人格的利益の保護が減縮される一方で、一般市井人がその氏名及び肖像について通常有していない利益を保持しているといいうる。
すなわち、俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品等の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場
合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有してい
るのである。ここでは、氏名や肖像が、(一)で述べたような人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することになり(右利益は、当然に不法行為法によって保
護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、右経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられ
る場合が多いといわなければならない。
(三) まとめ
以上考察したところにより、原告マーク・レスターの主張する氏名権及び肖像権は、これを前記(一)及び(二)の前段で述べたような氏名及び肖像に関する人格的利
益(以下において「氏名及び肖像に関する精神的利益」と称する。)と前記(二)の後段で述べたような経済的利益(以下において「氏名及び肖像に関する財産的利益」
と称する。)とに分類することができる。
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