不動産競売の入札

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Last updated 2015.12.1mf


ご注意: ここに書いてあることは、平成16年3月31日以前に契約した短期賃貸借に当てはまります。 平成16年4月1日以降に契約した賃貸借(抵当建物使用者) は別です。民法395条が改正され、短期賃貸借の制度がなくなりました(単なる6か月間の引渡し猶予になりました)。
債務者本人、所有者本人に関することは同じです(引渡命令が出ます)。

相談:不動産不動産競売での入札
会社を退職し、独立した相談者は仕事は順調に発展しました。ここ 1 年、一軒家を買おうと計画し、捜しましたが、なかなか見つかりません。
できたら、高級住宅地がいいと考えていたからです。ある日新聞広告を見ると、裁判所の競売物件が掲載されており、その中に自宅近くの高級住宅街(目黒区)にある土地約 100 坪付の 3 階建ての家が最低売却価額 2 億 3000 万円で競売にかけられていました。広さも手ごろで、調べると、価格は相場より、1割から2割位安いのです。
相談者の奥さんは裁判所に行き、物件明細書をコピーし、ご主人(相談者)にも見せました。奥さんは裁判所でコピーを取るために待っているときに、隣り合わせた人(不動産業者らしい)から、「あの物件は止めた方がいいよ」と忠告されたこともご主人に話しました。ご主人は、「めったにないいい物件」と言って、買うことに賛成しました。

助言
この段階で、相談者は法律事務所を訪れ、弁護士の助言を求めました。
弁護士がチェックしたのは、物件明細書の競売に伴って、効力を失わない権利があるかでした。特に、賃借権が残るかでした。「2.不動産に係る権利の取得および仮処分の執行で売却により効力を失わないもの」欄には、斜線が引いてありました。残存する権利はないようでした。
弁護士は次に備考欄をチェックし、競売後 引渡命令 が出るかどうかを検討しました。
この建物は3階建てです。そのうち、 2 階の一部をフランス人が、 3 階の一部を他の人が賃借権を主張していました。しかし、裁判所は、それぞれ、占有が認められないと判断していました。ところが、最後に裁判所の判断として、 物件明細書中の、備考欄には「別紙記載の通り」とあり、別紙には、「本件所有者( 2 階、 3 階の上記部分を除く)は引渡命令の対象となる」と記載してありました」
この表現はおかしいです。上記 2 階、 3 階の部分が独立の占有が認められないならば、この部分も引渡命令の対象となるはずです。物件明細書の記載はこんなものです。正確には、自分で判断するしかありません。
裁判所は、権利乱用的賃貸借と見ていることがわかりました。
この物件は通常の競売(入札期間は 8 日間)ではなく3か月の特別売却期間を定めた入札に付されていました。1 回入札に付されたが、売れなかった物件なのです。最低売却価額が高いか、明渡しが難しい物件のなのです。特別売却に付された場合は期間経過前に買受人が現れれば、そこで、入札は決まります。
弁護士はありのままを相談者に説明しました。
相談者は自分の判断でこの物件を入札で買うことに決めました。 1996 年 4 月 15 日、相談者は裁判所に保証金(最低売却価額の 2 割)として 4600 万円を納入しました。競売に参加するには裁判所が決めた保証金を収める必要があるからです。相談者はここまで自分でやってから、弁護士に任せました。
そのうちに、不動産業者を通して物件の所有者は、相談者が入札した情報をつかんだのでしょう。所有者(会社の社長らしい)の代理人と称する人物から相談者のもとに連絡が入りましたので、相談者はこの段階で全てを弁護士に任せました。

交渉
所有者の代理人は次の通りの説明しました。
「この物件はいい物件で所有者は手放したくなかった。だから自分で競売で買うつもりでいた(ただし、法律上、所有者は入札できないので、知人に入札してもらう)しかし、値段が時価(しかし、1 割くらい安い)に近く、買う人はいないと思っていた。前回は、入札に付され、売れなくて、最低競売価格が安くなってから入札するつもりでい た。今回、相談者が入札したので、驚いている。ぜひ買い戻したい」
弁護士が相談者に意思を尋ねると、相談者は、「自分は住む目的で入札に参加したのであって、儲けるつもりはない。従って、売るつもりはない」と、答えました。
それでも、所有者の代理人は、「売ってくれ」と、言って、何度も法律事務所を訪れました。 さらに、これまた所有者の代理人弁護士から、相談者の弁護士のもとに、「あの物件の 2 階の一部をフランス人が借りていて、この部屋に対しては引き渡命令は出ないでしょう。例え、引渡命令が発せられ、強制執行を受けた場合はフランスで損害賠償の裁判が提起されるでしょう」と、言ってきました。
競売手続きにおいて、裁判をせずに建物などを明渡せる制度が引渡命令です( 民事執行法83条 )。引渡命令が出るか出ないかは重大な問題です。

引渡命令は所有者あるいは差押後の占有者(賃借人)、権利を濫用している賃借人、差押後に期間が満了する短期賃借人(大阪高裁平成元年5月31日決定)などに対して出ます。
抵当権設定登記が先であっても差押え前の占有者(権利者である。使用借者を除く)に対しては引渡し命令は出ません。そのような占有者に対しては裁判で明渡しの判決を取る必要がありますので、時間がかかります。
引渡命令を得るには代金納付後 6 ヶ月以内に 引渡命令を求める申立 をする必要があります(民事執行法 83 条 2 項)。
本件では物件明細書では引渡命令についての記載が若干曖昧でした。
相談者の意思は固く、「自分は正しいことをしているのだから。例え時間がかかってもいいから」と言って、所有者の要求には応じませんでした。
5 月 27 日が売却決定期日で、この日に相談者が買受人に決まります。その後「代金納付期限通知書」が届き、8 月 22 日、相談者は売却代金残 1 億 8400 万円と登録税相当分の現金を裁判所に納めました。
この頃も相手の代理人は必死に、「買い戻したい」と、言ってきました。ある日、相手の代理人は、「実は社長は、仕事で組関係者と関係がある」と、漏らしました。その関係を具体的に話しました。以前、不動産業者らしい人が、「あの物件は止めた方がいいよ」と言ったのは、このことだったのです。競売物件には色々な人が絡みます。
この話を聞いた相談者は、「余り無理をして相手を立退かせるのではなく、条件によっては売ってもいい」と、考えが変わってきました。自宅として住むには気持よく住みたいと思っていたからです。

和解
そこで、何度か交渉し、売る場合は、相談者が使った弁護士費用、登録免許税、代金など一切の経費に 2300 万円をプラスした金額を売買代金とすることに決まりました。
また、本件では買手は代金を払えない可能性もありますから、実際に代金を持ってきたときに契約をすることにしました。
9 月 6 日、弁護士は裁判所に対し引渡命令を求める申立をし、 9 月 11 日、裁判所は建物全部について引渡命令を出しました(引渡命令が出ない場合は 執行抗告 をします)。 2 階、3 階の一部についての賃借権は賃借人に占有がないので、無視されたのです。通常は、このような賃借権は競売妨害目的の賃借権であることが多く、それが明白なら刑法 96 条の 2 の 強制執行妨害罪(免脱罪) 、あるいは競売等妨害罪に該当します。
弁護士が、相手に連絡すると、なかなか連絡できず、相手が代金を用意できないおそれがありました。
12 月 4 日、弁護士は引渡し命令につき、執行文を付与してもらい、明渡しの強制執行の準備は完了しました。万一相手が代金を用意できなかったら、強制執行をする準備をしたのです。
ようやく元所有者(現在の所有者は相談者です)の代理人と連絡がつき、 12 月 9 日、2 億 7000 万円で売る売買契約を締結し、1 億 3500 万円を代金の一部(正確には手付が 5400 万円、内金 8100 万円)として受取りました。所有者が用意した買主はある有名企業でした。
12 月 24 日、相談者は銀行で残金 1 億 3500 万円を受取りました。

弁護士費用・税金
相談者は弁護士に対して、初めに着手金 200 万円、事件終了時に報酬 200 万円を支払いました。それでも、利益として 2300 万円が残りましたが、本件は不動産の短期譲渡による所得ですから、利益の 2 分 1 以上は税金になります。
不動産を買う 場合、競売で買うことも1つの方法ですが、明渡しが問題となることが多く、それに要する費用を準備しておく必要があるでしょう。

不動産を競売で買う際に必要な書類など コメント
ホームページ参考になりました。
地方の都市部で競売を扱う者です。引渡命令をもっと強固なものにできないのですかね? なぜなら引渡命令確定前に占有を次々に移転され、結局だれが占有しているのかわからない(外国人等)状態になれば引渡命令がまったく機能しなくなります。
かと言って占有移転禁止の保全処分を毎回行うわけに行かず、結局知能暴力犯の温床になっています。
明らかに競売等妨害罪ですが刑事事件としては、なかなか 警察は動いてくれませんね。

回答
コメントありがとうございます。 これは競売につきものの古典的な問題です。
占有者を外国人にするのは、身元を調査することを難しくするためです。引渡命令の承継執行文を付与してもらったらどうでしょう。 占有者が権利濫用行為を繰り返した場合は、最近は、裁判所も考えてくれると思います。 昔よりは裁判所の態度よくなりました。
問題は、マンションなどの場合、争いになると、占有者は排水パイプなどにモルタルを詰めるなどの嫌がらせをすることです。金をかけて引渡執行しても、結局、修復に多額な費用がかかります。
裁判官に現状をわかってもらいたいですね。私は、通常事件で占有者がいる場合は、不法占有者であることが後で(競売手続きにおいて)証明できるように証人尋問などで気を付けています。
関係者が、この占有屋の、不当な利益を理解しているか疑問ですね。公務員は、まず自分の身の保全を第一に考え、ことなかれ主義の処理をしてしまうのです。

民事執行法第83条(引渡命令)
執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
買受人は、代金を納付した日から六月を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第一項の規定による決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。ただし、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、又は既にその者を審尋しているときは、この限りでない。
第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。

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