質問2004.10.15
私は、知人と共同でスナックを経営していました。風俗営業の許可は、知人の名義で取りました。
6か月前、私は、その知人から、権利を譲り受け、(大家さんの了解もとり)店がある建物の借主も私にし、保健所の許可も取りました。
知人は別の場所で妻とスナックを始めたのですが、そこでは風俗営業の許可を取っていなかったので、警察が来て、現場にいた(知人の)妻は逮捕され、知人も明日、警察に出頭することになっています。
私は、自分の店を続けて営業できますか。風俗営業の許可証中の営業者を、知人から私に変更してもらえば、いいのでしょうか。
手続きを知らなかったと言えば、とおりますか。
相談者は、弁護士事務所を訪ねました。
弁護士の回答
風俗営業の許可は、「その人およびその場所」に対して与えられるのです。 従って、営業者の変更はできません。唯一の例外は、営業者死亡の場合、相続人は、承認の申請をして許可を受け継ぐことができます(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律7条)。しかし、それ以外は、営業者の変更はできません。
あなたのケースでは、いったん、知人名で廃業届けを提出し、改めて、風俗営業許可申請をしてください。
前に申請した書類の控えがあれば、比較的簡単に書類を作ることができます。このような場合、営業主が法人であれば、役員の変更届で対処できます(風営法9条3項) 。
あなたの店は、知人が営業するには問題はありません。あなたが営業すれば無許可営業となります。知人の口から、あなたの店が無許可営業であることは、警察に漏れます。
今日からは、店を休み、許可が出るまでは、営業してはいけません。無許可で営業すれば、違法ですので、警察の強制捜査を受けます。しかし、警察は、多分、過去6か月間の無許可営業は追及しないでしょう。
知人は風営法違反の共犯として逮捕される可能性があります。
「法律に違反していることを知らなかった」とか、「法規を知らなかった」との抗弁は、通りません。これについては、多くの判例があります。
違法性の意識の欠如、法規を知らなくても、裁判所は、「故意がある」と認めています。裁判所は、刑法38条3項を、「違法性の意識がなかったとしても罪を犯す意思(故意)はなかったとは言えない」と解釈しています。
判例刑法
- 最高裁昭和25年11月28日判決
自然犯たると行政犯たるとを問わず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。- 最高裁判所昭和32年10月18日判決
刑法三八条三項但書は、自己の行為が刑罰法令により処罰さるべきことを知らず、これがためその行為の違法であることを意識しなかつたにかかわらず、それが故意犯として処罰される場合において、右違法の意識を欠くことにつき勘酌または宥恕すべき事由があるときは、刑の減軽をなし得べきことを認めたものと解するを相当とする。
従つて自己の行為に適用される具体的な刑罰法令の規定ないし法定刑の寛厳の程度を知らなかつたとしても、その行為の違法であることを意識している場合は、故意の成否につき同項本文の規定をまつまでもなく、また前記のような事由による科刑上の寛典を考慮する余地はあり得ないのであるから、同項但書により刑の減軽をなし得べきものでないことはいうまでもない。
しかるに原判決は、被告人等が共謀して昭和二八年二月二一日山形県東田川郡a村所在の村有の橋を岩石破壊用ダイナマイト一 五本を使用爆発させて損壊した本件事案につき、被告人Aの第一審公判における、ダイナマイトを使つてこんなことをすると罪が 重いということを知らなかつた旨の供述、被告人Bの原審第三回公判における、ダイナマイトを勝手に使うことが悪いこととは思 つていたが、こういう重罪ではなく罰金位ですむものと思つていた旨の供述を引用して、「被告人等のこれらの供述によれば、被 告人等は死刑または無期もしくは七年以上の懲役または禁錮に処せらるべき爆発物取締罰則一条を知らなかつたものというべきで ある」と判示し、被告人等の犯行の動機、性格、素行などを参酌して刑法三八条三項但書により刑の減軽をなしているものである。
これによれば被告人等は右本件所為が違法であることはこれを意識していたものであり、ただその罰条または法定刑の程度を知ら なかつたというに過ぎないものであるにかかわらず、一般の量刑事情を挙げて刑法三八条三項但書を適用しているのである。
されば原判決は刑法三八条三項但書の解釈適用を誤つたものであつて、右違法は判決に影響を及ぼすこと明かであり、原判決を 破棄しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。
よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文により原判決を破棄し、本件を原裁判所に差戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見 で主文のとおり判決する。
第38条(故意) 1 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。 3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。