地主から多額の更新料を請求された
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2023.4.24mf更新
相談:高額な更新料の請求
私は、土地を約60坪借りています。来年が更新時期に当たりますが、地主(寺)の代理人弁護士から、更新料として500万円を請求する通知がきました。この金額は、土地の時価(具体的には路線価)の5%に当たるそうです。
私が、弁護士に会って話をしましたが、弁護士から、「他の借地人も同じ。一人だけ例外にできない」と言われてしまいました。
不動産賃貸借契約書には、「本契約期間満了のとき賃借人において契約更新を希望するときは賃貸地の時価の2割以内の
更新料を賃貸人に支払う」と書いてあります。弁護士は、この条項を根拠にしているようです。
私の借りている土地は、他の借地人に比べて、広いので、更新料は多額になる面はありますが、大きな金額です。更新料を払うべきでしょうか。また、この金額は妥当でしょうか。
法定更新
土地賃貸借契約の更新料の相場は、借地権価格の5〜10%、更地価格の2〜6%など諸説あります。更新料は、地域によって異なると言われています。しかし、法律上は、借地人に支払い義務はありません。
建物所有目的の土地賃貸借契約の期間満了に際し、更新について、貸主(地主)は、正当の事由がなければ異議を出せません(借地借家法6条)。正当事由の要件は、厳格で、通常は、正当事由は認められません。土地賃貸借契約は、法律の力で同一の条件で更新されます(法定更新、借地借家法5条)。
更新後の期間は、次のようになります。
- 平成4年7月31日以前に契約された借地権の場合(旧借地法が適用される)
堅固な建物所有の場合、30年
普通建物所有の場合、20年
- 平成4年8月1日以降に契約された借地権の場合(借地借家法が適用される)
借地契約後最初の更新の場合、20年
2回目以降の更新の場合、10年
以上は、強行規定です(9条)。
そこで、通常は、貸主は、更新料を要求できないのです。
更新料の合意
地主が、更新料を請求できるのは、更新料の合意がある場合と、合意がない場合は、その地方に更新料支払いの慣習ないし慣習法がある場合です。
不動産賃貸借 の中に、更新料支払いの合意がある場合は、その金額が「相当」である限り有効とするのが、多くの判決例であり、多くの学説です。あなたの場合は、土地の時価の「2割以内」との合意しかないのですから、金額についての合意はなく、地主と協議して、更新料の金額を決める必要があります。地主が、一方的に5%の金額と決めても、それは、借地人に対して拘束力を持ちません。
判例を見ると、土地の「2割の範囲内の更新料」とか、「時価の1割」と、更新料を約束した契約について、つぎのように判決し、更新料の合意とは認めていません。他方、例外的に、更地価格33億5400万円の15%を更新料と認めた判決もある。
- 東京地方裁判所令和3年11月24日判決
(3)本件更新料合意は,更新料の額を更新時点である平成30年11月26日における本件土地の更地価格の15%によって定める趣旨であると解される。また,本件裁判所鑑定によれば,同年12月1日時点における本件土地の更地価格は33億5400万円であると認められることから,同金額を更新時における本件土地の更地価格として採用する。
したがって,被告は,本件更新料合意に基づき,原告に対し,本件賃貸借契約の更新時である平成30年11月26日時点の本件土地の更地価格33億5400万円の15%に当たる5億0310万円を更新料として支払う義務を負う。また,被告の更新料支払債務には支払期限の定めはないところ,原告による支払催告は第1事件の訴状の送達によってされたと認められるから,被告はその翌日である平成30年12月29日から遅滞に陥ることになる。
- 東京地方裁判所平成28年3月29日判決
ア 本件鑑定の結果《不動産鑑定士Fによるもの》によれば,平成25年3月1日時点の相当更新料額は,本件X1関係賃貸借契約につき1157万円(1平方メートル当たり5462円),本件X2賃貸借契約につき1277万円(1平方メートル当たり5462円)としている。
本件鑑定によると,本件X1関係賃貸借契約及び本件X2賃貸借契約の対象土地の路線価を算出し,前回更新時に支払われた更新料額を時点修正した上で,
50パーセントの補正を行い,1平方メートル当たり5462円と算出している。
上記更新料額は,本件鑑定によって算出された借地権価格の約2.8パーセントに相当する。
<<中略>>
(3)よって,被告は,原告らに対し,本件X1関係賃貸借契約及び本件X2賃貸借契約の平成25年3月1日の更新において,相当額の更新料の支払義務を負
うというべきである。
3 争点A(更新料額)について
(1)そこで,更新料の相当額について判断するに,前記1(7)で認定した事実を踏まえると,更新料の相当額は,本件X1関係賃貸借契約につき1157万
円(1平方メートル当たり5462円),本件X2賃貸借契約につき1277万円(1平方メートル当たり5462円)であると認められる。
- 東京地方裁判所平成28年1月18日
判決
1 争点1(本件更新料支払条項により被告に更新料支払義務が認められるか)について
(1) 平成3年10月11日に本件賃貸借契約が更新された際に定められた契約条項の第2条は,存続期間についての規定であり,「この賃貸借契約の存続期間
は,平成3年10月1日から満20年とする。ただし,期間満了のときに建物が存在するときは,甲(賃貸人)乙(賃借人)協議の上,更新することができる。契約が
更新されたときは,乙は,甲らに対して,甲乙協議により定めた金額を更新料として支払わなければならない(本件更新料支払条項)。」との文言で定められている
(甲1)。
上記文言からすると,本件更新料支払条項は,ただし書の協議の上での更新(すなわち,合意更新)の規定を受けて定められていると読むのが素直であり,ま
た,「甲乙協議により定めた金額を更新料として」の文言からすれば,その更新料自体が合意によって定められるものと解されるから,本件更新料支払条項は,合意更
新の際に当事者間の合意によって定められる更新料についてのみ規定したものと解すべきである。
したがって,本件更新料支払条項には,法定更新の際の更新料の支払については規定されていないから,原告は被告に対し,同条項によって,本件の法定更新
について更新料の支払を請求することはできない。そして,同条項のほかに,原告と被告との間で法定更新の際に更新料を支払うことを合意したことについての主張・
立証はない。
以上によれば,原告は,被告に対し,本件の法定更新について,更新料の支払を請求できない。
- 東京高等裁判所平成11年6月28日判決
更新特約は、「本契約期間満了のとき賃借人において更新契約を希望するときは賃貸地の時価の2割の範囲内の
更新料を賃貸人に支払い更新契約をなすべきことを当事者間において予約した」というものであるが、この特約によって本件賃貸
借契約の更新に伴い当然に一定の額の更新料請求権が発生すると認められるかどうかはともかくとして、右特約の趣旨に照らせば、
賃借人たる控訴人において本件賃貸借契約の更新を希望する以上は、少なくとも、更新料についての当事者間の合意の成立に向け
て真摯な協議を尽くすべき信義則上の義務があると解すべきである」として、土地の時価の5%を請求した地主の更新料請求を否定しました。
- 東京地方裁判所昭和59年6月7日判決
昭和39年11月15日原告と被告らとの間に結ばれた契約の中には、賃貸借の存続期間が満了したときは、
双方協議の上賃貸借契約を更新することができ、この場合には借地人は地主に対しそのときにおける土地の売買価格の1割の更新料を支払わなければならない旨の条項が存することが認められる。
・・・・これは、将来賃貸借契約の存続期間満了時に当事者双方の合意で契約を更新することがで
き、その場合には賃借人は一定額の更新料の支払を要することとしているにとどまり、法定更新の可能性が否定されるものでないことはもとよりであり、法定更新のときの更新料を定めたものでないことは文理上明らかである。ことに本件においては、更新料に関する特約は、存続期間満了までまだ17年も残していて将来の土地の需給に関する予測もたてがたい時期になされているのであり、しかもそこで約定された更新料の額は、土地の売買価格の1割という今日の世間相場からみれば異例に高額なものである
・・・・賃借人が存続期間満了時に約定更新料の支払による円満な合意更新の途を捨て
て、賃貸借の継続についての多少の危険は覚悟の上で、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することのできる法定更新の途を選ぶことは妨げられるべきではないのであり、本件における更新料支払に関する特約は、他に特段の事情のない限り、法定更新の場合には適用されないものと解するのが相当である。そして本件では、賃借人に更料支払の義務を負わせるのを相当とするような特段の事情があるとは認めることができない。
ただし、実際に、更新料支払いの合意をした後に更新料の支払いを怠ると、賃貸借契約を解除されます。解除を認めた最高裁の判決があるのです。
更新料支払いの慣習ないし慣習法
多くの判決は、合意がない場合は、その地方に更新料支払いの慣習ないし慣習法があれば、賃借人は、更新料支払いの義務があるとしています。
しかし、更新料支払いの慣習ないし慣習法を認めた判決は、ほとんど、ありません。次の判決を参考にしてください。
- 最高裁判所昭和51年10月1日判決
地主が、「東京都内においては、戦後とくに昭和30年頃から借地契約の更新に当り、借地人から地主に対して相当額の更新料
を支払う例が多く、最近においては、更地価格の5ないし10パーセントの更新料を支払うとの商慣習ないし事実たる慣習が成立
している」と主張した裁判において、最高裁は、次のように、これを否定しました。
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解を主張するものであって、採用することができない。
借地人の対策:低い金額の更新料の提案
以上の通りです。契約書に更新料について言及した
条項がありますので、あなたは、その弁護士と誠実に話し合いをする義務がありますが、5%の更新料を支払う義務はありません。
ただし、地主とは長く付き合う関係ですので、いたずらに紛争を発生させることもまずいです。そこで、更新料の相場は、借地権価格の5〜10%、更地価格の2〜6%との説がありますので、これより、低い金額を提案するのです。
具体的には、借地権価格の1%、あるいは、更地価格の0.5%を提案するのです。この提案をして、低い金額で妥結することを目指したらどうでしょう。時価は、国税庁の路線価で良いでしょう、借地権割合も国税庁のページに出ています。
河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161