不動産相談/共同の利益に反するとして管理組合の使用禁止請求
マンションの管理組合の役員をしています。このマンションの4階で託児所を始めた住居があり、皆さんから、騒音などの苦情が来ています。理事会でも議論し、騒音を出さないように申し入れていますが、改善されません。
当マンションでは、管理規約で、部屋を事務所として使用することを禁止しています。このような場合、管理組合としてはどのような対処ができますでしょうか。
回答
相談者の管理組合では、理事会に管理会社の顧問弁護士にきてもらい説明を聞きました。
弁護士の説明は次の通りでした。
まず、そのマンションの規約に、「専有部分を事務所に使用することはできない」とか、「住居以外のに使用はできない」、「営業のために使用できない」とかの条項があると、それは、一応効力があります。
さらに、その使用が、他の区分所有者に迷惑をかけた場合(他の区分所有者の共同の利益に反する場合)は、管理組合は、区分所有法57条1項に基づき使用の差止めを請求できます。今まで、裁判になったものは後記のものがあります。
管理組合としては、まず、内容証明郵便として、「騒音を出さないように警告する。それが守られない場合は、専有部分を託児所として使用の差し止めを求める」と通知したら、いかがでしょう。
相手が、警告を無視したら、次には使用差止めの訴えを提起してください。
判決
共同の利益に反するとして、
行為の差止めが認められた例は次の通りです。
- 大阪地方裁判所平成29年1月13日判決
イ 前提事実及び上記(1)の認定事実からすると,被告の行っていた賃貸営業は,実質的には,インターネットを通じた募集の時点で不特定の外国人旅行者を
対象とするいわゆる民泊営業そのものであり,約1年9か月の営業期間を通じてみると,現実の利用者が多数に上ることも明らかである。これについては,旅館業法の
脱法的な営業に当たる恐れがあるほか,改正の前後を通じて本件マンションの管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。
原告の営業が賃貸借の形式をとっているとしても許容されるものではなく,そのような被告の主張は採用できない。
ウ そして,すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく,被告の行っていた民泊営業のために,上記(1)に記載したような区分所有者の共同の利益
に反する状況(鍵の管理状況,床の汚れ,ゴミの放置,非常ボタンの誤用の多発といった,不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生
し,原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし,被告に対して注意や勧告等をしているにもかかわらず,被告は,あえて本件建物を旅行者に賃貸する
営業を止めなかったため,管理組合の集会で被告に対する行為停止請求等を順次行うことを決議し,弁護士である原告訴訟代理人に委任して被告に対する本件訴訟を提
起せざるを得なかったと言える。
そうすると,被告による本件建物における民泊営業は,区分所有者に対する不法行為に当たると言え,被告は弁護士費用相当額の損害賠償をしなければなら
ない。
本件の経緯等にかんがみると,被告が本件建物を売却したことは被告に有利な事情とは言えず,弁護士費用としては50万円が相当である。
- 横浜地方裁判所平成6年9月9日判決(判例タイムズ859-199)
住居以外の使用を規約で禁止されている分譲マンションを、所有者の夫が経営する病院の看護婦等の幼児のための保育室として使用
- 東京地裁平成10年1月29日判決(判例タイムズ984−177)
ペットの飼育
- 東京地裁平成10年12月8日判決(判例時報1668−86)
時暴力団の組事務所の使用
- 京都地裁平成10年2月13日判決、大阪高栽平成10年12月17日判決(判例時報1678−89)、横浜地裁平成12年9月6日判決(判例時報1737−90)
教団施設としての使用
- 神戸地方裁判所尼崎支部平成13年6月19日判決
マンションの一階を区分所有者から賃借した者が居酒屋を営業し、厨房換気ダクト、造作看板等を設置し、深夜まで営業を行った場合、管理規約に違反し、区分所有者の共同の利益に反するとし、管理組合の賃借人に対するダクト等の撤去請求、深夜の営業禁止請求が認容された
- 東京地裁平成18年3月30日判決
託児所として使用、
この判例では、騒音、エレベータの使用の利用上の不便、警察官を呼ぶような騒ぎを起こしたことを差止理由としています。
- 東京地方裁判所平成19年1月30日判決
犬、猫の飼育
マンションの管理組合が,被告らに対し,管理規約に違反して犬や猫を飼育しているとして,区分所有法の規定により,その差止めを求めた事案について,被告らが,動物禁止条項に違反して,犬又は猫の飼育を続けることは,共同の利益に反する行為であるとし,本訴の提起が権利の濫用であるとの被告らの主張を退けた。
共同の利益に反するとし
ながらも、使用禁止は権利の濫用に当
たるとして認められなかった次の判決もあります。
- 東京地裁平成17年6月27日判決(判例タイムズ1205-207)
原告が,住戸部分を事務所として
使用している大多数の用途違反を長期間放置し,かつ,現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら,他方で,事務所と治療
院とは使用態様が多少異なるとはいえ,特に合理的な理由もなく,しかも,多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員
の賛成により,被告乙山及び丁原に対して,治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は,クリーン・ハンズの原則に反し,
権利の濫用といわざるを得ない。
虎ノ門3丁目(神谷町駅1分) 弁護士河原崎弘 3431−7161
登録 2007.1.24