階下の天井裏の排水管枝管は共用部分か、専有部分か

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Last update 2023.9.22 mf
弁護士河原崎弘

相談:不動産

私はマンションの 6 階に部屋を持ち、住んでいます。このマンションは古く、色々修理を要します。先月、階下の部屋に水漏れがありました。管理会社が調べたところ、私の部屋の排水管から水漏れがあり、階下の部屋に水滴が落ち、天井、壁、衣類を汚したようです。
排水管の水漏れ個所(排水管の水漏れ部分)は、私の部屋内ではなく、(私の部屋の床下のスラブの下で、かつ)階下の部屋の天井裏にあります。
私は、すぐ、階下の部屋の住人に謝罪し、業者に依頼し、階下の部屋の了解を得て、修理をしました。この修理費用は 25 万円ほどでした。現在、階下の部屋とは、階下の部屋の壁紙などの補修費と、衣類の損害賠償の話し合いをしています。補修費用は 40 万円位、請求されている衣類の賠償は 30 万円位です。
私の部屋の排水管は階下の部屋の天井裏を通っていますので、共用部分であり、私には責任がないとの話があります。法律的にはどうでしょうか。 排水管が専有部分ではない場合の図

回答

水漏れ箇所の特定

水漏れ箇所の所有者が責任を負います。

共有部分・専有部分

水漏れ箇所が、共用部分か、専有部分かが問題です。
区分所有権の対象となるのは、専有部分です( 建物の区分所有等に関する 法律 2 条 1 項)。それ以外は共用部分です。
共用部分は、次のものです。共用部分以外は専有部分となります。 漏水個所が、専有部分なら、各区分所有者に 維持管理の責任があり、共用部分なら管理組合に責任があります。
区分所有権法9条は、瑕疵は、共有部分の設置または保存にあるものと推定しています。従って、瑕疵がどこにあるか証明できない場合は、瑕疵は共用部分にあることになります。

従来、排水管などの配管が専有部分か、共用部分かについては、次の3説がありました。
  1. 使用者に着目する説
    共同で使用している本管(縦管)は共用部分、特定の占有者が使用している枝管は専有部分と考える。
  2. 上記1説を、配管の存在する場所によって、修正する説。
    これによると、本管は共用部分である。枝管のうち、専有部分内に存在しないものは共用部分、専有部分内に存在するものは専有部分と考える。
  3. 排水管は共用部分と考える説。
従来 1 説が有力でしたが、平成12年に、新しい 判決 があり、これは 2 説を採用しているようです。これは最高裁の判決ですから、先例としての価値があります。

あなたの場合、漏水箇所はあなたの部屋内ではなく、あなたの占有に属さない箇所、すなわち、共用部分であると言えます。従って、裁判をすると、階下への水漏れにつき、あなたには責任がないとの判決が出る可能性が大きいです。
あなたが修理した場合は、修理費用25万円を管理組合に求償できます。階下の住人は、管理組合に損害賠償金70万円(40万円+30万円)を請求できます。

しかし、居住者間の問題ですから、具体的な解決方法としては、裁判より、話し合いで解決することが望ましいです。
この判決を示し、管理組合の役員を交えて話し合いをするとよいでしょう。あなたが責任を負う必要はありません。責任は管理組合にあります。

弁護士は、この判決に次のようにコメントしました。
「この判決は区分所有建物にとって重要な判決です。この判決が、管理組合に知られていくと、各区分所有者ではなく、管理組合が排水管を大修繕する方向に変わるでしょう」

判例

  1. 東京簡易裁判所平成19年12月10日判決
     1 本件マンションの管理規約,使用細則(甲1)第7条2項(1)によれば「天井,床及び壁は,躯体部分を除く部分を専有部分 とする。」と定められている。
     2 本件配水管は,本件マンションの902号室の天井と1002号室の床下との間の空間に存在する配水管で,床下から約5cm のところに亀裂が入っていたことが原因とする水漏れであったものと認められる(甲6)。
     3 そこで判断するに,本件マンションの管理規約,使用細則第7条2項(1)では天井までが専有部分とされるが,天井裏は専有 部分とは解されないこと,床は専有部分とされるが,床下は専有部分とは解されないところ,本件配水管の亀裂があった部分は ,90 2号室の天井裏であり,かつ,1002号室の床下の空間であると認められることから,902号室及び1002号室のいずれの専有 部分でもなかったと解される。本件マンションの管理規約,使用細則第8条によれば,「対象物件のうち共用部分の範囲は,専有部分 を除く部分とする。」と定められ,また,同第18条によれば「敷地及び共用部分等の管理については,管理組合が責任と負担におい てこれを行うものとする。」と定められていることからすると,本件配水管の亀裂した箇所は共用部分であり,その修繕義務は被告が これを負担するものと認められる(なお,天井裏の排水管についてはその共同性から共用部分とした裁判例として,東京地判平成8年 11月26日判例タイムズ954号151頁。天井裏の排水管の枝管について,これを上の階の部屋から点検,修理することが不可能 であることなどを理由に,区分所有者全員の共有部分に当たるとした判例として,最高裁判平成12年3月21日判例タイムズ臨時増 刊1065号56頁 参照)。

  2. 福岡高裁平成 12 年 12 月 27 日判決
    「なお、管理規約によって専有部分である配管を管理組合の管理の対象とすることは可能てあるところ(建物の区分所有等に関する法律三○条一項)、控訴人らは、控訴人管理組合においては、平成元年二月四日に開催された臨時総会において、管理規約改訂の件として、『新たに専有部分の床スラブ等の中の給排水管等については共用部分とする内容を明記する」旨の議案が認され(甲五一)、これを受けて同年二月二○日に改訂された管理規約(乙イ一)が施行されたのて、第三事故の原因となった床下空間部分の排水管は共用部分であると主張する。
    しかしながら、証拠(乙イ一、一三、乙口一○の一ないし五)によれば、昭和六二、三年ころ床スラブ内の排水管から漏水した事故があって、右排水管が共用部分かどうかが問題となり、被控訴人管理組合がその損害賠償責任を否定するなどしたことを契機に、平成元年二月四日に開催された臨時総会において、管理規約改訂の件として、『新たに専有部分の床スラブ等の中の給排水管等については共用部分とする内容を明記する」旨の議案が承認され(甲五一)、これを受けて、共用部分等(共用部分及び付属施?販)の範囲を定めて別表2の『2」が、従前は、『建物に直接する附属物(専有部分内のものを除く)」として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等』とされていたのか(乙イ一三夕照)、新たに『建物に直接する附属物』として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等(天井、床及び壁のうちに存するものて、躯体部分内に存するものは、専有部分内でも共用部分とする)』(乙イ一)と訂正され、同年二月二○日施行されたことが認められる。右管理規約の改正経緯、改正された管理規約の内容によれば、床下排水管は床スラブ内に存する部分は共用部分であるが、床とスラブとの間の空間に存する部分は区分戸有者の専有部分てあると解するのが相当てあり、第三事故の原因となった排水管は床下空間部分に存したものであるから共用部分とは認められない。控訴人夫吉子作成の陳述日(甲五四)中、床下部分の排水管はすべて共用部分とした旨被控訴人ジエントから説明があったとする部分は採用できない。

  3. 最高裁平成 12 年 3 月 21 日判決(判例時報 1715 - 20 )
    本件建物の 707 号室の台所・・・・便所から出る汚水については同室の床下にあるいわゆるスラブを貫通してその階下にある 607 号室の天井裏に配された枝管通じて、共用部分である本管を(縦管)に流される構造になっているいるところ、・・・
    本件排水管はコンクリートスラブの下にあるため、 707 号室及び 708 号室から本件排水管の点検、修理をすることは不可能であり、 607 号室からその天井裏に入ってこれを実施するしか方法はない。
    右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし建物の区分所有権等に関する法律2条 4 項にいう専有部分に属しない建物の付属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分にあたると解するのが相当である。

  4. 東京高等裁判所平成9年5月15日判決
    2 本件配水管は専有部分か共用部分か。
     建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)は、区分所有権の目的となる建物については、これを専有部分と共用部分に区分し、共用部分について、その所 有関係、使用権の所在、管理の方法及び費用の負担等について、必要な定めをしている。これは、区分所有権の目的となる建物の特殊性を考慮し、建物の維持管理、機能 の保全等の見地から、共用部分について民法の共有とは異なる法的取扱いが必要とされることによるものである。したがって、目的物が専有部分か共用部分かを判断する については、このような法の定める規律を受けるのにふさわしいかどうかを考慮する必要がある。
    本件排水管は、建物の付属物であるところ、法二条四項は、専有部分に属しない建物の付属物を共用部分と定めている。すなわち、建物の付属物のうち専有部分に属す るもの以外のものを共用部分としている。そこで、本件排水管が専有部分に属するか否かを検討することとするが、この検討に際しては、本件排水管か?設置された場所 (空間)、本件排水管の機能、本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、及び建物全体の排水との関連などを、総合的に考慮する必要がある。
    (一)まず、本件排水管が設置された所(空間)は、前記のように六〇七号室の天井裏であるが、その上部の床スラブが建物全体を支える堅固な構造物であり、七〇七 号室と六〇七号室との上下の境をなすものであるのに丶し、天井板はそのような堅固なものでないことからみて、天井裏の空間は、六〇七号室の専有部分に属するものと 解するのが相当である。
    (二)次に、本件排水管の有する機能をみると、本件排水管は、七〇七号室の排水の全部と七〇八号室の排水の一部を排水本管に流すという機能を有するものである。
    (三)本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理という点からみると、本件排水管は六〇七号室の天井裏にあるため、本件排水管を利用して排水を流している七〇 七号室又は七〇八号室の所有者又は占有者が、点検、清掃、修理等を行うためには、六〇七号室に入らなければならず、そのためには、六〇七口室の所有者又は占有者の 承諾を得なければならない。
    (四)さらに、本件排水管と建物全体の排水との関連について考えると、各戸の排水は、枝管を通って本管に流れ込むこととなっているので、枝管を含めてすべての管 が統一された形態や材質を有するのでないと、例えば建物全体の排水管を同じ洗剤や道具を用いて同じ方法で洗浄する際に不都合を生じるなど、管理上困難な問題が生じ る。また、安全面からいうと、本件のように重層的に各専有部分が配置されている建物の場合には、一箇所の水漏れの影響する範囲が大きくなる可能性があって、枝管の 安全性を維持することに複数の区分所有者が共通の利害を持つことがある。このように枝管についても全体的な観点から管理する必要性が大きい。
    以上のように、本件排水管は、七〇七号室の排水の全部及び七〇八号室の排水の一部を排水本管に流すという機能を有しており、その点では七〇七号室及び七〇八号室 に付属するという一面を有する。しかし、本件排水管の存在する空間は六〇七号室に属しており、場所的には七〇七号室又は七〇八号室の所有者又は占有者の支配管理下 にあるということはできず、したがって、その点検、清掃、修理等の管理をするには六〇七口室に立ち入らなければならない。さらに建物全体の排水との関連からいうと、 排水本管との一体的な管理が必要である。
    このように本件排水管は、特定の区分所有者の専用に供されているのであるが、その所在する場所からみて当該区分所有者の支配管理下にはなく、また、建物全体の排 水との関連からみると、排水本管との一体的な管理が必要であるから、これを当該専有部分の区分所有者の専有に属する物として、これをその者の責任で維持管理をさせ るのは相当ではない。また、これが存在する空間の属する専有部分の所有者は、これを利用するものではないから、当該所有者の専有に属させる根拠もない。結局、排水 管の枝管であって現に特定の区分所有者の専用に供されているものでも、それがその者の専有部分内にないものは、共用部分として、建物全体の配水施設の維持管理、機 能の保全という観点から、法の定める規制に従わせることか相当であると判断される。
    よって、本件排水管は、専有部分に属しない建物の付属物として、共用部分である
    というべきである。

  5. 東京地方裁判所平成8年11月 26日判決(判例タイムズ954−151)
    本件排水管は、区分所有者である原告の建物(707号室)の台所、洗面所、風呂、便所から出る排水を本管に流す枝管であり、原告建物の床下にある床コンクリート(共用部分)を貫通して、階下の被告鳥羽所有建物(607号室)の天井裏に配管されているものである。
    そして、707号室の隣室の708号室の汚水管は戸境壁を貫通して607号室天井裏に横引きされて、707号室の汚水管と接続し、さらに707号室排水管に接続した後、本管に接続されている。 また、707号室の洗面台の排水は、湯槽下に流れ、風呂場の排水管を通って、床コンクリート下の排水管と接続しているものと推測される。
    (二)607号室の天井裏と共用部分である床コンクリートとの間の空間は、床コンクリート及び階下の天井によって完全に遮断されているので構造上の独立性があると見られるが、右空間には上の階からの排水管のみが設置されていることからみると、階下の区分所有者の利用に供せられるものとはいえないから、利用上の独立性があるとはいえないので、区分所有の対象となる専有部分と認めることはできない。したがって、右空間部分は、共用部分と認めるのが合理的である。
    そして、右排水管は、雑排水を機械的に流す機能を有するものであり、本件建物全体の雑排水を集め、公共下水管に流すという共同性を有するものと考えられる。
    また、本件排水管は、その維持管理の面から見ると、707号室の床下の床コンクリートと階下の607号室の天井裏の空間に設置されているため、原告の好みによって維持管理を行う対象となる性質のものとはいえず、本件区分所有者の共同で管理することが便宜である。
    (三)以上の点を考慮すると、本件排水管は、本件建物全体への附属物というべきであり、法二条四項から除外される専有部分に属する建物の附属物に該当しないから、共用部分と解するのが相当である。

  6. 東京地裁平成 3 年 11 月 29 日判決
    本件雑排水管は・・・・・共用部分と見られる床下と階下の天井との間に敷設されており、維持管理の面からは、むしろ、「本件マンション全体への附属物」というべきであり、建物区分所有法2条 4 項から除外される専有部分に属する建物の附属物とはいえず、同法2条 4 項の専有部分に属しない建物の附属物に該当すると解するのが合理的である。・・・
    したがって、本件雑排水管取替工事については、建物区分所有法18条 1 項の「共用部分の管理」として集会の決議で行うことができるというべきである(判例時報 1431 - 138 )。

建物の区分所有権等に関する法律

第 2 条(定義) この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第5条第1項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。
登録 Sept.4, 2000
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