中古の戸建ての契約不適合責任(瑕疵担保責任)

2020年4月1日、施行の改正民法により、瑕疵担保責任の規定は、廃止され、契約不適合責任の規定が設けられました。
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2024.4.9 mf更新
 

相談:不動産に欠陥が発見された

1年半前(2022年6月)に中古の戸建てを購入しました。先月(2023年12月)、雨漏りがあり、その工事代140万円、床張替え、じゅうたん、その他で、結構、費用がかかりました。これを売主に請求できるでしょうか(契約書には修復歴なしと書いてありました)。
相談者は、弁護士会の法律相談室を訪れました。この日、たまたま、不動産法律相談会が開かれていましたので、担当した弁護士は不動産に詳しい方でした。

回答:契約書を確認する必要あり

本件は、結果が 2020年3月31日までに発生した場合は、瑕疵担保責任、同年4月1日以降に発生した場合は、契約不適合責任の規定が適用されます。 結果発生が2023年12月ですので、本件は、 民法改正後の規定が適用されます。。

請求できる権利

旧民法第566条第1項では、瑕疵担保責任では、買主は原則として契約の解除もしくは損害賠償の請求のみが可能でした。
契約不適合責任では、解除、損害賠償請求に加え、「目的物の修補、代替物の引渡し」又は「不足分の引渡しによる履行の追完」を請求できます。 具体的な事例で考えてみます。
ご相談のようなケースで、瑕疵担保責任ならば、買主は、売主に対して、損害賠償や契約の解除のみが請求できることとなります。 他方、契約不適合責任ならば、雨漏りする部分の修理を請求することができます(追完請求、566条)。仮に修理が不能である時や、売主が修理に応じない時には、契約の内容に適合しない程度に応じて代金の減額を請求することができます。 これは、例え売主に落ち度がなかった場合(例えば、売主も雨漏れについて知らなかった場合)でも認められます。 もちろん、従来通り、契約解除、損害賠償請求をすることも可能です。

帰責事由

なお、追完請求や代金減額請求と異なり、契約不適合責任の損害賠償請求は、売主に帰責事由がない限り請求できません。 帰責事由というのは、単に売主が契約不適合を知っていたかだけではなく、契約の性質、・目的、契約に至る経緯、取引通念など、契約に関する一切の事情から契約の趣旨に照らして判断されます。 損害賠償請求が認められる例を挙げれば、売主が欠陥を「知っていたにも関わらず、 隠していた場合」です。

損害賠償

上記の通り、瑕疵担保責任でも契約不適合責任でも、売主に損害賠償を請求することは可能です。 しかし、契約不適合責任では、賠償の及ぶ範囲が広くなっています。
(信頼利益)
瑕疵担保責任で損賠賠償請求をする場合、その賠償の範囲は信頼利益に限られていました。 信頼利益とは、契約が無効になった場合に契約が有効であると信頼したために被った損害のことを言います。具体的には、不動産取引の場合であれば、契約締結の準備のための登記費用などが信頼利益にあたります。
(履行利益)
しかし、契約不適合責任では、これにプラスして履行利益も請求できまれます。 履行利益とは、契約が履行されていれば得られた利益のことです。例えば、買主は購入した中古不動産を転売する予定だったとして、その転売で得られるはずの利益が得られなかったので、その転売利益も損害の範囲に含まれることとなります。 このため、民法改正により、売主が負う損害賠償義務 の範囲が広がったこととなります。

期間

瑕疵担保責任では、旧民法566条第4項によって、瑕疵があることを知った時から1年以内に損害賠償や解除をしなければならないと規定されていました。
しかし、契約不適合責任では、買主は不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すれば、責任を追及できるとの規定に変更されました(新民法第566条)。
そのため、相談者が、不適合を知った時から1年以内に不適合であることを通知をしていれば、例えば不適合を知った時から、時間が経過していても損害賠償請求等をすることができるようになりました。 ただし、通知後無制限に権利行使できるのではなく、不適合を知った時から5年または引渡しの時から10年で請求権は消滅します(改正民法第166条)。

契約不適合責任は、任意規定

改正民法第572条には次のように規定されています。
「売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

上記は、責任を負わない旨の特約があっても、例外的に売主が責任追及されるケースがあることを記載しています。 すなわち、契約不適合責任は任意規定であり、原則としては契約不適合責任を免除する特約は有効です。
そこで、質問者の場合、契約書を読み、契約不適合責任が、どう扱われているか確認する必要があります。
民法572条を含め、免責特約が無効になる場合が定められており、一般の個人の方が関わる不動産取引では完全免責が無効とされるケースも多いです。具体的に、免責特約が無効になるのは主に以下の場合です。
なお、この点は瑕疵担保責任でも契約不適合責任でも変わりません。
売主が契約不適合の事実を知っていたのに、買主に告げなかった場合(改正民法572条)。
売主が第三者のために権利を設定したり、第三者に譲渡したりしたことで契約不適合になった場合(同条)。
宅建業者が自ら売主となる場合で、民法の規定より買主に不利になる特約(宅地建物取引業法40条)。ただし、契約不適合について通知する期間を2年以上にする特約は有効。
事業者と消費者間の契約のとき、事業者の契約不適合責任を免責する場合(消費者契約法8条1項、2項)。なお、事業者は、法人だけでなく事業のために契約する個人を含み、消費者は事業のために契約する場合を除く。
住宅構造上の主要部分について、新築住宅の売主の引き渡し時から10年間の契約不適合責任に反し、買主を不利にする場合(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。

結論

本件では、買主が契約後1年以内に売主に対し、住宅の欠陥を通知してあった場合のみ、契約不適合責任を追及できます。

民法改正前の回答:契約書を確認する必要あり

売買の目的物に隠れた瑕疵(欠陥)があった場合は、原則として買主は、瑕疵を知ってから(発見してから)1年以内に損害賠償請求ないし契約解除ができます(民法570条、566条3項)。これは、任意規定ですので、契約で変更できます。
普通、契約書に瑕疵担保責任は、「引渡しから3か月」(中古マンションの場合3か月が多い)とか、「引渡しから1年」とか、「引渡しから2年」等と書いて、瑕疵担保責任を追求できる期間を制限しています。 この条項は、有効です。
相談者の場合、まず、契約書を見て、瑕疵担保の条項がないかを確認する必要があります。

しかし、後から発見された瑕疵は、永遠に、発見から1年間は、売主に請求できるのではありません。判例(最高裁平成13年11月27日)によると、引渡しから10年で時効消滅します(民法167条1項)。売主が業者や会社の場合は、商法が適用され、この期間は5年になります(商法522条)。
相談者の場合は、瑕疵担保責任を制限する条項がなく、かつ、売主が一般個人の場合は、(10年以内ですので)売主に対して修理代金を請求できます。 しかし、瑕疵担保責任を制限する条項があったり、売主が業者の場合は(5年以内しか請求できない)、(瑕疵担保責任期間を経過しているので)売主に対して修理代金を請求できません。

瑕疵担保責任の規定は、任意規定ですが、宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は、建物の売買契約において、その目的物の引き渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に規定するものより買主に不利となる特約をしてはなりません(宅建業法40条)。
また、瑕疵担保責任の定めは、業者が説明責任を負う、重要事項になりました。

判例

登録 Sep. 23 2006
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