弁護士の倫理規定です。
弁護士には、高度の倫理性が要求されます。英米法でも、弁護士は、医師などとともに、(単なる専門職ではない)プロフェッショナルとして高い倫理性を要求されます。
高度な倫理性が弁護士の行動基準です。弁護士会 には、
懲戒の制度があります(弁護士法 56条以下)。懲戒処分の際には、この高度な倫理性が、判定基準となります。
この弁護士倫理は、2005年4月1日廃止されました。同年4月1日、弁護士倫理に代わり、弁護士職務基本規程 が制定されました。
名前は変わっても、弁護士に高い倫理が要求されることは、同じです。
(平成2年3月2日、日本弁護士連合会:臨時総会決議)
改正:平成6年11月22日
目次
第一章 倫理綱領 (第一条―第九条)
第二章 一般規律 (第十条―第十七条)
第三章 依頼者との関係における規律 (第十八条―第四十二条)
第四章 他の弁護士との関係における規律 (第四十三条―第五十条)
第五章 事件の相手方との関係における規律 (第五十一条・第五十二条)
第六章 裁判関係における規律 (第五十三条―第五十七条)
第七章 弁護士会との関係における規律 (第五十八条・第五十九条)
第八章 官公庁との関係における規律 (第六十条・第六十一条)
附則
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。その使命達成のために、
弁護士には職務の自由と独立が要請され、高度の自治が保障されている。
弁護士は、その使命にふさわしい倫理を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任を負う。
よつて、ここに弁護士の職務に関する倫理を宣明する。
第一章 倫理綱領
(使命の自覚)
第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し、その使命の達成に努める。
(自由と独立)
第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。
(司法独立の擁護)
第三条 弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に寄与するように努める。
(信義誠実)
第四条 弁護士は、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行う。
(信用の維持)
第五条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、常に品位を高め教養を深めるように努める。
(法令等の精通)
第六条 弁護士は、法令及び法律事務に精通しなければならない。
(真実の発見)
第七条 弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならない。
(廉潔の保持)
第八条 弁護士は、廉潔を保持するように努める。
(刑事弁護の心構え)
第九条 弁護士は、被疑者及び被告人の正当な利益と権利を擁護するため、常に最善の弁護活動に努める。
第二章 一般規律
(広告宣伝)
第十条 弁護士は、品位をそこなう広告・宣伝をしてはならない。
(依頼の勧誘)
第十一条 弁護士は、不当な目的のため、又は品位・信用をそこなう方法により、事件の依頼を勧誘し又は事件を誘発してはならない。
(非弁護士との提携)
第十二条 弁護士は、弁護士法に違反して法律事務を取り扱い又は事件を周旋することを業とする者から事件の紹介を受け、
これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名を利用させてはならない。
(依頼者紹介の対価)
第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払つてはならない。
(違法行為の助長)
第十四条 弁護士は、詐欺的商取引、暴力その他これに類する違法又は不正な行為を助長し、
又はこれらの行為を利用してはならない。
(品位をそこなう事業への参加)
第十五条 弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位をそこなう事業を営み、若しくはこれに加わり、
又はこれらの事業に自己の名を利用させてはならない。
(係争目的物の譲受)
第十六条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。
(事務従事者の指導監督)
第十七条 弁護士は、その法律事務所の業務に関し、事務に従事する者が違法又は不当な行為に及ぶことの
ないように指導・監督しなければならない。
第三章 依頼者との関係における規律
(依頼者との関係における自由と独立)
第十八条 弁護士は、事件の受任及び処理にあたつて、自由かつ独立の立場を保持するように努めなければならない。
(正当な利益の実現)
第十九条 弁護士は、良心に従い、依頼者の正当な利益を実現するように努めなければならない。
(秘密の保持)
第二十条 弁護士は、依頼者について職務上知り得た秘密を正当な事由なく他に漏らし、又は利用してはならない。
同一の法律事務所で執務する他の弁護士又は同一の場所で執務する外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り
得た秘密についても同様である。
(受任の諾否の通知)
第二十一条 弁護士は、事件の依頼に対し、その諾否を速やかに通知しなければならない。
(見込みがない事件の受任)
第二十二条 弁護士は、依頼者の期待するような見込みがないことが明らかであるのに、あたかもあるように装つて
事件を受任してはならない。
(有利な結果の請負)
第二十三条 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け負い、又は保証してはならない。
(不当な事件の受任)
第二十四条 弁護士は、依頼の目的又は手段・方法において不当な事件を受任してはならない。
(特別関係の告知)
第二十五条 弁護士は、相手方と特別の関係があつて、依頼者との信頼関係をそこなうおそれがあるときは、
依頼者に対し、その事情を告げなければならない。
(職務を行い得ない事件)
第二十六条 弁護士は、左に掲げる事件については職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第四号に掲げる事件
については、受任している事件の依頼者の同意がある場合は、この限りでない。
一. 事件の協議を受け、その程度及び方法が信頼関係に基づくときは、その協議をした者を相手方とするその事件
二. 受任している事件と利害相反する事件
三. 受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件
四. 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
五. 公務員若しくは法令により公務に従事する者又は仲裁人として職務上取り扱つた事件
(他の弁護士又はその依頼者との関係において職務を行い得ない事件)
第二十七条 弁護士は、同一の法律事務所で執務する他の弁護士若しくは同一の場所で執務する外国法事務弁護士又は
それぞれの依頼者との関係において、職務の公正を保ち得ない事由のある事件については、職務を行つてはならない。
(着手後に知つたとき)
第二十八条 弁護士は、職務に着手した後に前条に該当する事由があることを知つたときは、依頼者に対し速やかにその事情を告げ、
事案に応じた適切な処置をとらなければならない。
(受任の趣旨の明確化)
第二十九条 弁護士は、受任の趣旨、内容及び範囲を明確にして事件を受任するように努めなければならない。
(事件の処理)
第三十条 弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、遅滞なく処理するように努めなければならない。
(事件処理の報告)
第三十一条 弁護士は、依頼者に対し、事件の経過及びその帰趨に影響を及ぼす事項を必要に応じ報告し、
事件の結果を遅滞なく報告しなければならない。
(利害衝突のおそれのあるとき)
第三十二条 弁護士は、同一の事件につき依頼者が二人以上あり、その相互間に利害の衝突が生ずるおそれがあるときは、
各依頼者に対しその事情を告げなければならない。
(受任弁護士間の意見不一致のとき)
第三十三条 弁護士は、同一の事件を受任する他の弁護士との間に事件の処理について意見の不一致があつて、
依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を告げなければならない。
(依頼者との信頼関係が失われたとき)
第三十四条 弁護士は、事件に関し依頼者との間に信頼関係が失われかつその回復が著しく困難なときは、
その依頼関係の継続に固執してはならない。
(法律扶助制度等の教示)
第三十五条 弁護士は、事案に応じ、法律扶助・訴訟救助制度を教示するなど、依頼者の裁判を受ける権利を護るように努めなければならない。
(報酬の明示)
第三十六条 弁護士は、依頼者に対し、受任に際して、その報酬の金額又は算定方法を明示するように努めなければならない。
(報酬の妥当性)
第三十七条 弁護士は、事案の実情に応じ、適正・妥当な報酬を定めなければならない。
(国選弁護事件における報酬)
第三十八条 弁護士は、国選弁護事件について、被告人その他の関係者から、名目のいかんを問わず、報酬その他の対価を受領してはならない。
(私選弁護への切替)
第三十九条 弁護士は、国選弁護人に選任されたときは、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。
(金品の清算)
第四十条 弁護士は、事件に関する金品の清算及び引渡し並びに預かり品の返還を遅滞なく行わなければならない。
(依頼者との金銭貸借)
第四十一条 弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は依頼者の債務についての保証人となつてはならない。
(依頼者との紛議)
第四十二条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じたときはできる限り所属弁護士会の
紛議調停により解決するように努めなければならない。
第四章 他の弁護士との関係における規律
(名誉の尊重)
第四十三条 弁護士は、相互に名誉と信義を重んじ、みだりに他の弁護士を誹ぼう・中傷してはならない。
(弁護士に対する不利益行為)
第四十四条 弁護士は、正当な職務慣行又は信義に反して他の弁護士を不利益に陥れてはならない。
(依頼者の関係の尊重)
第四十五条 弁護士は、他の弁護士が受任している事件の処理に協力するとき又は他の弁護士から事件の受任を求められたときは、
その弁護士がその事件の依頼者との間において有する信頼関係を尊重するように努めなければならない。
(受任弁護士間の協調)
第四十六条 弁護士は、同一事件を受任する弁護士が他にもあるときは、その事件の処理に関し、互いに協調するように努めなければならない。
(他の弁護士の参加)
第四十七条 弁護士は、事件について依頼者が他の弁護士の参加を希望するときは、正当な理由なくこれに反対してはならない。
(他の事件への介入)
第四十八条 弁護士は、他の弁護士が受任している事件に介入しようと策してはならない。
(相手方本人との直接交渉)
第四十九条 弁護士は、相手方に弁護士である代理人があるときは、特別の事情がない限り、その代理人の了承を得ないで直接相手方本人と交渉して
はならない。
(弁護士間の紛議)
第五十条 弁護士は、弁護士間の紛議については、協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努めなければならない。
第五章 事件の相手方との関係における規律
(相手方からの利益供与)
第五十一条 弁護士は、事件に関し、相手方から利益の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくはその約束をしてはならない。
(相手方代理人に対する利益の供与)
第五十二条 弁護士は、事件に関し、相手方代理人に対し、利益の供与若しくは供応をし、又はその約束をしてはならない。
第六章 裁判関係における規律
(裁判の公正と適正手続)
第五十三条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努めなければならない。
(偽証のそそのかし)
第五十四条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽の証拠を提出してはならない。
(裁判手続の遅延)
第五十五条 弁護士は、怠慢により、又は不当な目的のため、裁判手続を遅延させてはならない。
(裁判官等との私的交渉)
第五十六条 弁護士は、事件に関し、裁判官、検察官等と私的関係を利用して交渉してはならない。
(私的関係の宣伝)
第五十七条 弁護士は、その職務に関し、裁判官、検察官等との縁故その他の私的関係があることを宣伝してはならない。
第七章 弁護士会との関係における規律
(弁護士法等の遵守)
第五十八条 弁護士は、弁護士法、日本弁護士連合会及び所属弁護士会の会則、会規及び規則を遵守しなければならない。
(委嘱事項の処理)
第五十九条 弁護士は、日本弁護士連合会、所属弁護士会及び所属弁護士会が所属する弁護士会連合会から委嘱された事項を誠実に
処理しなければならない。
第八章 官公庁との関係における規律
(官公庁からの委嘱)
第六十条 弁護士は、正当な理由なく、法令により官公庁から委嘱された事項を行うことを拒絶してはならない。
(委嘱受託の制限)
第六十一条 弁護士は、法令により官公庁から委嘱された事項について、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受けてはならない。
附則
附則 (平成六年一一月二二日改正)
第二十条及び第二十七条の改正規定は、平成七年一月一日から施行する。