(2000.01/01)
インテグラ タイプRのカタログから一部を引用します。
---- ここから ---- TYPE R。それは、レーシングカーのテイストと 圧倒的なドライビングプレジャーの獲得をめざすマシン。 まずは、確固とした安全に対する意識を持ち ドライビングを人生最大の歓びの一つに数える人々が前提となる。 長年、世界の頂点のレースに挑み続けてきたわれわれは、フィールドをサーキットと規定するなら 彼らを心底圧倒するマシンをつくる力を持っている。そう、完全なるレーシングカーのことだ。 当然ながら、レーシングカーは一般道を走るクルマとはなり得ない。それはおわかりいただけよう。 しかし、レースフィールドで培った技術と情熱を、世に問うクルマに注ぎ込むことはできる。 ホンダならではのレーシングカー開発の手法を用い、サーキットや険しいテストコースで鍛練を重ね、 全てを一からつくり上げるメーカーの手によるファインチューニングを実践し、熱きマシンが生み出せる。 運動性能を徹底的に研ぎ澄まし、レーシングカーのテイストと圧倒的なドライビングプレジャーの獲得を めざすことで、ドライビングをこよなく愛する人々を高揚と陶酔に満ちた濃密な世界へといざなうマシン。 そして、ホンダ・レーシングスピリットの証として、1965年に日本車として初めて優賞させたF−1 通称“日の丸ホンダ”のチャンピオンシップホワイトを専用色とし、赤いエンブレムを冠したマシン。 ─── それがホンダのTYPE Rである。 ---- ここまで ----
購買欲を高めさせるため、演出的とも思われる文章が見受けられるのがカタログの常だとするなら、タイプRのカタログコピーは、それを額面通りに受け取ったとしても期待を裏切られることはないかもしれません。
割り切った車です。ギャップを通過したならば、「いまギャップを通過した」ことがはっきりと認識できるほどダイレクトに振動が伝わってくるし、VTECが高回転域に移り変われば、大きな声でしゃべらないと会話がつづかないほど、遠慮なくエンジン音が入り込んできます。贔屓目に見たとしても快適性が低いことは否めません。しかし、設計指標を明確に打ち出している分、その車から得られるものは一種独特のものがあります。あまりにもストレートに「走り」の性能を追求しているのです。
シビック タイプRコンセプト・ミーティングとは、この車の運動性能を楽しむための技術習得を目的とした、シビックRオーナーを対象として行われるドライビングスクールです。単にドライビングレッスンが行われるだけではなく、開発エンジニアによる講義が盛り込まれており、シビックRに搭載されている技術や車両特性に関する解説が行われます。車両特性を知ることで、それをセーフティドライビングに応用することが狙いです。
1999年、鈴鹿サーキットで開催されたミーティングに参加しました。そのとき学んだことを復習する意味合いも込めまして、このページを綴っていきたいと思います。
通常のスケジュールだと7:30〜7:50が受付時間になっています。サーキットゲートには「シビック タイプRコンセプトミーティング」と書かれた看板が掲げられているので、どこが集合場所か分かるようになっています。
受付場所は「鈴鹿サーキット交通教育センター」のロビー。そこでテキスト等の資料が入っている封筒を受け取ります。指示に従い配付されたゼッケンシートをフロントガラスに貼り付けながら準備をしていると、だんだんと気分が盛り上がってきて寝不足気味だった頭もエンジンがかかってきます。
8:00になると開講式が始まります。講師陣の紹介につづき、レッスンのスケジュールについて説明が行われます。特別講師としてレーシングドライバーが1名、鈴鹿サーキットのインストラクターが4名、シビックRの開発エンジニアが1名(ベーシック・コース)といった講師陣によってミーティングが構成されています。ミーティングの概要説明が終わると、さっそく講義が始まります。
シビックRの開発コンセプトや搭載されている技術について、開発エンジニアによる解説が行われます。これはベーシック・コースの1コマ目の講義として割り振られており、6月のミーティングには小田切威氏が、9月の時には寺田好伸氏がそれぞれ講師を務められました。
普段なにげなく運転していますが、完成に至るまでのプロセスを開発者から直に聞くと、改めてこの車の志の高さを感じてきます。見えるところはもちろんのこと、外から見えない細部にわたるまで、相当こだわって設計されていることが分かります。
9月と10月のミーティングでは山野哲也選手が特別講師を務められました。このページは、そのときの講義内容を振り返りながら作りました。言ってみれば受け売りです。
アクセルを戻さないというのは、一度加速状態になったクルマを減速させるなということです。コーナー途中で出過ぎてしまったスピードを落とすためアクセルを戻すくらいなら、はじめにしっかり減速しておいてアクセルを踏みながらコーナーを脱出する方がクルマは安定するしスピードも乗る。また、落ちてしまったスピードを再び上げるのは大変という理由からです。
こんな話も聞けました。実際のレースでのこと、スプリントの予選で雨が降っていたとき、ガンガン攻めているにもかかわらず思うようにタイムが上がってくれないということがあったそうです。残された時間はどんどん少なくなっている。その場の判断で、ジワっとアクセルを踏みながらコーナーを立ち上がるようなドライビングに切り替えてみたら、その周からラップタイムが上がってくれ良い感触を得ることができたそうです。
ニュートラルステアをマスターすることも大切なことで、レーシングドライバークラスになるとアンダーもオーバーも自在に出せるとのことです。
時間にしておおよそ90分。以上でドライビングの基礎知識についての講義は終わります。次は屋外に出て実技講習です。それぞれ自分のクルマに乗ったら、まずドライビングポジションの確認から始めます。と、その前に、お楽しみの一つ、特別講師を囲み参加者全員で記念写真を撮ります。この写真は、閉講式のとき、修了証とともに一人一人にプレゼントされるのです。
水が撒かれたブレーキレッスン場があります。一般の道路と同じアスファルト舗装がされた場所と、その先につづく雪道を想定した滑りやすい塗装が施されている場所の2つです。
助走路で指定速度まで加速して、パイロンでフルブレーキングするというもの。それぞれの場所でインストラクターがチェックしており、止まるたびにアドバイスが返ってきます。
初めは、とにかくフルブレーキングできることだけを目指します。しっかりフルブレーキングがかけられるようになったら、今度はロックさせずにブレーキングできるように練習したり、さらにレベルアップして、ヒール&トゥを使いながら止まれるようになる練習をしていきます。
失敗するとすかさず「“ボンネットがクッと沈みこんでピタっと止まる”そんなイメージでフロントタイヤに素早く荷重をかけてくださいね。ギクシャクしてますよ!」なんてことを言われてしまいます。コントロール要素が増えるに従いとたんに難しくなってしまい、なかなか上手くいきません。
滑りやすい塗装が施された「スキッドコース」でレッスンが行われます。滑りやすいように路面には水が撒かれているのですが、コース全体に撒かれているわけではなく、濡れている場所もあれば濡れていない場所もあるといった具合に、ムラが作ってあります。
FF車の特性として、アンダーステアを体験することを最初にやります。オーバースピードで進入させてみたり、立ち上がりでわざと大きくアクセルを踏んだりしながら、車がどんどん外側に膨らんでいく挙動を感じ取ります。慣れてきたところで、今度はタイヤの性能を最大限に引き出しながら、実際のサーキット走行をイメージして走るようにレベルを上げていきます。
悪い例と良い例のそれぞれについてデモ走行をやってもらい、走りのイメージをつかんでから練習に移ります。
練習走行の前に一言。
「今ボクが走ったのを見ても、よく滑るなってのが分かったと思います。乾いたところはそれなりにグリップするし、だけどウェットのところはかなり滑るよね。路面の状況に応じて、タイヤのグリップを確かめながら走ってもらえればいいんだけど、その路面の状況を早くつかむようにしてください。で、早くつかむためには、とりあえず限界を超さないとタイヤのグリップは分からないので、まず初めはちょっと派手めで、スピンしちゃってもいいし、アンダーステアを出してもいいから、挙動を大きく出してみて、その失敗を次に伝えるって形でやっていけばいいと思います。」
走行後のアドバイス。
「このコースを走ってみて、ちょっとくだらないなって思ったかもしれないけど、実は、クロスハンドルでしっかりとしたステアリング操作をすること、立ち上がりで苦しくないようなライン取りをしていくこと、タイヤの能力の限界を感じながら走らせること、といった3つの大事な要素が入っているのです。(濡れているところもあれば乾いてるところもあるコースですが)実際にサーキットを走っていて、いきなり前のクルマがオイルをこぼしちゃったとか、急に雨が降ってきたとか、そういう状況だとこれとまったく同じ状況になりうることがあるのです。そういう時にやっぱりドライバーの対応能力っていうのかな、路面の状況に合わせた運転がいかに早くできるかってことがけっこう重要なポイントになってきます。」
屋外での実技講習が終わり再び教室に戻ってくると机の上には弁当とお茶が用意されており、ちょっと遅めの昼食となります。もちろん山野選手や本田技研の方、無限の方も一緒です。こういう時でもないとなかなか話ができないこともあり、いつの間にか質問コーナーみたいになってしまいます。無限のパーツは高いけど本当に性能がいいのかとか、山野選手は今までどんなクルマに乗ってきたのかとか、ジムカーナに挑戦しつづけていることに何か深い理由はあるのかとか、ジムカーナの練習はどういった所でやってきたのかとか、GT選手権で好結果が出るようになってきたのには何か秘密があるのかとか、質問は尽きません。
全長1.26Kmのショートサーキットです。
ベーシック・コースでは、インストラクターに先導してもらいながらサーキット走行の基本を学びます。一番大きなカーブでも35Rなので本コースに比べればコーナリングスピードは低いものの、ここをきっちり走るにはかなりのテクニックが要求されます。
アドバンスド・コースでは、先導はなくなり、タイムアタック形式のフリー走行が実施されます。分かってはいるけど走り出すとついつい熱くなってしまい、アンダー出しまくるわ縁石飛び越えダートを走るわと、せっかく走り方を教えてもらったのにまったく守っておりませんでした。やれやれです。ちなみに私のベストタイムは、車両:ノーマル、タイヤ:YH_M7R、天気:快晴という状況で
1'07"8でした。
フルコースからシケイン〜ダンロップコーナー間を除いた部分が西コースで、スピードレンジはぐっと高くなります。しかし先導車に引っ張られての走行だから安全に走ることができます。
西コース走行の待ち時間に、特別講師による同乗走行が行われます。参加者はもちろん同伴者までみんな乗せてもらえます。同乗走行に使われるクルマはロールバーが装着されている以外はまったくのドノーマル仕様のタイプRです。これを4名乗車で走るわけですけど、信じられないくらいのスピードでコーナーを駆け抜けていってしまうのです。
左の写真はちょうど130Rに進入していこうとする場面です。ちょっと見にくいかもしれませんが、メーターの針は140Km/hを指しています。
これはスプーンコーナー1コ目進入の写真。
まるで吸い込まれるようにコーナーに入っていったのですが、つづく2コ目のアプローチで大きくなったスキール音とともにリヤがザーっと流れ、正面の視界には芝生が広がってしまいました。その瞬間、本能的に「ヤバい」と思いました。「うわぁ、プロでもやるのかぁ」と正直思いましたが、実は、「ほーら、シビックRはこんなこともできるんだよ」というのを見せるためにやってくれていたのです。
アンダーもオーバーも自在に操るということの意味が、少しだけ理解できたような気がします。
通常では西コースを走行して全ての講習が終わることになっているのですが、10月16日(土)のアドバンスド・コースではフルコース走行も行われました。諸般の事情により開催直前になってスケジュールが変更になるということがあり、その埋め合わせ的な配慮として特別にフルコース走行の時間枠が設けられたからです。
走行に先立ち改めて講義が実施されました。南コースでのタイムアタック走行をチェックしていて気になったことに対するアドバイスと、これからフルコースを走るにあたっての注意点について、約40分間話がありました。
「○○番と△△番の人、ちょっと前に出てきてくれるかなぁ」、と山野選手の印象に残った2名の参加者が呼ばれました。チェックしていたのはブレーキのかけ方です。○○番の参加者についてはストレートエンドで「バシっ」と鋭くフルブレーキがかけられていることが、また△△番の参加者については誰よりもコーナー奥までブレーキをかけていたことが呼ばれた理由です。2名とも良い例として指名されたのですが、この初期制動とブレーキリリースがタイムアップに大きく関係してくることを解説してもらいました。ちなみにこの2名は、参加者中上位2名でした。
つづいてフルコース走行へのアドバイスです。鈴鹿は全部で17個のコーナーがあるのですが、それぞれのアプローチ方法を中心に解説してもらいました。
最終コーナーを立ち上がりメインストレートを4速にシフトアップして通過していくと、1コーナー手前で180Km/hのリミッターが当たるくらいのスピードに達します。以下、メモに記した山野選手のコメントを読み返しながら書き進めます。
- 1コーナー
- 高速域からのフルブレーキング。しっかり減速すること。飛び出すと横転する可能性があるから注意。挙動が乱れると修正が難しいので、ブレーキを残さないようにする方がよい。
- 2コーナー
- 「行けそうで行けない」コーナー。アクセルの踏みすぎは禁物で、インにしっかり付きアウトに落っこちないようなラインで立ち上がっていく。ギヤは3速。
- S字コーナー
- 縁石は踏んでも構わない。アクセルだけでも行けるが・・・。
- 逆バンク
- 縁石を逃さないようにしながら、速度をちょっと抑え気味に通過する方がよい。アンダーが出やすいが、スピンもしやすい。ダンロップコーナーへの進入を考え、ライン取りは「ミドル・イン・ミドル」で。
- ダンロップコーナー
- 左側のタイヤを芝生に落とすくらいの感じで走る。インを逃すとアウトにはらみやすい。また一旦アウトにはらんでいくと戻れなくなってしまうから気をつけるように。ライン取りは「ミドル・イン・ミドル」。途中3速〜4速にシフトアップ。
- デグナー1コ目
- 進入で4速〜3速へ。
- デグナー2コ目
- 進入で3速〜2速へ。オーバースピードでコースアウトすると壁に激突してしまうので、しっかり減速しておくこと。アウト側に余裕を持たせて通過する。
- ヘアピン
- ギヤは2速でいい。
- 200R
- 全開!で行ける。
- スプーン1コ目
- あんまり速度を落とさないくらいが良い。でもブレーキの初期は「バシっ」と踏むこと。
- スプーン2コ目
- インにしっかり付く。早めに向きを変えるとアクセルを踏んでいける。アンダーもオーバーもどちらも出やすく、非常に難しいコーナー。
- バックストレッチ
- ここも、とにかく全開!。
- 130R
- なるべく早くアクセルオンできるように。ブレーキで突っ込めば突っ込むほどリスクが高くなる。ギヤは4速のままでよい。
- シケイン
- エアコンの看板位置を基準にするとブレーキングポイントを決めやすい。最初の右コーナーは「深く」回って次の左コーナーは「浅く」回っていく。
- 最終コーナー
- インベタで立ち上がっていく。
閉講式では、コンセプトミーティングの受講修了証、記念ステッカー、それに先ほど撮影した集合写真が手渡されます。さらにプレゼント争奪ジャンケン大会があったりして、最後まで楽しい雰囲気です。
フルコース走行で女の子がスピンしてしまいました。
閉講式の一場面から。
「スピンした人。はーい!」
「はい」
「えー、どんな感じだった?」
「あ、天国への階段を歩んでいました」
「なに??」
「(爆笑)」
全てのスケジュールが終わるころ、体はかなり疲れています。事故のないようくれぐれも安全運転で帰るよう改めて注意があり、各自解散となります。
と、これで一応終わりなのですが、記念写真を撮ったり、サインをもらったり、レースやドラテクの話をもっと聞きたいために、何人かが残ってしまいます。私もその一人です。 ^^;
これでシビック タイプRコンセプト・ミーティングのページを締めくくりたいと思います。最後まで読んで下さった方々にお礼申し上げます。
「速いだけではない、上手いドライバーになってくれることを期待しています」
山野選手からのメッセージです。
リンクのご案内。
山野哲也選手のホームページはこちらです。
http://www.yamanomagic.com/