This is a Japanese translation of "The Little Old Man's Story" by Anna Kingsford.

以下は "The Little Old Man's Story" by Anna Kingsford の全訳です。


VI. 小さな老人の話

著: アンナ・キングスフォード
訳: The Creative CAT

「おお愛よ、我は汝を愛し来ぬ! おお我が魂よ、
 我は汝を亡くしたり!」
  —— オーロラ・リー

第一章

「ずいぶん暗くなってきたわ、日が落ちてから私はずっと張出窓を開けて座ったまま。夕暮れの空気はなんて清々しく甘いのでしょう。下の小さなお花畑から吹き上げてくるようね、六月の薔薇と巴旦杏の花の香りをたっぷり乗せて! そうね、朝になったらお向かいの方にその薔薇をもっと贈ってあげましょうね—— それに、白いジャスミンが窓際でお辞儀をしているところだから、これもあのお方に摘んで差し上げないと。可哀想なお年寄り! きっとあのお方はずっと一人ぼっちでいるのだわ。来る日も来る日も暗い小さな寝室にいて、お仲間といったら本と、年をとったお手伝いさんだけ。でも、ペイトン先生がしょっちゅう往診にきてくださるし、先生のようなお優しい方が一緒なら誰でも元気になりますわ! あら、今晩はいつもより早めにブラインドを降ろしたみたい。ペイトン先生がおっしゃるには、夕暮れ時になると、あのお方はアームチェアに座って、はるかに連なるマルヴァーンの青い丘が茜色に染まるのを眺めるのがお好きなんですって。そして、しばらく夢見心地で詩の言葉を独り呟くの。でも今日は陽が沈んだと思ったら急にブライドが下がってしまったのです。それに今日の日暮れの美しさといったら! これまで見たことのないほど壮麗な日没でした! 草原に、田舎家の庭に、隅々まで柔らかな赤光を届ける姿のなんと魅惑的だったことか! まるで天の門そのものが開いて、その向こうの黄金の国へと夕陽を迎え入れようとしているかのように見えたのです! あらまあ、お婆さんの癖に詩人みたいになってしまって! 禁断のロマンスにうっかり足を踏み入れそうになって後退りするのはこれが初めてじゃないわね。ミス・リジー、ミス・リジー、あなたは空想家になってしまっては駄目! 自分がオールドミスなのを忘れてるのね! ええ、オールドミスよ。ああ、そうね、今の私にとってはとても幸せな、満ち足りた、平和な響きがする言葉。けれど二十年前には、—— ペイトン老先生その人がうちの庭をやってくる! いつもみたいな颯爽とした足取りではないわね —— まあなんでもないでしょう。顔が見られるといいのだけれど、暗くて駄目だわ。外に出て先生を呼びましょう。向かいの方の様子を伺わないと! あの可哀想なお方の具合が悪くなっていませんように。」

優しき読者よ、これから語る物語の中に私の個人的な経験を持ち込んで、皆さんを煩わすつもりはありません。ですが、話を進める前にこんなことを知っていただいてもいいでしょう。つまり、わたくし —— ミス・エリザベス・フェアリー —— は四十五を過ぎた未婚の老嬢で、二人の女中と共に小さな田舎町の外れに住んでいます。ちっぽけなコテージは緑の格子作り、ポルチコのある平屋建てです。ペイトン先生というのは教区にただ一人の「お医者さん」で、心優しく善良な白髪の老紳士。遠い遠い昔、先生は私の父にとってダモンに対するピュティアスのような無二の親友でした。今では私の最高の友人、一番よく訪ねてくれる一番楽しみな訪問者になっています。その夕べ、先生の訪問がとりわけ待ち遠しくてたまりませんでした。先生にしかわからないことをとても聞きたかったから、—— 往診しているお隣さんの具合はどうか、道を挟んで病床に臥せっているあの小柄な老人はどうしているのか聞きたかったから。

さて、この小さな老人はお名前をスティーヴン・グレイさんといいます。若いのによぼよぼに衰えきって、でも独身です。そうペイトン先生が仰っていました。先生にもよく分からない理由でずっと独身を通しているのだって。あの方が道の向かいの小さな家に住んで随分経ちますが、越してきたその日から私は並々ならぬ興味の目を注いできました。どんな所でどんな風な人生を歩んできたのかしら、とあれこれ徒然に思いを巡らせながら。「お向かいさん」になって数ヶ月後、足腰の弱いこの老紳士は、ご本人の頭と同じ銀色の握りがついた古そうな杖を支えに、私たちの家を隔てる道を朝夕逍遥するようになりました。そんなある日、うちの花畑がとりわけ鮮やかに咲き揃った日に、あのお方が門辺に佇んで、それはそれは物思わしげに美しい花々を見つめていたものですから、私は我慢できずに招き入れて、なんとも臆面もないことですが、選り抜きの稀少な花をどんなものだと見せつけたのです。こんな不躾な出会いの後、私たちはささやかな好意を何度も交わし、居間に飾って貰おうと小さなパルテアからブーケを摘みました。しかも一再ならず、ミス・エリザベス・フェアリーはスティーヴン・グレイ氏の招待を受け、ともにお茶をいただいたのです。

ところが、あのお方の招待はだんだん間遠になり、目の前の歩道を散策する姿も見かけなくなっていきました。体の具合を心配してしょっちゅう小間使をやったのですが、答えはいつも二つのうち一つ —— どんな時でもグレイさんは「結構いい」か「いつもよりいい」かのどちらかなのです。その時私は、友人のペイトン先生がお向かいの往診に来だしたのに気づき、あの方の様子のことを聞いてみました。驚きもし、悲しみもしたことには、あの方は健康状態も体力もなすすべなく急降下しているのだそうです。先生は仰いました。こういう症例は何度も見たよ。あと数ヶ月かもしれないし、数週間かもしれない。いずれにせよ、どんなに腕が良かろうと、どんなに優しかろうと、患者がこの地上にいられる日々を僅かに延ばすのが精々だし、衰弱と意気消沈の時間をできるだけ心安らぐものにすることくらいしかできないのだと。

ペイトン先生がこの話をしてくださったのは晩秋のことで、雪が降り出すと、小さな老紳士は寂寞たる冬の日々をぐったりしながら過ごしました。ですが、春は再び巡りきて、老紳士は持ち直し、アームチェアに座って開いた窓に佇む姿をたびたび見かけるようになりました。ガウンをまとい、とても明るく穏やかだったので、穏やかな陽を浴びつつ庭の門に立った私は、ちょこんと頭を下げて期待を込めた微笑を向けないではいられない程でした。お向かいさんもすぐに日々の散歩を再開することができて、あの心地よい小さな居間で一緒にお茶できるようになるわね、と思いながら。ところがこれを聞いたペイトン先生は訝しげに首を振り、ロウソクは消える寸前にパッと燃え上がるものだとかなんとか呟くだけでした。実際、老紳士は六月まで細々と生きながらえ、具合はいかがですかと手紙を出すたびにいつもながらのお返事をくださったのです—— 「今日は少し体調がよい感じです、フェアリー嬢にどうぞ宜しくと申しておりました。」 そしてあの夕べ、初めに記したあの夕べまでずっとこうでした。我が家のちっぽけなリヴィングルームで張出窓の傍に座って、とても寂しそうなペイトン先生が庭の小径を辿ってくるのを見たあの時まで。

「先生、」と窓の一番素敵な角に一番座り心地のいい椅子を勧めながら私は言いました。「この三十分というもの誰より先生のお顔を拝見したくて! お向かいのグレイさんの様子はどうか伺いたかったのですわ。ブラインドが降りているので、具合がお悪くなったのかと心配で。先生はさっきまであちらにおられたのですわね?」

旧友がひどく深刻そうにこちらを見るので、私は言葉に詰まってしまいました。その目が私の顔の上に一瞬止まった時、黄昏時にもかかわらず、今しがた流れた涙の跡を見てとることができました。

「リジー、」極めてゆっくりと、声を確かに震わせてこういうのです。「グレイさんの人生の中で、今夜ほど具合よく過ごせたことはないと思うよ。この数時間一緒にいたんだ。亡くなったよ。」

「お亡くなりに!」自分の耳を疑って、気を失いそうになりながらこう繰り返しました。「あの老紳士が他界された? とても、とても心が痛みます! ずいぶん快方に向かわれていたと思っていましたのに!」

ペイトン先生は、先生独特の優しく厳粛な表情で微笑みました。これまでにも度々こんな微笑が先生の親切な顔に浮かぶのを見たことがあります。他の人なら到底無理な場面でも、季節でも。

「リジー」先生は答えました。「嘆き悲しむべきではない程に美しく平安に満ちた死というものがあるのだよ。ひたすら不安と辛苦に覆われ続けた一生の末、漸く手にした平安なのだから。グレイ氏の死は ——ああ、人生も —— そうだったのだ。」

それがたいそう自信のある穏やかな話ぶりでしたので、老紳士を悼む私の気持ちは宥められ、私は —— 女にありがちでしょうけど —— ペイトン先生の仄めかす、老紳士に纏わる悲話というのが何か、ひどく知りたくなりました。

「すると、きっとあの方にはローマンスがおありだったのだわ!」私は声を上げました「そして先生はそれをご存知ね! 可哀想な老紳士! どうしてあんなに独りぼっちになってしまったのか、いつも気になっておりましたの。教えてくださいな。ここにお座りになって。伺いたいわ。」

「ああ、」と先生。いつもの独特な微笑を浮かべて「話してもいいな。もはや隠すべき何ものもないから。ここに来た理由の一つがそれだった。貴女がお向かいのことをたいそう気にかけていて、血筋や親戚についてしょっちゅうあれこれ考えているのをよく知っているからね。だが、私もかねてよりそのストーリーを知っていたわけじゃない。今晩になって初めて教えてくれたんだ。亡くなるほんの一時間か二時間か前に。よかろう、私らには皆、貴女がローマンスと呼びたがる何かしらがあるものだ!」

「そう、そうね、誰にも。私、この不器量でぱっとしないエリザベス・フェアリーにだって、—— いえ、お気になさらないで。」 読者よ、私は弁えていますよ、自分語りはしないと約束したことを。ああ、この世には真に「月並みな」人生も、「月並みな」人物もありはしません!

「可哀想なお年寄り!」私は再びため息をつきました。「その時、あの方はご自分からその話をなさったの、それとも」 —— 気まずく言葉を途切らせました。ペイトン先生は繊細な心を持った本物の紳士であり、相手が誰であろうと、プライヴァシーが絡むことを質問するはずがないと気づいたからです。ですが、私の気後れに気づかないのか、あるいはおそらく、私がためらう理由をわかり過ぎているからか、なんでもなかったかのようにそのままお話を続けてくださりました。

「今日の午後、向かいの家に往診に行ったんだが、リジー、すぐさま容態の変化に気づいて、もう長くないことがわかったよ。さすがに今日だとは思わなかったがね。ところが本人にはわかっていたんだ。部屋に入るとベッドに寝ていて、私を見るや否や目をあげて嬉しそうな微笑で歓迎してくれた。そしてこう言った。『ああ、先生、お越しいただけて本当に嬉しい! 往診を頼もうとしていたところでした! いえなにこの世でこれ以上よくしていただこうというわけではありません。今夜、永い休息に旅立ちますので。永い休息に。』 ゆっくり語る言葉は不思議に満足げで、奇妙な感動を受けた。そこでベッドサイドに腰を下ろして、その細くて白い手をとったのだ。『先生、』程なく語り始めた『もう十ヶ月になりますね、先生は本当に親切にしてくださいました。おかげで、まるで何年も前から存じ上げている方のように、先生を信頼し尊敬できるようになりました。今ではこの世の友人は近くに一人もいません。私は孤独な年寄りで、ここに来る前も独り住いでしたし、人生のほとんどをたった一人で過ごしてきました。しかし今夜、先生に私の過去を語らないでは死んでも死に切れません。遠い遠い昔、若かりし時のことを、—— そうすれば私が年老いた白髪の独身男として一人きりで死んでいく理由がお分かりになるでしょう。また、私の悔恨に同情してくれ寂しい墓場で祈ってくれる友人が、少なくとも一人は地上に残るのだと思えば、安心して死ぬことができます。長い話です、先生、』小柄な老人は続けた『ですが、今日の午後はこの数週間で一番体力があるような気がしていまして、間違いなく最初から最後まで語り終えることができると信じています。もう何年もの間、誰にも秘密にしていたものです。しかしもはや済んだことです。私の後悔も私自身も永遠に。この世を去った後、誰が知ろうと構いませんよ。』 こう言うと、僅かな間をおいてその話を語り出した。その間、私は手を握ったまま傍に座っていたよ。一言も聞き漏らさなかったと思う。明瞭で落ち着いた話ぶりだったし、全身全霊を込めて聞いたからね。聞きたいかね、リジー? 子供向けのおとぎ話みたいなハッピーエンドはないし、いまどきの売れっ子小説のようなセンセーショナルな興奮もないよ。ドラマチックな状況もなければ、悲恋や自責の熱狂シーンもない。穏やかで夢見るようなくすんだ色のパトスの一欠片、失われた人生の物語、—— 聞くと悲しい気分になるだろう。そして多分ちょっとばかり厳粛な気持ちにね。それだけだよ。」

「先生、どうぞお話しくださいな、」と私は答えました。「そういった悲しい来歴は特に嗜好に合っていますの。きっとオールドミスならではの奇癖なのでしょう。それでも、なんとなく喜びよりも悲しみの方が音楽的だと思って参りましたし、広々とした景色の煌めきよりも日蔭の静謐を愛しております。」

「貴女の言う通りだ、リジー、」と先生はお答えになりました。「いついかなる時代でも真の詩人はそう感じてきたし、憂鬱なる要素が優勢であるようなものの中にこそ、ほとんどの詩情が生きているのだ。もっとも、美を成り立たせるのはコントラストであって、貴女が甘美だという厳粛な和声や、貴女が美しいという影の谷が、全てが全て厳粛で暗いということではないのは明らかだ。また、生気のない状態は最も誠実であり、人間生活の鏡となってもいる。だが、こんな無駄なプロローグで時間を浪費すべきではないな! 早速あの老紳士の話を聞かせてあげる。記憶が鮮明なうちに。とはいえ、容易に忘れられるような話ではないと思うけれども。」 そうペイトン先生は語り、私たちは暖かな夏の夜、深まりゆく闇の中に二人で座っていたのです。我が読者よ、先生がお話になったのはこんな物語なのです。

第二章

四十年ばかり前のこと、ケンジントンで最も美麗な家に、富裕な老ワイン商人と、その二人きりの息子が住んでいた。二人の青年はスティーヴン・グレイとモーリス・グレイといい、双子だった。母親は息子たちを生んだ直後に身罷り、老ワイン商人は幼年時代から少年時代を通して二人の父であり母でもあった。兄弟はこの一人親を、またお互いを、この上なく愛しつつ一端いっぱしの男となったのだ。先に生まれたスティーヴンは早くも父親の盛業を支えるパートナーであり、弟のモーリスは陸軍士官学校への入学を控えていた。まもなく彼はそこに入学することになるのであるが、その時ケンジントンである事件が出来し、それ自体としては取るに足らないこの事件が、後に少なくとも二人の人間に訪れた苦い不幸を胎蔵していたのだ。

そこに新たな住人が居を構えた。グレイ老人の隣にやってきたのは年配の寡婦と、両親を亡くしたその姪、—— ミセス・ラマーティン・キャメロンとミス・アデレーズ・キャメロン —— だった。アデレーズは青白い顔をした十八歳になる肺病やみの少女で、そのデリケートな健康状態や体質に対しては、この辺の穏やかな空気が殊のほか有益ではないかと考えられた。二人のレディが新居に落ち着いて間もなく、心優しく礼儀正しい老ワイン商はこれを訪問した方が良かろうと判断し、やがて然るべき時節を待って先方からも訪問があって、二軒の間にささやかな相互理解が成立した。兄のスティーヴンは父の家に住み込んで日中の仕事時間以外は常にそこにいたのだが、そんなこんなでアデレーズ・キャメロンを見かける機会が多かった。程なく彼は彼女を心の底から愛するようになり、若者が初めて美しい女性を崇拝する際のあの熱き血汐で慕ったのである。

というのも、アデレーズはそれこそ大変な美人だったのだ。血色のない顔は透き通るよう。生地の絹なみに柔和で豊かな金髪を編み上げて、美しい小振りの頭に巻いていた。同じくうっとりするような二つの目からは、アデレーズの魂が覗いていた —— 明晰で、茶色で、甘美な。それゆえ、彼女の麗しいかんばせを初めて目にし、玉を転がすがごとき声を初めて耳にした者は、心中こんなことを言いたがったものだった「あの顔、あの声、とうてい地上のものとは思えない。アデレーズ・キャメロンは天使の住まう国に向かって、既にだいぶ近づいているのだ。」と。

が、少なくとも、ラマーティン夫人と気のいい隣人たるグレイ家の者は、ケンジントンの長く愉快な秋を何日も何週間も過ごすうちに、娘の顔色がそれ以上悪くなっていないのを認めていた。そして老婦人は姪の体調が回復し、青春の息吹を取り戻しているのだと、より一層の確信を持って語るようになった。次第次第にクリスマスが近づき、ついにそれが到来すると、モーリス・グレイは最後の長期休暇を過ごすため実家に帰省した。素直で端正な顔立ち、巻き毛、いつも陽気で、いつもユーモアがあって、でも自分の魅力には無頓着で。そんなモーリスの行くところ、誰もが心から彼を信頼し、偶像視するのだった。ああ、惚れられることも多かったのだ。だが、アデレーズ・キャメロンほどに彼を愛した女はいなかった。このとき彼女は初めて女性の魂を完全に覚醒させ、情熱に生きる者となった。彼女が彼の中に見出したのは神性であり、その足元になら全財産を、持てる限りに優しさを、生きる場所を差し出しても悔いなかった。モーリス・グレイはかくも愛されたことがなく、その愛を他の人間からかくも熱く希求されたこともなかった。だがこの地上の至福があまりに近く、手を伸ばせばいつでも掴める所にあったせいで、モーリスはその贈り物の価値を理解することがなかったし、そもそも自分に捧げられた贈り物だと気づくこともなかったのだ。さて、クリスマス当日にはかくなる風の吹き回しになっていたのだが、その日、かの男やもめはラマーティン夫人とその姪に、ぜひ我が家で今宵の夕食を共にする喜びを賜れないものかと乞うた。堅苦しい小パーティーを開くだけではなく、共に歌をうたいちょっとした賭けゲームをし、この時節の往古の習わしを楽しもうと。なにもクリスマスシーズンでなくてもいい、かくも楽しき懇親会の申し出なら老婦人は大歓迎だった。しかし問題のクリスマスの夕べ、アデレーズ・キャメロンがグレイ邸の客間に通された時、柔和な白いドレスは雲と輝き、金の巻き毛に一筋の雪が織り込まれ、これを見たスティーヴンの心臓は口から飛び出しそうになり、思わず独り言ちた。我が真心の全てを尽くして愛してきた女性が、かくも甘美にして完璧なる美を備えていたのかと。ああ、折に触れて人生には真情が交錯するかくも恐るべき時が、誤解と不覚の苦い現実があるものなのだ! ああ、言葉が通じつつも男女がかたみに心を量ることのなんと少なきよ!

その夜のあらゆる会話と罰ゲームとお祭り騒ぎを通じて、スティーヴンが話しかけ、近寄り、思ったのはもっぱらアデレーズに対してだった。そしてアデレーズの対象は、もっぱらスティーヴンの双子だったのだ。彼女が歌ったのはモーリスに向かって。だがピアノの側で彼女に寄り添っていたのはスティーヴン。愛のこもった情熱の歌声を、あたかも自分の心の渇きを癒すべき葡萄酒であるかのごとく飲み干して。彼女が微笑んだのはモーリスに向かって。だがスティーヴンの両の目は彼女の顔から離れなかった。ささやかな雑談、軽いお巫山戯、陽気な冗談、みんなモーリスに向かって。だがそれに気づいていたのはスティーヴンだけだった。なにしろ、彼女の思考と目的の全ては弟の姿を映し、一方では同様に兄の心と思考が映し出すものは彼女その人の映像だったのだから。

だが、お開きの時間を前にして、スティーヴンは老ワイン商のだらだらと回りくどい体験談を種に談笑している一団からアデレーズを連れ出し、あることを告げた。おのれ自身の荒ぶる愛に盲いた彼女には思いもよらなかったあること —— 彼女への深い崇拝と心からの愛情である。驚いた彼女はその後何分もの間、唖然としたまま立ち尽くした。顔が赤らむことも体が震えることも吐息が漏れることもなかった。美しく高貴なその顔に真摯な眼差しを注いでいた彼は、燃えるような我が想いに応える何物も見出せないことに、言葉にならない苦痛を覚えた。

やっとの事で口を開いた「アデレーズ、私を愛してくれないかい?」

「ええ、ええ、スティーヴン」静かな声で答えた「兄として、大切な兄さんとして。」

「それだけ?」もう一度訊いた。

彼女は彼の手を取り、茶色の瞳で真っ直ぐ見つめた:「どうして」息を切らせて「そんなことを訊くのですか? それ以上のものを差し出すことは、貴方を夫として愛することはできないのです。私たちの間に今夜おきたことは誰にも知らせないでください。今日のことはお忘れになって。私も忘れますから。そしてこれからずっと兄と妹でいましょう。」

彼女は背を向けると滑るように部屋を横切り、明るい炉端に向かった。そこはどこよりも光と暖かさが満ちたところ、モーリスの座る角だった。だが暗闇に一人立つスティーヴンは、両手に顔を埋めて嗚咽を漏らした。これ以降、両家の禍福は入れ替わった。アデレーズは日を追うごとに窶れ蒼ざめ悲しみを深めていったが、その理由を知る者はいなかった。近在の人たちは冬の天候のせいですよ、春になれば娘さんは気を取り直して、前より元気になりますよ、と言っていた。しかし卒後インドに派遣されるモーリスが最後の学期を終えるために士官学校に戻った時、アデレーズのただ一人の兄が海沿いの自宅からやってきた。ケンジントンに住む伯母と妹の許に一ヶ月間、滞在するつもりなのだ。ほぼ中年にさしかかっていたこのフィリップ・キャメロン氏は、背が高くハンサムで、また気持ちの良い話し方をする人物だったものだから、見目と育ちをことさらに重視する老ワイン商のお眼鏡にかなった。そこで彼の到着後時をおかず老ワイン商はことあるごとに親交を深めようとしたのだ。だがラマーティン夫人宅に泊まるようになって何週かが経つうちに、フィリップはアデレーズの白い唇と頬がいっそう蒼ざめていく一方なのを目にした。茶色の目は暗い窖のようで、折れそうな手足はますますか細くなっていった。まるで昔の魔法か邪眼のような、なにか葉枯病めいた恐ろしい毒が血管の中を巡り、若い娘の命を萎れさせているかのように。

ある日の午後、ソファに横たわった彼女は空を見ていた。痩せこけた両手の上に黄金の頭を乗せ、夢見るように開いた窓から広がる四月の空を、その深みを眺めていた。海を行く白帆に似て絶え間なく蒼天を流れゆく雲の群れを。アデレーズはそんな海のことを思い、この地を離れて兄の住む南の海岸に行きたいと心に願った。この顔に吹く気まぐれな潮風を、この足を気ままに洗う幸せなさざ波を、そして海鳥は大きな羽を引き潮に触れさせて。ああ、自由になりたい —— どこか遠くに —— そうすればもしかすると忘れることができるかもしれない。忘れてしまって昔のように生きられるかも、海の砂の中に埋めてしまって二度と目に触れないように —— 忘れるの、そしてまた明るく楽しく元気になって。風や波や鳥のように、思い出も後悔もなくて、喜びといったら今その時を喜ぶだけで。

「フィル兄さん、」兄がそっと部屋に入ってきて自分の横に腰を下ろした時こう言った。「海辺の家に私を連れて行って。ここ、ケンジントンで暮らすのはもううんざり。結局ロンドンに過ぎないもの。」

彼は優しく答えた「何よりも大事な妹よ、それがお前が望むすべてなら、きっとそうしよう。でも、アデレーズ、何か他にお前を苦しめているものがあるのじゃないか? お前の目にもお前の唇にも、昔はなかった陰りがあるし、一人ぼっちで一日中黙りこくったままだ。人目がないと思っている時はいつでもすすり泣いているじゃないか。話してみなさい、我が妹よ。私らの間の兄妹愛と、今は亡き父母のために。いったいどんな影がお前を覆っているのかね?」

彼は親切にしたいと、そしてなんとかして力になりたいと、何度も何度も答えを求めた。しかしアデレーズは口を開くのを恐れていた。我が心を破らんとするものこそ報われぬ愛であるから。その翌日も同じように妹が一人ぼっちなのを見て、悲しみを打ち明けて欲しいと、それでも尚お前を宥め得ぬとしても、兄妹は共に泣くことならできるのだと説いた。そこで遂に彼女は兄の胸に頭を押し付けながら、モーリスのことを、彼が遠からずインドへ旅立つことを、己の報われぬ愛を。だがスティーヴンのことは一言も口にしなかった。自分の胸に秘すと約束したからだ。心の裡を打ち明け終えた彼女は、兄の首に両腕を回してさめざめと啜り泣いた、「フィル、兄さんはこれで私の思いを全部ご存知です。もう何もおっしゃらないで。ただ約束してください、兄さんが帰るとき私も連れていくとだけ、そうすればこの土地のことも、この土地が私に与える悲しみも痛みもすぐに忘れてしまえるのだと。」

そしてフィリップ・キャメロンはそっとキスして答えた。「休みなさい、妹よ、お前の望む通りにするよ。」

だが夕闇が訪れるや彼はワイン商の家に足を運び、モーリスのことを尋ねた。彼がアデレーズを気にしているか否か、また自分の父や兄にこの件を一言でも漏らしたことがあるか否か。

「ああ、ああ、」フィリップが話し終えると、思いを巡らすように老紳士は応えた。「あの子達が語りあうことがあるなら、まさにその種の話であろうよ。というのも、御神のお陰であの兄弟は互いを殊の外好いておるからの。だが、儂はそのことは聞いとりません。とはいえ、若い衆は年寄りとは違う所で生きているものじゃ。その種のことを若者たちが内緒にしておこうと思ったなら、自分たち内々の話にしてしまい、儂のようなゴマ髭老人は仲間はずれじゃよ。キャメロン、教えてくれぬか。とにかくなんとかせにゃならぬからの。貴君の妹さんは我が息子モーリスを愛しているのかね?」

「そうお考えなら、妹のことは胸にお納めください。」

「キャメロン、キャメロン」ワイン商は声を挙げた。「アデレーズは日増しに具合が悪くなっておる。日増しに蒼ざめ、悲しげに、黙り込んでおる。モーリスへの恋煩いだなどと言わんで欲しい! 妹さんのような女性が誰かに片恋するなど決してあり得ぬこと! あの娘は地上の天使じゃよ、貴君の妹、アデレーズは!」

優しく賢い白髪の老人のこと故、フィリップはアデレーズの話を洗いざらい打ち明け、家に連れて帰ると約束したことや、出発に先んじて、かくも堅く心に決めた愛が実る希望がわずかでもあるものか、誰にも知られずに問い合わせてみると約束したことを語った。

フィリップが立ち去ると、老紳士は年上の方の息子スティーヴンを呼び、お前たち兄弟が二人きりでいる時にもしあの娘が話題になったことがあったら、お前の弟がどんな様子だったか、またあの娘のことをどう思っているか何か感づくことがあったかを聞いた。その時、若人は自分がいかに盲目で、いかに鈍感だったかを初めて思い知った。そして己の人生に待ち受けるであろう痛みと荒廃と絶望とが痛感された。人生の栄光も輝きも永遠とわに失われたのだ。

「父さん、僕は何も聞いていません。あの二人を結婚させたいということですか?」

「スティーヴン、それは儂の望みであり、友人フィリップ自身の望みでもある。モーリスのインド行に連れ添う妻として、アデレーズ・キャメロンほど麗しく立派な女性はおらぬよ。」

「彼女の願いも同じなのですか?」聞き返した。「教えてください、父さん。見当はついていますが。」そう言いながら彼は老人の顔に目を向け、そこに自分の言葉が不意に引き起こした混乱と驚愕を(*1)見た。だがそれ以上口にすることなく、答えを待った。

「愛する息子よ」ようようにして老人は口を開いた。「お前が何かに感づいているなら、それで十分だ。それ以上何も言わんでよろしい。胸のうちにしまっておきなさい。これまで儂はお前達二人を謀るようなことはしないできたが、モーリスがまた家に来た時にお前の口から聞いてくれんか。儂よりも自然に聞き出せるだろうし、お前になら思いの丈を話すだろう。お前達の間はいつもそうだったではないか。儂の前ではなかなか口に出せないようなことでも。弟に聞いてくれ、頼むぞ。だがお前の頭にあることは外に出さずにな。」

「父さん、」スティーヴンは叫び、心臓を挟み込むかのように両手をきつく組んだ。彼は喜んでそれを捻り潰し、永遠に捨て去ったであろう。「ねえ、そうしなければならないとは、アデレーズは弟を愛しているのですか?」

「儂がお前達に何かを告げるときは、」ワイン商は言った「いつでも真実だけを告げるつもりでおるよ。お前は分別のある男として、おとなしく黙っていられるかね?」

「僕には僕の秘密があります、父さん。大丈夫です。」

そこで父親は事情を打ち明けた。

五月はじめ、アデレーズ・キャメロンは兄と叔母に連れられてデヴォンシャーの海辺に向かい、三人はそこにしばらく滞在した。だが週ごとにケンジントンに届く報告は決して好ましいものではなかった。アデレーズは長い旅に出たが、病気がちで、元気を取り戻すことはなかったからだ。夏季休暇の時期となりモーリス・グレイは帰省した。明日への展望で満ち溢れ、秋になったら英国を出立するための準備を整えようと頭も手もいっぱいだった。だがスティーヴンがアデレーズのことを話題にし、海沿いの町に行ってしまったと告げても、モーリスはただ軽く笑って「とても可愛い子だね」と答えるだけだった。娘が病を得たと聞かされても、悲しいな、でも南の風に吹かれたら頰に血色が戻るでしょう、次の長旅に出る前にはすっかり元気になったという話を聞きますよ、とだけ言った。少なくともそうなることを望んではいた。

「それでモーリス、出帆の前に一度あの娘に会おうとは思わないか?
さようなら、と言わなくていいのか?」

「うん、あの子がここにいるならもちろんそうするけど、それはそれこれはこれさ。どう考えたって、僕に向かって『さよなら』と言わせるためだけにあの子をケンジントンに連れ戻すわけにはいかないだろ。兄さんも分かっているよね、スティーニー、あっちこっち駆け回って別れの挨拶をしてられるほど暇じゃないんだよ。家で兄さんや父さんといられる時間はちょっとしか残ってないんだ。ここでやらなきゃならないことが山積みなのに、アデレーズ・キャメロンが僕にとってなんだというのさ?」

「モーリス、」スティーヴンは再び口を開いた。老人が若者の振りをしているかのように緊張した声だった。「お前は優しい奴だから、多分それでいいんだろう。だが仮にだ、アデレーズがお前を愛しているとして、親父と、そして —— そしてだ —— お前が知っている全員ががアデレーズをお前の妻として迎えたいと願っているとしたら、あの子のことをどう思うね? 仮定の、あくまで仮定の話なんだが、もちろん。」

「おかしな人だね、スティーニー兄さんは! いくら『仮定』と言ったって、メチャクチャだなあ。そんなことが仮に起きたら、可哀想なアデレーズには心から申し訳ないと思うさ! ちょっとでいいから僕の立場になってみてくれ。あんな凄い子を妻にするなんて! あれほど透き通った白い肌の美人が、金色の宝物として一日中我が家にいるようになったらたまらないよ! 地上のものとも思われない姿を見つめるだけで気が触れてしまうし、うっかりすると絵の中の美人みたいに額に入れてうちの居間の暖炉の上に飾りかねない! だめだめ、キャメロン嬢は兄さんのために取っとくよ。兄さんこそ彼女向きだって。幸か不幸か恋に落ちたことがないんでね、スティーニー、僕はまだ結婚しようって気にならないのさ。それで兄さんといえば愛なき結婚は誰にも許されないと思っているんだよね。だからうまくいくように祈ってるよ。兄さんのプロポーズがどうなっているか手紙で知らせてくれると嬉しいな!」

おお、モーリス! モーリス!

そして青年軍人の乗る船は帆影を日々小さくし、これを聞いたアデレーズの心はあまりの痛みに死に絶えたが、彼女はなおも静かな日々をひたすら耐え忍んで送ったのだ。

海辺でのこんな生活がまる二年続いた。家のものはわずかな希望に縋っていた。最悪の時期は過ぎようとしているのだとか、快復期はどんな場合も長くて見込みがつかないものだとか囁いて。愛する家族にとってはこんな益体もない思い込みですらすがるべき藁となるのだ。然るに三年目のある夕べ、秋が闇を増し海に落ちる日が紅を強める頃、人々の口にクリスマスの話題が上り始める頃、アデレーズは兄を呼び出してこう告げた:——

「フィリップおじさま、ここに来てもう長くなってしまって。でも地上には私をもう一度元気にするようなものは何一つないのがわかっているんです。最後の願いをきっと叶えてくださいますね、フィルおじさま? ケンジントンの昔の家に戻してください、グレイじいさんとお友達のスティーヴンにまた会えるように。それでフィルおじさま、おばさまと一緒に私が死ぬまでいてくださいな。そんなに先のことではありませんから。この世を去る時おじさまの顔をそばで見たいのです。」

こうして娘はワイン商の隣にある昔の家へと連れ戻された。歩く力も既になく、抱きかかえられて敷居をまたいだ。窓際の昔の場所、昔のソファの上に寝かされた。娘がいつもそうしていたからだ。これらをすべて差配したのはフィリップ・キャメロンだった。その夕べ、スティーヴン・グレイがやって来た。二人は久しぶりに会った旧友でもあるかのように、日が落ちてもなお腰を落ち着けて語り続けた。だが、ついにアデレーズはモーリスのことを訊いてしまった。何をしているか、どうしているか、最後の便りはいつだったか、インドでの新生活をどう思っているか、仲間は、天候は、その地の習慣は、と。モーリスへ報われぬ愛を寄せていることを、スティーヴンが知っているとは思いもしなかったから。スティーヴンはうつむいて、弟は元気でカネもある、いつも手紙をくれるよ、とそっけなく応えるだけだった。まさか、既にモーリスはインドで金持ちの美人妻を見つけたなどとは言えるはずがあるまい?

第三章

こんなことがあったある午後、グレイ老人は職場からの帰りしな、いきなり悪性の風邪に襲われた。クリスマスの季節にしても例年になく寒さが厳しい年だったので、スティーヴンが呼んだ医師は数日もしないうちに渋面になり、言いづらそうに、君にはお父さんが会いたがりそうな兄弟姉妹はいないかね、と聞いた。不吉な質問にスティーヴンの心臓は激しく打った。沈痛な声音、奇妙な問い、これらが意味する凶兆に思い至ったからだ。そしてこの内科医がロンドン一の知識と腕を持っていることを熟知していたから。だが、彼はできるだけ冷静に、弟モーリスのこと、弟が父親をとても好きだったことを伝え、本当に差し迫った危機があるなら弟を呼び寄せるつもりだと答えた。きっと弟もそれを願うだろうと。しかしそうでなければ、わざわざ退屈な航海をする必要まではないはずだと。

「呼びなさい。」医師は言った。「もう時間がない。」

そこでスティーヴンは弟に手紙を出し、その中で、父親の顔を再び見たいと思うなら、妻をインドの実家に預けて至急帰れ、と書いた。時は迫り、当時モーリスがたどり得た航路は遠回りのものだけだったのだ(*2)。

モーリスが到着したのは、老人の死のわずか三日前だった。スティーヴンの頼みにもかかわらず、彼は妻をおいてはこなかった。彼女は夫を深く愛しており、離れ難かったからだ。モーリスは妻を父の家に連れて行った。

アデレーズ・キャメロンは定位置たる窓辺のソファから疲れた目を外に向け、この世で最も愛した人物が近づいてくるのを見ていた。ついに大きな四輪馬車が老紳士の家の門に到着し、馭者の隣のボックスシートからモーリスが降りてくるのを見た。彼は馬車の扉を開け、下車しようとする美しい婦人の手をとった。黒髪と燃える瞳を持った女性だ。

「あのお方は?」脇でティーテーブルを用意していた女中に聞いた。

「ご存知ではなかったのですか、お嬢様?」質問に驚いた女中は言った。「モーリス夫人ですわ、お金持ちの若い女の方で、一年前にインドで結婚なさって。随分まえにグレイさんから一部始終を伺っておりましたわ。」

だがそこにフィリップ・キャメロン宛の伝言を持ったスティーヴンが入室してきて、問答を立ち聞きしてしまった。アデレーズは振り向くと言った。「スティーヴン、貴方はモーリスに奥さんがいることを教えてくれませんでしたね。」

翌週、老ワイン商の埋葬がひっそりと営まれた。参列者はわずか三人みたり —— スティーヴン、モーリス、フリップ・キャメロン。アデレーズは観音開きの窓際から見下ろすだけだった。棺が家から運び出される時、金色の頭を叔母の胸に押し付けて泣いた。「おばさん、おばさん、わたし、こんなに長く生きているなんて思わなかった! どうしていつも一番必要とされている人から死んでしまうの? そのくせ、わたしみたいなのが何年も生きていて。ケンジントンに帰ってきた時は、この世にいられるのは一ヶ月もないだろうと思っていたのに、わたし、まだここにいるのよ!」

しばらくの後、兄弟は再び別れ別れになった。モーリスは妻とインドに帰り、父親の事業と古い家を引き継いだスティーヴンは一人残された。しかしアデレーズ・キャメロンはなおも生きていた。昔の自分の影のように、女性としての黄昏を迎えつつ。美貌は死体のように蒼ざめた顔から削ぎ落とされ、若さと甘やかな希望の残光が双眸にぽつんと沈み込んでいた。いつまでも。

喪が明けるとスティーヴンは再びアデレーズを訪ね、改めて結婚を申し込んだ。「あのモーリスは妻帯したし、親父は亡くなったし、彼女は一人ぼっちになってしまった私をかわいそうだと思ってくれるかもしれない。過去を慰め、通り過ぎていく痛みと苦さを私の愛情で和らげてあげられるかも。」と独りごちながら。

だが彼がアデレーズのいる寝椅子の横にただ一人跪き、静脈が青く浮いた蒼白な両手を握って、胸の内を打ち明けた時、アデレーズは顔を背け、辛そうに、他界した人を悼むかのようにすすり泣いた。

「アデレーズ、おぉ、アデレーズ、」絶望に叫んだ「どうしていつも私のことを拒むのですか? この胸が貴女への愛のために張り裂けそうなのがわからないのですか? どうか妻として我が家に来てください!」

しかし彼女はひどく黯然たる声音で、静々と答えたのだ:——

「スティーヴン、生者と死者が妻ってもいいものなのでしょうか? 貴方のような立派な若者がこんな死体もどきを娶るなんて神様がお許しになりません! この四年間、ずっとこんな風に寝たきりでお迎えを待っていました。ようやく、お使いがやってきてくれそうです。婚礼のヴェールを顔を覆う白布とし、シルクやサテンの裾をひくスカートを経帷子としますか? ねえ、スティーヴン、そのことは二度と口にしないで —— 私たちはいまでも兄妹なのです —— 二人の美しい繋がりを破らせないで。この世のどんなものにも。」

「だめだ、アデレーズ」彼は熱っぽく叫んだ「それはいけない、まだ死んではいけない! 君は愛のなし得ることを知らないんだ、愛は死よりも強いことを、私の愛のような激しい愛があれば、死すらも避けようとすることを! 君のためならできないことなんてなにもない。君を救うためならなんだってする。君と一緒にいられるなら、どんなに難しいことでもやってやる。生きて、生きてくれ、我が恋人よ、愛する人よ、そして、私の妻になってくれ! 君を連れていく権利をくれ、お願いだ、一緒にマデイラにマルタにシチリアに行こうよ。生命が満ち溢れる土地に、空が暖かく、大気が澄んでいる土地に。そうすれば健康を、若さを取り戻せるんだ、アデレーズ、ここみたいな重く湿った北の空気を吸っていては見つけられないものがあって、もう一度元気になれるんだ。そうして死や病気のことなんて二度と考えなくなる。我が愛しい君よ、どうかどうか、これ以上私を拒まないでくれないか!」

アデレーズは透き通るような薄い手のひらを弱々しく体の左側に載せ、すぐ傍で激情に張り詰めている顔に穏やかな目を向けた。

「ほらここに、」傷ついた心臓をぎゅっと締め付けめながら、「使者の手はもうここまできているのです。この世でのつかの間の旅が終わろうとしています。その終末は何週でも何日でもなく、もっとずっと、ずっと近くに。かの使者は今この場にもいますよ —— 私にはわかるんです、貴方が私の横で跪いて命や若さや健康のことを語っているこの場にも。」

彼女を恋い慕う哀れな男は声を荒げて懇願した「アデレーズ、愛しい人、君は思い違いをしているんだ! これまで死ぬなんて言わなかったじゃないか、まだ生きてるじゃないか。どうして今すぐ死ななければならないんだ、そして私の心を即死させなければならないんだ?」

「霧に覆われる感じがするんです」彼女は答えた「こうして話している間にも。耳の中ではこの世の音ではない音がしています。目の前に暗黒が集って、光はゆらめき消えて、夜の帳がさっと落ちそう。スティーヴン、スティーヴン、私が死にそうだとは思わないの?」

彼はじっとり濡れた青白い額の上に頭を垂れて囁いた:
「よもやそうであれ、愛しい人よ、我が妻として我が腕の中で逝ってください。」

だがこの言葉が終わらないうちに、アデレーズの上に変化が訪れた —— 優しい目に陰りが忍び込み、開いた白い唇に苦痛の痙攣が走った。闇を弄るかのように弱々しく頼りなく両手を顔の前に突き出したかと思うと、金髪がスティーヴンの肩に垂れた。絶え絶えの息には間近な死の響きがあった。苦悩の叫びと共にスティーヴンは彼女の周りに腕を回し、震えるか細い両手を胸に押し付けた。いつまでもそこにあればどれ程嬉しかったことだろう。

「おお神よ!」彼は名状しがたい絶望を唸りに滲ませた。「希望も救済もなければ、昔を取り戻すこともできないのでしょうか? こんなに辛い結末なのですか? こんな風に愛する人を失わなければならないのですか? あぁアデレーズ、アデレーズ、愛しい人!」 しかしこう口にする間にもその顔はじわじわと影に覆われ、すすりあげる息は暗い部屋の静けさの中に消えていった。黄金色の頭は下に落ちたが —— そこは一途な純愛を貫いた者の破れた心臓の上だった。スティーヴンは死者の両手で顔を覆って泣いた。人が一生に一度しか流せない涙 —— こんな涙は茶色の髪を灰色にし、若者を老人にしてしまう。

フィリップ・キャメロンとその叔母はケンジントンにあまり長くは留まらなかった。家を余所者に引き渡し、二人でしばらくヨーロッパを回った。放浪に疲れた老婦人はジュネーブ近郊の小さな屋敷にメイドとともに落ち着いた。それ以降スティーヴンは二人の消息を耳にすることがなかった。彼自身は古い家に残り、共に老いていった。アデレーズが生きた土地を愛していたから、立ち去るに忍び難かったのだ。毎夕職場から帰宅すると、書斎の窓際にぽつんと座ったものだった。そこからは庭越しに隣家の小部屋が見える。更紗のカーテンをひいた古風な小部屋はアデレーズが何年も何年も前に病身を横たえていた場所だ。そこで二人はいつも話をし、共に本を読み、最後に彼女は彼の腕の中で逝った。だがそんなことを考えても泣くことはもうなかった。小さな枯木のような年寄りになってしまい、涙も涸れ果て、燃え上がる絶望と傷心の代わりに、久遠の悔悟という名の乾いた苦痛と、かの遠い国からの使者よ一日も早く来てくれという無言の願いが訪れていた。

さて裕福で幸福で前途洋々なモーリスが再び美人妻と子供達を連れてやってきた。英国に落ち着くためで、ロンドンのどこかに新居を構え、そこで双子の兄と同居したい思っていた。ところがスティーヴンは断った。そこでモーリスは、僕らは昔から仲が良かったじゃないか、一人でこんなところに住むのは大変だろう、もう別れて暮らしたくないんだ、それだけなんだよ、と時間をかけて説得したものの、返ってくるのは反論だった。モーリスは不平たらたらで ——

「じゃあ好きにするさ、スティーニー。自分から行かず寡になっちゃって。でも少なくともワイン業だけは無駄だから手放す方がいい。毎日そこで何をやってるんだい —— 兄さんには女房も子供もいないんだから、カネはそんなにいらないだろう? 今、オークの木に巣を作ってるフクロウのように、兄さんがひとりきりで住んでる家を寄越しなよ。かわりに近くのコテージを探してあげるよ。いつでも会いに行けるようにさ。そこなら気楽に幸せに暮らせるよ。」

そこで小さな老人は首を振って答えた「いや、モーリス、私はどこか知り合いのいない田舎に行くよ。これまで苦労の連続でもう疲れたし、自分の人生を何年も何年もすり減らしてきた碾き臼の側にいては永遠の憩いも得られない。私のことは気にしないでくれ、モーリス、住処は自分で見つけるから。」

彼らは別れた。ロンドンに近いのを喜んだモーリス一家はケンジントンの大きな家に住み、スティーヴンは父親の事業を他の商人に売って立ち去った。自分自身を、その失われた人生をどこか遠くの村に埋葬しようと。モーリスはそれがどこか知らなかった。その地でスティーヴンは、久しく望んでいたかの使者が次第に近づき、自分をも連れ去ってくれる日を待っていた。陽が昇り、影が逃げさるその時を。」

これが、読者よ、ペントン先生が語ってくださった内容です。もちろん、お話くださった一字一句を覚えてはいられなかったので、自分の言葉に直しましたし、ちょこちょこと会話に書き加えてもあります。ですが、ロマンスの中の事実とパトスは私のものでも先生のものでもありません。真実の、ほんとうの、現実なのです。どんなフィクションを持ってきても、それらの痛切さをいっそう詩的に完成させ得ぬほどの。

「亡くなりかけている方の話にしては、ずいぶん長うございましたね」と私。

「その通り」彼は答えました。「何度も息を詰まらせていたから、長い話をするのはさぞ苦しいだろうと思われた。それでも座ったまま話し続けたんだよ、リジー、それにね、実のところ話に引き込まれすぎていて、回想に口を挟めなかったんだ。まあ、体力を考えて無理をしないようにと時々注意はしたんだが。老人はそのたびに、自分は大丈夫だ、このまま続けたい、アデレーズのことをもう一度話せるだけでも幸せだ、と応えた。そして、いかに美しく甘やかで辛抱づよい女性だったかを語ったのだ。話し終えた頃には夕暮れが迫っていた。老人は私に、いつもしていたように窓際のアームチェアに座りたいから、ベッドから起こしてくれないか、と乞うた。最期の日没を見たいから、と。そこで家政婦を呼び、二人で彼が願った通りに椅子に座らせ、緑のヴェネチア風ブラインドを開けた。午後の熱気を避けるために閉めきっておいたものだ。覚えているだろう、リジー、今日の夕映えは何と輝かしく美しかったろう。そうだよ、雨戸を開けた時、大空から部屋の中へと栄光の煌めきが透明なきんの奔流となって押し寄せ、私たちはめまいがしそうだった。あまりの輝きに、老人の弱った目にはきついのではないかと思い、ブラインドを少し閉じようと咄嗟に身を屈めたのだが、彼は身振りでそのままにしておいてくれと示した。そこで私はブラインドを閉じるのはやめにして、家政婦を階下にやってお茶の準備をさせた。椅子で起き上がって飲みたいんじゃないかと考えたのだ。思いもよらなかったよ —— 医者のくせに —— 実際にはあんなに死期が迫っていたなんて。発話を続けたせいで疲労もし興奮もしていたが、当座の懸念材料はないと見ていた。本当に死に瀕しているなどとは、もっと考え難かった。それどころか、午後、部屋に入った時に具合が悪そうだと感じたほうが誤りで、実は一時的に持ち直してきたのではないかとさえ考えたほどだ。とにかく、長い身の上話で疲れたところに一杯のお茶を飲めば、よい刺激剤になってリフレッシュ効果があるだろうと思っていたし、この後一晩安静にしておくよう説得できれば、さっきまでの喜びが転じて災いとなることもないはずだと思ってもいたよ。開いた窓辺に座る私たちは、黄金色の紗幕を巡らした西方へ沈みゆく太陽を見ていた。なんとなく「ガラスの海と火とを混ぜ合わせたようだ」とでもいうような漠然とした夢想が頭を過ぎった。夢見心地になっていたところに老人の声がして、私はびくっとした。そのいつもと違う柔らかい言葉には胸を騒がすものがあった。

「『先生、もうこれまでのようです。』

「すぐさま椅子を立って彼のそばに行ったよ。だが、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、それが患者の想像にとどまらないのが見て取れた。

「『三十五年前、』彼は常ならぬ声で静かに続けた —— 『三十五年前、今日と同じ日、夕日が落ちると共に私のアデレーズはこの腕で死にました。この日没、今度は私の番です。』」

「確かに、」私は大きな声をあげました。「これはほんと、めったにない出来事ですわね! そう思いません? すると、ちょうど今日はかわいそうなキャメロン嬢の命日にあたっているのですね! なんて不思議なんでしょう!」

「初めは私もそう思ったが、」反論だ。「後に違うと考えるようになった。むしろ彼の知識そのものが死期を定めたのではないかと。そのことについてずっと思いつめてきたに違いないし、その特別な日の特別な刻限に逝きたいと願ったのだろう。患者の衰弱ぶりからして、かような願望は身体に大きな影響を与えうる。類似の症例をいくつか知っているよ。ともあれ、何が実際に起きたのかは当然ながら判断しかねる。さっきも言った通り、私が部屋に入るとすぐさま彼は、自分は今宵『永い休息』に向かいます、と言い切った。死を確信していたからこそ、先ほどの話を語ってくれたのだ。無論、往診の中で死の床に臨席したことは何度もあるが、スティーヴン・グレイほど穏やかで安らかな最期を看取ったことはなかった。別人のような顔、冴え冴えとした双眸、隅々まで落ち着き払った表情、それらの中に私は『永い休息』に向けた静謐なる期待を見た。一時間か二時間か、それくらい前に彼が満足気に語った『永い休息』だ。

「それ以降、彼は私のことを一顧だにしなかった —— 意識すらしていなかったのではないかな。アームチェアの上に私が置いた白い枕に頭を載せ、両手を組み、沈みゆく火球のような日輪にじっと —— 恭しく、と言いたいほどに —— 眼を凝らしていた。いまや太陽はマルヴァーン・ヒルの青い稜線に向かって急速に傾き、それが丘の頂きに触るとき私は激しい動悸を覚えた。眺めていると、遥かにたなびく夕雲の下より金色こんじきの光芒が放たれ、見やる小老人の顔を一面に照らした。強烈な光輝にも老人は目を背けることなく、直視し切ったのだが、唇が動くのが見えた。ぼそぼそとした言葉の端々を捉えようと、私は身を乗り出した。

「『アデレーズ —— 失われし我が愛しの君 —— 我がアデレーズよ、我をしてみもとに参らせ、遂に至高の恋人となし給え!』

「私はもう一度西の空を見た。ちょうど日が沈んだところだった。」

* * * * * * *

次の朝、私は庭に咲く六月の薔薇と甘いジャスミンを摘んで小さな老人の家を訪ねました。階段を上って故人が休らう暗い部屋に入り、白い布を巡らしたベッドの横に恭しく花を納めました。瞼を閉じ、腕を組み、静寂を破るものとてない部屋の中で今、青白い顔からは全ての皺がぬぐい去られ、不思議な静けさと安らぎとを湛えていました。あまりにも穏やかな亡骸を前にして、きっと大泣きするだろうなと思っていた私の目からは哀れみの涙は零れず、代わりに、振り返ったその刹那、とても美しい詩の結びの数行が思い浮かんできたのです。そんなに昔の詩ではありません。疑いなく神様のお導きを得た名人の手になる詩。詩人はすでにこの世の人ではありませんが、書き下された言葉は残っています。歌い手そのひと隠り世かくりよに去りぬとも、詩人の魂は再び贏ち得た神性を纏いて燦々と輝きて、死すべき者の耳には聞こえぬ歌を、死すべき者の心には抱けぬ歌を歌いつつ、いつまでも、いつまでも彼の国より漂い来たるのです。その詩はこんなふうに終わります:——

「『最初にジャスパー』と私は言った
『二番目はサファイア、三番目はカルセドニー。
それから順繰りに —— 最後にアメジスト。』」


翻訳について

底本は Project Gutenberg の Dreams and Dream Stories By Anna Kingsford の第二部 Dream Stories の第六話 The Little Old Man’s Story です。加えて Anna Kingsford Site (her Life and Works)/Site Anna Kingsford (sua Vida e Obras) を参照し、パラグラフ等はこちらに従いました。この翻訳は独自に行ったもので、先行する訳と類似する部分があっても偶然によるものです。

この訳文は他の拙訳同様 Creative Commons CC-BY 3.0 の下で公開します。だまし討ち的に著作権保護期間の延長が決定した現状で、ほとんど自由に使える訳文を投げることには多少の意味があるでしょう。

往年のアイドル本間千代子さんの歌ではありませんが、ああ、なんという切ない純愛。世塵にまみれたワタクシには想像すらできない星晨界。幸薄き末世に生きる我らに19世紀人の思いの光が届かんことを。

作品の最初と最後に引用された詩はエリザベス・バレット・ブラウニングの「オーロラ・リー」の第9巻(最終巻)です。冒頭は506から507行、結末は987から990行(詩の終結部)。アデライーデA Celebration of Women Writersで原文を読むことができます。さらに、この「オーロラ・リー」終結部の元になっているのは、ヨハネの默示録第21章第19から20節だと思われます。聖書 - 文語訳 (JCL)から該当部分を引用します。

都の石垣の基はさまざまの寶石にて飾れり。第一の基は碧玉、第二は瑠璃、第三は玉髓、第四は緑玉、第五は紅縞瑪瑙、第六は赤瑪瑙、第七は貴橄欖石、第八は緑柱石、第九は黄玉石、第十は緑玉髓、第十一は青玉、第十二は紫水晶なり。

Wikimedia Commonsから、マルヴァーンの夕日

固有名詞:Dr. Peyton、Malvern、Lizzie、Miss Elizabeth Fairleigh、Damon、Pythias、Mr. Stephen Gray、Mrs. Lamertine and Miss Adelais Cameron、Stephen and Maurice Grey(GrayとGreyが混在しています)、Philip Cameron

第一部 Dreams の中から、短い詩集 Dream Verses を除いた部分を「夢日記」として訳出してあります(誰か Dream Verses を訳してくれませんか……)。第二部 Dream Stories「夢の物語」には、以下の八編が収められています。いくつか邦訳を試みておりますので。興味をおもちでしたらどうぞ。

  1. A Village of Seers:「千里眼の村」
  2. Steepside; A Ghost Story:「崖端館」
  3. Beyond the Sunset:「夕映えのむこうの国」
  4. A Turn of Luck : 「幸運のターン」
  5. Noémi:「ノエミ」
  6. The Little Old Man's Story(本作)
  7. The Nightshade:「犬酸漿」
  8. St. George the Chevalier:「騎士・聖ジョージ」

1, Feb., 2019 : とりあえずあげます
3, Feb., 2019 : 最低限のtypo修正
28, Apr., 2019 : ちょっと手入れ。Yahoo Geocities消滅にともない、http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/7088/105honmachiyoko.html からリンク変更。
3, May, 2019 : typo修正ほか
18, Apr., 2020 : 第八話へのリンク
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