「安田病院の真実」(1998/08/24〜08/28号)
ちょっと前のことだが(これを書いた時点での話。今となってはかなり前の話)、
大阪の安田病院(とその系列の3病院)が診療報酬の水増しで摘発され、
医療法人の資格を取り消された。

看護婦の数を水増しして不正に診療報酬をもらっていたのである。
それ事態は決して良いことではないが、実はこの事件には隠された裏がある。
それは表面上に出てくるニュースではなかなか読めない部分である。

    ・・・

先ず先に医療報酬の水増し請求ということが、そんなに珍しいことかと言えば、
実際のところ、大手の医療法人で、複数の病院を持っているところでは
まあ、かなりやっているのではないか、というところらしい。
でも普通はばれない。なぜか。

病院にも監査(これは保険所が行う)があるが、これは抜き打ちではない。
「いついつ行きますからね」という事前の告知がある。
さらに、複数病院を持つ医療法人でも、その複数の病院に同時に監査人が
行くことはない。

ということは、あらかじめ他の病院から看護婦を来させて見た目上の人数を
その日だけ増やすことは造作もない。名前の書いていないタイムカードが
何枚かあるなんて話もある。

また、同じ人が同じ系列の病院に行くことも希らしい。
だから、同じ系列病院で同じ看護婦が複数の病院にいてもわからないのだ。

同時に系列の複数の病院に行けば、こういう「不正」はすぐに明らかになるのに
なぜこういう体制になっているか。まあ、いろいろと癒着があるのだろう。

にもかかわらず、今回安田病院だけが上げられてしまったのは、
付け届けを忘れたか、よほどひどく不正請求したか、まあそんなところだろう。
ある意味運が悪かったとも言える。

でも裏というのはこの話ではない。もっとひどい話があるのだ。

    ・・・
安田病院に入院していた患者は、いくつかの病院に分かれて
転院したことになっている。それはそれで良いし、「今」はそれで良い。
しかし、3ヶ月後、その人たちには1つの試練が待っている。

病院の診療報酬の仕組みをご存じだろうか。2割患者負担で8割が国の負担、
と単純に考えられているし、患者側とすれば事実そうなのだが、
医療機関の側からするとそうではない。

実は同じ病院で3ヶ月以上連続治療をした場合、国からの補助が20%カット
されるのだ。80%の国の負担からさらに20%カットされるのである。

だから、今までと同じ金額で同じだけの治療をすると病院は損をするのである。
したがって、3ヶ月以上の入院などは好まないのである。
このためその前に転院させたり、追い出したりするのである。

金銭的に裕福な患者の場合は、それでも治療費のアップが出来たり、
そもそも良い部屋を使ったりして金を出してもらっている分けだから、
病院としても御得意様なわけだが、生活保護を受けたりしている人は
まあ最低限で行っているわけだから、仕方なし、という部分があるのだ。
3ヶ月転院の対象はもちろんそういう人たちである。

で、安田病院の話に戻るが、あの病院は実はそういう人たちをかなり
受け入れていたらしい。そういう意味では良心的な病院であったわけだ。
ひょっとすると、それで経営が切迫したので不正請求という道に走ったのかも
知れない。

    ・・・

安田病院から転院させられた人たちは、3ヶ月はいいわけだが、
その後はまた転院/追い出し対象となる。

運良く老人ホームなどに入れれば良いが、それらは今空き待ちの満員状態だし、
まして公共のものはさらに少ない。
入れる可能性は非常に少ない。

転院といってもお金はかかる。また追い出されたらどうなるか。
生活保護を受けている人の多くは老人か一人暮らしだ。
そういう人たちの末路がどうなるかはあえて書く必要もあるまい。
結局、あの事件はそういった人たちの犠牲も強いたのである。

もっとも、横山ノック大阪府知事もそういった事態は知っているわけで、
そういった人たちを優先的に老人ホームなどに入れるといったことをするだろうが、
それはそれで不公平を生む。新規施設の建設には予算がない。
はたしてどうするつもりか。

    ・・・

「安田病院を悪い」と言うのは簡単である。
やったこと事態はいけないことではあれ、
しかし、そうした裏の事情を知れば、いちがいに悪いとは言えない。
(悪さで言えば、よほどスパイラルテープのおっさんの方が悪い。)
悪の元凶はもっと他にあり、それは複雑怪奇なのである。

が、こうした事実はマスコミでは発表されない。
マスコミは「悪者」を作るのが仕事だからである。
正確に言えば、誰かを「白」にするために誰かを「黒」にするのである。
誰かを悪者にし、誰かを見せ物にして騒ぎたてて、その情報を小出しにすることで
人の目を引き付けようとするのがマスコミである。
(それについてもいつかは書くことがあろう。)

「悪」と言い切るのは簡単だが、その裏に隠された「真実」を知らなければ、
誤認をしてしまう。
悪事を働いた者の、環境を考慮したと称する甘やかしは不要だが、
知りぬぐいをしているうちに「悪」のレッテルを張られた者もいるはずである。
本来正義である者が情報操作によって、もしくはその一面だけをとらえられて
「悪」とされている場合もある。

真実を知るにはそういった意図的に操作された情報ではなく、
裏情報も含め、真実に迫る必要である。
それは容易なことではないが、情報操作によって扇動される「一般民衆」に
成らないために努力しなければならない。
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