「月の話」(1996年5月22日〜5月23日号)
古今東西、「月」というものに人は魅せられてきた。

月を題材にした歌や小説は数多く、絵や音楽も多い。
日本で「着き」を題材にした物語で一番有名なものは、おそらくは
竹取物語であろう。これを昔のUFO飛来説と見る向きもあるが、
その真偽はともかく、月には人が住んでいるかも知れない、
と思われていた証拠であり、月が人を魅了していた証拠には違いない。

このように月が人を魅了するにはいろいろな理由が考えられる。
物理的な原因は、月が地球外の天体で一番近いということであろう。
火星も大接近と呼ばれることがあるが、そのときでも明るい星程度である、
空を覆うほどの明るさになることはない。

しかし、その明るさは太陽ほどではなく、どこかもの寂しい思いがある。
「しんみり」とか「おだやか」とかいう言葉が似合う。
フランス語では女性名詞になっているはずである。
(まあ、今の女性が月ほど穏やかであるかは別として。^_^;)
その光のもとでは、人もそういう気分になるから不思議である。
光というものが、人の精神に与える影響がいかに大きいかを示す例である。

さて月の影響というものは、単に精神的なものだけではない。
人間、そのほかの生物も皆大きく月の影響を受けている。
地球そのものだって例外ではない。

        ・・・

地球の潮の満ち引きは月の引力の影響による。
引力の影響が強い時は干潮になり、弱い時に満潮になる。
(強いと海水が月に引き寄せられるから、沖で海面が盛り上がり、
陸地近くは潮が引くのである。)

この満ち引きに対応した生物もいる。有明海の干潟に住む「むつごろう」は
有名だし、潮の引いた岩場に出来るタイドプール(しおだまり)には
小魚が住んでいる。

人間はどうだろうか。
女性の生理の周期が月の公転周期と同じというのは単なる偶然とは思えない。
(月の自転周期は地球のそれと同じで24時間である。そのため、月は地球に
いつも同じ面しか見せないのだ。)
全員が同じ日ではないから、単に引力の影響とは言えないが、
何か関係はあろう。

満月の日には犯罪が多いという研究結果がある。
単純に考えれば、夜が暗い新月の方が多そうだが、そうではないらしい。
「狼男」ではないが、月の光を浴びると、人の中に存在する凶暴性が
刺激されるのだろうか。

大昔には月は今よりもっと地球に近かったらしい。
その時には引力や光の影響も今よりもっと強くあっただろう。
ということは、私たちの遠い祖先はその影響を今よりもっと受けていることになり、
今の私たちが、それを受け継いでいるとしてもおかしいことではない。

21世紀には、人類は宇宙ステーションを建設するだろう。
その時の材料は地球から運ぶのではなく、月から運ばれる。
ということは、21世紀においても月は人類に大きな影響を与えるということだ。

これから夏に向けて夜空が綺麗になる。
月の空を眺めながら、月と地球、月と人間の関係について考えるのも
一興であろう。
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