「地球人というもの」(1995/4/20執筆)
今、宇宙からあなたを訪ねて友人がやってきたとしよう。
他の誰にも秘密だが、実はあなたには宇宙の友人がいるのだ。

彼が地球に来るのは初めてだ。
あなたは地球の出来るだけ多くを彼に紹介したい。
さて、どうしたらいいか。

まずあなたは地球の自然を紹介することにした。
全世界の多くの自然を見てまわる。
宇宙からやってきた彼の乗り物に乗れば、それはいともたやすいことだ。

山、川、大地、そして地球の大半をしめる海。
そこに生きづく多くの動植物達。
動くもの、動かないもの。
小さなもの、大きなもの。
長く生きるもの、すぐに滅してしまうもの。
すべてに生命の力強さを感じる。

静かなる時、はげしく怒り狂う時。
たとえどんな場面も、まぎれもなく地球の一面である。

彼は地球の自然にはおおいに感動したようだ。
宇宙から見える地球は太陽に映えて実に美しく見える。
その地球は、その大地に降り立ってもやはり美しかった。

次にあなたは人間の営みを紹介することにした。

大都市、町、村、非常に小さな集落、山の中の一軒屋。
確かに人は生きている。
大都市の夜景や建造物には人の営みの力強さを読み取れる。
月から見える地球上の人工建造物は万里の長城だったらしい。
だから、地上にこれほどまでに大小様々な、ものがあるとは思わなかったそうだ。

広く宇宙を旅してきた彼も、このように多種多用な動植物があふれ、自然が躍動する星は珍しいと言う。

しかし、彼にはいくつかわからないことがあった。
それは人間の基本的な有様だ。

        ・・・

彼は問う。

なぜ自然から産まれたはずの人間が自然との絆をきろうとしているのか。
人間を産み、育んでくれた母なる自然を、なぜに人間は破壊するのか。
傷つけられながらもなお人にやさしく語りかける自然の声がなぜ聞こえないのか。
人は偉大だ。なぜなら、全ての動植物の中で初めて母なるものに
語り返す術を持ったのだから。
しかし、今やその声はただの騒音に過ぎない。
いつくしむ心をなぜに忘れた。

今の地球の管理者はだれなのか。
地球の調和はだれがコントロールしているのか。
なぜ滅亡の危機に瀕しているのに、それを気にしないのか。
国は己の利害にのみ行動する。
大国は自らの意志に背くものを力でねじふせ、
小国はすがることだけを望む。
援助という名の束縛、償いという名のゆすり。
真の強調がどこにもない。

地球の世界は実に微妙なバランスで成り立っている。
なぜこんな微妙なバランスでやっていけるのだ。
相変わらず続く核の恐怖。
1つ間違えば1時間もないうちに全人類が滅んでしまうというのに。
それについて真剣に議論している人がなぜこんなに少ない。
なぜこんな不安定なのに、それに気付かない。
いや気付いているのにそれを話題にしないのか。
なぜだ?
自らの命にかかわることなのに。

なぜ権力に固執する。
人の真価が権力にあるものと思っている。
人の真価はそこにはない。
徳というもの、信頼されることにこそ真価がある。
権力は従うものにしか効かぬ。
徳は全ての人を動かせる。
権力は人を進化させない。
人の進化は大いなる精神の飛躍、
そこには偉大なる精神的推進者が必要。

なぜ平均であろうとする。
確固たる精神を感じない。
個性的であるのとてんでバラバラ、いい加減、むちゃくちゃなのを間違っている。
見た目の違いが個性だと思っている。
精神的にはみんな同じ。
いや、中身がない。

正しいものを正しいと言わない。
よりいいものを選ばない。
本来もっと進むべき技術の種はあるのに、なぜかそれが開花しない。
技術文明はそこそこなのに、精神がそれについていっていない。
人が技術に溺れている。
精神文明的には、むしろ退化しているのかも知れない。

彼は問う。
「地球人とは、いったい何なのだ?」

        ・・・

彼は地球人が「だれがだれだか区別が付かない」という。
彼には人の心を読む能力が少し有る。
それを使って人の心や行動基準を読むと、そのほとんどが同じなのだ。

一見違うように見えても、根は同じ。
何かに集中コントロールされているロボットのようだ。
自分では個性的であると思っているようだが、
そもそも個性とは何であるのかを知っているのかどうかが怪しい。
個性的であると思い込む。そうでありたいと思う。
その反面平均であることをよしとする。
平気でないものを迫害する。

それは潜在的恐怖によるものではないか。
個性の有るものに対する劣等感の裏返し。
人は産まれながらにして個性的なはずだ。
それをなぜ殺して成長するのか。
地球人にとっての成長とは、実は劣化ではないのか。

自分でない者、他人とのつながり、関係に付いてあいまいにしか把握していない。
人と人が集まって社会を作っていく上で、まず一番に考えることは何なのか。
「私の星ではまず人の心を読む術を教わる。それは人がどうして欲しいかを
知ることが出来ればそうしてあげられる。して欲しくないことはしない。
それがよりよい人の関係を創り出す。そこには嘘も必要ない。」
「人に心を読まれるのは恐くないかって?人に読まれて困るような心はないし、
その前に、どこまでを読みどこからは読まないと言うことはもちろん覚えている。」
人がお互い何をすべきなのかわからず、探りあい、嘘をつき合う
地球人にはおよそ難しいことだ。

そのことを指摘されたあなたは大きにショックを受けた。
彼の問いは日頃それが当たり前だと思っていた純粋な地球人であるあなたには、
最初は何のことだかわからない、
しかし良く考えれば確かになぜだかわからないことであった。
その中で埋もれて生きているものには気づきにくい事柄だったのだ。

地球人は、地球人であるが故にその恵まれている喜び=幸福の有り難さを忘れている。
文字通り、それは「有り」「難い」ことであるにもかかわらず。
そうであるということは、実は非常に希であるということ。
生まれつき恵まれているのにかかわらず、そのことに気づかず、
この恵みを破壊しようとしている。

人は産まれながらにして人であると思っている。
男はなにもしなくても男で有ると思っている。
女はなにもしなくても女で有ると思っている。
だから努力をしない。

個人はなにもしなくても他の誰とも違う個人だと思っている。
自分の精神は他の誰から与えられたものでもなく、自分で作り出したもので、
それが自分の個性の現れだと思っている。
でも、それは単なる思い込み。
外にいる者から見れば、皆同じにしか見えない。

        ・・・

「地球人のもう1つの大きな欠点は『自分だけがよければ』という考えが
強すぎることだ。」
そう彼は言う。

今や地球は非常にあぶない状態にある。
核もそう、オゾン層破壊もそう、交通戦争、過剰ストレス、
食べ物や空気の汚れ。
その全ては直接人間の命、自分の命ににかかわる問題なのに、
多くの者はそれについて語ろうとしない。

「そんなこと自分1人が考えてもどうしようもない」、そう思っているのだろうか。
たしかに1人の力ではどうしようもない。
そして、考えたとしても今日明日で解決する問題ではない。

しかし、1人1人が考えなければならない。
そして今考えなければならない。
そうしなければ、後に続く者はもっと考えなくなるし、
手遅れになってしまう。
1人1人の力は小さくても、みんなが考えることが大切なのだ。
それが力となるのだ。

        ・・・

地球人は、(あなたを除いて)今だ明らかな「他」の存在を知らない。
だから、あなたがあなたであること、それには実は努力が必要であり、
産まれながらにしてそうであることに甘んじてはいけないということに
気づいていない。

人と社会の関係。
今の社会が当たり前だと思っているが故に、よりよくするための方針を持たず、
また考えない。理想社会は空想社会ではない。
現実に存在しているものだ。

「人」は必ずしも「人」ではない。
人は人であるために努力すべきなのだ。
生物学的には「人間」であっても、実質的にはそうでない場合もあるのだ。
個人は他人ではない、確固たるその人であるために努力しなければならない。
男は男であるために努力し、女は女であるために努力する。
その努力を惜しむなら、男や女は見かけはどうであれ男や女でなく、
人は人ではなくなる。

「社会」は単なる人のよせ集まりではない。
より社会を創り出すために努力しなければならないのだ。

産まれながらにそうであることに甘んじてはいけない。
いつも真実を求めること。
真実は神の手の内にあるのではなく、人の手の内にある。
神の存在を絶対化し、人の限界を勝手に決めつけてはいけない。
人は努力により、その限界を越えて進化出来る。
神の決めた人の限界など存在しない。
神は人を見守るものであって、その可能性を摘み取るようなものではない。
可能性はある。
未来はある。
そして、それを開花させるかどうかもまた人の手の内にある。

そう言い残して彼は帰っていった。

今度はあなたを宇宙に招待してくれるらしい。
その時までには、彼の残した問いかけに答えられるようにならなければならない。

地球人とはなにか。
地球の未来について語り、今の危機を避けるためにはどうしたら良いか。
地球に生きるものの関係はどうあるべきなのか。
全ての人が「真実」に気づくためにはどうしたらよいか。
人が「人」であるための努力をどう示すのか。

これは、あなた一人だけでなく、全ての地球の人が絶対に避けて通れないことである。
地球人が、地球と言うゆりかごから出て、一人立するために越えなければならない、
ステップであり、
宇宙の友達と堂々と手を握れるようになるために、宇宙社会に仲間入りするために
必要な「成長」なのだ。

地球人は、今、1人の立派な宇宙人としての「格」が求められている。
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