「母性の崩壊」(1997/07/28〜07/31号)
「強すぎる力は両刃の刃なのだ。
        幸福にもなれるが、1つ使い方を間違えれば、破滅する。」

人はいつしか大地の母性に甘え、わがままをやりつくしてきた。
しかし、今その限界を越え、母性は失われつつある。

もはや誰も守ってはくれない。
温室効果を起こす二酸化炭素を酸素に変える植物は失われ、
気か熱によって気温を下げる土の地面は埋めつくされ、
木材を伐採した山は保水力を無くして崩れる。

気温が上がりつつある。南極の氷はすでに融け始めている。
たかが南極の氷・・・と侮ってはいけない。
その氷が融けきれば、日本などその大半が海に没する。
気温の上昇は、すでに多くの異常気象を引き起こしており、
砂漠化なども進んでいる。
近い将来、食料危機は全世界に広がる。
食べ物の奪い合いが世界を破滅させない保証はない。

現在熱帯地方だけにある伝染病も、その存在範囲がどんどん北へと広がっている。
やがては日本全土で熱帯性伝染病がはやるかも知れない。
セアカゴケグモやO−157は単なる始まりに過ぎないのだ。

自然体系の狂い、大地の荒廃、気温の上昇には勢いがつくばかりで、
それを押さえる力は弱い。
地球はすでに瀕死の状態にある。

        ・・・

かつて、自然をして地中深くに封じ込めた「両刃の刃」を人は見つけてしまった。
石油とウラン。
それはうまく制御出来れば最高の幸せをもたらすが、
一旦その魔力に取り付かれ、制御を怠れば最大の不幸をもたらす。
そして今見るに、原生地球人類には、それを制御する「精神力」が足りなかった
ようだ。

強力な薬はよく効くが、副作用も強い。
石油がもたらす産物は身の回りあらゆるところにある。
もはやそれを無くして身の回りのもの、何1つとして成り立つものはないと
言っていい。原発を反対することは出来るが、電気を使わずに生きられる人はいない。
残念ながら、水力発電や、その他自然エネルギーによる発電量だけでは
今の電力事情はまかなえない。

しかし、石油/原子力はそれ自体から実は何も生み出せない。
形を変えるだけである。
そして人類はその「素」をひたすらに浪費するだけである。

その一方で、まだ使えるはずのものが棄てられてしまう事実。
余っている、容易に手に入ることは、ものを大切にする心を失わせる。
甘えた環境からは甘えた心しか生まれない。

過剰すぎる便利さは、実際には何も生み出さないのだ。
浪費するだけである。
「あったら便利なものはなくてもいい」。
後に残るのはただ役にたたないゴミばかり。
浪費ばかりするもの=ゴミだと言ってもいい。

生死において、常に緊迫した環境にあることが良いことだとは思わない。
生命が、ほとんどの場面に置いて脅かされることの少ない環境はすばらしい。
しかし、適度な緊張は人の心に張りを持たせ、それにより回りの微妙な動きも
感じとれるようになる。自然の変化も、人の心も。

        ・・・

最近の若い女性には「母性」がないと思われる。
ここでは「母性」とは咸くいつくしみ、守る心だと定義しておこう。
そしてそれは無条件に発揮されるのである。
「手伝ってくれないから」だとかそういう条件的に現れるものではない。

自然の中で、自然と共に生きてきたものは自然とその母性が備わる。
自然そのものが母性の固まりだからである。
かつては母は母性であり、社会にも母性があって、子供たちを正しい方向へ導いた。
母性から新しい母性が生まれ、それが継承された。
母性を受けて育ったものは、それをまわりに返そうとするものだからである。
仏教ではそれを布施と呼んでいる。

母性を持たぬものでも子を育てることは出来る。
しかしそれは義務である。
義務は場合によっては継承されない。
義務には必ず「理由」が必要となるから、その「理由」がなくなったら
義務も解消されるからである。

母性によって育てられていない子供の心には、当然他人や自然にに対するそれも
生まれない。従って、他人を傷つけ、自然を破壊する子供になる。

「最近の若い者は・・・」等と言う老人どもがいるが、
こういう連中に若い者たちを非難する権利はない。
「お前達が生み出したのだ」。

        ・・・

かつて、少々の自然破壊は、大地の母性によって償われてきた。
たまに起こる自然の変化に付いて人は真剣に考え、
必要以上にそれに甘えること無く、ものを大切にして生きてきた。
それが、ここ50年の間に大きく変わってしまった。

人間は自然を支配したかのごとくに暴れ回り、
「自分だけ」が「幸福」を求める競争は人のつながりを絶った。
結局、今の自然の荒廃も、人の心の荒廃も皆同じ所に原因がある。
それは、自然の母性に甘え続けた人類が受けるべき、大きなしっぺがえしである。

現在の危機は、人類が今まで乗り越えてきたどんな危機よりも大きく、
しかもその全体咸く等しく関係する重大な問題なのである。
そしてこれは「誰かが」解決してくれる問題ではない。
全ての人間がその解決のために「何か」をしなければならないのである。

今すぐ始めなければいけない。
取り返しが効くのは、後少しの期間でだけである。
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