「一人旅の勧め」(1995/04/11執筆)
私の趣味の1つに旅行がある。
昔から旅行は好きであったが、よく行くようになったのは社会人になってからである。
これはめずらしいかもしれない。
多くの人の場合、時間のある学生のうちに旅行するだろう。
私の場合、むしろ学生の時の方が時間がなかった。
まともな理系の学生というものはそういうものだ。(理系以外も本来はそうか?)
実験からレポート。それが週に3つもあれば時間はなくなる。

もっとも、私が学生時分に旅行しなかった一番大きな要因はお金がないことだった。
だから社会人になってから旅行を始めたのである。

さて、私の旅行には大きくわけて2種類のパターンがある。
1つは友達と、1つは自分だけで行くものだ。
(旅行社のツアーで行ったというのは、海外以外ない。)
「ただ単に人数が違うだけではないのか?」
いやいやとんでもない。この2つの形態は、私にとっては大きく
意味の違うものなのだ。
そのポイントは自主性と自己管理にある。

        ・・・

友達と行く場合、ほとんどの場合車で行くことになる。
友人が車好きというのもあるが、それより、2人以上なら車の方が列車より
安くなるからだ。(リッチな旅行は私には出来ない。性格的に。)

ここにおいて、時間にはおよそ制約がない。
その日のうちに予約した宿まで行ければよい。
運転手も交代できるので、少し無理をすることもある。
(時速150キロで1時間連続ふっとばし等という荒技をやったこともある。)

どこをまわるかなどの計画には自分も参加するが、
必ずしも自分の思う通りにはいかない。
(もっとも、私が一番旅行慣れしているので、だいたい私の作る
コースにはなるのだが。ただし道路選定は友人まかせ。)
旅行先での行動でも自分勝手ではいけない。
そこには強調が必要となる。

この場合も、どっかの旅行会社に任せるということはないので、
そういう意味では、他人のだれにも頼ることはできない。
チームワークの中で旅を進めていかなければならない。

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さて、今回の本題は1人旅行の方だ。
結論からいえば、私は一人旅を勧めるわけだが、
そこには旅行社まかせやグループ旅行とは違う厳しさがある。

私が一人で旅する場合、計画はもちろん自分でたてるが、
ほとんどの場合鉄道とYHを使う。(少しならバスもあり。)
車を使うのは、よほど知った場所へ行く時のみ。
車の運転に集中する余り、周りの景色が見られなくなるのがいやなのだ。

鉄道旅行の一番の難しさは「時間管理」にある。
大阪などの大都市圏ならいざ知らず、地方の鉄道はそんなに本数がない。
ということは、その乗り継ぎにおいて時間を守るということは非常に重要で、
1分の遅れが1日の遅れになることさえあるのだ。

限られた時間の中でいかに有効に時間を使い、多くの所を廻るか。
そのためには何をするべきか。
自転車を使ってまわるべきなのか、荷物はどのくらいまでならもって歩けるか。
歩く場合、自転車の場合それぞれどれくらいの距離範囲ならまわれるか。
どこに重点をおくか。

この見極めには経験が必要となる。
時刻表を読んで列車のつながりをつかむのもそうであるが、
それ以外の時間配分も慣れが必要だ。
最初のうちは非常にハードであったり、逆に時間を持て余したりするが、
慣れてくるとちょうどいい設定が出来るようになる。

だからといって、いつも緻密な計画をたてているわけではない。
列車の時刻はともかく、現地での行動には基本計画に基づきながら、
柔軟な対応が迫られることの方がほとんどだ。
実は駅前にはレンタサイクルがなかった、行ってみたらたいしたところではなかった、
逆に非常によくて長居してしまった、
工事中で閉まっていた、雨が降ってしまった、体調が思わしくないなど。
いろいろとあるものだ。そこまでは計画どおりには行かない。

計画変更する場合も、慣れないうちはせいぜい駅に速く着いて待っているだけだが、
慣れると素早く時刻表の該当部分の列車を結びつけて、もう1ヶ所多くまわることが
出来るようになる。
このダイナミックな予定変更も一人旅の醍醐味だ。
多人数旅行ではこうはいかない。

いずれにせよ、計画は自分でたてなければならない。
誰も決めてはくれないし、だれも連れていってはくれない。
自分でなんでも決められる反面、責任もある。
これは「自由」だ。

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私の1人旅ではYH(ユースホステル)に泊まるというのも大きなポイントだ。

YHというと、規則がきびしくて、ちょっと小汚い、安いだけがとりえの
宿というイメージがあるようだ。
だからいやだという人も多い。

しかし以前はともかく、今のYHにはそのようなところは少ない。
(ないとは言わない。)
建物はきれいだし、布団は羽毛、食事も後かたづけまでしなくてはいけない所はない。
中にはホテルと見間違うようなところもある。
(事実、間違ってしまったこともあった。あれは松山YH・・・)
食事中ならお酒も飲めるところが多い。
(中には夜中までOKなんていう所もあったが。)
ミーティングを強制するYHも今はほとんどない。
あってもせいぜい観光案内程度だ。

YHも以前に比べかなり減ったそうだ。
今の若い人はお金を持っているから、平気でホテルに泊まって旅行をするからだ。
YH会員数も減少の一途であった。

そうした中、多くのYHが改築されてきれいになり、装備も食事も良くなった。
規則も緩和された。
それに、それぞれのYHが独自性を出すことで面白い宿となった。
これにより、また会員数が増えているそうだ。
若い人はもちろん、かつてYHを使って旅行をしていた熟年者が
再びYHに帰ってきている。

女の子の宿泊者も多い。
中には1人出来ている娘もいる。
外人も。
(い、いや、別にそんな娘を目当てに行っているわけでは・・・)

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YHの最大の魅力は、いろんな人と話ができることだ。
YHではほとんどの場合相部屋であり、食事もみんなでするし、
夕食後には談話室でみんなで話をすることがほとんどだ。
(話しながら夜遅くまでUNOをしていたこともあったっけ。)

そこでは男、女、老いも若いもみんな一緒だ。
鉄道旅行者、バイク、車、中には自転車出回っているものもいる。
近所から、大阪から、中にはたった3連休で東京から山口まで来ている人もいた。
いろいろな職業、学生、会社員。そうそう、自衛隊員何てのもいたっけ。
(戦闘機操縦の話は、実際に乗っている人の話だけあって、実にリアルであった。)
全国津々浦々、ここでしか会えないような面子。

ここでの話は非常に重要だ。
YHに泊まる連中はそのほとんどが旅慣れたもので、全国いろいろな所に行っている。
1人1人の行ける場所は限られていても、こういう情報交換で、
いいところ、悪いところなどがわかるのだ。
人の旅の歴史、それは旅の疑似体験でもあるのだ。
全国をわずか数時間で旅した気分になることもある。

旅以外の歴史を聞けることもある。これは特に年長者からの話だ。
途中で買ってきたというお酒を酌み交わしながら、実に多種多用な話を
することもあった。企業秘密がぽろっと出たなんてこともあったっけ。
そんなこと、他の人にばらしはしないけど。

逆に年下の人の情報も役に立つことがある。
最新の情報を仕入れたりする時などだ。
彼らは私たちより最新の情報に強い。

こういうことはホテルではほどんどあるまい。
旅先で、友人だけとだべり、浴衣姿でゲームに興じているのではもったいない。

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私の旅行では、「出来るだけ多くの場所へ行く」「同じ場所には10年行かない」
と決めている。若い内の旅行は「下見」である。
年を取ってから、その中で特に印象深かったところをゆっくりと、
それこそホテルでも使っていこうと思っている。
若い時にしか出来ない旅行というものが確かにあり、
今はそれをするのだ。

私が1人旅を始めた理由は、自主性を高めることにあった。
それまでの旅行といえば、ほとんど他人まかせであった。
それはそれで楽しいが、逆に他人に甘えていてわがままであった。

最初はなかなか踏ん切りが付きにくい。
一人旅を幾度となくした今の私ですら、毎回、旅の最初は気が重い。
でも一度列車に乗ればそういうこともなくなる。
逆に、今度はどんなものに出会えるか、そんな期待で胸いっぱいである。

みなさんにも一度チャレンジすることを勧める。

別に多人数旅行がいけなくて、1人旅がいいと言っているわけではない。
それぞれに違いがあるが、1人旅にも多くの利点があるということだ。
1人では暗く、たのしい旅行は出来ないと思っているなら、
それは大きな間違いだ。ちゃんとした心構えで行けば、
それは多人数旅行よりずっと有意義なものとなる。

少なくとも、いつまでも旅行社が決めたコースをまわって
満足していてはいけない。
農協の旗のもとに全世界から恐れられる怒涛の老人集団のように
だけはなってはいけない。

「自由」な旅こそ面白い。
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